- 著者: Al-Sarraf M., LeBlanc M., Giri P.G.S., Fu K.K., Cooper J., Vuong T., Forastiere A.A., Adams G., Sakr W.A., Schuller D.E., Ensley J.F.
- Corresponding author: Al-Sarraf M. (Southwest Oncology Group Operations Office, San Antonio, TX)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1998
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase III RCT)
- PMID: 9552031
背景
NPC (nasopharyngeal carcinoma、鼻咽頭癌) は解剖学的位置の特殊性から外科的切除が困難であり、放射線療法 (RT: radiotherapy) が根治治療の基盤として歴史的に位置づけられてきた。しかし、進行例 (ステージIII-IV) では放射線単独療法による5年生存率は約30-46%にとどまり、局所再発・遠隔転移のコントロールが大きな課題であった。Qin et al. による1,379例の大規模解析でも放射線単独によるNPCの局所制御率に明確な天井が示されており (Cancer 1988; PMID 3342372)、Hoppe et al. によるメガボルテージ放射線療法の18年間の長期追跡データも、ステージIV患者の長期生存率の低さを記録していた (Cancer 1976; PMID 820419)。また、Mesic et al. による巨大電圧放射線の大規模前向き検討でも、進行NPCに対するRT単独の限界が明確に示されていた (Int J Radiat Oncol Biol Phys 1981; PMID 6788731)。
NPCはシスプラチン (cisplatin: CDDP) を中心とした白金製剤に対する高い感受性を持つことが早期から認識されており、Al-Kourainy et al. をはじめとする複数の後ろ向き報告で奏効率が高いことが示されていた。また基礎研究レベルでは、シスプラチンの放射線増感効果が動物実験で確認されており、同時化学放射線療法 (CRT: chemoradiotherapy) への理論的根拠が蓄積されていた。RTOG主導のphase II試験 (Al-Sarraf et al. 1990、PMID 2199621) では局所進行NPCに対する同時シスプラチン+RTが良好な局所制御率を示し、その後の無作為化試験設計の根拠となった。さらに欧州で行われたNACT (neoadjuvant chemotherapy、術前化学療法) + RT試験では無病生存率の改善が示唆されたが、全生存率 (OS: overall survival) の有意な改善は確認できず、逐次的化学療法では同時投与ほどの効果が得られないというギャップが残っていた。その主因として、化学療法の種類・用量の不十分さ (フルオロウラシル通常量の60%、2サイクルのみ) および治療関連死亡率9%の高さが指摘された。すなわち、十分な用量による同時化学放射線療法が進行NPCのOSを改善するか否かは未解明であり、この疑問に答える大規模無作為化試験が不足していたことが最大の課題であった。
このような背景から、SWOG主導のIntergroup試験0099は、同時シスプラチン+RT継続後に補助化学療法 (シスプラチン+5-フルオロウラシル) を追加するという統合アプローチを初めてRT単独と比較する大規模第III相RCTとして設計された。本試験は進行NPCにおける化学放射線療法の標準確立を目的とした、北米初の決定的な比較試験である。
目的
ステージIII-IV (遠隔転移なし、M0) の進行鼻咽頭癌患者を対象に、シスプラチン同時化学放射線療法および補助化学療法 (シスプラチン+5-FU) とRT単独を無作為化比較し、無増悪生存 (PFS: progression-free survival) および全生存 (OS) における差異を検証すること。副次エンドポイントとして奏効率・毒性プロファイルを評価する。
結果
1989年5月〜1995年12月に193例が登録されたが、documentation不十分 (n=17)、中央病理診断未確認 (n=5)、評価時期外れ (n=11)、書類不備 (n=9) などにより38例が不適格とされ、さらに8例 (前外科治療歴2例、測定可能病変なし2例、NPC以外の原発腫瘍2例、悪性腫瘍なし1例、未無作為化1例) が追加除外となった。主要解析対象は計147例 (RT群69例、CRT群78例) であった。患者背景はRT群中央年齢52歳・CRT群50歳、ステージIVが両群とも91%、performance status 0-1が各々90%・92%と両群間で良好にバランスされており (Table 1)、主要な交絡因子の不均等は認められなかった。
無増悪生存 (PFS) の顕著な改善: 主要解析 (n=147) において、PFS中央値はRT群15ヵ月に対しCRT群は未到達であった。3年PFS率はRT群24% vs. CRT群69% (p<0.001) と、ハザード比 (HR) 4.34 (95% CI 2.47-7.69) という劇的な差が確認された (Fig 1)。RT群では45例、CRT群では20例が観察期間内に増悪に至った。失敗パターンの詳細を見ると、局所のみ再発はRT群12例 (17%) vs. CRT群3例 (4%)、局所+リンパ節再発はRT群4例 vs. CRT群3例、局所+遠隔転移はRT群6例 vs. CRT群1例、遠隔転移のみはRT群14例 (20%) vs. CRT群7例 (9%) であった (Table 6)。全進行・再発はRT群42例 (61%) に対しCRT群18例 (23%) と大幅に少なく、CRTは局所・リンパ節・遠隔転移いずれのカテゴリにおいても失敗率を有意に低下させた。骨転移部位別ではRT群15例 (22%) に対しCRT群3例 (4%)、肺転移RT群9例 (13%) vs. CRT群5例 (6%) と、全身への播種もCRTで抑制された。
全生存 (OS) の有意改善と二次解析の一貫性: OS中央値はRT群34ヵ月に対しCRT群は未到達であった。3年OS率はRT群47% vs. CRT群78% (p=0.005)、HR 2.50 (95% CI 1.29-4.84) であり、絶対差31ポイントという頭頸部腫瘍の臨床試験において稀な規模の生存改善が示された (Fig 2)。観察時点でRT群29例が死亡 (うち2例は無病状態での死亡)、CRT群16例が死亡 (うち1例は無病状態での死亡)。RT群では24/69例、CRT群では58/78例が無病または無増悪状態を維持していた。1995年10月の第1回中間解析では帰無仮説 (生存差なし) がp=0.001水準で棄却されたため、Data and Safety Monitoring Committee (DSMC) は試験の早期中止と早期報告を勧告した。
185例 (前登録documentが不足していたが追跡データのある患者を含む) を対象とした二次解析でも3年OS率はCRT群76% vs. RT群46% (p<0.001)、HR 2.92、3年PFS率はCRT群66% vs. RT群26% (p<0.001)、HR 4.24 であり (Fig 3、Fig 4、Table 7)、主要解析147例と一貫した結果が得られた。
治療遵守性と完全奏効率: プロトコル規定通りの治療完遂はRT群63/69例 (91%) に対しCRT群57/78例 (73%) であった (Table 4)。CRT群の離脱理由は毒性による永久中断13例、毒性非関連の拒否6例、その他 (プロトコル非規定) 2例であった。RT群では死亡2例、増悪1例、プロトコル非規定の理由3例が完遂前に離脱した。
同時化学療法のコース数別遵守率は、3コース全完遂49例 (63%)、2コース18例 (23%)、1コース9例 (12%)、0コース2例 (3%) であった (Table 5)。n=53例が評価された補助化学療法では、3コース全完遂43例 (55%)、2コース4例 (5%)、1コース5例 (6%)、0コース26例 (33%) で、4例が補助化学療法開始前に毒性 (2例)・拒否 (1例)・衰弱 (1例) のため移行できなかった。
SWOG基準による完全奏効 (CR) 率はCRT群49% vs. RT群36% (p=0.14) と、統計的有意差には達しなかったものの数値上CRT群が高かった。なおCR判定にはCT/MRIによる確認が必須とされ、研究者報告による奏効とは区別されている。RT後に持続するリンパ節病変に対して根治的頸部郭清術が施行されたのはRT群2例・CRT群1例であり、これら3例はCRとはみなされなかった。
毒性プロファイル: 初期治療毒性は146例で評価された (RT群68例、CRT群78例)。致死的な治療関連毒性は両群で認められなかった。CRT群において統計的に有意な増加 (p<0.05) が認められた毒性はGrade 3/4白血球減少 (RT群1例 vs. CRT群23例) および嘔吐 (RT群2例 vs. CRT群11例) であった (Table 2)。口腔粘膜炎はRT群Grade 3: 18例・Grade 4: 1例、CRT群Grade 3: 20例・Grade 4: 9例と、CRT群で重症例が増加した。聴力障害Grade 3もRT群3例 vs. CRT群9例と増加傾向を示した。体重減少Grade 3はCRT群5例 (RT群1例)。最大毒性Grade 3/4の出現割合はRT群34例 (50%) に対しCRT群59例 (76%) と有意に高かったが、Grade 4 (生命威脅) に限るとRT群6例 vs. CRT群16例で管理可能なレベルであった。
補助化学療法を評価されたn=53例では、最大毒性Grade 3が22例、Grade 4が6例であった (Table 3)。主な毒性はGrade 3白血球減少12例、Grade 3口腔粘膜炎7例・Grade 4口腔粘膜炎4例、Grade 3悪心5例、Grade 3聴力障害5例・Grade 4聴力障害1例であった。腎毒性のGrade 3/4はいずれのフェーズでも認められなかった。CRT群の1例 (不適格患者) が誤嚥性肺炎で死亡したが、これはプロトコル治療に直接関連した死亡ではなかった。
考察/結論
Intergroup 0099試験は、進行鼻咽頭癌において同時シスプラチン+RT継続後の補助化学療法 (シスプラチン+5-FU) がRT単独に対してPFSおよびOSの両方を大幅に改善することを示した初の大規模無作為化比較試験である。先行研究と比較して、本試験は初めて無作為化デザインの下でOSの統計的に有意かつ臨床的意義のある改善を実証した点が最も重要な相違点であり、これまで試みられた逐次的化学療法や異なる薬剤組み合わせの先行研究が全生存改善に失敗してきたこととは対照的な成果をあげた。欧州のNACT試験 (Cvitkovic et al.) でneoadjuvant BEC (bleomycin, epirubicin, cisplatin) 療法後のRTが無病生存の改善を示したにもかかわらず全生存の有意改善に至らなかったのとは異なり、本試験の成功は同時投与という化学放射線療法のタイミングと十分な用量の組み合わせが鍵であったと考えられる。
本試験の新規性として最も重要な点は、同時シスプラチン+RTという治療戦略が単純な局所制御改善にとどまらず、遠隔転移の抑制を含めたOSの延長に寄与することを大規模RCTで初めて証明した点である。本研究で初めて示された3年OS絶対差31ポイント (78% vs. 47%) は、頭頸部腫瘍の臨床試験における最大級の生存改善幅であり、シスプラチンの放射線増感作用 (DNA損傷修復の阻害) と全身化学療法としての微小転移排除効果の相乗作用が、局所腫瘍制御と全身疾患コントロールの双方を同時に達成したことを示す novel なエビデンスとなった。
臨床応用の観点からは、本試験の結果によりシスプラチン同時CRT (±補助化学療法) がステージIII-IVの進行NPC に対する世界標準治療として確立された。臨床的意義は非常に広範にわたり、本試験の発表以降、アジア (特にNPC高発症地域である中国南部・シンガポール・香港) においても同様の試験デザインによる検証が行われ、Wee et al.、Lee et al. などのアジア集団での確認試験でも同時CRTの優越性が再現された (Wee et al. JClinOncol 2005)。臨床現場では本試験が「benchmark」として機能し、NPC治療の国際的なガイドラインの根拠文献として広く引用されている。後続試験 (Al et al. Cancer 1987) では、この同時化学放射線療法の原則が他の頭頸部扁平上皮癌にも適用されていった。
残された課題としては、(1) 補助化学療法 (シスプラチン+5-FU) の独立した寄与の評価 (同時CRT単独との比較が行われておらず、補助化学療法の必要性は後続試験の検討課題)、(2) 誘導化学療法 (induction chemotherapy) の位置づけ — 本試験のレジメンにneoadjuvant化学療法を追加することが相加効果をもたらすか否か、(3) 毒性軽減を目指した代替白金製剤レジメン (ゲムシタビン+シスプラチンなどへの移行の根拠) の前向き評価、(4) 放射線療法技術の進歩 (IMRT: intensity-modulated radiation therapy) との組み合わせによる化学放射線療法の最適化が今後の検討課題として挙げられる (Chan et al. JClinOncol 1995)。limitation としては、登録193例中147例 (76%) のみが主要解析対象となり当初目標270例を大幅に下回ったこと、フォローアップ期間の中央値が2.7年にとどまり長期毒性 (晩期放射線毒性・聴力障害の永続性など) の評価が不十分であること、また非アジア人が主体の北米コホートであったことが挙げられる。これらのlimitationにもかかわらず、本試験の結果はNPC治療の歴史的転換点として位置づけられ、その後の多くのfuture researchの基盤となった。
方法
米国National Cancer Institute主導のIntergroup Phase III無作為化比較試験として実施 (試験番号: Intergroup 0099 / SWOG8892)。参加グループはSouthwest Oncology Group (SWOG)、Radiation Therapy Oncology Group (RTOG)、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) の3グループ。登録期間は1989年5月〜1995年12月。
適格基準: 生検確認済みのステージIII-IVのNPC (双方向性計測可能病変、遠隔転移なし)、前放射線・化学療法歴なし、SWOG performance status 0-2、WBC≥4,000/μL、血小板≥100,000/μL、クレアチニン≤1.6 mg/dLまたはクレアチニンクリアランス≥60 mL/min。
層別化因子: 腫瘍病期 T1-T4 (tumor stage categories)、リンパ節病期 N0-N3 (lymph node stage categories)、組織型 (WHO分類I-III型: keratinizing SCC / non-keratinizing SCC / undifferentiated carcinoma)、performance status。
治療群:
- RT単独群 (n=69): メガボルテージ照射、1.8-2.0 Gy/日、週5日分割照射で総線量70 Gy。CT-basedの治療計画により上頸部フィールドを含む3次元照射を実施。脊髄線量上限45 Gy。
- CRT群 (n=78): 同一RT (70 Gy) にシスプラチン100 mg/m²を放射線開始日のday 1、22、43に静脈内投与 (rapid intravenous infusion、アルミ製針使用禁止、十分な水分補給と利尿薬前投与)。RT終了後4週以降より補助化学療法としてシスプラチン80 mg/m² (day 71、99、127) と5-フルオロウラシル (5-FU) 1,000 mg/m²/日の96時間持続静注 (day 71-74、99-102、127-130) を3サイクル施行。化学療法の投与はANC≥2,000/μL・血小板≥100,000/μLを条件とし、血液毒性や腎機能に応じた用量調整規定あり。
主要エンドポイント: PFSおよびOS (両側検定)。PFSは登録日から最初の増悪または死因を問わない死亡までの期間、OSは登録日から死因を問わない死亡までの期間と定義。標準SWOG基準による奏効定義を用い、完全奏効 (CR) にはCTまたはMRIによる確認を必須とした。
統計解析: Kaplan-Meier product-limit法による生存曲線推定、log-rank検定による群間比較 (層別化因子である腫瘍病期・リンパ節病期・performance status・組織型を調整)、Cox回帰によるハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) の算出。奏効率・毒性率の群間比較にはχ²検定を使用。中間解析は2回計画 (56%および78%登録時)、overall α水準0.05保全のため各々p=0.003、p=0.004の片側検定基準を設定。早期報告の場合p=0.005水準を適用。当初目標症例数270例。