• 著者: S.J. Casak, I. Fashoyin-Aje, S.J. Lemery, L. Zhang, R. Jin, H. Li, L. Zhao, H. Zhao, H. Zhang, H. Chen, K. He, M. Dougherty, R. Novak, S. Kennett, S. Khasar, W. Helms, P. Keegan, R. Pazdur
  • Corresponding author: S.J. Casak (U.S. Food and Drug Administration, Silver Spring, MD, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 26048277

背景

胃癌は世界で年間95万2,000件が発症する第5位の悪性腫瘍であり (米国では第16位)、転移性胃癌・胃食道接合部 (GEJ) 腺癌は1次治療後のほぼ全例で進行する。米国での2次治療受療率は試験により14〜45%とばらつきがある。2次治療として用いられる標準的レジメン (シスプラチン+5-FU再投与、タキサン単剤、イリノテカン単剤、FOLFIRI、FOLFOXなど) の有効性は限定的であった (Price et al. 2012)。2010年にHER2過剰発現例に対するtrastuzumabが承認されたが (Bang et al. 2010)、HER2過剰発現率は15〜22%にとどまる。このため、HER2陰性例に対する有効な2次治療の選択肢は不足している状況であった。

血管内皮増殖因子受容体2 (VEGFR-2) は血管新生において重要な役割を担っており、腫瘍の増殖と転移に深く関与することが知られている。VEGFR-2を標的とする完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体ramucirumabは、内皮細胞でのリガンド結合と受容体介在性シグナル伝達を阻害することで、抗腫瘍活性を示すことが前臨床および臨床試験で報告されている。先行研究では、VEGF経路を標的とするbevacizumabが胃癌の1次治療でOS改善を示せなかったことから (Ohtsu et al. 2011)、VEGFR-2単独を標的とすることの意義や、2次治療における有効性は未解明な部分が残されていた。しかし、ramucirumabは進行胃癌・GEJ腺癌の2次治療として開発が進められ、その有効性と安全性が評価されることになった。本論文は、ramucirumabのFDA承認の根拠となった主要な臨床試験の結果と、FDAの審査過程における主要な論点を詳細に解説することを目的としている。これにより、進行胃癌の治療における新たな治療選択肢の導入と、その科学的根拠を明確にすることが課題であった。

目的

進行胃癌・胃食道接合部 (GEJ) 腺癌の2次治療としてのramucirumabのFDA承認 (単剤:2014年4月21日、paclitaxelとの併用:2014年11月5日) の根拠となった2つの臨床試験 (JVBD、JVBE) のFDAレビュープロセス、審査中に生じた問題点 (特に女性サブグループの効果・最適用量の不確実性) および承認判断の根拠を詳細に解説すること。本レビューは、VEGFR-2を標的とする治療薬が進行胃癌の2次治療において初めて承認された経緯を明らかにすることを目的とする。また、承認後の薬物動態 (PK) 解析から示唆された最適用量の不確実性についても言及し、今後の研究課題を提示する。

結果

患者背景 (両試験) :JVBD試験ではramucirumab群238例・プラセボ群117例に割り付けられ、中央値年齢60歳、男性71%、白人77%、アジア人16%であった。JVBE試験ではramucirumab/paclitaxel群330例・プラセボ/paclitaxel群335例に割り付けられ、中央値年齢61歳、男性70%、白人61%、アジア人35%であった。両試験とも胃原発が74〜79%、1次治療はプラチナ+フルオロピリミジン組み合わせが主体であった。JVBD試験では81%がプラチナ/フルオロピリミジン療法を受けており、JVBE試験では全例がプラチナ/フルオロピリミジン療法を受け、約25%がtriplet regimenを受けていた。全体的に両試験でベースライン特性は試験群間で概ねバランスが保たれており、試験間でも類似していた。

JVBD試験 (単剤) の有効性:OS改善の確認:主要評価項目のOSはramucirumab群5.2ヶ月 (95% CI: 4.4〜5.7) 対プラセボ群3.8ヶ月 (95% CI: 2.8〜4.7) であり、HR=0.78 (95% CI: 0.60〜0.998, P=0.047) と統計学的に有意な改善を示した (Table 1, Figure 1A)。死亡イベント数はramucirumab群179例 (75%) ・プラセボ群99例 (85%) であった。PFSも有意に改善し、HR=0.48 (95% CI: 0.38〜0.62, P<0.001)、中央値PFS: ramucirumab 2.1ヶ月対プラセボ 1.3ヶ月 (Kaplan-Meier推定) であった。探索的サブグループ解析では多くのサブグループで一貫した治療効果が確認されたが、重大な例外として女性 (n=107) ではHR=1.43 (95% CI: 0.85〜2.41) とプラセボ群が有利な方向を示した。これはFDAにとって単剤承認の堅牢性に対する最大の懸念事項となった。

JVBD試験の安全性プロファイル:安全性評価対象はramucirumab群236例・プラセボ群115例。最も多い有害事象 (全グレード) は高血圧と下痢であった。Grade 3〜4で2%以上の差異を示したのは高血圧 (8% vs 3%) ・疼痛 (2% vs 0%) ・低ナトリウム血症 (3% vs 1%) ・腹痛 (5% vs 3%) の4項目であった。高血圧は全グレードでも16% vs 8%とramucirumab群で高頻度であった。蛋白尿 (臨床検査所見) は8% vs 3%で多かった。VEGF経路阻害に起因する重篤な有害事象として消化管穿孔 (0.7% vs 1.2%) ・動脈血栓塞栓事象 (1.7% vs 0%) ・重篤出血 (3.4% vs 2.6%) が観察されたが、プラセボとの絶対差はいずれも2%以下であった。過去のramucirumab前臨床試験 (n=37) では前投薬なしで6例 (16%) にinfusion-related reactions (IRR) が生じたため、ラベルに警告が追加されその後前投薬が義務付けられた。

JVBE試験 (paclitaxel併用) の有効性:より堅牢なOS改善:OSはramucirumab/paclitaxel群9.6ヶ月 (95% CI: 8.5〜10.8) 対プラセボ/paclitaxel群7.4ヶ月 (95% CI: 6.3〜8.4) であり、HR=0.81 (95% CI: 0.68〜0.96, P=0.017) と有意な改善を示した (Table 1, Figure 1B)。死亡イベント数はramucirumab群256例 (78%) ・プラセボ群260例 (78%) であった。PFSも有意に改善し、HR=0.64 (95% CI: 0.54〜0.75, P<0.001)、中央値PFS: ramucirumab 4.4ヶ月 (95% CI: 4.2〜5.3) 対プラセボ 2.9ヶ月 (95% CI: 2.8〜3.0) であった。JVBD試験で懸念された女性サブグループについては、JVBE試験では女性 (n=193) のHR=0.67 (95% CI: 0.48〜0.94) とramucirumab群が有利な方向を示し、JVBD試験 (HR=1.43) とは逆の傾向を示した。FDAはJVBE試験で女性症例数が多く (JVBD: 107例 vs JVBE: 193例)、両試験を通じて女性への効果の不確実性は偶然変動であると結論した。

JVBE試験の安全性と用量調整:安全性評価対象はramucirumab群327例・プラセボ群329例。最多有害事象 (全グレード) は疲労感・好中球減少・下痢・鼻出血であった。両薬剤の遅延・減量・省略はramucirumab/paclitaxel群でより高頻度であり、好中球減少が最多の用量調整原因であった。Grade 3〜5の好中球減少は41% vs 19% (白血球減少:17% vs 7%) と著明に高頻度であった (Table 2)。高血圧 (25% vs 6%) および出血性イベント (42% vs 18%) もramucirumab群で有意に多かったが、その大部分はGrade 1〜2の軽症であった。Grade 3〜5事象として頻度≥3%であったのは好中球減少・白血球減少・高血圧・貧血・疲労感/倦怠感・腹痛など多岐にわたった。重篤な出血 (Grade 3以上) はramucirumab群4.3% vs プラセボ群2.4%、動脈血栓塞栓事象は1.6% vs 2.1%、消化管穿孔は1.0% vs 0.3%であった。パクリタキセル関連毒性 (下痢32% vs 23%、口腔内炎20% vs 7%) もramucirumab群で多かった。可逆性後白質脳症症候群 (RPLS) は全ramucirumab試験を通じて<0.1%と稀であった。肝障害 (Child-Pugh BまたはC) 患者への投与は臨床悪化リスクに関するラベル警告が追加された。

薬物動態 (PK) ・用量反応解析と最適用量の不確実性:JVBE試験においてramucirumabのCmin (最低血中濃度) を4分位に分けたexposure-response解析が実施された (Figure 2)。探索的解析では高曝露四分位群 (Q4: 中央値OS 12.9ヶ月) が低曝露四分位群 (Q1: 6.5ヶ月) よりも長い生存期間を示した。患者・疾患関連因子 (ECOG PS・腫瘍分化度・病変数) を調整したcase-control解析でも高2四分位での効果が確認された。しかし、これらは非無作為化の探索的解析であり、各四分位は低検出力サブグループであるため、交絡因子の可能性が高い。FDAは最適用量の確定には不確実性が残るとしながらも、現行承認用量 (8 mg/kg Q2W) を維持した。LillyはFDAとの合意の下、高用量ramucirumabの探索的ポストマーケティング試験 (既存用量との比較、paclitaxel併用設定) を実施することに合意した。

サブグループ解析の一貫性:JVBDおよびJVBE試験の探索的サブグループ解析では、年齢、性別、人種、原発巣部位、ECOG PS、1次治療からの期間、体重減少の有無など、多くの患者特性においてramucirumabの治療効果が一貫していることが示された。特に、JVBD試験で懸念された女性サブグループにおける効果の不確実性は、JVBE試験でより多くの女性患者 (n=193) が組み入れられ、HR 0.67 (95% CI: 0.48-0.94) とramucirumab群に有利な結果が示されたことで、偶然の変動であったと判断された。これにより、ramucirumabの有効性が幅広い患者層に及ぶことが示唆された。

考察/結論

FDAによるramucirumabの承認プロセスは、単剤承認 (JVBD試験、OS改善1.4ヶ月、P=0.047) の堅牢性に懸念が生じたため、JVBE試験の結果によってJVBD試験の効果が確認されたことを条件に最終承認が行われるという稀な事例であった。JVBE試験の女性サブグループ (HR=0.67) がJVBD試験 (HR=1.43) とは逆の傾向を示したことは、小サブグループ解析の限界と試験デザイン・患者構成の差異 (アジア人比率の違い等) が影響していると考えられ、FDAは偶然変動として最終判断した。

先行研究との違い: 先行研究では、bevacizumabが胃癌1次治療でOS改善を示せなかったのとは対照的に、ramucirumabは2次治療において有意な生存延長を達成した最初の抗VEGFR-2薬として位置づけられる。これにより、VEGFR-2経路が胃癌の2次治療において有効なターゲットであることが初めて確立された

新規性: 本研究は、進行胃癌・GEJ腺癌の2次治療において、ramucirumab単剤およびpaclitaxelとの併用療法がOSを有意に改善することを新規に示した。特に、単剤療法での効果が併用療法で確認されたことは、その治療効果の堅牢性を示す重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、進行胃癌・GEJ腺癌の2次治療における新たな標準治療を確立し、患者の予後改善に貢献する臨床的意義を持つ。医師は、患者の状態に応じて単剤療法または併用療法を選択することが可能となる。

残された課題: 今後の検討課題として、最適用量の不確実性 (現行8 mg/kg Q2WよりもPKが高い患者で効果が優れる可能性)、他の化学療法バックボーンとの組み合わせ有効性 (ramucirumab承認時点ではpaclitaxelとのみ組み合わせ承認)、1次治療への適用可能性などが挙げられる。また、特定のバイオマーカーによる患者層別化の可能性も今後の研究で検討されるべきである。ramucirumabはその後、非小細胞肺癌 (NSCLC) の2次治療 (docetaxelとの併用、REVEL試験でOS HR 0.86) においても承認されており、VEGFR-2阻害の広範な抗腫瘍効果が示されている。

方法

2つの国際多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化試験の結果をFDAが審査した内容をまとめた。本レビューは、これらの臨床試験結果を基に、FDAの承認プロセスにおける主要な判断基準と科学的根拠を詳細に評価したものである。対象はECOG PS 0〜1、1次治療後に進行した転移性または切除不能の胃癌・GEJ腺癌患者 (18歳以上)。重大な除外基準として直近3ヶ月以内の消化管出血・NSAIDの使用・直近6ヶ月以内の動脈血栓塞栓事象・コントロール不良の高血圧が挙げられた。

JVBD試験 (単剤試験) :355例を2:1でramucirumab 8 mg/kg Q2W群 (n=238) またはプラセボ群 (n=117) に割り付けた。ランダム化因子は直近3ヶ月の体重減少・地理的地域・原発巣部位。主要評価項目はOS (268死亡イベントで80%検出力、両側有意水準0.05、想定中央値OS: ramucirumab 7.25ヶ月 vs プラセボ5.0ヶ月)。OSの比較には層別ログランク検定 (stratified log-rank test) を用い、ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルで推定した。

JVBE試験 (併用試験) :665例を1:1でramucirumab 8 mg/kg Q2W+paclitaxel 80 mg/m² (day 1、8、15 of 28日サイクル) 群 (n=330) またはプラセbo+paclitaxel群 (n=335) に割り付けた。ランダム化因子は地理的地域・1次治療への進行までの期間・腫瘍測定可能性。主要評価項目はOS (510死亡イベントで90%検出力、想定中央値OS: ramucirumab 9.3ヶ月 vs プラセボ7.0ヶ月)。OSの比較にはJVBD試験と同様に層別ログランク検定を用い、HRはCox比例ハザードモデルで推定した。両試験で病勢進行または忍容不能な毒性まで治療継続。クロスオーバーは不可。腫瘍評価は6週毎に実施された。主要な副次評価項目には無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (ORR)、および安全性が含まれた。本レビューは、これらの臨床試験のデータを用いて、FDAが承認判断を下した根拠を、公衆衛生上の観点から評価したものである。