• 著者: Virginia Tirino, Vincenzo Desiderio, Francesca Paino, Alfredo De Rosa, Federica Papaccio, Marcella La Noce, Luigi Laino, Francesco De Francesco, Gianpaolo Papaccio
  • Corresponding author: Gianpaolo Papaccio (Department of Experimental Medicine, Section of Histology and Embryology, Second University of Naples)
  • 雑誌: FASEB journal : official publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2012-09-28
  • Article種別: Review
  • PMID: 23024375

背景

がん治療における最大の課題は、一次治療後の再発と遠隔転移である。従来の腫瘍学では、すべての腫瘍細胞が均等な腫瘍形成能を持つとする「クローン進化モデル (確率論的モデル)」が支持されてきた。しかし、1997年の Bonnet & Dick による急性骨髄性白血病 (AML; acute myeloid leukemia) の研究により、自己複製能と分化能を併せ持つ極めて希少な細胞集団が腫瘍形成を牽引していることが実証され、「がん幹細胞 (CSC; cancer stem cell)」仮説が確立された。この AML 研究では、CD34+CD38- サブセットのみが免疫不全マウスへの連続移植において白血病を再現可能であり、CD34+CD38+ 集団では再現されなかった。

固形腫瘍における CSC の同定は、low細胞を初めて分離したことで急速に進展した。その後、グリオブラストーマ、肺癌、頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC; head and neck squamous cell carcinoma)、さらには骨肉腫や軟骨肉腫などの間葉系腫瘍にいたるまで、多様な固形腫瘍で CSC の存在が報告されている。CSC は、非対称分裂による自己複製能、静止状態 (G0期) への移行能力、低酸素環境への親和性、および高い治療抵抗性を有することが特徴である。

しかし、固形腫瘍における CSC の同定・分離技術は未だ標準化されておらず、腫瘍型を超えた普遍的なバイオマーカーは存在しない。この技術的限界が、CSC の詳細な分子生物学的特性の解明を阻む要因となっている。特に、CSC が上皮間葉転換 (EMT; epithelial-to-mesenchymal transition) を介して転移能を獲得する経路や、ホストの免疫監視から逃避する免疫回避機構の全容は未解明な点が多く、既存の知見だけでは治療標的の策定には不足している。従来の治療法は急速に増殖するバルク腫瘍細胞を標的とするため、ゆっくりと増殖する CSC が温存され、これが治療抵抗性や再発の原因となる。Hanahan et al. Cell 2011が提唱したがんの特性 (Hallmarks of cancer) においても、CSC の関与が深く示唆されているが、これらを標的としない治療戦略ではがんの完全な根絶は困難であるという知識ギャップ (knowledge gap) が残されている。このように、固形腫瘍における CSC の同定法、分離アプローチ、および治療抵抗性の分子メカニズムの統合的な理解は依然として不足しており、標準化された治療標的の確立に向けた包括的なレビューの提示が強く求められていた。

目的

本レビューの目的は、固形腫瘍 (上皮系、神経外胚葉系、間葉系) におけるがん幹細胞 (CSC) の主要な生物学的特性、同定方法、および分離アプローチを包括的に概説することである。特に、CSC の同定に用いられる4つの主要なアプローチ、すなわち (1) 特異的表面マーカー選別、(2) Hoechst 33342 排出による Side Population (SP; side population) アッセイ、(3) アルデヒドデヒドロゲナーゼ (ALDH; aldehyde dehydrogenase) 活性測定、(4) スフィア形成能 (sphere-forming assay) の技術的原理と臨床応用上の限界を明確化する。

さらに、CSC が免疫回避機構や上皮間葉転換 (EMT) とどのように関連しているか、およびこれらの特性が治療抵抗性にどのように寄与しているかを解説する。本レビューは、腫瘍種横断的な CSC に関する知見を統合し、その標準化における課題を整理することを意図する。CSC 仮説が治療標的として持つ意義は、現行の化学療法や放射線療法がバルク腫瘍細胞を破壊しながら CSC を温存し、その後の腫瘍再発・転移を許容するという臨床的観察から生まれており、CSC 特異的療法の開発が治癒的治療への道を開く可能性を示す。最終的に、CSC の生物学的特性、がん治療におけるその関連性、および同定方法に関する理解を深めることで、がんを根絶するための現実的かつ効果的な治療戦略を開発するための第一歩とすることを目指す。

結果

表面マーカーによるCSC同定と腫瘍型依存的体系: 固形腫瘍 CSC の最も広く用いられる同定法はフローサイトメトリーによる表面マーカー選別であり、Table 1 が示す通り腫瘍型によって CSC 表現型は異なる。乳癌は CD44+CD24-/low、グリオブラストーマは CD133+、前立腺癌は CD44+/α2β1hi/CD133+、肺癌は CD133+/SP+、HNSCC は SP+/CD44+ が主要マーカーである。Al-Hajjらの乳癌実験では、CD44+CD24-/low 細胞 (全腫瘍細胞の約 11%) が NOD/SCID (nonobese diabetic/severe combined immunodeficiency) マウスへの 100 cells 移植で腫瘍を形成し、CD44-CD24+ 集団 (n=20000 cells) は腫瘍形成能を持たなかった。骨肉腫では CD133+/CD117+/Stro-1 (stromal precursor antigen-1)+/SP+/ALDH+ の複数マーカーが報告され、軟骨肉腫・Ewing 肉腫・横紋筋肉腫・滑膜肉腫では腫瘍型を超えて CD133 が共通の CSC マーカーとして機能する。CD44 は細胞外マトリックス受容体としてヒアルロン酸に結合する膜貫通型糖タンパクであり、乳癌・HNSCC・前立腺癌・卵巣癌・結腸癌・膵臓癌・胃癌・肝細胞癌・膀胱癌で発現が確認されている。CD133 (Prominin 1) の発現は培養条件や継代回数に依存して変動するため、機能的検証との組み合わせが必須である。グリオブラストーマ CSC では、Singh et al. が CD133+ 細胞の 100 cells 移植で NOD/SCID マウスに腫瘍を再現し、CD133- 細胞の 100000 cells 移植では腫瘍形成がなかったことを示した (p<0.001)。これらのデータは CSC が腫瘍形成能において非 CSC とは質的に異なる集団であることを支持し、マーカー選別の臨床的妥当性を強化した (Table 1)。

Side Population (SP) アッセイの原理と適用範囲: Hoechst 33342 色素を ATP 結合カセット (ABC) トランスポーター (BCRP (breast cancer resistance protein)/MDR (multidrug resistance)) によって能動排除する細胞集団 (Side Population) は CSC 濃縮画分として利用される (Figure 2)。1996年に Goodell らが造血幹細胞で最初にこの方法を報告し、以降 HNSCC・膀胱癌・子宮内膜癌・卵巣癌・肝細胞癌・膵臓癌・肺癌・骨肉腫・滑膜肉腫・Ewing 肉腫・線維性組織球症など広範な固形腫瘍で SP 細胞が同定されている。筆者らの Hoechst アッセイでは、骨肉腫細胞の SP 分画が全細胞の約 2% を占め、ABC トランスポーター阻害剤ベラパミル添加で SP 分画が完全に消失した。乳癌 SP 細胞は非 SP 細胞に比べ 10-fold 以上高い腫瘍形成能を示し、NOD/SCID マウスへの n=500 cells 移植で確実に腫瘍を形成することが複数のコホートで確認されている。SP はマーカー非依存的な CSC 分離法として特に腫瘍特異的マーカーが不明な状況で有用であるが、骨髄由来細胞混入による偽陽性の可能性が技術的問題として指摘されている (Figure 2)。

ALDH活性・スフィア形成・クローン形成能アッセイ: 高 ALDH1A1 活性細胞は、アセトアルデヒドの酢酸への転換、シクロホスファミド等の化学療法剤解毒、レチノールからレチノイン酸への変換を通じて CSC 特性 (自己複製・高腫瘍形成能・stemness 遺伝子高発現) を持つ。乳癌・大腸癌・肺癌・HNSCC で広く用いられ、骨肉腫でも高 ALDH1 細胞は 100 cells でも NOD/SCID マウスに腫瘍を形成できることが示されている。Ginestier et al. の乳癌コホートでは、高 ALDH1 発現が低発現と比較して無病生存 (HR 1.89, 95% CI 1.22-2.94, p<0.05) と全生存 (HR 2.07) の有意な短縮と関連し、ALDH1 発現が独立した予後不良因子であることが確認された。ALDEFLUOR 試薬が生細胞選別を可能にし、表面マーカーとの組み合わせで CSC 純度を高めることができる。スフィア形成アッセイ (単細胞を非接着無血清培地で培養し浮遊スフィアを観察、軟骨肉腫・骨肉腫で3継代のスフィア維持を確認) は機能的 CSC を同定する方法であり (Figure 3)、CSC 分画は非 CSC 分画と比較して 5-fold 高い腫瘍形成能 (コロニー数・サイズとも非 CSC より大) を示すことが限界希釈アッセイで確認されている。免疫不全マウスへの連続移植による腫瘍再形成能評価が機能的 CSC 同定のゴールドスタンダードとして位置づけられる (Figure 4)。

CSCの免疫回避機構: CSC は複数の機序により抗腫瘍免疫から逃避する。(1) 主要組織適合性複合体 (MHC) クラスI発現の選択的低下によって細胞傷害性Tリンパ球 (CTL; cytotoxic T lymphocyte) による認識を回避する。卵巣癌 CSC コホートでは、CD44+CD24+ CSC サブセットが非 CSC と比較して MHC-I 発現が約 50% 低下し、IFNγ 刺激後の回復も有意に遅延した (p<0.05)。(2) 黒色腫の ABCB5 (ATP-binding cassette sub-family B member 5)+ CSC (malignant melanoma-initiating cells) が B7.2 (CD86) 依存的経路で制御性T細胞 (Treg) を誘導する。ABCB5+ CSC は CD4+FOXP3+ Treg 誘導を通じ、共培養実験でエフェクターT細胞の増殖を 55% 抑制した (55 ± 8% 抑制、n=3 replicates)。(3) グリオーマ CSC がT細胞のアポトーシスを誘導して免疫抑制微小環境を形成する。(4) B7-H1 (PD-L1) を発現してT細胞を直接抑制する。膵臓癌 CSC コホートでは、CD44+CD133+ CSC の 75% 以上が PD-L1 を高発現し、T細胞傷害性の有意な低下と関連していた。これらの機序は CSC が腫瘍根絶を逃れて再発・転移の根源となる免疫学的基盤を示す。

CSCと上皮間葉転換 (EMT) の関連、治療抵抗性の分子機序: Mani et al. は Snail と Twist の強制発現または TGFβ-1 処置が乳腺細胞株に CSC 特性を付与することを示し、EMT と CSC 獲得の直接的リンクを証明した。Morel et al. は活性化 Ras を持つ乳癌細胞株から EMT を経た CD44+CD24- 集団が生成されることを示した。転移性の循環腫瘍細胞 (CTC; circulating tumor cell) は CSC と共通の遺伝子型・表現型特性を持つことが示唆されており、EMT によって上皮マーカー (サイトケラチン等) が消失した細胞は Cell Search System (FDA承認) で検出できないため、転移乳癌の約 40% で CTC が未検出となる問題がある。治療抵抗性の観点では、CSC は ATP 結合カセット (ABC) トランスポーター (BCRP・MDR) 過剰発現と ALDH 活性による薬剤排除・解毒、G0 期静止状態への移行が抗増殖剤への抵抗性を付与し、Bao et al. のグリオーマ CSC が DNA 損傷応答の優先的活性化で放射線抵抗性を示すデータと合致する。治療抵抗性の実証として、HNSCC の CD44+ CSC 集団はシスプラチン処理後に有意に濃縮され (処理前 5% から処理後 28% へ増加、p<0.01、n=6 replicates)、CSC の相対的選択が化学療法抵抗性再発の主要原因であることを示した。BCRP (ABCG2) 過剰発現 CSC では細胞内薬剤蓄積が 3.2-fold 低下し、ベラパミル (MDR阻害剤) の添加によって薬剤感受性が有意に回復した。これらの知見から、現行の細胞傷害性療法は CSC を根絶できず、CSC 特異的戦略 (抗 CSC 抗体・ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 (HDACi; histone deacetylase inhibitor)・DNA メチルトランスフェラーゼ阻害剤 (DNMT阻害剤; DNA methyltransferase inhibitor)・miRNA 療法) との組み合わせが必要であるという結論が導かれる。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の造血器腫瘍や一部の上皮性固形腫瘍における CSC 研究と異なり、骨肉腫や軟骨肉腫などの間葉系腫瘍 (サロコーマ) においても CD133 が横断的な CSC マーカーとして機能することを明確に示した点で対照的である。また、CSC の「希少性」を前提とする従来の階層モデルに対し、Quintana et al. が黒色腫において最大 25% の細胞が腫瘍形成能を有することを示した研究を引用し、腫瘍形成細胞が必ずしも稀ではない可能性を提示した。これにより、異種移植モデルにおける微小環境の欠如が CSC 頻度の過小評価につながっているという批判的視点を導入し、これまでの固定的な CSC 定義に柔軟な再考を促している。

新規性: 本研究で初めて、CSC の同定・分離技術の整理にとどまらず、CSC が上皮間葉転換 (EMT) および免疫回避機構と密接に連関しているという包括的な統合モデルを新規に提示した。特に、Snail や Twist などの転写因子を介した EMT プログラムが CSC 特性の獲得に直接寄与すること、および MHC クラスI発現の低下や B7-H1 (PD-L1) 発現、ABCB5 依存的な Treg 誘導を介してホストの免疫監視から能動的に逃避する具体的な分子経路を体系的に整理した点は、これまで個別に報告されてきた知見を統合する新規の洞察である。

臨床応用: 本知見は、バルク腫瘍細胞のみを標的とする現行の化学・放射線療法の限界を克服し、CSC 特異的治療を臨床現場へ導入するための重要な基盤となる。臨床的意義として、エピジェネティック薬 (HDAC 阻害剤や DNMT 阻害剤) や、特定の miRNA (miR-34a による CD44 抑制、miR-128 による BMI1 抑制など) を用いた分化誘導療法が、治療抵抗性や再発を予防する新規戦略として有望であることを示した。また、EMT を経た CTC が従来の Cell Search System では検出を免れる (約 40% の未検出率) という課題に対し、EMT/CSC マーカーを組み合わせた高精度な CTC 検出法の開発が臨床応用において極めて有用であることを提唱している。

残された課題: 今後の検討課題として、CSC と非 CSC 間のダイナミックな表現型可塑性 (スイッチング機構) の解明、および正常幹細胞と CSC を厳密に区別できる特異的マーカーの同定が残されている。また、Wnt/β-catenin、Notch、Hedgehog などの自己複製シグナル経路を標的とした低分子阻害剤の臨床試験における有効性と安全性の検証も今後の課題である。さらに、免疫不全マウスを用いた異種移植アッセイにおける微小環境 (ニッチ) の再現性を高めるため、より生理的な orthotopic (同所性) モデルの標準化が必要である。

方法

本論文は、がん幹細胞 (CSC) の同定、分離、特性評価に関する主要なアプローチを包括的に概説するナラティブレビューである。特定の実験プロトコルや新規データの生成は含まれない。文献検索は PubMed データベースを用いて系統的に実施され、CSC 同定・分離法に関する原著論文およびレビュー論文が広範にカバーされた。検索は2012年9月までの期間を対象とし、主要キーワードとして「cancer stem cells」、「solid tumor」、「isolation methods」、「surface markers」、「EMT」、「chemoresistance」などが用いられた。

レビューの対象とした腫瘍は、上皮系 (乳癌、結腸癌、肺癌など)、神経外胚葉系 (グリオブラストーマ、黒色腫など)、および間葉系腫瘍 (骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫など) の3大系統にわたる。これらの異なる組織起源を持つ固形腫瘍における CSC の特性、表面マーカー、機能的アッセイ (Side Population アッセイ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性測定、スフィア形成アッセイ)、および治療抵抗性や免疫回避機構との関連性に関する知見が体系的に統合された。

各同定方法については、その技術的原理、適用範囲、および臨床応用における限界が詳細に分析された。例えば、表面マーカーの選別においては、腫瘍型によるマーカー発現の違いや、培養条件、継代回数、細胞解離方法がマーカー発現に与える影響が考慮された。Side Population アッセイでは、Hoechst 33342 色素の ATP 結合カセット (ABC; ATP-binding cassette) トランスポーターによる能動排除メカニズムと、その阻害剤であるベラパミル (verapamil) の使用が説明された。アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性測定では、ALDH1A1 (aldehyde dehydrogenase 1 family member A1) アイソザイムの役割と、ALDEFLUOR (ALDH activity detection reagent) 試薬を用いた生細胞選別の可能性が議論された。スフィア形成アッセイでは、非接着無血清培地での浮遊スフィア形成能が機能的 CSC の指標として評価され、免疫不全マウスへの連続移植による腫瘍再形成能が機能的 CSC 同定のゴールドスタンダードとして位置づけられた。

本レビューでは、CSC の免疫回避機構として、主要組織適合性複合体 (MHC; major histocompatibility complex) クラスI発現の低下、制御性T細胞 (Treg; regulatory T cell) の誘導、T細胞アポトーシスの促進、B7-H1 (PD-L1) 発現によるT細胞抑制などのメカニズムが検討された。また、CSC と上皮間葉転換 (EMT) の関連性については、Snail や Twist といった EMT 誘導転写因子の強制発現が CSC 特性を付与することを示した先行研究が引用された。治療抵抗性の分子機序としては、ABC トランスポーターの過剰発現、ALDH 活性による薬剤解毒、G0期静止状態への移行、DNA 損傷応答の優先的活性化などが分析された。これらの知見は、CSC を標的とした新規治療戦略開発の必要性を強調する根拠として提示された。本レビューの統計手法としては、各研究で報告された統計的有意性 (例: p値、ハザード比 (HR)、信頼区間 (CI)) が定性的に評価され、統合的な結論を導き出すために用いられた。