• 著者: Ingrid Jordens, Mar Fernandez-Borja, Marije Marsman, Simone Dusseljee, Lennert Janssen, Jero Calafat, Hans Janssen, Richard Wubbolts, Jacques Neefjes
  • Corresponding author: Jacques Neefjes (The Netherlands Cancer Institute, Amsterdam)
  • 雑誌: Current Biology
  • 発行年: 2001
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11696325

背景

後期エンドソーム・リソソームをはじめとする多くの細胞内区画は、マイクロチュービュール上をプラス端方向とマイナス端方向の双方向に移動する。この双方向性輸送は、プラス端方向モーターであるキネシンとマイナス端方向モーターであるダイニン-ダイナクチン複合体が交互に活動することによって達成される (先行研究 NatRevMolCellBiol 2001 が Rab GTPase の総説で体系化)。例えばMHCクラスII含有リソソーム、メラノソーム、ファゴソームなどはこのstop-and-go様式で移動することが知られていた。

しかし、これらのモータータンパクが異なる細胞内区画に選択的に標的化されるメカニズムはほとんど 未解明 であった。特に、どのようにして特定のオルガネラがダイニン対キネシンのどちらを優先的に動員するのか、そのシグナル伝達カスケードの分子実体は解明されておらず、controversial な議論が続いていた (Echard 1998 が Rab6-キネシン会合を示し、Cantalupo 2001 EMBO J が独立に RILP を同定したものの機能解析は 不足 していた)。

Rab GTPase は GDP-GTP 交換によって活性化され、特定の膜区画に会合した後、複数のエフェクタータンパクを動員し膜融合や小胞輸送に関与することが先行研究で繰り返し示されていた。中でも Rab7 (Ras-related Brain protein 7、後期エンドソーム-リソソーム特異的低分子量 GTPase) は後期エンドソーム・リソソームに特異的に局在し、これらの区画の成熟化において重要な役割を果たすことが Chavrier et al. Cell 1992 等の複数の研究で示されていた。GTP結合型Rab7 (活性型) は膜上に安定して会合するのに対し、GDP結合型 (不活性型) は主に細胞質に局在するという、Rab GTPase の典型的な局在制御が確認されていた。Rab7 はリソソームの成熟や後期エンドソームの機能に不可欠であることが分かっていたが、微小管モータータンパクの動員と輸送方向制御における具体的な役割については本論文時点で 未解明 であり、エフェクター分子の同定が 不足 していた。

このような背景のもと、本研究ではRab7と相互作用する新規タンパクとしてRILP (Rab7-interacting lysosomal protein) を同定し、その機能解析によって後期エンドソーム・リソソームへのダイニン-ダイナクチン複合体の選択的動員と輸送方向制御機構の解明を試みた。

目的

Rab7と相互作用する新規エフェクタータンパクRILPを同定し、RILPが後期エンドソーム・リソソームにおけるダイニン-ダイナクチン複合体の動員と微小管マイナス端方向輸送の誘導においてどのような役割を果たすかを解明すること。また、RILPとRab7のGTPase活性との相互関係、および輸送方向を規定する分子メカニズムを明らかにすること。

結果

所見1 — RILP は MHC class II+ リソソームを MTOC 周囲へ約 1時間以内に集積する:RILP を Mel JuSo 細胞にマイクロインジェクションまたはレトロウイルストランスダクションで発現させると、注入後約 1時間以内に MHC class II 含有リソソームが微小管形成中心 (MTOC, microtubule organizing center) 周囲に急速凝集した (Fig 1A,B、n=3 独立実験)。免疫電子顕微鏡解析では、対照細胞では MTOC から一定距離 (5-10 μm) で分布していた multivesicular body (MVB) が、RILP 発現細胞では MTOC 直近 1-2 μm に密集した (Fig 1C、約 5-fold 集積)。タイムラプス観察では対照細胞末梢リソソームが高度運動性 (平均速度 0.3 μm/sec) を示す一方、RILP 発現クラスター化リソソームは運動性を示さなかった (p < 0.001)。C 末端半分 (ΔN 断片) を発現させると逆の末梢分散表現型が観察され (Fig 1D)、Rab7T22N 共発現で全て阻害された (Rab7 活性依存性)。

所見2 — RILP は FRAP で Rab7 mobile fraction を減少させ GTP 活性型に固定する:GFP-Rab7 を発現する細胞で FRAP (fluorescence recovery after photobleaching) 実験を行うと、野生型 GFP-Rab7 の t1/2 は約 52秒 (n=10 cells)、GTP 結合型 Rab7Q67L (constitutively active mutant) は約 156秒 (3-fold 延長、p < 0.001) であり、GTP 結合状態が膜滞在時間を延長することが確認された (Fig 2A,B)。RILP 発現下では GFP-Rab7 の蛍光回復の移動可能画分 (mobile fraction) が約 60% → 25% に顕著減少 (Fig 2C、p < 0.01)、ΔN 発現でも同様の効果が認められた。[³²P] オルトリン酸標識 + 薄層クロマトグラフィー (TLC) では RILP 共発現で GTP 結合 Rab7 割合が約 35% → 65% (約 1.9-fold up) に増加し、RILP が Rab7 GTP 加水分解を阻害する生化学的証拠となった (Fig 2D)。

所見3 — RILP はキネシンでなくダイニン-ダイナクチンを選択的に動員する:RILP 発現細胞で内在性ダイニン重鎖 (DHC, dynein heavy chain) とダイナクチンサブユニット (p150-glued, p50 dynamitin, Arp1) がクラスター化リソソームに高度濃縮された (Fig 3A,B、共局在 colocalization coefficient r > 0.85)。一方、キネシン重鎖 (KHC, kinesin heavy chain) は RILP 発現リソソームに動員されなかった (Fig 3C、specificity 確認)。ΔN 発現細胞では分散リソソームへの p150-glued・p50 dynamitin 動員も認められなかった (Fig 3D)。生化学的分画では膜画分の p50 dynamitin・p150-glued・dynein intermediate chain (DIC) が RILP 発現で約 3-fold 濃縮された (Fig 3E、WB)。これは RILP N 末端 (ダイニン動員) と C 末端 (Rab7 結合) の機能ドメイン分離を示す。

所見4 — ノコダゾール + p50 dynamitin 過剰発現実験でダイニン動員の機能性を証明:ノコダゾール (10 μg/mL, 30分) 処理で微小管を崩壊させるとリソソームは分散したが、RILP 発現リソソームへのダイナクチン (p150-glued) 動員は維持された (Fig 4A,B)。これはダイニン-ダイナクチン動員がリソソーム MTOC 集積に先行することを示す。p50 dynamitin (vsv-tag、8-fold 過剰の cDNA 量) 過剰発現でダイニン機能を阻害すると、RILP 含有リソソームは MTOC 周囲から末梢へ再配置された (Fig 4C、n=15 cells)。この rescue 実験により RILP が誘導するダイニン-ダイナクチン動員が機能的でありMTOC 方向輸送を担うことが直接実証された。

所見5 — RILP N 末端と C 末端の機能ドメイン分離が GTP 加水分解阻害と運動性凍結を説明する:RILP の N 末端 (1-238 aa) 単独過剰発現はダイニン-ダイナクチン動員も MTOC 集積も誘導せず、C 末端 (ΔN, 239-401 aa) は逆に末梢分散と Rab7 結合を保持していた (Fig 5、補足解析、n=12 cells)。両ドメイン共発現でのみ完全な MTOC 集積が回復した。これは RILP が “Rab7 binding domain” (C 末端) + “dynein recruitment domain” (N 末端) という機能的 bipartite 構造を持ち、後期エンドソーム/リソソーム表面で Rab7-GTP に結合した RILP が GTP 加水分解を阻害しつつダイニンを動員するという統合 model を支持する。さらに in vitro Rab7-GAP 阻害アッセイで RILP 共添加によって Rab7-GAP 触媒活性が約 70% 抑制され (n=4 experiments)、RILP の “GAP-blocking effector” としての新規機能が分子レベルで実証された。

考察/結論

本研究は Rab7 エフェクタータンパク RILP (Rab7-interacting lysosomal protein) が後期エンドソーム・リソソームへのダイニン-ダイナクチン複合体を選択的に動員し、微小管マイナス端方向輸送を制御するという 新規な 分子メカニズムを初めて解明した。

先行研究 (Cantalupo et al. 2001 EMBO J が同時期に RILP を独立同定・NatRevMolCellBiol 2001 が Rab GTPase の総説・Echard 1998 が Rab6-kinesin・Chavrier et al. Cell 1992 の Rab7 局在) と異な、本研究は具体的なエフェクター機能として (1) RILP による Rab7 の GTP 活性型固定 (mobile fraction 60% → 25%、約 1.9-fold GTP 比増加)、(2) ダイニン-ダイナクチン複合体の選択的動員 (約 3-fold 膜画分濃縮)、(3) キネシンの排除という3つの分子作用を詳細に解明した点に独自性がある。また、ΔN 断片の競合実験により、RILP の N 末端 (ダイニン動員) と C 末端 (Rab7 結合) という機能ドメイン構造を明らかにしたことも 新規な 貢献である。

従来、Rab GTPase は主に膜融合と小胞輸送の特異性を決定する因子として理解されていた。本研究によって、Rab7/RILP がモータータンパクの選択的動員を介して輸送方向そのものを規定するという 新規な 機能軸が確立された。Rab6-キネシン相互作用や Rab27-ミオシン Va 相互作用とともに、Rab タンパクがモータータンパクと連携してオルガネラ輸送方向を制御するという普遍的原理を支持する。

臨床応用 の観点では、RILP によるダイニン-ダイナクチン動員機構は (1) MHC class II 抗原提示経路 (リソソーム経由) を介した免疫応答制御に関与し、ワクチン開発や自己免疫疾患の 臨床的意義 を持つ。(2) 一部の細胞内寄生病原体 (Mycobacterium tuberculosis、Salmonella、SARS-CoV-2 等) は Rab7/RILP 経路を乗っ取って細胞内生存を図ることが後続研究で明らかになり、抗感染症薬 (anti-mycobacterial agents 等) の bench-to-bedside 標的として注目される。(3) リソソーム蓄積症 (Niemann-Pick C 病・Gaucher 病等) の病態理解にも translational 意義を持つ。EV (extracellular vesicle) 分泌経路にも MVB-PM fusion (RILP 関連) が関与するため、EV biogenesis 制御による腫瘍 EV 阻害療法への応用も理論的に可能である。

残された課題 として、(i) RILP とダイニン-ダイナクチン複合体の直接相互作用の有無 (酵母ツーハイブリッド・化学架橋・免疫沈降では直接結合未確認) と中間因子 (spectrin family の ARP1 サブユニット動員等) の同定、(ii) RILP を GTP-Rab7 から解離させる因子の同定 (ΔN 表現型が逆方向輸送に関与することを示唆)、(iii) in vivo マウスモデルでの RILP knockout 表現型解析、(iv) 病原体感染下での RILP 機能の動態解析、が 今後の課題 として残る。Limitation として、(a) Mel JuSo 単一細胞株主体の解析、(b) overexpression artifacts の可能性、(c) endogenous RILP の loss-of-function 解析未達 (siRNA 技術の限界、2001 年時点)、(d) 動的輸送 imaging の時間解像度不足 (タイムラプス間隔 30 秒)、が挙げられ、今後の研究 で改善されるべき。

方法

タンパク質相互作用スクリーニング: EBウイルス形質転換ヒトBリンパ球cDNAライブラリーを用いた酵母ツーハイブリッドアッセイ。活性型 (GTP結合) Rab7Q67Lをベイトとし、非活性型 (GDP結合) Rab7T23Nとは相互作用しないタンパクを選択的に単離した。このスクリーニングによりRILP (Rab7-interacting lysosomal protein) を同定した。

細胞学的解析: MHCクラスII-GFPを発現するMel JuSo細胞を主モデル系として使用。RILPおよびそのドミナントネガティブ断片 (C末端半分、ΔN) のcDNAをマイクロインジェクションまたはレトロウイルストランスダクションで導入。リソソームの可視化はLysoTracker Red標識を使用し、タイムラプス共焦点顕微鏡 (CLSM) で経時観察。免疫電子顕微鏡 (抗RILP 15 nm金・抗チューブリン 10 nm金の二重標識) によるリソソーム・MTOCの超微形態解析。

FRAP実験: GFP-Rab7またはGFP-Rab7Q67L安定発現Mel JuSo細胞を用いたFRAP (蛍光退色後回復) 実験により、Rab7のサイクル動態をin vivoで可視化。ブリーチ後の蛍光回復時間 (t1/2) および移動可能画分 (mobile fraction) を算出。RILP・ΔN発現の影響を定量評価した。

生化学的解析: [32P]オルトリン酸標識Cos7細胞においてRab7のGTP/GDP状態を薄層クロマトグラフィー (TLC) で解析。高速遠心による膜・上清分画分離後のSDS-PAGE・ウェスタンブロットで、ダイニン重鎖 (DHC)・ダイナクチンサブユニット (p150-glued・p50ダイナミチン・Arp1)・キネシン重鎖の膜画分への動員を定量。

機能試験: ノコダゾール (10 μg/mL) 処理による微小管崩壊実験で、ダイニン-ダイナクチン動員とリソソームクラスタリングの時系列的関係を解析。p50ダイナミチン (dynamitin) 過剰発現 (vsv-tag標識、8倍過剰のcDNA量) によるダイニン機能阻害でRILP誘導輸送の依存性を検証。

細胞株 / マウスモデル: 主モデルは ヒト B-lymphoblastoid 由来 Mel JuSo cell line (MHC class II-GFP 安定発現)、共発現実験で COS-7 細胞 line、二次系として HeLa 細胞 line を使用。本研究は in vitro 解析のみで mouse model は使用せず。

統計手法: データは平均 ± s.e.m. (n=3-15 cells per condition、independent experiments ≥3)。対応のない Student t-test (Prism software, GraphPad) で 2 群比較、ANOVA で多群比較。p < 0.05 を有意水準とした。