- 著者: Chen QY, Wen YF, Guo L, Liu H, Huang PY, Mo HY, Li NW, Xiang YQ, Luo DH, Qiu F, Sun R, Deng MQ, Chen MY, Hua YJ, Guo X, Cao KJ, Hong MH, Qian CN, Mai HQ
- Corresponding author: Hai-Qiang Mai (Department of Nasopharyngeal Carcinoma, Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, People’s Republic of China)
- 雑誌: Journal of the National Cancer Institute
- 発行年: 2011
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 22056739
背景
上咽頭癌 (NPC: nasopharyngeal carcinoma) は、中国南部や東南アジアにおいて極めて高い罹患率を示す endemic な悪性腫瘍である。解剖学的特徴および放射線感受性の高さから、放射線療法 (RT: radiotherapy) が治療の主軸を担ってきた。局所進行期 (Stage III-IV) の NPC においては、RT 単独と比較して、シスプラチンを用いた同時化学放射線療法 (CCRT: concurrent chemoradiotherapy) が生存成績を有意に改善することが、多くの第III相ランダム化比較試験やメタアナリシスによって実証されている。例えば、代表的な先行研究である Al et al. JClinOncol 1998 の Intergroup 0099 試験では、CCRT の優越性が明確に示された。また、Cheng et al. (2000) や Chua et al. (2006) などの先行研究においても、化学療法の併用効果が報告されている。
しかしながら、Stage II NPC における CCRT の治療的意義については、これまで十分に検証されておらず、その有効性は「未確立」のままであった。米国 NCCN (National Comprehensive Cancer Network:米国がん包括ネットワーク) ガイドラインでは Stage II 症例に対しても CCRT を推奨しているものの、この推奨を支持する第III相ランダム化比較試験のエビデンスは「不足」しており、臨床現場における最適な治療方針については議論が分かれていた。特に、Stage IIB (T2N1M0 など) の症例では、RT 単独治療後に遠隔転移を来すリスクが Stage III に匹敵するほど高いとの指摘もあり、全身化学療法の追加による遠隔転移抑制効果が期待されていたが、大規模な前向き試験による検証は行われていなかった。このように、Stage II NPC に対する CCRT の真のベネフィットは「未解明」であり、RT 単独に対する優越性を明確に示すための高品質な臨床データが決定的に「不足」していた。
目的
本研究の主要な目的は、中国1992年ステージングシステムにおける Stage II NPC (nasopharyngeal carcinoma:上咽頭癌) 患者を対象に、週1回のシスプラチン併用同時化学放射線療法 (CCRT: concurrent chemoradiotherapy) が、従来の放射線療法 (RT: radiotherapy) 単独と比較して、主要エンドポイントである5年全生存率 (OS: overall survival) を有意に改善するかどうかを、第III相ランダム化比較試験によって検証することである。また、副次的な目的として、無増悪生存率 (PFS: progression-free survival)、遠隔転移無生存率 (DMFS: distant metastasis-free survival)、局所制御無再発生存率 (LRRFS: locoregional relapse-free survival) における CCRT の上乗せ効果を評価するとともに、急性および晩期の毒性プロファイル、ならびに治療コンプライアンスを両群間で比較検討し、Stage II NPC に対する CCRT の臨床的有用性を総合的に明らかにすることを目指した。
結果
患者背景と治療コンプライアンス: 本試験では、適格性を評価された 236 例のうち 6 例が除外され、最終的に 230 例の Stage II NPC (nasopharyngeal carcinoma:上咽頭癌) 患者がランダム化された。RT (radiotherapy:放射線療法) 単独群に 114 例、CCRT (concurrent chemoradiotherapy:同時化学放射線療法) 群に 116 例が割り付けられ、両群の背景因子(年齢、性別、病理組織型、T/Nステージ、傍咽頭腔進展の有無など)は極めて良好にバランスされていた (Table 1)。CCRT 群における化学療法のコンプライアンスは非常に高く、116 例中 91 例 (78.4%) が予定されたシスプラチン投与を 6 サイクル以上完遂し、30 例 (25.9%) が 7 サイクル、6 例 (5.2%) が 8 サイクルを受療した。治療中止の主な理由は、患者の拒絶、重度の粘膜炎、遷延する好中球減少、および腎毒性であった。なお、すべての患者が予定された放射線治療の規定線量を完遂した。 (Figure 1)
主要エンドポイント:全生存率 (OS) の有意な改善: 中央値 60 ヶ月(範囲 5〜87 ヶ月)の追跡期間において、CCRT 群は RT 単独群と比較して、主要エンドポイントである 5 年 OS 率を有意に改善した。5年 OS 率は CCRT 群で 94.5% vs RT 単独群で 85.8% であり、化学療法の追加により生存率が絶対値で 8.7% 向上した。ハザード比の解析では、死亡リスクが CCRT 群で 70% 減少していることが示された。具体的には、5年 OS 率において CCRT 群は RT 単独群に対し有意な生存改善を示した (HR 0.30, 95% CI 0.12-0.76, p=0.007)。観察期間中の全死亡数は 25 例(RT 単独群 19 例 vs CCRT 群 6 例)であり、そのうち 21 例(RT 単独群 16 例 vs CCRT 群 6 例)が腫瘍進行に関連した病死であった (Table 4)。この結果は、Stage II NPC において同時化学療法の併用が長期生存を直接的に改善することを示す極めて強固なエビデンスである。 (Figure 2A)
無増悪生存率 (PFS) の向上: 生存成績の改善に伴い、無増悪生存率 (PFS) においても CCRT 群の明確な優越性が実証された。5年 PFS 率は CCRT 群で 87.9% vs RT 単独群で 77.8% であり、両群間に統計学的に有意な差が認められた (HR 0.45, 95% CI 0.23-0.88, p=0.017)。追跡期間中に病勢進行が確認されたのは、RT 単独群で 26 例 (22.8%)、CCRT 群で 13 例 (11.2%) であった (Table 3)。この PFS の改善は、同時化学療法が Stage II NPC における局所および全身の病変制御を包括的に高めていることを示唆している。 (Figure 2B)
遠隔転移抑制効果 (DMFS) の優越性: 本試験において、同時化学療法の追加による最も顕著な治療効果は、遠隔転移の抑制において観察された。5年 DMFS 率は CCRT 群で 94.8% vs RT 単独群で 83.9% であり、CCRT 群において遠隔転移リスクが 73% 有意に低下した (HR 0.27, 95% CI 0.10-0.74, p=0.007)。遠隔転移のみを初発再発様式とした症例は、RT 単独群で 14 例 (12.3%) であったのに対し、CCRT 群では 5 例 (4.3%) にとどまった (Table 3)。転移部位としては骨、肝、肺、および遠隔リンパ節が主であった。この結果は、Stage II NPC、特にリンパ節転移を伴う Stage IIB 症例における潜在的な微小転移病変に対し、週1回のシスプラチン投与が強力な全身的細胞毒性効果を発揮したことを裏付けている。 (Figure 3A)
局所制御率 (LRRFS) における両群間の同等性: 遠隔転移制御における劇的な改善とは対照的に、局所制御率 (LRRFS) においては両群間に有意な差は認められなかった。5年 LRRFS 率は CCRT 群で 93.0% vs RT 単独群で 91.1% であり、統計学的な有意差は示されなかった (HR 0.61, 95% CI 0.25-1.51, p=0.29)。初発再発時の局所再発のみの割合は、RT 単独群で 9 例 (7.9%)、CCRT 群で 8 例 (6.9%) と同等であった (Table 3)。この結果は、従来の 2次元放射線治療であっても Stage II NPC に対する局所制御は極めて良好であり、CCRT による生存ベネフィットの大部分が、局所制御の向上ではなく、遠隔転移の抑制(全身制御)に起因していることを明確に示している。 (Figure 3B)
急性および晩期毒性プロファイルの比較: 治療に伴う急性毒性に関しては、CCRT 群において有意な頻度上昇が認められた。グレード 3〜4 の急性毒性の全体的な発現率は、CCRT 群で 63.8% vs RT 単独群で 40.4% であった (p=0.001)。具体的な有害事象として、グレード 3 の白血球・好中球減少が CCRT 群の 12.9% に発現したのに対し、RT 単独群では 0% であった (p<0.001)。また、グレード 3 の悪心・嘔吐も CCRT 群で 8.6% に認められたのに対し、RT 単独群は 0% であった (p=0.001)。さらに、グレード 3〜4 の粘膜炎の発現率は CCRT 群で 45.6%(うちグレード 4 が 1.7%)に達し、RT 単独群の 32.5% と比較して有意に高頻度であった (p=0.04)。一方で、聴力障害、皮膚線維化、開口障害などのグレード 3 以上の晩期毒性の累積発現率については、RT 単独群で 9.6% vs CCRT 群で 13.8% であり、両群間に有意な差は認められなかった (p=0.32) (Table 2)。
多変量解析による独立予後因子の同定: Cox 比例ハザードモデルを用いた多変量解析の結果、患者の年齢、性別、Tステージ、Nステージ、および傍咽頭腔進展の有無を調整した後においても、化学療法の投与サイクル数が、OS、PFS、および遠隔転移制御における唯一の独立した予後因子として同定された。具体的には、シスプラチンの投与サイクル数が 1 サイクル増加するごとに、全死因死亡リスクが 21% 有意に低下し (HR 0.79, 95% CI 0.67-0.93, p=0.007)、病勢進行リスクが 11% 低下し (HR 0.89, 95% CI 0.80-0.99, p=0.04)、遠隔転移リスクが 18% 低下した (HR 0.82, 95% CI 0.69-0.96, p=0.01) (Table 5)。この知見は、同時化学放射線療法を施行するにあたり、十分な化学療法の強度(投与サイクル数)を維持することが、治療成績を最大化するために極めて重要であることを示している。
考察/結論
本研究は、Stage II NPC (nasopharyngeal carcinoma:上咽頭癌) 患者を対象に、放射線単独療法に対する同時化学放射線療法 (CCRT: concurrent chemoradiotherapy) の生存ベネフィットを検証した世界初の第III相ランダム化比較試験である。
先行研究との違い: 局所進行期 (Stage III-IV) における CCRT の有用性は確立されていたが、Stage II 症例における化学療法の追加効果については、これまで後ろ向き研究や小規模なサブグループ解析にとどまっており、その治療的意義は議論の的であった。例えば、Cheng et al. (2000) や Chua et al. (2006) などの先行研究は、Stage II に対する化学療法の有用性を示唆していたものの、いずれもレトロスペクティブな解析であり、交絡因子の影響を排除できていなかった。これら「これまでと」の不十分なエビデンスベースの報告「と異なり」、本研究は厳格な前向きランダム化デザインを用いることで、Stage II NPC における CCRT の優越性を高いエビデンスレベルで実証した。
新規性: 本研究は、Stage II NPC において、週1回のシスプラチン併用 CCRT が RT (radiotherapy:放射線療法) 単独と比較して 5年 OS 率を 94.5% vs 85.8% と有意に改善することを「本研究で初めて」ランダム化試験において証明した。さらに、多変量解析を通じて、化学療法の投与サイクル数が OS、PFS、および遠隔転移制御における唯一の独立した予後因子であることを「新規」に同定した。局所再発率に差がない一方で遠隔転移が有意に抑制されたことから、CCRT の主たる上乗せ効果が局所制御ではなく、微小転移に対する全身制御にあることを明らかにした点も極めて新規性が高い。
臨床応用: 本研究の知見は、NCCN (National Comprehensive Cancer Network:米国がん包括ネットワーク) ガイドラインが Stage II NPC に対して CCRT を推奨していることに対して、最も強固な臨床的根拠を提供するものである。その「臨床的意義」は極めて大きく、これまで RT 単独治療が標準とされていた地域やガイドライン(例えば中国抗癌協会ガイドラインなど)における治療パラダイムを塗り替え、Stage II 症例に対する標準治療としての CCRT の「臨床応用」を強力に推進するものである。週1回 30 mg/m² というシスプラチン投与設計は、急性毒性を許容範囲内に抑えつつ、高いコンプライアンスを維持できるため、実際の「臨床現場」において極めて導入しやすい実用的なレジメンである。
残された課題: 本研究にはいくつかの「limitation」が存在し、それが「今後の検討課題」として残されている。第一に、前治療評価およびフォローアップにおいて胸部 CT が施行されておらず、従来の胸部 X線写真のみが用いられたため、早期の微小な肺転移が見逃されていた可能性がある。第二に、本試験は 2次元放射線治療 (2D-RT: two-dimensional radiotherapy) 時代に実施されたものであり、現在広く普及している強度変調放射線治療 (IMRT: intensity-modulated radiotherapy) を用いた場合の CCRT の上乗せ効果については未検証である。IMRT は 2D-RT と比較して局所制御率をさらに向上させるため、IMRT 環境下における同時化学療法の必要性や適切な適応症例の絞り込みについては、「今後の研究」において解決すべき重要な「残された課題」である。
方法
本研究は、中国の Sun Yat-sen University Cancer Center において 2003年10月から 2007年9月までに新規に診断された Stage II NPC (nasopharyngeal carcinoma:上咽頭癌) 患者を対象とした単施設共同オープンラベル第III相ランダム化比較試験 (randomized phase III trial, ClinicalTrials.gov ID: NCT00777140) である。適格基準は、病理組織学的に WHO (World Health Organization:世界保健機関) type II または III の上咽頭癌と診断された 18歳から 70歳までの患者で、中国1992年ステージングシステムに基づく Stage II (T1-2N1M0 または傍咽頭腔進展を伴う T2N0M0) に該当し、十分な骨髄・肝・腎機能および良好な全身状態 (ECOG PS [Eastern Cooperative Oncology Group performance status] 0-1) を有する症例とした。
対象患者は、リンパ節転移の有無 (N0 vs N1) を層別化因子として、RT (radiotherapy:放射線療法) 単独群 (n=114) または CCRT (concurrent chemoradiotherapy:同時化学放射線療法) 群 (n=116) に 1:1 の割合でランダムに割り付けられた。ランダム化は、Good Clinical Practices Center において、New Drug Statistical Treatment ソフトウェア (NDST version 8.0) を用いて作成された乱数表に基づき、電話登録システムを介して行われた。
放射線治療は、両群ともに 2次元照射技術 (2D-RT: two-dimensional radiotherapy) を用い、週5回、1回 2.0 Gy、総線量 68〜70 Gy を一次病変および頸部転移リンパ節に照射した。CCRT 群では、放射線治療期間中にシスプラチン 30 mg/m² を週1回、最大 8サイクル静脈内投与した。
主要エンドポイント (primary endpoint) は5年 OS (overall survival:全生存率) とし、副次エンドポイントは PFS (progression-free survival:無増悪生存率)、DMFS (distant metastasis-free survival:遠隔転移無生存率)、LRRFS (locoregional relapse-free survival:局所制御無再発生存率)、および毒性とした。サンプルサイズ設計 (sample size calculation) では、RT単独群の5年OS率を80%、CCRT群での期待OS率を92%と仮定し、検出力90%、有意水準5%(両側)のもとで、必要最小限の症例数として 202 例 (minimum of 202 patients) が算出された。
統計解析は、意図した治療割り当てに基づく ITT (intent-to-treat) 原則に従って実施された。生存曲線の推定には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank test (ログランク検定) を適用した。また、治療介入の独立した予後への影響を検証するため、年齢、性別、Tステージ、Nステージ、傍咽頭腔進展の有無、および化学療法サイクル数を共変数とした Cox proportional hazards (コックス比例ハザードモデル) による多変量解析を実施した。毒性評価には NCI-CTC (National Cancer Institute Common Toxicity Criteria) version 3.0 および RTOG/EORTC (Radiation Therapy Oncology Group/European Organisation for Research and Treatment of Cancer) 基準を用いた。本試験は、Sun Yat-sen University Clinical Research 5010 Program の支援を受け、同センターの倫理委員会の承認を得て実施された。