• 著者: Zhi Peng, Lin Shen, Shan Xing, Yongqian Shu, Weijia Fang, et al.
  • Corresponding author: Lin Shen (Peking University Cancer Hospital, Beijing, China)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42225990

背景

胃癌・GEJ腺癌は世界的に高頻度の消化器悪性腫瘍であり、MET (mesenchymal-epithelial transition factor) 増幅は全胃癌の約10〜14%に認められるactionable oncogenic driverである。MET遺伝子増幅は治療抵抗性・予後不良と関連し、進行例での標準治療後の生存期間中央値 (mOS) は概ね5〜6ヶ月と極めて不良な予後を示す。胃癌の分子サブタイプの理解は (Cristescu et al. NatMed 2015) により進展し、MET増幅サブタイプの臨床的重要性が認識されてきた。他癌種においてMET阻害薬の有効性が実証されており、NSCLC領域では (Wolf et al. NEnglJMed 2020) がcapmatinibのMET exon 14変異/増幅NSCLCに対するORR 41-67%を示した。また胃癌の薬物療法全体において (Casak et al. ClinCancerRes 2015) が示すようにramucirumabなどの標的治療が確立されてきたが、MET増幅胃癌に特化した高選択的MET阻害療法のエビデンスは不足しており、先行するVIKTORY試験 (crizotinib、ORR 50%、n=20) やAMG 337試験 (ORR 18%) は小規模かつ単一アームで、標準的なエビデンスが未確立な状態であった。VIKTORY試験では高MET増幅 (コピー数≥6) サブグループでの反応性が示唆されたが、至適カットオフ値や最適投与スケジュールは明確でなく、より厳格なエントリー基準 (GCN ≥10) での検討が必要とされていた。これらの不十分な先行知見を踏まえ、高選択的MET阻害薬savolitinibによる前向き第2相試験が企画された。

目的

MET遺伝子コピー数 (GCN) ≥10の切除不能進行・転移性胃・GEJ腺癌の患者を対象として、savolitinibの有効性・安全性を評価すること (NCT04923932)。探索的相での用量・スケジュール最適化ならびにpivotal相での単群有効性検証を主目的とした。

結果

Pivotal相でのORR: Primary endpointを達成:Pivotal相 (n=65) におけるIRC評価ORRは32.3% (95% CI 21.2-45.1%) であり、事前規定の有効性閾値 (下限95% CI ≥15%) を満たしてprimary endpointを達成した (Fig 2a)。DCRは63.1%、奏効までの時間 (TTR) 中央値は1.4ヶ月、mDoRは9.7ヶ月、mPFSは4.0ヶ月 (95% CI 2.6-5.0)、mOSは6.9ヶ月 (95% CI 5.9-8.6) であった。完全奏効 (CR) は3例 (4.6%) に認められた。investigator評価ORRは33.8% (95% CI 22.5-46.9%) であり、IRC評価と一致していた。Historical comparatorsであるTAS-102またはapatinibのORR 4%、mPFS 2.0-2.7ヶ月、mOS 5.7-5.8ヶ月と比較して、savolitinibはORRおよびPFSで数値的な改善を示した (Table 3)。

探索的相の用量別成績: Cohort 1が高い奏効率:探索的相のCohort 1 (QD、n=24) ではORR 41.7% (95% CI 22.1-63.4%)、mOS 10.0ヶ月、Cohort 2 (800 mg QD、n=9) ではORR 33.3%、mOS 8.3ヶ月、Cohort 3 (BID、n=12) ではORR 33.3%、mOS 8.0ヶ月であった (Fig 1b, Table 2)。Cohort 1での良好な成績を踏まえ、Cohort 3の600 mg BIDをpivotal相の標準レジメンとして選択した(Cohort 1と3の比較ではORRはほぼ同等であったが、BIDの薬理学的根拠と用量均一性を優先)。

Post-hoc pooled解析: 一貫した有効性シグナル:Pivotal相の組み入れ基準 (≥2ライン、GCN≥10) を満たす全対象のPooled解析 (n=85) ではORR 35.3% (95% CI 25.2-46.4%)、mDoR 9.2ヶ月、mOS 7.3ヶ月 (95% CI 6.2-10.0) であった (Fig 3, Table S4)。Cohort 1のみの詳細解析では、Best overall responseとしてCR 2例・PR 8例が確認され、全体としてPooled解析でも単群有効性シグナルが一貫して示された。

MET増幅クリアランスによるbiomarker層別: ORR 68.0% vs 28.6%:Pivotal相でCycle 3開始時 (C3D1) にctDNAによるMET増幅クリアランスを達成した患者 (n=25) では、クリアランス非達成群 (n=7) と比較してORR 68.0% vs 28.6%、mPFS 6.6ヶ月 vs 2.8ヶ月、mOS 9.4ヶ月 vs 5.1ヶ月と大きな差異が認められた (Fig 4b, c)。この動的バイオマーカーの変化が治療効果を反映することが示された。さらにCDKN2A変異を有する患者 (n=7) ではORR 57.1%、mPFS 6.6ヶ月と高い奏効が認められたのに対し、CDKN2A変異なし群 (n=58) ではORR 29.3%、mPFS 2.9ヶ月であった。MET増幅のない対照群 (n=139) のmOS 4.8ヶ月 (95% CI 3.4-6.0) に比べ、MET増幅・savolitinib治療群での数値的改善が認められた。ctDNAによるMET増幅のモニタリングは、早期の治療効果予測を可能にする非侵襲的バイオマーカーとして重要性が示された。

安全性プロファイル: 管理可能なTRAE:全体安全性集団 (n=110) においてTRAEは93.6%の患者で発生し、Grade≥3のTRAEは34.5%に認められた (Table 4)。最頻TRAEは低アルブミン血症 (37.3%)、AST上昇 (35.5%)、ALT上昇 (31.8%)、末梢性浮腫 (31.8%) であった。Grade≥3のTRAEとしてはAST上昇 6.4%、血小板減少 6.4%、ALT上昇 4.5%が主であった。TRAEによる治療中止は8.2%で、治療関連死亡が1例 (0.9%) 認められたが、周術期合併症との関連が疑われた。用量減量は24.5%に実施され、用量省略は54.5%の患者に認められた。末梢性浮腫 (31.8%) および低アルブミン血症 (37.3%) はMET阻害薬クラス特有の副作用であり、支持療法により大部分が管理可能であった (Fig 5)。

考察/結論

① 先行研究との違い:MET増幅胃癌に対するMET阻害療法の先行エビデンスと異なり、本試験は事前に規定した有効性閾値 (下限95% CI ≥15%) を明確に満たした最初の前向き第2相試験である。VIKTORY試験 (crizotinib、ORR 50%、n=20) は小規模でGCN閾値が低く (≥6)、AMG 337試験 (ORR 18%、n=63) は信頼区間の下限が閾値を超えず、いずれも確証的なエビデンスとはなっていなかった (Cristescu et al. NatMed 2015)。これまでの試験と対照的に、本試験はより厳格なGCN ≥10の組み入れ基準・FISHによる中央検査・IRC評価という方法論的に堅固な設計を用いており、32.3%のORRが達成された。また高選択的MET阻害薬であるsavolitinibは、非選択的MET阻害薬 (crizotinib) に比べてMET/HGFR選択性が高く、クラス特有のMET阻害副作用プロファイル (末梢性浮腫、低アルブミン血症) は概ね管理可能であった点で (Wolf et al. NEnglJMed 2020) とも相違する。

② 新規性:本試験は、GCN ≥10という厳格なMET増幅定義を用いた多施設共同第2相試験として、本研究で初めてsavolitinibの確証的なORRを胃・GEJ腺癌において示した。特に重要な新規知見は、ctDNAによる動的MET増幅クリアランスが治療奏効の強力な予測バイオマーカーとなり得ることである: クリアランス達成群ではORR 68.0%・mOS 9.4ヶ月と極めて高い奏効率が示された。CDKN2A変異との相関 (ORR 57.1%、n=7) も新規なbiomarkerサブグループとして注目されるが、サンプルサイズが小さく確認的研究が必要である。さらに探索的相での3コホート比較からBIDレジメンの至適性を検討した点もこれまでにない試験設計である。

③ 臨床応用:本試験の結果は、MET増幅 (GCN ≥10) 胃・GEJ腺癌の2次治療以降における臨床的意義を持つ。ORR 32.3%は3次治療の現行標準 (TAS-102/apatinib、ORR ~4%) と比較して数値的に大きく上回り、savolitinibが臨床現場での有望な治療選択肢となり得ることを示す。特にctDNA MET増幅クリアランス (C3D1) をモニタリングとして用いた臨床応用は、治療反応予測を早期に行い治療継続・変更の意思決定に活用できる可能性がある (Casak et al. ClinCancerRes 2015)。FISHによるGCN ≥10の精密な患者選択と合わせ、bench-to-bedside的アプローチの有用性が示された。

④ 残された課題:本試験のmOS 6.9ヶ月はMET増幅未治療患者の自然経過 (mOS 4.8ヶ月) を上回るが、比較対照群のない単群試験であること、中国単国の患者集団であること、n=65の規模と限界が指摘される。今後の課題としてランダム化比較試験の実施、東アジア以外の患者での外的妥当性の検討、CDKN2A変異・ctDNAクリアランス等のbiomarker仮説の前向き検証が必要である。さらに1次治療への展開、免疫チェックポイント阻害薬や化学療法との併用、MET阻害薬耐性機序の解明も今後の検討課題として残されている。

方法

試験デザイン: 第2相、オープンラベル、多施設共同試験。中国54施設。2つの連続するパート構成:

  • 探索的相: Cohort 1 (savolitinib 600 mg QD) / Cohort 2 (800 mg QD) / Cohort 3 (600 mg BID) の3コホートで用量・スケジュールを比較
  • Pivotal相: 探索的相のデータを基に選択された最適スケジュール (600 mg BID) で単群検証; データカットオフ: 2025年10月8日

対象: 組織学的に確認された切除不能進行胃・GEJ腺癌、MET増幅 (FISH法でGCN ≥10)、ECOG PS 0-1、前治療 ≥2レジメン。MET exon 14スキップ変異を有する患者は除外。

評価項目: 主要評価項目: pivotal相でのIRC評価ORR (RECIST v1.1)。事前規定の有効性判定閾値: 下限95% CI ≥15%。副次評価項目: DCR、DoR、PFS、OS、安全性 (CTCAE v5.0)。探索的: MET増幅クリアランス (ctDNA)、CDKN2A変異との相関。

登録: 全体n=110 (探索的相n=45、pivotal相n=65)。