- 著者: Caroline Maloney, Morris C. Edelman, Michelle P. Kallis, Samuel Z. Soffer, Marc Symons, Bettie M. Steinberg
- Corresponding author: Caroline Maloney (The Feinstein Institute for Medical Research, Northwell Health, Manhasset, NY, USA)
- 雑誌: Clinical Orthopaedics and Related Research
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29601385
背景
骨肉腫は小児・青年期に発生する最も一般的な悪性骨腫瘍であり、青年期癌の中で3番目に多い癌種であると報告されている (Khanna et al. 2014)。局所切除単独では80%以上の患者が肺転移を発症し、化学療法を加えた現在の治療体系でも、局所性疾患で診断された患者の最大40%が肺転移を発症する (Stiller et al. 2017)。転移性骨肉腫患者の5年生存率は極めて低く、過去30年間で治療成績はほとんど改善していない (Khanna et al. 2014)。この骨肉腫患者における高い転移リスクは、診断前から肺に存在する微小転移巣 (micrometastasis) に起因すると考えられている。これらの微小な腫瘍病巣が顕在的な転移性疾患へと進行するメカニズムについては、依然として多くの点が未解明である。微小転移巣の増殖を阻止することを目的とした新規治療法の開発が喫緊の課題であり、そのためにはヒトの疾患状態を正確に再現する前臨床モデルが不可欠である。
K7M2細胞株は、免疫適格なBALB/cマウスに自然発生した骨肉腫から派生したK7細胞の肺転移巣から開発された細胞株であり (Potter 1985)、骨肉腫の転移生物学研究や新規治療薬のin vivoスクリーニングに広く用いられてきた (Khanna et al. 2000)。骨肉腫は骨髄由来間葉系幹細胞から発生すると考えられているため (Abarrategi et al. 2016)、大腿骨や脛骨の骨髄腔に腫瘍細胞を整形外科的に直接注射する「脛骨内注射モデル」が広く利用されている (Khanna et al. 2000; Luu et al. 2005; Uluçkan et al. 2015; Yuan et al. 2009)。この手法は、腫瘍細胞が本来の微小環境と相互作用することを可能にし、いくつかの研究では脛骨内注射後に自然肺転移が発生すると報告されてきた (Garimella et al. 2013; Luu et al. 2005; Sottnik et al. 2010; Uluçkan et al. 2015; Yuan et al. 2009)。しかし、脛骨内注射モデルを用いた研究間では、骨腫瘍の確立効率、腫瘍体積、および転移効率に関して大きなばらつきが報告されており (Khanna et al. 2000; Luu et al. 2005; Thudi et al. 2008; Yuan et al. 2009)、このモデルが真に「自然転移」を代表するかどうかについて懸念が生じていた。特に、細胞注射に用いられる容量は研究によって異なり、骨髄腔から脛骨周囲の皮下組織への細胞漏出が指摘されてきた (Khanna et al. 2000; Sasaki et al. 2015)。骨髄腔の容量を超えた大量の細胞懸濁液を注射した場合、骨髄外への細胞漏出が生じ、これが転移効率のばらつきやモデルの妥当性に影響を与えている可能性が指摘されていたが、この問題に対する体系的な検証は不足していた。
目的
本研究は、広く用いられているK7M2骨肉腫細胞の脛骨内注射モデルの信頼性と妥当性を体系的に検証することを目的とした。具体的には、以下の4つの主要な目的を設定した。(1) 漏出のない脛骨内注射のための信頼性の高い最適注射量を確立すること。(2) 原発腫瘍および転移形成の発生率を定量的に評価すること。(3) 肺転移の播種および増殖の動態を時系列で解析すること。(4) 原発腫瘍がその後の転移形成に寄与するかどうかを、患肢切断による介入実験を通じて解明すること。これらの目的を達成することで、本モデルを利用した既報および今後の研究の解釈における適切な枠組みを提供し、骨肉腫の転移生物学研究の精度向上に貢献することを目指した。
結果
最適注射量 10 µL の確立と先行研究の注射量問題の解明: Evans blue染料 (100 µL, 50 µL, 25 µL, 10 µL の4段階) を用いた系統的評価により、漏出なく脛骨骨髄腔内に注入できる最大容量は 10 µL であることが確認された。25 µL以上の容量では、隣接する軟部組織への染料の明瞭な漏出が認められた。これは、多くの先行研究が使用してきた50〜200 µLの注射量では、骨髄腔外への大量漏出が生じていた可能性が高いことを示唆する。10 µL群では、評価したn=8 mice全て (100%) で骨髄腔内への確実な封入が確認された。初期の注射手技確立段階で発生したn=4/27 miceの皮下腫瘍形成例では、4週以内に肺転移が観察されなかったことから、骨髄内投与が転移誘導に必須であることが確認された。この知見は、先行研究における転移発生率の著しいばらつきの一因を説明するとともに、10 µLを標準注射量として採用することの重要性を示す。
原発腫瘍と転移の発生率 (n=30 mice): n=30 mice中n=3 mice (10%) が脛骨内注射直後に死亡し、その後の解析から除外した。残りのn=27 miceのうち、n=21 mice (77%) が注射後3週以内に触知可能な原発腫瘍を形成し、93% (n=25/27 mice) が4週までに触知可能な腫瘍を形成した。組織学的には、n=23/27 mice (85%) で骨髄腔内への腫瘍浸潤が確認され、骨および周囲軟部組織への浸潤が認められた (Figure 2A, B)。肺転移は、骨髄内腫瘍を担持するn=23 mice全例 (100%) に組織学的に検出され、これらのうちn=21 mice (91%) が肉眼的な大型転移結節 (coalescent lesions) を呈し、しばしば肺の硬化を引き起こした (Figure 3A, B)。肺面積の平均 38%±18% が腫瘍に置換されており、転移は肺および胸膜のみに限局し、肝臓や脾臓への転移は認めなかった。骨髄浸潤が認められなかったn=4/27 miceには肺転移も認められず、骨髄内腫瘍増殖と肺播種の密接な関連が示された。
転移動態の時系列解析:転移負荷は指数的増大、転移巣数は不変: 転移発生のタイミングを決定するため、注射後1週、2週、3週、4週でn=24 miceを安楽死させ、肺転移を評価した。第1週の時点で、100% のマウスに組織学的に検出可能な微小転移巣が肺に存在した (Figure 4A, B)。転移負荷は週を追って有意に増加した (Figure 4C)。第1週では 0.88%±0.58%、第2週では 6.6%±5.3%、第3週では 16.1%±12.5%、第4週では 40.3%±14.83% であった。第1週から第4週までの平均差は -39.38 (p < 0.001; 95% CI -57.39〜-21.37) であり、肺転移が時間とともに増大することを示した。一方、転移巣の平均数は第1週から第4週にかけて有意な変化を示さなかった (第1週: 36.4±33.6個 vs 第4週: 49.3±26.3個, p = 0.18) (Figure 4D)。これは、新規転移巣の形成よりも既存病変の増大が転移負荷増加の主因であることを示唆する。また、原発腫瘍の大きさと転移負荷の間には統計的相関がなかった (データ未掲載)。この知見は、転移負荷が腫瘍注射直後に播種される細胞数によって決まり、その後の原発腫瘍増殖には依存しないことを示す。盲検化評価により、n=2名の研究者間の一致率 r^2 = 0.98 (95% CI 0.95-0.99) が確認され、定量精度の信頼性が担保された。
原発腫瘍の転移形成への寄与ゼロの決定的証明: 転移細胞の起源 (原発腫瘍、初期注射、またはその両方) をより明確に決定するため、n=21 miceに注射後30分、4時間、24時間の時点で腫瘍担持肢を切断し、4週後の転移発生を非切断対照群と比較した。切断群と対照群のいずれにおいても、切断のタイミングにかかわらず肉眼的な肺病変が認められた (データ未掲載)。転移負荷に有意差は認められなかった (Figure 5)。対照群の転移負荷は 40.9%±15.3% であったのに対し、注射30分後切断群では 48.9%±6.1% (平均差 -7.96, p = 0.819; 95% CI -33.9〜18.0)、4時間後切断群では 51.8%±17.8% (平均差 -10.9, p = 0.641; 95% CI -36.79〜15.08)、24時間後切断群では 48.9%±17.9% (平均差 -1.1, p = 0.999; 95% CI -27.01〜15.08) であった。これらの結果は、注射後30分という極めて早期の切断でも転移負荷が非切断対照と同等であることを示している。さらに、最初の実験で脛骨内注射直後に死亡したn=3 miceの肺の組織学的検査では、肺動脈内に大型の腫瘍細胞塊 (tumor emboli) が確認された (Figure 6)。これは、脛骨内注射時に腫瘍細胞が後肢静脈系から下大静脈を経て肺循環へ即座に移行する直接的な機械的証拠を提供する。したがって、これらの結果は、脛骨内注射が原発腫瘍の形成とは独立して、肺への腫瘍細胞の即時到達をもたらすことを示している。
考察/結論
本研究は、K7M2骨肉腫細胞の脛骨内注射モデルが、注射直後の直接的肺播種 (embolic seeding) をもたらし、原発腫瘍からの自然転移には依存しないことを、複数の独立した証拠から決定的に示した。注射後30分という極めて早期の患肢切断でも転移負荷が非切断対照群と統計的に同等であったという事実は、これまで「自然転移モデル」として解釈されてきた既報の多くのデータの再解釈を迫る重要な発見である。
先行研究との違いと先行研究の再解釈: Khanna et al. (2000)、Garimella et al. (2013) を含む複数の報告が脛骨内注射後の自然肺転移を記載してきたが、本研究は、これらで使用された大量の注射量 (最大200 µL) が骨髄腔外への細胞漏出を生じさせていた可能性が高いことを示唆する。我々の経験では、皮下腫瘍として発生したK7M2細胞は4週以内に転移を示さなかったが、これは皮下移植腫瘍では転移速度が著しく遅いという別の報告 (Sottnik et al. 2010) と整合する。一方、Goldstein et al. (2015) は、切断によって転移が減少したと報告しており、本研究との相違は注射手技の差異 (骨髄腔内への真の注射 vs 骨髄近傍注射) によると考えられる。骨髄の疎な有窓性血管網は、全身血管系への効率的な腫瘍細胞播種を促進する解剖学的基盤として機能しており、この機構的理解が本モデルの特性を説明する。
新規性: 本研究で初めて、脛骨内注射モデルにおける最適注射量を体系的に確立し、注射量の過多が骨髄腔外への細胞漏出を引き起こすことを明確に示した。また、注射後わずか30分での患肢切断が肺転移負荷に影響を与えないことを決定的に証明し、このモデルが原発腫瘍からの自然転移ではなく、注射時の直接的な血行性播種によるものであることを新規に明らかにした。さらに、転移負荷は時間とともに指数関数的に増加する一方で、転移巣の数は有意に増加しないという動態を詳細に解析し、転移巣の増大が既存病変の拡大によるものであることを示唆した点も新規の知見である。
臨床応用と転換的示唆: 骨肉腫患者では、診断時に骨髄吸引液中の腫瘍細胞検出が長期生存の低下および転移リスクの増加と相関する (Bruland et al. 2005) ことが知られており、本研究の機構的洞察と整合する。本モデルは、転移カスケードの「前半」(局所浸潤、血管内侵入、循環中生存) の研究には適さないが、「後半」(肺血管内への腫瘍細胞定着、血管外遊出、増殖) を研究するための信頼性の高い実験的転移モデルとして位置づけ直される。骨肉腫患者がしばしば微小転移病変を伴って診断され、その後原発腫瘍の外科的切除を受けることを考慮すると、本モデルは原発腫瘍の存在下における既存の肺病変の関係を研究し、原発腫瘍切除後の転移性増殖を阻止する治療戦略の有効性を評価するための臨床応用的な機会を提供する。
残された課題と代替モデルの提案: 本研究は単一細胞株 (K7M2) の単一マウス系統 (BALB/c) での結果であり、他の骨肉腫細胞株や異種移植モデルでの検証が今後の課題として残されている。また、転移負荷と転移巣数の解離 (前者は有意に増加するが後者は不変) は、播種後の転移巣拡大機構の解明が今後の重要な研究課題であることを示唆する。本モデルは注射時に針が組織を通過するため、その経路全体に腫瘍細胞を曝露するというlimitationがある。真の自然転移を研究するためには、Matrigel添加による注射時の細胞塊化防止、腫瘍断片の整形外科的移植、あるいは遺伝子改変モデルがより適切であると考えられる。遺伝子改変モデルは、腫瘍の発生と転移を最も正確に再現するが、しばしば長期間の実験期間を要する。
方法
実験動物と細胞株:4〜5週齢の雌BALB/cマウス (平均体重16.7±1.2 g) をTaconic Biosciencesから購入し、特定の病原体フリー条件下で飼育した。K7M2ネズミ骨肉腫細胞株 (American Type Culture Collection; ATCCより購入) を、Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM) に10%熱不活化ウシ胎児血清、2 mM L-グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した培地で培養した。継代数P3-10の細胞を使用し、トリパンブルー排除法により細胞生存率が90%以上であることを確認した。細胞はPBSに1×10^8 cells/mLの濃度で懸濁し、4℃で保存した。
脛骨内注射手技:マウスはブプレノルフィン (2 mg/kg、皮下) と3%イソフルラン吸入麻酔下で手術を行った。左後肢を消毒後、膝関節を屈曲・外旋させて脛骨を露出させた。28G針を用いて膝蓋靭帯を貫通し、脛骨前顆間領域に穿孔した。その後、別の28G針またはハミルトンシリンジを用いて、1×10^6個のK7M2細胞を10 µLのPBS懸濁液として穿孔した脛骨内にゆっくりと注射した。術後、マウスは加温パッド上で回復させ、12時間後にブプレノルフィンを追加投与した。術後3日間は毎日、その後は週2回、体重測定と疼痛評価を含む術後モニタリングを行った。全ての研究は、先行研究 (Khanna et al. 2000) と同様に、注射後4週以内に終了した。
最適注射量の確立:脛骨骨髄腔内に漏出なく注入できる最大容量を決定するため、n=8 miceにEvans blue染料 (30 mg/kg) を100 µL、50 µL、25 µL、10 µLの容量で脛骨内注射した (各群n=2 mice)。注射直後に安楽死させ、脛骨を周囲の皮膚および軟部組織から剥離し、染料の漏出の有無を目視で評価した。
原発腫瘍形成および転移発生率の評価:n=30 miceに1×10^6個のK7M2細胞を10 µLで脛骨内注射し、4週間観察した。注射直後に死亡したn=3 miceは解析から除外した。4週後にマウスを安楽死させ、原発腫瘍の形成率および肺転移の発生率を記録した。
肺転移の動態解析:転移発生の動態を決定するため、n=24 miceに脛骨内注射を行い、注射後1週、2週、3週、4週の時点で段階的に安楽死させた (各群n=5〜6 mice)。肺を採取し、盲検化した病理医 (ME) による組織学的評価を行った。肺組織の連続切片 (5 µm厚、HE染色) を作成し、各マウスから4切片を採取して評価した。Zeiss Axiovert 200M倒立顕微鏡とAxioVisionソフトウェアを用いて、低倍率 (0.63-20倍) で肺切片の約50%を観察した。微小転移巣は4個以上の細胞の凝集と定義した。各肺切片における転移巣の総数を計数し、平均値を算出した。転移負荷は、ImageJソフトウェアを用いて、肺の全表面積に対する転移病変の平均表面積の割合として算出した。n=2名の独立した研究者が盲検下でこの方法を用いて転移負荷を測定し、高い一致率 (r^2 = 0.98; 95% CI 0.95-0.99) を確認した。
原発腫瘍の転移への寄与の検証:原発腫瘍がその後の肺転移発生に寄与するかを調べるため、n=21 miceに腫瘍細胞を脛骨内注射後、30分、4時間、または24時間の時点で腫瘍担持肢を切断した (各群n=5〜6 mice)。対照群は非切断の腫瘍担持マウスとした。全てのマウスは腫瘍移植後4週で安楽死させ、肺を採取して転移負荷を盲検下で算出した。切断手術は、膝蓋骨より近位で皮膚を切開し、大腿神経血管束を結紮・切断後、大腿骨を剪刀で切断し、筋肉を縫合、皮膚を金属クリップで閉鎖した。術後管理は脛骨内注射後と同様に行った。また、最初の実験で注射直後に死亡したn=3 miceの肺を組織学的に検査し、肺血管内の腫瘍塞栓の有無を確認した。
統計解析:転移負荷および転移巣数の群間差は、Kruskal-Wallis検定および一元配置分散分析 (ANOVA) を用いて比較した。多重比較にはTukey補正を適用した。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。