- 著者: Yao Y, Xu X, Yang L, et al.
- Corresponding author: Zhen Zhang (Fudan University Shanghai Cancer Center); Guoqiang Hua (Fudan University Shanghai Cancer Center)
- 雑誌: Cell Stem Cell
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31761724
背景
局所進行直腸がん (LARC:locally advanced rectal cancer) の標準治療は、術前化学放射線療法 (NACR:neoadjuvant chemoradiation) 後の全直腸間膜切除術 (TME:total mesorectal excision) である。しかし、NACRへの治療反応性は患者間で大きく異なり、事前に個々の治療反応を予測することは困難であった。従来のMRIやfMRIを用いた画像評価による予測精度は30-60%に留まり、病理学的完全奏効 (pCR:pathological complete response) を達成する患者を事前に同定することはできなかった。患者由来異種移植モデル (PDX) は、術前治療の期間内に試験結果が得られないなどの時間的・論理的限界があった。一方、患者由来オルガノイド (PDO:patient-derived organoid) は、膵臓がんにおける薬剤感受性や転移性消化器がんにおける臨床反応との相関が報告されていた。しかし、PDOが化学放射線療法に対する患者の反応を予測できるかについては、これまで大規模な検証は未解明であった。同時期に Ganesh et al が直腸がんオルガノイド (RCO:rectal cancer organoid) による個別反応評価の可能性を小規模に示したが、大規模なコクリニカル試験による検証は行われておらず、臨床現場での有用性を実証するにはデータが不足していた。このように、治療前段階で患者の反応性を高精度に予測する新たな診断ツールの開発において、大規模コホートでの実証データが足りなかったという課題が残されている。NACRの反応予測システムが不足している現状において、高精度な予測モデルの確立は、治療効果の最適化と不必要な毒性の回避に繋がるため、喫緊の課題であった。特に、放射線感受性の低い患者を事前に特定し、放射線を省略した化学療法強化レジメンへの切り替えを検討できるようなツールが不足していた。このようなギャップが残されている状況において、治療前段階で患者の反応性を高精度に予測する新たな診断ツールの開発が強く望まれていた。
目的
本研究の目的は、Phase III臨床試験 (CinClare、NCT02605265) に登録されたLARC患者から治療前生検を用いて大規模なLiving PDOバイオバンクを構築することである。そして、構築されたPDOの放射線、5-FU、CPT-11 (イリノテカン) に対する感受性が、患者のNACR臨床反応 (術後TRGスコア) を予測できるかを大規模なコクリニカル試験として検証することを目指した。これにより、PDOがLARC患者のNACRに対するコンパニオン診断ツールとして有用であるかを評価する。
結果
バイオバンク樹立と原発腫瘍との遺伝的・組織的忠実性の確認: 2017年3月から2019年5月にかけて、CinClare Phase III試験に登録されたLARC患者112例から治療前生検が取得された。Matrigel法によるRCO培養の結果、96例 (85.7%) でRCOラインが樹立され、安定的な拡大が確認された。H&E染色では、薄壁嚢胞状構造から充実型まで、患者特異的な多様な形態が観察され、免疫染色 (Ki-67、CDX2、β-catenin、CK20、CK-pan:pan-cytokeratin) により原発腫瘍と類似したマーカー発現パターンが確認された (Figure 1D)。WES解析 (生検サイズ≥3mmの18例) では、SNV (single-nucleotide variant) 変異一致率94.4%を示し、ゲノムスケールのCNV (copy number variation) パターンも原発腫瘍と一致した (Figure 2A)。特に、腫瘍純度が低い検体ではPDOのほうがCNVをより明確に再現することも確認され、PDOがゲノム解析補助ツールとしても有用であることが示された。WNT経路変異 (APC 72.2%、FBXW7、TCF7L2、ARID1A、LRP5、SOX9など) が88.9% (16/18例) に検出され、Network et al のTCGA報告頻度と整合した。
放射線・化学療法単剤の感受性と臨床反応の一致: 80例のオルガノイドに対し、NACRプロトコルに基づく感受性評価を実施した。CellTiter-Glo 3D細胞生存アッセイとの相関を確認した上で、Image-Pro Plus 6.0によるDay 0からDay 24の3日ごとのオルガノイドサイズ計測を主評価とした。Day 24/Day 0サイズ変化率のカットオフ値36.42% (95% CI 26.87-45.52%) で感受性/耐性を判定した。放射線8 Gy感受性を示した n=16 cells 系統のPDOのうち15例 (93.8%) が術後臨床的良好反応 (TRG 0/1/cCR) を示し、放射線耐性 n=64 cells 系統中42例 (65.6%) が不良反応 (TRG 2/3) を示した (Figure 3A)。5-FU感受性を示した n=27 cells 系統中22例 (81.5%) が臨床的良好反応を達成し、5-FU耐性 n=53 cells 系統中38例 (71.7%) が不良反応を示した (Figure 3C)。CPT-11感受性を示した n=32 cells 系統中25例が良好反応を示し、CPT-11耐性 n=34 cells 系統中27例が不良反応を示した (Figure 3D)。
3治療組み合わせ評価の総合的予測性能: 80例の組み合わせ評価 (少なくとも1治療感受性=臨床的良好反応、放射線および化学療法全耐性=不良反応と定義) では、68例 (85.0%) でPDO感受性と臨床反応が一致し、不一致は12例のみであった (Figure 4C)。診断性能は、AUC 0.8820 (95% CI 0.765-0.987, p<0.001)、精度84.43% (95% CI 72.40-93.75%)、感度78.01% (95% CI 55.56-95.00%)、特異度91.97% (95% CI 77.78-100.00%)、Cohen’s κ=0.69 (95% CI 0.46-0.88) であった。従来のMRI評価精度30-60%と比較して、PDOシステムの予測精度84.43%は大幅な改善を示した。
複合治療のin vitro模倣と臨床的有用性の検証: 23例のPDOラインにおいて、放射線+5-FU+CPT-11の3剤組み合わせ試験をin vitroで実施したところ、22例 (95.6%) でin vitro結果と臨床反応が一致し、複合NACRの詳細なin vitro模倣が可能であることが示された (Figure S4)。放射線耐性かつ5-FU/CPT-11感受性の19例では、放射線省略・化学療法強化レジメンへの切り替えを支持するデータが得られた。CPT-11感受性だが5-FU耐性のPDOが17.5% (14/80例) に存在し、これらの患者ではCPT-11追加の個別化治療が有望と示唆された。
治療抵抗性オルガノイドにおける相乗効果の解析: すべての単剤治療に対してin vitroで耐性を示した3例のオルガノイド (P(v)22, P(v)43, P(v)47) について、放射線と化学療法の併用による相乗効果を検証した。このうちP(v)43の1例 (33.3%) においてのみ、放射線照射と化学療法の併用による有意な 2.5-fold increase 以上の相乗効果 (synergism) が観察され (p=0.003)、実際の臨床における良好な治療反応 (TRG 0) と一致した (Figure S4)。一方で、相乗効果が認められず log2FC 0.1 未満の平坦な増殖を示したP(v)22およびP(v)47の2例では、臨床的にも治療抵抗性であることが示唆され、無効な術前治療を回避して直接手術へ移行するための重要な判断材料となることが実証された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、直腸がんオルガノイドを用いた小規模な概念実証を行った Ganesh et al などの先行研究と異なり、Phase III臨床試験 (CinClare) に登録された未治療のLARC患者80例という大規模なコホートにおいて、放射線、5-FU、CPT-11に対する個別反応をin vitroで評価し、臨床のTRGスコアと直接対比させたコクリニカル試験である点が大きく異なる。
新規性: 本研究で初めて、LARC患者の術前化学放射線療法に対する臨床反応を、患者由来オルガノイドを用いて全体精度84.43%、特異度91.97%という極めて高い精度で予測できることを新規に実証した。特に、放射線感受性と化学療法感受性を個別に評価し、それらを組み合わせることで、複合的な術前治療の臨床転帰を高い精度で模倣できるシステムを確立した。
臨床応用: 本知見は、LARC患者における個別化医療の臨床応用に直結する。臨床的有用性として、放射線耐性かつ化学療法感受性の患者 (19例) をPDOで同定できれば、不要な放射線照射を省いた化学療法強化レジメンへの切り替えが根拠づけられ、放射線晩期毒性の回避に繋がる。また、全治療抵抗性のPDOを持つ患者では、無効な術前治療を回避して直接外科療法へ移行するなどの治療選択の最適化が可能となる。
残された課題: 今後の検討課題として、オルガノイド樹立から感受性試験完了まで最大4週間を要するため、NACR開始前にin vitro結果を臨床現場に届けるタイムラインのさらなる短縮が求められる。また、PDOの感受性と臨床反応が不一致であった12例の存在は、オルガノイドに含まれないストロマ成分や免疫微小環境などの要素が寄与している可能性を示唆しており、より複雑な共培養モデル系への発展が望まれる。さらに、前向き無作為化試験による臨床的有用性の検証が今後の最重要課題である。
方法
2017年3月から2019年5月にかけて、CinClare Phase III試験 (NCT02605265) に登録されたLARC患者112例から治療前生検が取得された。Matrigel法を用いてRCO培養を試み、96例 (85.7%) でRCOラインが樹立され、安定的な拡大が確認された。生検サイズが3mm以上の18例については、原発腫瘍との遺伝的一致性を検証するため、全エクソーム解析 (WES) を実施した。WESデータは Li et al および Wang et al のアルゴリズムを用いて解析された。80例のオルガノイド (P(v)1-P(v)80) を用いて、NACRプロトコルに基づく感受性評価を実施した。具体的には、放射線8 Gy単回照射、5-FU 10μM、CPT-11 10μMの各治療を適用した。Day 0からDay 24にかけて、Image-Pro Plus 6.0を用いてオルガノイドサイズを3日ごとに計測し、Day 24/Day 0のサイズ変化率が36.42% (Youden’s indexと1,000回ブートストラップシミュレーションで決定) をカットオフ値として感受性/耐性を判定した。臨床的ゴールドスタンダードとして、TME後のAJCC TRG (tumor regression grade) スコア (TRG 0/1/cCRを良好反応、TRG 2/3を不良反応) を使用した。74例でTRG判定が可能であり、6例はcCR (clinical complete response) で非手術であった。組み合わせ評価の定義は、「少なくとも1つの治療に感受性を示す場合を臨床的良好反応」、「放射線および化学療法の全てに耐性を示す場合を不良反応」とした。診断精度はROC-AUC、感度、特異度、精度、およびCohen’s κ係数を用いて評価した。統計解析にはRソフトウェア (3.5.1) を使用し、群間比較の統計手法として Student t-test および one-way ANOVA を用いて有意差を評価した。また、ブートストラップ法による1,000回のシミュレーションで診断性能の信頼区間を算出した。