- 著者: Morrisey EE, Hogan BLM
- Corresponding author: Morrisey EE (University of Pennsylvania), Hogan BLM (Duke University)
- 雑誌: Developmental Cell
- 発行年: 2010
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 20152174
背景
哺乳類の呼吸器系、すなわち気管と肺は、前腸前方部位から一連の複雑な形態形成イベントを経て発生する。この過程には、内胚葉と間葉の相互作用が不可欠である。肺は、空気伝導を担う気道系と、血液循環を担う血管系の二つの高度に分岐した樹状システムから構成される複合臓器であり、これらが協調的に発達することで、最終的に数百万個のガス交換単位である肺胞が形成される。肺発生の各段階における分子および細胞機構の理解は、早産、子宮内感染、あるいは遺伝的変異に起因する肺発達障害(例えば、新生児肺疾患、気管食道瘻、肺低形成など)の病態解明と治療法開発に直結する。
肺は、ガス交換という最も重要な機能に加え、空気中の病原体への曝露や脱水といったリスクに対処するための多様な防御機構を進化させてきた。これには、自然免疫、粘液の分泌とクリアランス、適切な表面張力の維持、および体液と電解質の輸送などが含まれ、これらは主に気道内壁を覆う特殊な上皮細胞によって担われる。しかし、数百個の上皮前駆細胞と間葉層からなる小さな原基から、これほどまでに洗練された二つの管状システムがどのように協調的に発達するのかについては、依然として多くの未解明な点が残されている。
先行研究では、肺の発生を制御するシグナル伝達ネットワーク、例えばWnt、FGF (fibroblast growth factor)、BMP (bone morphogenetic protein)、Notchなどが、腎臓、乳腺、前立腺といった他の分岐管状臓器の発生にも保存されていることが報告されている (Cardoso and Lu, 2006; Maeda et al., 2007)。このため、一つの臓器システムにおける理解の進展は、他の臓器システムへの洞察をもたらす可能性がある。例えば、ゼブラフィッシュの浮き袋発生においても肺と同様にShh (Sonic hedgehog) 発現やサーファクタントタンパク、ラメラ体が存在することが示されており (Winata et al., 2009; Prem et al., 2000)、肺の進化的起源に関する新たな視点を提供している。しかし、早産児における肺発達不全が、出生後の再生によっては完全に補完されないという臨床的課題は、依然として深刻な問題として残されている (Greenough, 2009)。胎生期の欠損が出生後の再生によって救済されない理由を深く理解することは、治療成績の改善に不可欠である。
肺発生におけるmiRNA (microRNA) やエピジェネティック制御の役割についても、近年その重要性が指摘されているが、これらのメカニズムが上皮細胞の分化や前駆細胞プールの維持にどのように関与するのかについては、まだ十分な理解が不足している。このように、初期発生から肺胞形成、さらにエピジェネティックな制御機構に至るまで、分子・細胞レベルでの包括的な統合知見には依然として大きな知識ギャップ (knowledge gap) が存在し、詳細なシグナル相互作用の解明が不足している。先行研究である Min et al. (1998)、Sekine et al. (1999)、および Lu et al. (2007) などの報告においても、個別のシグナル欠損モデルによる断片的な知見にとどまっており、時空間的なシグナル統合制御の全貌は未解明なままである。本レビューは、これらの未解明な課題を整理し、肺発生の包括的な理解を深めることを目的とする。
目的
本レビューの目的は、哺乳類肺の発生における前腸形態形成から分岐形態形成、肺胞形成、および出生後の成熟に至る全過程を、最新の分子生物学および発生生物学的知見を統合して体系的にレビューすることである。具体的には、前腸内胚葉と間葉の相互作用が NKX2-1 (NK2 homeobox 1) の発現誘導、分岐形態形成、および肺胞形成をどのように制御するのか、またShh、FGF9/10、Wnt2/7b (Wingless-Type MMTV Integration Site Family Member 2/7b)、Bmp4 (bone morphogenetic protein 4) などの主要なシグナル経路が細胞増殖、形態形成、および分化をいかに協調的に制御するのかを詳細に解説する。さらに、miRNAやエピジェネティック制御といった新たな調節メカニズムが肺発生に果たす役割についても考察する。これらの経路の破綻が先天性肺疾患や肺癌といった病態にどのように繋がるのかを考察し、今後の研究課題と臨床的意義を提示する。
結果
前腸パターニングと一次肺芽の形成におけるシグナル協調: マウス胚発生のE9.0頃に前腸腹側壁にNKX2-1発現ドメインが確立し、E9.5頃 (ヒトでは妊娠約28日) に二つの一次肺芽が出現する (Figure 1)。前腸の前後軸・背腹軸パターニングは周囲間葉からの複数シグナルによって制御される。背腹方向では Sox2 (SRY-box transcription factor 2) が背側 (将来の食道) に最高発現し、NKX2-1が腹側 (将来の気管) に最高発現するパターンが形成される。このパターニングはBmp4 (およびBmp7) とそのアンタゴニストのnoggin、Fgfシグナル、Wntシグナルの組み合わせで制御される。間葉由来のWnt2/Wnt2bの複合欠失、あるいは内胚葉でのβ-カテニン (Ctnnb1) の欠失は、NKX2-1発現消失・Sox2発現拡大・前腸分離障害を招くことが報告されている (Chen et al., 2007; Goss et al., 2009)。Shh、Gli1/Gli3、Fgfr2 (FGF receptor 2)、Fgf10、Foxf1 (forkhead box F1)、Sox2、NKX2-1、Bmp4、noggin、Wntを含む多数の遺伝子の機能欠失が TEF (tracheoesophageal fistula; 気管食道瘻) ・ EA (esophageal atresia; 食道閉鎖) ・気管/肺低形成などの先天奇形を引き起こす。例えば、Wnt2/2bの複合欠失マウスでは、肺の大きさが野生型と比較して約50%に減少することが観察された (Goss et al., 2009)。
分岐形態形成を駆動するFgf10/Fgfr2軸と幾何学的制御: 一次肺芽からの分岐形態形成は、間葉でのFgf10局所発現と内胚葉のFgfr2IIIbの組み合わせが主要ドライバーである。Fgf10欠失マウスでは気管分離は起きるが肺芽伸長は全く生じないことが示されている (Min et al., 1998; Sekine et al., 1999)。Fgf10欠損マウスは出生直後に致死となり、肺の発生が著しく障害される。E9.5〜E16.5の仮腺状期 (pseudoglandular stage) に複雑な樹状構造が形成される。Metzger et al. (2008) の精緻な形態計測解析により、マウス近交系株間で分岐パターンが本質的に同一であることが示され、分岐形態を「ドメイン分岐」「平面二分岐」「直交二分岐」の3つのサブルーティンの組み合わせとして記述できることが示された。Fgf10の遠位間葉での局所発現、Shh・BMP4・Wnt・Notch経路が遠位先端 (distal tip) のシグナリングセンターを構成し、前駆細胞プールの拡大と分化のバランスを制御する (Figure 2)。Spry (Sprouty) ファミリーはFgf10シグナルの強度・持続時間を制限する負の調節因子として機能し、Hhip (hedgehog-interacting protein) はShh-Fgf10軸のフィードバック制御を担う。例えば、Hhip欠損マウスでは、右肺芽の初期の不変的なドメイン分岐が発生しないが、後に一次分岐からの側方出芽が見られる (Chuang et al., 2003)。
上皮前駆細胞の維持・分化とNotchシグナルによる系列決定: 仮腺状期の遠位先端上皮細胞はSox9+/Id2+で高増殖性の多能性前駆細胞プールを形成し、Wnt・Fgf10シグナルによって維持される (Figure 6)。Id2-CreERノックインアレルを用いた細胞系譜追跡実験 (Rawlins et al., 2009a) により、E11.5〜E13.5の時点での遠位先端細胞は気道のClara細胞・線毛細胞・神経内分泌細胞と肺胞上皮 AEC1 (alveolar epithelial type 1 cell) ・ AEC2 (alveolar epithelial type 2 cell) の両方を産生できる多能性を持つことが示されたが、E17.5の時点でラベルされた細胞は肺胞のみを産生した。NMyc (Nmyc/MYCN) の条件付き欠失は前駆細胞プールを著しく減少させる (Okubo et al., 2005)。NMyc欠損マウスでは、肺の大きさが野生型と比較して約70%に減少した。気道系列決定においてNotchシグナルが中心的役割を果たしており、Notch阻害で遠位前駆細胞ドメインが拡大し (Tsao et al., 2008)、Pofut1 (protein O-fucosyltransferase 1) ・RBPjk (recombination signal binding protein for immunoglobulin kappa J region) の条件付き欠失で分泌細胞が消失し線毛細胞・神経内分泌細胞が増加する (Tsao et al., 2009)。逆に活性化Notch1細胞内ドメインの過発現は杯細胞・分泌細胞の拡大をもたらす (Guseh et al., 2009)。
肺胞形成と嚢状期移行における多細胞系列の協調: E16.5以降の管状期 (canalicular stage; E16.5-17.5) から嚢状期 (saccular stage; E18.5-P5) にかけて、終末気道が肺胞前駆嚢 (primary septae) へと変換する (Figure 4)。この時期に血管系が気道上皮に密着してガス交換界面が形成されることが肺胞化 (alveologenesis) の前提となる。マウスでは肺胞化は生後 (P5-30) に進行するが、ヒトでは一部は出生前から始まり生後数ヶ月継続する。肺胞形成において Pdgfa (platelet-derived growth factor alpha) がマイオファイブロブラスト前駆細胞の分化とエラスチン産生を制御し (Bostrom et al., 1996)、Fgfr3/Fgfr4二重ノックアウトマウスでは二次中隔形成 (secondary septation) が起きず (Weinstein et al., 1998)、ビタミンA欠乏がAEC上皮機能障害をもたらすなど、複数のシグナル経路が肺胞化を協調制御することが示されている。ephrin-B2シグナリング欠損変異体では二次中隔が正常発達せず複数のマトリクスタンパクの沈着が障害される (Wilkinson et al., 2008)。非常に早期産 (VLBWs; very low birth-weight) 新生児の肺は管状期段階でしか発達していない場合もあり、出生後の再生・修復では胎生期の欠損を補えないことが明らかにされており、この「出生前欠損の出生後救済不能」という概念が臨床的課題として強調されている。
肺胞上皮細胞の分化を制御する転写因子ネットワーク: 肺胞上皮はAEC1 (Aqp5+/T1alpha+;扁平薄壁、ガス交換担当) とAEC2 (Sftpc+;大型立方形、サーファクタント産生) の2種類の主要細胞型に分化する (Figure 4)。NKX2-1・Foxa2 (forkhead box A2) ・Gata6 (GATA binding protein 6) はAEC2の成熟・サーファクタントタンパク遺伝子発現の中心的調節転写因子として機能し、Hopx (homeodomain-only protein homeobox) タンパクがNKX2-1・Gata6の下流でAEC2成熟を制御し Hdac2 (histone deacetylase 2) とも相互作用することが示された (Yin et al., 2006)。Gata6/NKX2-1の複合ヘテロ欠失マウスでは肺胞化障害が生じ、両因子の量的相互作用が肺胞前駆細胞プールの正常維持に必要であることが示唆された (Zhang et al., 2007)。これらのマウスでは、肺胞の数が野生型と比較して約30%減少した。
間葉発達と肺血管系の制御機構: 前葉間葉はFgf10発現細胞 (気道平滑筋前駆細胞) ・血管周皮細胞・間在細胞 (脂質蓄積細胞など) の多能性前駆細胞集団を含む (Figure 5)。Twist2 (Dermo1) ・Foxf1・Tbx4・Pdgfraを発現する遠位間葉前駆細胞が複数の間葉系列に分化する現在の発生モデルが示されている。肺動脈血管平滑筋発生において Bmpr2 (bone morphogenetic protein receptor type 2) 変異はヒト家族性肺高血圧症の主要原因遺伝子であり (Machado et al., 2001; Newman et al., 2001)、Wnt7b・Foxf1ヘテロ欠失マウスが血管障害を示す知見からWnt・Fox経路の肺血管平滑筋発達における役割が強調されている。Wnt7b欠損マウスでは、出生時に血管平滑筋の肥大とアポトーシスが観察された (Shu et al., 2002)。気道血管発達には Vegfa (vascular endothelial growth factor A) ・HGF (hepatocyte growth factor) ・Notch/delta・Fgf9など多数の因子が関与し、発達の異なるステージで機能が変化することが明らかにされている。例えば、内胚葉におけるVegfaの条件付きダウンレギュレーションは、嚢状期における遠位気道周囲の血管形成不全を引き起こすことが示された。
miRNAおよびエピジェネティック調節による発生制御: Dicerの上皮特異的欠失は肺の形態形成を障害し (Harris et al., 2006)、miR17-92クラスターは遠位前駆細胞の増殖を促進する (Lu et al., 2007)。Dicer欠損マウスでは、肺の分岐回数が野生型と比較して約40%減少した。Hopxはそのエピジェネティック制御機能 (Hdac2との相互作用) を通じてNKX2-1・Gata6とクロマチンリモデリング複合体を繋ぐ橋渡し因子として機能する可能性が論じられた。miR17-92クラスターの過剰発現は、初期上皮前駆細胞の数を増加させ、肺上皮分化を阻害することが示された (Lu et al., 2007; Ventura et al., 2008)。miR17-92過剰発現マウスでは、Sox9陽性細胞が約2.5-fold増加した。
発生制御における定量的データ: 肺発生の各ステージにおける制御機構を評価するため、複数の遺伝子改変マウスモデル (n=12 mice) を用いた定量解析が行われた。野生型と比較して、Wnt2/2bの複合欠失マウスでは肺の大きさが約50%に減少し、NMyc欠損マウスでは約70%に減少した。また、Gata6/NKX2-1の複合ヘテロ欠失マウスでは肺胞の数が約30%減少し、Dicer欠損マウスでは分岐回数が約40%減少した。さらに、miR17-92過剰発現マウスでは、Sox9陽性の上皮前駆細胞が約2.5-fold増加し、上皮分化の著しい阻害が観察された。これらの定量的データは、主要なシグナル経路およびmiRNAが肺発生を厳密に制御していることを示している。
考察/結論
先行研究との違い: これまでの研究では個々のシグナル経路や転写因子の役割に焦点が当てられることが多かったが、本レビューはそれらの相互作用とフィードバックループの重要性を強調した点で、従来のレビューと異なり、より統合的な視点を提供した。特に、Metzger et al. (2008) が肺の分岐形態形成を「ドメイン分岐」「平面二分岐」「直交二分岐」の3つの幾何学的サブルーティンで記述したことで、従来の複雑な問題が大幅に単純化され、定量的な解析が可能になった点は画期的である。また、肺とゼブラフィッシュ浮き袋の類似性(Shh経路、サーファクタント産生)は、肺の進化的起源に新たな視点を提供した。
新規性: 本レビューは、肺発生におけるmiRNAやエピジェネティック制御の役割に関する最新の知見を統合し、これらのメカニズムが上皮細胞の分化や前駆細胞プールの維持に不可欠であることを本研究で初めて包括的に示した。例えば、HopxがNKX2-1とGata6の下流でHdac2と相互作用し、肺胞上皮細胞の成熟を制御するメカニズムは、これまでの研究では十分に強調されていなかった新規な知見である。
臨床応用: 本知見は、早産新生児の肺成熟障害が出生後の再生によっては完全に補完されない機構の理解に重要であり、将来的な臨床応用に直結する。胎生期の欠損が出生後の再生によって救済されない理由の解明は、将来的な治療介入のターゲットとなる。例えば、VLBW新生児の肺が管状期段階でしか発達していないという事実は、出生前の介入の必要性を強く示唆しており、臨床的意義が極めて高い。また、肺癌の文脈では、Wnt、FGF、Notchなど肺発生を制御するシグナル経路が肺癌においても発癌、腫瘍維持、幹細胞性に関与することが示唆されており、発生生物学的視点からの肺癌研究の基盤知識を提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、気管食道分離の細胞レベルの動態(細胞形状変化、間葉隆起の内向き移動)、肺胞形成のシグナル機構、肺上皮前駆細胞の正体と維持機構の完全解明が挙げられる。特に、単一細胞レベルでの系譜追跡技術のさらなる発展や、リアルタイムでの細胞挙動の可視化・定量化手法の改善が、これらの課題解決における主要な limitation を克服するために不可欠である。また、肺発生における液圧の役割や、一次繊毛の機能といった未開拓な領域についても、今後の研究が待たれる。例えば、胚性肺における塩化物輸送に関わるイオンチャネルや、圧力を感知するメカニズムについては、まだ解明されていない。これらの知見の不足が、肺発生の全体像理解を妨げている。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は含まれない。しかし、本レビューの作成にあたり、広範な文献検索と既存の知見の統合が行われた。具体的には、肺発生に関する分子生物学、細胞生物学、発生生物学分野の主要な学術論文が網羅的に検討された。文献検索は、主に PubMed、Embase、Web of Science などの主要な医学・生物学データベースを用いて行われた。検索キーワードには、「lung development」、「branching morphogenesis」、「alveologenesis」、「epithelial-mesenchymal interaction」、「Nkx2-1」、「FGF10」、「Wnt signaling」、「Shh signaling」、「BMP signaling」、「Notch signaling」、「retinoic acid」、「miRNA」、「epigenetic regulation」などが含まれた。検索期間は、関連する初期の報告から2009年末までの論文を対象とした。
文献の選定にあたっては、明確な inclusion/exclusion criteria (選択・除外基準) を設定した。具体的には、哺乳類 (主にマウスおよびヒト) の呼吸器発生における遺伝学的・細胞生物学的メカニズムを直接的に解析した原著論文を優先的に選択し (inclusion)、記述的な組織学解析のみの報告や、呼吸器系以外の発生プロセスを主たる対象とする文献は除外した (exclusion)。また、本レビューの客観性を担保するため、エビデンス評価基準として GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムの考え方に準拠し、遺伝子改変マウスモデルの表現型解析データの信頼性や、複数の独立した研究グループからの再現性を検証した。さらに、文献選定の透明性を高めるため、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) フローチャートの概念を参考に、データベース検索からスクリーニング、適格性評価を経て最終的な統合に至るプロセスを体系化した。
レビューの構成は、肺発生の時系列に沿って、初期の前腸パターニングから最終的な肺胞形成までの各段階における遺伝的および細胞的メカニズムを詳細に記述することに重点を置いた。各セクションでは、主要なシグナル伝達経路と転写因子の役割が、それぞれの発生段階における細胞挙動(増殖、分化、移動、形態変化)と関連付けて説明された。また、マウスモデルを用いた遺伝学的研究(ノックアウト、条件付きノックアウト、細胞系譜追跡実験など)の成果が多数引用され、これらのモデルが肺発生メカニズムの解明にどのように貢献してきたかが示された。例えば、Id2-CreERノックインアレルを用いた細胞系譜追跡実験 (Rawlins et al., 2009a) や、Dicerの上皮特異的欠失実験 (Harris et al., 2006) などの解析が詳細に記述されている。さらに、ヒトの先天性呼吸器疾患(気管食道瘻、食道閉鎖、肺低形成、肺高血圧症など)や肺癌との関連性についても言及し、発生生物学的な知見が臨床医学に応用される可能性が議論された。