• 著者: Hee-Don Chae, Uttam Shrestha, Millie Das, Minal S. Vasanawala, Deepti Behl, Diwakar Davar, Shyam Srinivas, A. Dimitrios Colevas, John B. Sunwoo, Niko Del Mar, Michele Pierini, Michele Guillen, Jose Garcia, Negar Omidvari, Nikhil Gupta, Joseph Blecha, Simon R. Cherry, Henry VanBrocklin, Robert R. Flavell, Javid Moslehi, Youngho Seo, Jelena Levi
  • Corresponding author: Jelena Levi (CellSight Technologies Inc.) / Youngho Seo (University of California, San Francisco)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (translational imaging biomarker study)
  • PMID: 42126592

背景

PD-1/PD-L1 阻害薬や CTLA-4 阻害薬をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬 (ICI; immune checkpoint inhibitor) は、悪性黒色腫 (メラノーマ) や非小細胞肺がん (NSCLC) などの治療成績を劇的に向上させた。その一方で、免疫関連有害事象 (irAE; immune-related adverse event) が多臓器に生じることが知られている。なかでも免疫チェックポイント阻害薬関連心筋炎 (ICI-myocarditis) は、発症頻度こそ 1〜2% 程度と低いものの、重症例における死亡率が約 50% に達する致死的な irAE であり、臨床上の重大な課題となっている。

現行の心臓モニタリングは、血清トロポニン値、心電図 (ECG; electrocardiogram)、心エコーに依存している。しかし、これらの指標は心筋の構造的損傷が顕在化して初めて異常を示すため、超急性期や亜臨床期の段階で心毒性を検出するには感度が不十分である。先行研究において、腫瘍学的治療を受けた患者の心血管イベントリスク層別化のための早期バイオマーカーの必要性が提唱されている (Moslehi et al. 2016; Lenneman et al. 2016; Sharma et al. 2023)。しかし、ICI 特異的な早期画像バイオマーカーは未確立のままであり、臨床現場における早期検出技術は決定的に不足しているという深刻な課題が残されている。

[18F]F-AraG (9-(4-[18F]fluoro-3-hydroxymethylbutyl)guanine) は、ミトコンドリア内の脱酸素グアノシンキナーゼ (dGK; deoxyguanosine kinase) によって選択的にリン酸化・蓄積されるポジトロン断層法 (PET; positron emission tomography) プローブである。本トレーサーは、活性化 T 細胞や心筋細胞など、ミトコンドリア生合成 (mitochondrial biogenesis) 活性の高い組織に集積する特性を持つ。活性化 T 細胞のミトコンドリア機能亢進を in vivo で可視化できる点が従来の FDG-PET と異なるが、ICI 投与患者の心臓における [18F]F-AraG の集積挙動や、標準的な基準値・正常範囲は未解明であった。特に、多施設環境におけるスキャン間変動や部位間均一性、ミトコンドリア DNA (mtDNA) 量や PGC-1α (peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha) 発現との生物学的妥当性に関する検証は手薄であり、本研究はこの知識ギャップを埋めることを主目的とした。

目的

本研究の目的は、第一に、多施設・多コホート設計を用いて [18F]F-AraG 心臓 PET/CT の健常者における基準値を確立し、左室・右室における部位間再現性およびミトコンドリア DNA 量や生合成活性との生物学的妥当性を検証することである。第二に、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 投与前後のメラノーマ患者および非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、[18F]F-AraG の心筋取り込みの経時的変化を定量評価し、がん治療に伴う早期心毒性および局所的な心筋代謝変化を非侵襲的に検出する早期画像バイオマーカーとしての可能性を検証することである。

結果

健常者における [18F]F-AraG 心筋集積の基準値と均一性: 健常者コホート (n=25 donors) において、[18F]F-AraG の心筋集積は極めて安定しており、高い均一性を示した。左室 (LV) SUVmax の変動係数 (COV) は 12.3%、右室 (RV) SUVmax の COV は 13.6% であり、LV SUVmean の COV は 10.6%、RV SUVmean の COV は 11.6% と良好な再現性が確認された (Fig 1)。AHA 17-セグメントモデルを用いた LV 局所解析では、セグメント間の COV は 11.11 ± 3.06% であり、最大値の 84.16 ± 10.01% 以上の均一な分布を示した。壊死パターンを定義する閾値 (最大集積値の 50% 未満) に該当するセグメントは、解析した全 442 セグメント中に 1 つも存在せず、健常心筋における全周性の均一な集積が実証された。容積ベース指標である LV tCMA および CMBV は、女性と比較して男性で有意に高値であったが (Fig 1)、これは体格差を反映したものであり、年齢による有意な差は認められなかった。

左室優位のミトコンドリア活性と生物学的妥当性の実証: 健常者において、[18F]F-AraG の集積は右室と比較して左室で著しく高く、SUVmax および SUVmean は約 2 倍、tCMA は約 5 倍の高値を示した (Fig 2)。この左右非対称性の生物学的基盤を検証するため、ヒト心臓組織標本を用いた FISH 解析 (n=3 donors) を行ったところ、LV における mtDNA コピー数は RV の約 2 倍 (2.0-fold increase) であることが直接確認された (Fig 2)。さらに、qRT-PCR 解析 (n=6 donors) において、ミトコンドリア生合成を制御する PGC-1α の遺伝子発現量が、RV と比較して LV で有意に高い (1.8-fold increase, p < 0.05) ことが示された (Fig 2)。また、LV tCMA は除脂肪体重 (LBM) と極めて強い正の相関を示し (Pearson r=0.7155, p < 0.0001)、LV CMBV も LBM と強い相関を示した (Pearson r=0.8250, p < 0.0001)。これらの結果は、[18F]F-AraG PET が心筋のミトコンドリア量および生合成活性を正確に反映していることを示している。

がん治療および免疫療法に伴う [18F]F-AraG 全体的集積変化: 治療前のステージ III メラノーマ患者 (n=7 patients) では、心臓の [18F]F-AraG 集積は健常者と同等か軽度低値であった。しかし、ICI 投与後の PET スキャンでは、LV SUVmax が 4.78 ± 0.69 から 5.56 ± 0.89 (1.16-fold increase) へ有意に増加し (p < 0.05)、LV SUVmean も 2.95 ± 0.34 から 3.47 ± 0.54 (1.17-fold increase) へ有意に増加した (p < 0.05)。7 例中 3 例 (43%) で 20% 以上の集積増加が認められた (Fig 3)。一方、前治療歴のある進行 NSCLC 患者 (n=10 patients) では、ICI 投与前の段階で健常者よりも心筋集積が高い傾向が認められた (Fig 3)。ICI 投与後には、10 例中 4 例 (40%) で LV または RV の SUVmean が 20% 以上増加した。これは、前治療による心筋ストレスに対する適応反応や、ICI 投与に伴う心筋ミトコンドリア代謝の動的変化、あるいは局所的な免疫反応を反映していると考えられた。

局所的な焦点性集積変化と心電図異常との対応: AHA 17-セグメントモデルを用いた詳細な局所解析において、メラノーマ患者の 43% (3/7 例) および NSCLC 患者の 30% (3/10 例) で、ICI 投与後に特定のセグメントで 40% 以上の局所的な集積上昇 (焦点性変化) が検出された (Fig 4)。さらに、頭頸部がん患者 2 例における [18F]F-AraG 集積パターンと臨床 ECG 所見との対比において、極めて対照的な結果が得られた。正常な ECG を示す症例 (H&N-2) では均一な心筋集積が維持されていたのに対し、側壁誘導での T 波異常や前壁誘導での R 波増高不良を示す症例 (H&N-1) では、前壁セグメントにおいて最大集積値の 50% 未満となる壊死パターン (局所的集積低下) が明瞭に観察され、ECG の異常部位と画像上の欠損部位が一致した (Fig 5)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の心機能評価法 (心エコーによる LVEF 測定など) や、炎症全般を非特異的に描出する [18F]FDG-PET とは対照的に、ミトコンドリアの dGK 活性を標的とする [18F]F-AraG PET を用いて、心筋細胞のミトコンドリア代謝変化と活性化 T 細胞浸潤の両面を同時に評価した点で、これまでの報告と大きく異なる。FDG-PET で問題となる生理的集積の不均一性や食事制限の影響を受けることなく、安定した心筋描出が可能である。

新規性: 本研究は、多施設共同前向きコホートにおいて [18F]F-AraG 心臓 PET の健常者基準データベース (n=25) を本研究で初めて確立した。また、ヒト心臓組織を用いた FISH および qRT-PCR 解析により、左室と右室の集積差が mtDNA コピー数および PGC-1α 発現量の差に起因することを新規に実証した。さらに、メラノーマおよび NSCLC 患者における longitudinal 解析により、ICI 投与後に生じる亜臨床期の心筋代謝変化を非侵襲的に捉えることに初めて成功した。

臨床応用: 本知見は、がん治療、特に ICI 投与に伴う致死的な心毒性 (ICI 心筋炎) の早期リスク層別化およびモニタリングにおける臨床的有用性を示唆している。LBM などの体格指標で補正した容積指標 (tCMA, CMBV) を用いることで、個々の患者における生理的変動を排除した高精度な評価が可能となる。超急性期における心筋ミトコンドリア代謝の変調や局所的な T 細胞浸潤を非侵襲的に検出することで、心不全や重症心筋炎への進行を防ぐ早期介入 (ステロイド投与や ICI の一時中断) に直結する translational な画像バイオマーカーとして期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、本研究の腫瘍コホートのサンプルサイズが小さく (メラノーマ n=7、NSCLC n=10)、臨床的に確定診断された重症心筋炎患者が含まれていないため、診断能 (感度・特異度) の正式な評価が未実施である点が挙げられる。第二に、心臓 MRI (LGE 法) や心筋生検といったゴールドスタンダードとの直接的な比較データが不足している。第三に、施設間の TBR (target-to-blood ratio) において 18〜27% 程度の変動がみられ、さらなるプロトコル標準化が必要である。今後は、心筋酵素や心臓 MRI との対比を含む、より大規模な前向き臨床試験による検証が求められる。

方法

登録コホートと研究デザイン: 前向き多施設観察研究として実施された。健常者コホート (NCT02323893, NCT04678440; UCSF・UC Davis) として 26 例を登録し、乳がん既往歴のある 1 例を除く 25 例 (男性 11 例、女性 14 例; 年齢範囲 28〜76 歳) を解析対象とした。がん患者コホートとして、治療開始前のステージ III メラノーマ患者 7 例 (NCT03618641; UPMC (University of Pittsburgh Medical Center)/UCSF) および化学療法などの前治療歴を有する進行 NSCLC 患者 10 例 (NCT04726215; 多施設) を登録し、ICI 投与前後に [18F]F-AraG PET/CT を実施した。また、頭頸部がん患者 2 例 (NCT03129061; Stanford) の画像データも解析に含めた。

PET/CT 撮像および画像ハーモナイゼーション: 被験者に [18F]F-AraG 約 5 mCi (185 MBq (megabecquerel)) を静脈内投与し、投与後約 60 分に PET/CT 収集を開始した。画像再構成には OSEM (ordered subset expectation maximization) 法を用いた。施設間の機種依存性を排除するため、全画像をボクセルサイズ 4×4×4 mm に統一リサンプリングし、3D Gaussian フィルタ (FWHM (full width at half maximum): 3.5 mm) を適用してハーモナイゼーションを行った。画像解析には Horos、3D Slicer、および PMOD (PMOD Technologies) (v4.02) を使用した。

定量評価指標: 心筋集積の定量的指標として、SUVmax (standardized uptake value maximum)、SUVmean、および容積ベース指標である CMBV (cardiac metabolic blood volume; SUVmax の 50% 以上の閾値容積) と tCMA (total cardiac metabolic activity; SUVmean × CMBV) を算出した。左室 (LV) の局所解析には AHA (American Heart Association) 17-セグメントモデルを適用した。

生物学的妥当性の検証: ヒト心臓組織標本 (Duke Human Heart Repository) を用い、MT-COX1 (mitochondria-encoded cytochrome c oxidase I) プローブを用いた RNAscope 蛍光 in situ ハイブリダイゼーション (FISH) 解析 (n=3 donors) を実施し、mtDNA コピー数を定量した。また、qRT-PCR (quantitative reverse transcription PCR) 法 (n=6 donors) により、ミトコンドリア生合成のマスターレギュレーターである PGC-1α の遺伝子発現量を定量し、β-actin (ACTB) で標準化した。

統計解析: 2 群間の比較には、対応なしまたは対応あり Student’s t 検定を用いた。体格指標との相関分析には Pearson 相関分析を用いた。統計的有意基準は p < 0.05 とした。