• 著者: Takahiro Nakajima, Takashi Anayama, Yasushi Matsuda, David M. Hwang, Patrick Z. McVeigh, Brian C. Wilson, Gang Zheng, Shaf Keshavjee, Kazuhiro Yasufuku
  • Corresponding author: Kazuhiro Yasufuku (Interventional Thoracic Surgery Program, University of Toronto / Toronto General Hospital, 200 Elizabeth St, 9N-957, Toronto, Ontario, Canada)
  • 雑誌: Annals of Thoracic Surgery
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Technology報告)
  • PMID: 24792261

背景

肺癌は世界的に癌死亡率第1位であり、有効な前臨床モデルの確立が治療開発・腫瘍生物学研究の基盤として不可欠である。特に非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer, NSCLC) においては、肺組織微小環境を正確に再現する同所性 (orthotopic) モデルが転移形成・治療応答の観察に本質的な優位性をもつとされ、複数の先行研究がそれぞれ独自のアプローチで同所性モデルの確立を試みてきた。

従来の同所性NSCLCモデルには複数の技術的課題が未解決のまま残されていた。Onn ら (2003) は経胸壁直接注射による同所性NSCLCモデルを確立したが、外科的切開と気胸・胸膜播種リスクが不可避であった。Shibuya ら (2007) および Mordant ら (2011) も同様の外科的アプローチを採用しており、開胸操作に伴う炎症シグナルがイメージング研究の偽陽性要因となる問題を有していた。Zou ら (2004) の視覚ガイドなし経皮的針刺入法は腫瘍形成部位の制御が困難で単発結節モデルとしての再現性に課題があった。McLemore ら (1987) および Iochmann ら (2012) の気管切開を伴う経気管支法でも多発性病変が形成されやすいという欠点を有していた。

これらの先行研究における共通の技術的ギャップ (gap) は、外科的創傷を一切生じさせずに特定肺葉へ孤立性腫瘍を選択的に形成できる非侵襲的手法が確立されていなかった点にある。胸膜播種・炎症アーティファクトを排除した上で非侵襲的マイクロCT・光学イメージングによる経時モニタリングを実現できる前臨床モデルは未解明の課題として残されており、こうした手法を提供できる研究プラットフォームが不足していた。

目的

外科的切開・気管切開を全く必要としない声帯直視下経気管支アプローチを用いて、ヒトNSCLC細胞株 (A549・H460・H520) の同所性マウス異種移植モデルを確立する。腫瘍形成率・病変形態 (孤立性 vs 多発性)・胸膜外播種の有無・組織病理像・EGFR発現プロファイルを評価し、手術瘢痕のないイメージング研究・腫瘍生物学・新規治療介入評価に適した臨床的に妥当な前臨床研究プラットフォームとしての有用性を実証することを目的とした。

結果

腫瘍形成率91.9%・孤立性85.3%を達成し胸膜外播種をゼロに抑制 (Fig 2A, Fig 4):腫瘍形成率は37匹中34匹 (91.9%) であった。3匹 (8.1%) は麻酔・腫瘍細胞投与手技に関連した早期死亡であり、手技成功例での腫瘍非形成例はゼロであった。34匹の病変形態の内訳: 孤立性腫瘍29匹 (85.3%)、多発性病変5匹 (14.7%)。細胞株別の多発性病変率はA549で28匹中3匹 (10.7%)、H460 (H460-GFP含む計6匹) で6匹中2匹 (33.3%) であった。全34匹においていずれも胸膜外播種および胸水形成を認めなかった。胸膜外播種の不存在はH460-GFP細胞を用いたGFP蛍光全身イメージング (IVIS Spectrum) および白色光下の肉眼所見の両方で確認された (Fig 4A, 4B)。皮膚表面に手術瘢痕がないため、高周波超音波 (40 MHz) による腫瘍形成のリアルタイム確認が妨げなく実施可能であった (Fig 2C)。A549の孤立性腫瘍形成率は28匹中25匹 (89.3%) と特に高かった。

A549腫瘍はDay 25で4 mm超・面積6倍増大、週次マイクロCTで連続定量 (Fig 3):週次マイクロCTスキャンにより全マウスの腫瘍発生・増大を非侵襲的に連続追跡した (Fig 2A)。A549細胞 (n=25、孤立性腫瘍形成例) を投与したマウスでは、接種後約25日前後で腫瘍長径が4 mm超の安楽死基準に到達する個体が多数を占めた (Fig 3)。腫瘍面積 (mm²) はDay 7の初回CT検出値 (平均4.2 mm²、n=25) に対してDay 25時点では平均25 mm²と約6倍 (approximately 6-fold increase, n=25) の増大を示し、個体によっては最大50 mm²に達した。H460 (n=6) の個体別最大腫瘍面積は45 mm²と、A549 (n=25) 最大値50 mm²の90%に相当し、2-fold以上の個体間ばらつきが観察された。週次マイクロCT連続画像は腫瘍発生からの経時変化を明確に可視化し (Fig 2A: blue arrowで接種時点を示し、black arrowで腫瘍を示す)、非侵襲的な腫瘍増殖モニタリングを実現した。高周波超音波 (40 MHz; VisualSonics MS-550D) も腫瘍の位置・大きさの迅速な確認に有用であり (Fig 2B)、外科的瘢痕がない本モデルの特性を最大限に活用できた。H460・H520においても同様の増殖傾向が認められたが、各群n数 (n=3〜6) が少なく個体間のばらつきが大きかった。

3細胞株が固有組織型を維持し CD31陽性血管新生を全腫瘍で確認 (Fig 5):各細胞株の組織像は既知の組織型と一致した。A549 (腺癌): H&E染色 (25倍・200倍) および弾性染色 (200倍) で腫瘍細胞が主に肺胞腔内に増殖するパターン (alveolar space proliferation) を示し、正常肺構造を置換しながら増大した (Fig 5A, 5B)。H460 (大細胞癌): H&E染色 (100倍) および弾性染色 (100倍) で気腔内増殖に加え、一部気管支壁および臓側胸膜への浸潤像を認めた (Fig 5D, 5E)。H520 (扁平上皮癌): H&E染色 (200倍) で気管支管腔外への浸潤を含む領域を呈した (Fig 5F)。抗CD31抗体 (1:2500希釈) を用いたIHC (200倍) で全腫瘍種において腫瘍血管新生 (angiogenesis) が確認され、各腫瘍が宿主血管系を取り込みながら増殖していることが裏付けられた (Fig 5C)。

A549が中〜強EGFR陽性・H460弱発現・H520陰性と既知プロファイルに完全一致 (Fig 6):抗EGFR抗体 (1:100希釈) を用いたIHCでEGFR発現は細胞株間で明確に差異を示した。A549では強陽性〜中等度の発現パターン (200倍; Fig 6A)、H460では弱発現 (200倍; Fig 6B)、H520では発現がほぼ認められなかった (400倍; Fig 6C)。これらのEGFR発現パターンは各細胞株の既知のEGFR発現プロファイルと完全に一致した。細胞株間のEGFR発現の差異は、EGFR標的抗体の効果機序 (Derer ら, J Immunol 2012) における各細胞株の役割と整合し、本モデルが分子標的療法の細胞種別感受性評価に利用可能であることを示している。EGFR発現量の差 (A549: 中等度〜強、H460: 弱、H520: 陰性) は標的療法研究での各細胞株の使い分けに対応する。

声帯直視下23Gカテーテル誘導・15〜20分手技で腫瘍形成率91.9% (34/37例) を達成 (Fig 1):腫瘍接種手技全工程の再現性を37匹の連続実験で評価した。声帯直視下に23G 2.5 cm鈍先端カーブカテーテルを気管支に誘導し、腫瘍細胞懸濁液 (50 μL、5.0×10⁵細胞) を目標肺葉気管支に確実に送達した (Fig 1C, 1D)。カテーテル留置位置はレントゲン撮影で確認した (Fig 1E)。麻酔含めた総手技時間は15〜20分と短く、3種の細胞株 (A549・H460・H520) を同一プロトコルで運用できた。手技関連死亡 (n=3/37, 8.1%) を除いた全例 (n=34) で腫瘍形成が確認され、腫瘍形成率91.9%という高い再現性が実証された。複数の可視化技術 (マイクロCT・高周波超音波・GFP蛍光イメージング・IHC) によるモニタリング体制が本モデルの多目的利用可能性を示した。

考察/結論

従来手法との相違と本研究モデルの優位性

本研究が確立した声帯直視下経気管支腫瘍細胞投与法は、同所性NSCLCマウス異種移植モデルとして91.9%という高い腫瘍形成率を達成し、外科的切開・気管切開を全く必要としない点でこれまでの研究と異なる本質的な改善をもたらした。既報の経胸壁注射法 (Onn 2003) は腫瘍形成率は高いが気胸・胸膜播種・開胸のリスクを内包していた。経気管支法であっても気管切開を要する従来法 (Iochmann 2012等) は侵襲的操作が不可避であり多発病変率が高かった。マウス肺へ癌細胞を直接移植する方法論については先行研究で多様なアプローチが報告されており (JVisExp 2009)、注射経路の差異が腫瘍播種パターンに与える影響も問題となってきた (Maloney et al. ClinOrthopRelatRes 2018)。対照的に、本法では手術用顕微鏡10倍直視下による精確なカテーテル誘導で特定肺葉 (右下葉・左下葉) へのターゲット送達が可能であり、A549での孤立性腫瘍形成率89.3%、胸膜外播種・胸水ゼロという臨床NSCLCの局所病態を高精度に再現した。外科的創傷がないため、組織障害・炎症シグナルによるアーティファクトなしにイメージング研究が実施可能な点も相違として重要である。

新規性と技術的意義

声帯直視下かつ非外科的に特定肺葉へ孤立性腫瘍を形成するこのアプローチは本研究で初めて報告されたものであり、novel な前臨床研究プラットフォームを提供する。同一施設グループによるその後の展開として、本モデルは経気管支的光線力学療法の評価基盤にも応用されており (Ishiwata et al. TranslLungCancerRes 2021)、本モデルの汎用性を裏付けている。声帯・声門を10倍顕微鏡で直接視認しながらカテーテルを誘導する手法は、従来の経験的盲目的アプローチと対照的に、右または左下葉への任意の送達選択を可能にした。GFP発現H460-GFP細胞を用いた胸腔内蛍光イメージングで胸膜播種の有無を直接可視化できる点も、本モデルの新規な特徴である。さらに、手術瘢痕がないため週次マイクロCTによる腫瘍増殖のリアルタイム連続追跡や高周波超音波による腫瘍確認が外来因子の干渉なく実施可能な点は、非侵襲的イメージング技術評価の標準モデルとして新規の価値をもつ。

臨床応用上の意義と橋渡し研究への展望

本モデルの臨床的意義は多岐にわたり、bridge-to-bedside (bench-to-bedside) プラットフォームとして複数の研究領域に臨床応用の道を開く。(1) 孤立性肺結節のイメージング診断技術の前臨床評価 (マイクロCT・超音波・蛍光光学プローブの比較評価)、(2) 経気管支的局所治療 (光線力学的療法・局所薬物送達システム) の有効性評価、(3) EGFR標的薬・血管新生阻害薬・免疫チェックポイント阻害薬の in vivo 効果評価における腫瘍微小環境の正確な再現、(4) 肺癌における腫瘍微小環境・細胞外小胞 (extracellular vesicle, EV) シグナル伝達研究の橋渡しプラットフォーム、が主要な臨床的有用性として挙げられる。3種の組織型・異なるEGFR発現プロファイルをもつ細胞株を同一手技で運用できることは、分子標的療法の細胞種別感受性評価における実用的な価値をもつ。

残された課題と今後の検討

いくつかの limitation と残された課題が存在する。H460細胞での多発性病変率 (33.3%) がA549 (10.7%) に比べて高い原因は不明であり、細胞株固有の浸潤性・接着特性の差異が関与する可能性があるが更なる検討が必要である。本モデルはNCr-Foxn1^nu ヌードマウス (T細胞欠損) のみに適用可能であり、T細胞性免疫応答・免疫チェックポイントの評価が不可能であることはlimitationである。手技関連死亡 (n=3/37, 8.1%) は主に麻酔プロトコルに起因すると推定され、ケタミン/キシラジン用量の最適化による更なる検討が期待される。今後の展望として、ルシフェラーゼ発現細胞株との組み合わせによる生物発光イメージング (bioluminescence imaging) の統合、免疫チェックポイント研究向けシンジェニックモデルへの応用拡大、多発性病変の早期識別のための高感度モニタリング技術の開発が future research の重要課題である。

結論: 声帯直視下経気管支アプローチによる非外科的同所性NSCLCモデルは91.9%の高腫瘍形成率を達成し、85.3%で孤立性腫瘍を形成し、胸膜外播種・胸水をゼロに抑えた。A549・H460・H520の各細胞株はそれぞれの組織型・EGFR発現パターンを保持し、週次マイクロCTと高周波超音波による非侵襲的モニタリングが可能である。本モデルは肺癌の臨床病態を高精度に再現する標準的前臨床研究プラットフォームとしての有用性を示した。

方法

動物・麻酔プロトコル: 雄性胸腺欠損ヌードマウス (NCr-Foxn1^nu; NCr nude, Foxhead box N1 deficient; 4〜6週齢; Taconic Farms, Hudson, New York) n=37匹を使用した。麻酔: ケタミン (ketamine) 60 mg/kg + キシラジン (xylazine) 7 mg/kg 筋肉内投与 + イソフルラン (isoflurane) 2% 吸入維持。全動物実験はUniversity Health Network (UHN) の動物実験倫理委員会・動物使用プロトコル番号2150 (AUP; Animal Use Protocol) の承認下で実施した。

細胞株と調製: ヒトNSCLC細胞株3種 — A549 (adenocarcinoma、n=28)、NCI-H460 (large cell carcinoma、n=3; GFP (green fluorescent protein) 発現株H460-GFP n=3を含む計n=6)、NCI-H520 (squamous cell carcinoma、n=3) を使用した。各細胞株はそれぞれDulbecco Modified Eagle Medium / Roswell Park Memorial Institute 1640培地で37°C・5% CO2 (carbon dioxide) 下に培養し、コンフルエンス70%で0.25%トリプシン-EDTAにより回収した。生細胞数はトリパンブルー (trypan blue) 染色法で計測し、最終濃度1.0×10⁷ cells/mLに調整後、等量の増殖因子除去Matrigel (Becton, Dickinson and Company (BD) Biosciences, Franklin Lakes, New Jersey) と混合した。投与量: 50 μL懸濁液 (5.0×10⁵細胞) を1回投与とした。

声帯直視下経気管支腫瘍細胞投与手技: マウスを仰臥位で頭部を90度に挙上固定 (改変50 mL遠心管ホルダー使用)。蚊鉗子で下顎を牽引して声門を露出させ、手術用顕微鏡 (10倍固定倍率) で声帯を直視した。23G 2.5 cm鈍先端わずかにカーブした金属カテーテル (Harvard Apparatus, Holliston, Massachusetts) を気管に挿入し、カテーテル全長を進めて右下葉気管支に到達させた後、腫瘍細胞-Matrigel混合懸濁液50 μLを注入した。投与後は100%酸素投与と45度頭部挙上で回復させた。総手技時間: 麻酔含め15〜20分。

腫瘍モニタリングと病理評価: 週1回マイクロCT (microcomputed tomography; GE (General Electric) Locus Ultra scanner, GE Healthcare) で腫瘍形成・増大を経時観察した。一部のマウスでは高周波超音波 (40 MHz; VisualSonics MS-550D, Toronto) も併用した。腫瘍長径が4 mmを超えた時点で炭酸ガスで安楽死し肺を摘出・評価した。GFP (green fluorescent protein) 発現H460-GFP腫瘍はIVIS (In Vivo Imaging System) Spectrum全身イメージャー (PerkinElmer; 励起465/30 nm、蛍光520/20 nm、積算時間5秒、binning factor 4×) で胸腔内播種の有無を確認した。病理評価: 10%中性緩衝ホルマリン固定・パラフィン包埋後4 μm切片をH&E (hematoxylin and eosin) 染色・弾性染色で評価した。免疫組織化学 (immunohistochemistry, IHC): 抗CD31 (cluster of differentiation 31) 抗体 (1:2500希釈) で腫瘍血管評価、抗EGFR抗体 (1:100希釈) で発現評価を実施した。統計処理: 腫瘍形成率・孤立性腫瘍率・多発病変率は記述統計 (descriptive statistics; proportion 算出) でn数・比率を算出した。細胞株間の腫瘍形成率および多発病変率の比較にはFisher exact test (Fisher検定) を適用し、p<0.05を統計学的有意差の基準とした。腫瘍面積の経時変化は個体別スキャッタープロット (scatter plot) で可視化した。