• 著者: P.B. Chapman, L.H. Einhorn, M.L. Meyers, S. Saxman, A.N. Destro, K.S. Panageas, C.B. Begg, S.S. Agarwala, L.M. Schuchter, M.S. Ernstoff, A.N. Houghton, J.M. Kirkwood
  • Corresponding author: P.B. Chapman (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1999
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 10561349

背景

Stage IV (転移性) メラノーマは極めて予後不良な疾患であり、診断後の患者の生存期間中央値は3ヶ月から11ヶ月と報告されている (Stadelmann et al. 1998; Sirott et al. 1993)。長年にわたり、この疾患の標準治療はダカルバジン (DTIC) 単剤療法であった。しかし、DTIC単剤による客観的奏効率は5%から20%と低く、ほとんどの奏効は部分奏効にとどまり、完全奏効は稀であった (Stadelmann et al. 1998)。さらに、DTICが転移性メラノーマ患者の全生存期間を明確に延長するというエビデンスは確立されていなかった (Hill et al. 1984)。

このような状況を受け、奏効率の改善を目指して様々な多剤併用化学療法や免疫療法が試みられてきた。初期の単施設Phase II試験では、これらの新しいレジメンが40%から50%という高い奏効率を示すことがしばしば報告された (Nathanson et al. 1981; Legha et al. 1989; Portlock et al. 1989; Seigler et al. 1980; Rosenberg et al. 1985)。しかし、その後の多施設共同Phase II試験では、これらの高い奏効率が再現されないことが多く (National Cancer Institute of Canada Melanoma Group 1984; Steffens et al. 1991; Luger et al. 1990; York et al. 1988; The Prudente Foundation Melanoma Study Group 1989; Rosenberg et al. 1993)、さらに、厳密に管理されたPhase III比較試験では、これらの多剤併用療法がいずれもDTIC単剤に対する優位性を示すことができなかった (Luikart et al. 1984; Buzaid et al. 1993)。

1984年、Del Prete et al. (1984) は、ダカルバジン、シスプラチン、カルムスチン、タモキシフェンの4剤併用療法(通称Dartmouthレジメン)が20例の転移性メラノーマ患者において55%という高い奏効率を達成したと報告した。この有望な結果は、その後もMcClay et al. (1992)、Saba et al. (1992)、Lattanzi et al. (1995)、Richards et al. (1992) らによる複数の単施設研究で40%から50%の奏効率が確認され、Dartmouthレジメンが転移性メラノーマに対する有望な治療選択肢として注目を集めた。一部の専門家は、前向き無作為化試験がない状況でも、Dartmouthレジメンをメラノーマの第一選択療法として考慮すべきだと提唱するに至った (McClay and McClay 1994)。

しかし、過去の経験から、単施設試験で有望視された化学療法レジメンが、多施設共同の無作為化比較試験ではDTIC単剤に対する優位性を示せないという課題が残されていた。Dartmouthレジメンについても、同様の懸念が存在した。特に、単施設試験で報告された高い奏効率が多施設環境で再現されるか、また、全生存期間の改善に繋がるかについては未解明な点が多かった。これまでの研究では、奏効率の改善が必ずしも生存期間の延長に結びつかないことが示されており、Dartmouthレジメンの真の臨床的有用性を評価するためには、厳密な比較試験が不足していた。そのため、Dartmouthレジメンの真の有効性と安全性、特に全生存期間への影響をDTIC単剤と比較して検証することが急務であった。この背景から、本研究は、DartmouthレジメンがDTIC単剤と比較して転移性メラノーマ患者の予後を改善するかどうかを評価する、多施設共同のPhase III無作為化比較試験として計画された。

目的

本研究の目的は、Stage IV転移性メラノーマ患者を対象として、Dartmouthレジメン(ダカルバジン、シスプラチン、カルムスチン、タモキシフェンの併用療法)と標準的なダカルバジン単剤療法を比較し、以下の主要評価項目および副次評価項目を検討することである。

主要評価項目として、両治療群における全生存期間 (OS) の比較を行う。Dartmouthレジメンがダカルバジン単剤と比較して、全生存期間の有意な延長をもたらすか否かを評価する。

副次評価項目としては、両治療群における客観的奏効率 (ORR) の比較を行う。Dartmouthレジメンがダカルバジン単剤と比較して、腫瘍縮小効果において優位性を示すか否かを評価する。また、両治療群における有害事象の発現頻度と重症度を比較し、Dartmouthレジメンの安全性プロファイルを評価する。特に、骨髄抑制、悪心・嘔吐、倦怠感などのGrade 3/4の有害事象に焦点を当て、治療関連毒性の差を明確にすることを目指す。

本試験は、Dartmouthレジメンが単施設Phase II試験で報告された高い奏効率を多施設環境で再現し、さらに全生存期間の改善をもたらすか否かを、厳密な無作為化比較試験デザインを用いて検証することを目的とした。本研究は、Dartmouthレジメンの臨床的有用性を確立するための重要なRCT (Randomized Controlled Trial) である。

結果

本研究には、1991年11月から1997年12月にかけて合計240例の転移性メラノーマ患者が登録された。Dartmouthレジメン群(Arm A)に119例、ダカルバジン単剤群(Arm B)に121例が割り付けられた。

患者背景のバランス: 両治療群間で、性別(男性65% vs 67%)、年齢中央値(52歳 vs 55歳)、Karnofsky Performance Status中央値(90% vs 90%)、病期(Stage IV 95% vs 93%)、および転移部位(軟部組織のみ42% vs 47%、内臓転移58% vs 53%)に関して、良好なバランスが保たれていた(Table 1)。不適格患者は5例(Dartmouth群2例、ダカルバジン群3例)であったが、ITT解析には全240例が含まれた。

全生存期間 (主要エンドポイント): 全患者(ITT解析、n=240)における全生存期間中央値は7.0ヶ月 (95% CI 6.1-8.0) であった。Dartmouthレジメン群の生存期間中央値は7.7ヶ月 (95% CI 6.3-8.9) であったのに対し、ダカルバジン単剤群では6.3ヶ月 (95% CI 5.4-8.7) であった。Kaplan-Meier解析(Figure 1)の結果、両群間に全生存期間の統計学的な有意差は認められなかった (p=0.52)。1年生存率はDartmouth群で22% vs ダカルバジン群で27%であり、ここにも有意差はなかった (p=0.38)。適格かつ治療を受けた231例を対象とした解析でも同様の結果が得られ、生存期間中央値はDartmouth群7.7ヶ月 (95% CI 6.4-8.9) vs ダカルバジン群6.4ヶ月 (95% CI 5.5-8.9) であり、有意差は認められなかった (p=0.51)(Figure 2)。ダカルバジン群の16.5%(20例)の患者が病勢進行後にプロトコル外でDartmouthレジメンを受けた。この結果は、Dartmouthレジメンが全生存期間においてダカルバジン単剤に対する優位性を示さないことを明確に示唆している。

奏効率: 腫瘍奏効が評価可能であったのは226例(Dartmouth群108例、ダカルバジン群118例)であった(Table 2)。完全奏効 (CR) は両群ともに認められなかった。Dartmouth群の2例で臨床的なCRが認められたが、プロトコルで要求される生検による確認が得られなかったため、部分奏効 (PR) と分類された。部分奏効はDartmouth群で20/108例(18.5%)、ダカルバジン群で12/118例(10.2%)であった。Dartmouth群で奏効率が高い傾向が見られたものの、統計学的な有意差には達しなかった (p=0.09)。ITT解析では、Dartmouth群の奏効率は16.8% vs ダカルバジン群の9.9%であり、この差も統計的に有意ではなかった (p=0.13)。

サブグループ解析における奏効率: 転移部位別のサブグループ解析も実施された。軟部組織(皮膚、リンパ節、肺)のみに転移を有する99例の患者では、Dartmouth群の奏効率が32%に対し、ダカルバジン群では14%であり、この差は統計学的に有意であった (p=0.05)。しかし、この軟部組織転移サブグループにおける奏効率の改善は、全生存期間の改善には結びつかなかった (p=0.15)。内臓転移を有する127例の患者では、Dartmouth群の奏効率は9% vs ダカルバジン群では6%であり、有意差は認められなかった (p=0.74)。性別による奏効率の差も検討され、Dartmouth群では男性19% vs 女性15% (p=0.61) と差はなかった。ダカルバジン群では男性6% vs 女性18% (p=0.06) と女性で高い傾向が見られたが、生存期間に性差は認められなかった。

毒性プロファイル: 治療を受けた231例が毒性評価の対象となった(Table 3)。Dartmouthレジメン群では、ダカルバジン単剤群と比較して、Grade 3/4の有害事象が有意に高頻度で認められた (p<0.01)。特に、骨髄抑制がDartmouth群で顕著であり、好中球減少(39% vs 19%)、貧血(32% vs 6%)、血小板減少(57% vs 7%)が有意に増加した。非骨髄抑制性の毒性では、Grade 3/4の悪心・嘔吐(18% vs 5%)および倦怠感(7% vs 0%)もDartmouth群で有意に高頻度であった。

治療中止と治療関連死亡: 毒性による治療中止は、Dartmouth群で25/119例(21%)であったのに対し、ダカルバジン群では3/121例(2%)と、Dartmouth群で約10倍高い中止率が認められた (p<0.01)。Dartmouth群では、血小板減少に伴う脳出血による治療関連死亡が1例発生した。治療サイクル数の中央値は、Dartmouth群で3サイクル(範囲1〜10)、ダカルバジン群で2サイクル(範囲1〜34)であった。クレアチニン上昇や呼吸困難も観察されたが、両群間に統計学的な有意差はなかった。Dartmouthレジメンの毒性プロファイルは、ダカルバジン単剤と比較して明らかに不利であることが示された。

考察/結論

本Phase III無作為化比較試験は、転移性メラノーマ患者においてDartmouthレジメン(ダカルバジン、シスプラチン、カルムスチン、タモキシフェン)が、標準的なダカルバジン単剤療法と比較して、全生存期間の有意な改善をもたらさないことを明確に示した。両治療群の生存曲線はほぼ一致しており (p=0.52)、全生存期間中央値もDartmouth群7.7ヶ月 vs ダカルバジン群6.3ヶ月と差はなかった。奏効率においても、Dartmouth群18.5% vs ダカルバジン群10.2%とDartmouth群で数値的に高い傾向が見られたものの、統計学的有意差には達しなかった (p=0.09)。

先行研究との違い: 本研究の結果は、Dartmouthレジメンの初期の単施設Phase II試験で報告された40%から50%という高い奏効率とは対照的である。この乖離は、単施設試験における患者選択バイアス、奏効評価のばらつき、あるいは小規模試験特有の偶然の結果が影響した可能性が考えられる。本多施設共同試験のデザインは、これらの偏りを是正し、より実臨床に近い環境でのDartmouthレジメンの有効性を評価した点で、これまでの報告と異なる信頼性の高いエビデンスを提供した。軟部組織転移のみのサブグループではDartmouth群の奏効率が有意に高かった (32% vs 14%, p=0.05) が、この奏効の改善が生存期間の延長に結びつかなかったことは、転移性メラノーマにおける奏効率と生存期間の相関が必ずしも強くないという、これまで報告されてきた知見と一致する。

新規性: 本研究で初めて、Dartmouthレジメンがダカルバジン単剤と比較して、全生存期間の有意な改善をもたらさないことを、大規模な無作為化比較試験で明確に示した。これは、単施設試験で有望視された多剤併用化学療法が、厳密なPhase III試験でその優位性を証明できないという、メラノーマ治療開発における長年の課題を再確認するものであった。本知見は、Dartmouthレジメンが転移性メラノーマの標準治療としてDTIC単剤に取って代わるものではないという、重要な結論を新規に確立した。

臨床応用: 本研究の結果は、Dartmouthレジメンがダカルバジン単剤と比較して有意に高い毒性(骨髄抑制、悪心・嘔吐、倦怠感など)を伴うことを示しており、毒性による治療中止率もDartmouth群で21%と、ダカルバジン群の2%と比較して著しく高かった。この安全性プロファイルと生存期間の改善が見られないという結果は、Dartmouthレジメンを転移性メラノーマの第一選択治療として推奨しないという臨床的含意を持つ。本試験の実施当時、ダカルバジンは依然として転移性メラノーマの標準治療であり、本研究はその位置付けを再確認した。

残された課題: 本試験は、免疫チェックポイント阻害薬(CTLA-4阻害薬やPD-1阻害薬)やBRAF/MEK阻害薬といった分子標的薬が登場する以前に行われたものであり、現在の転移性メラノーマの標準治療は大きく変遷している。したがって、本研究の知見は化学療法単独での限界を示す歴史的意義を持つが、現在の治療選択肢と比較してDartmouthレジメンの価値を評価するものではない。今後の検討課題として、化学療法と免疫療法や標的療法との併用、あるいは特定のバイオマーカーに基づく患者層別化戦略の開発が挙げられる。また、本研究で示された軟部組織転移患者における奏効率の傾向が、より毒性の低いレジメンや新たな薬剤との組み合わせで生存期間の改善に繋がるかどうかも、今後の研究で検証すべき点である。

方法

本研究は、多施設共同のPhase III無作為化比較試験として実施された。1991年11月から1997年12月にかけて、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center、Hoosier Oncology Group、University of Pennsylvania、Dartmouth Hitchcock Medical Center、およびEastern Cooperative Oncology Group (ECOG) の複数の施設が参加し、合計240例の患者が登録された。本試験は、Dartmouthレジメンの有効性と安全性をダカルバジン単剤と比較する目的で設計された。

患者選択基準: 病理学的に確認されたAJCC Stage IVメラノーマ、または切除不能なStage III (N2) メラノーマ患者が対象とされた。年齢は18歳以上、Karnofsky Performance Status (PS) は50%以上、二次元的に測定可能な病変を有すること、および書面によるインフォームドコンセントが得られることが必須条件であった。骨転移および悪性胸水は測定可能病変とはみなされず、CNSのみに限定されたメラノーマ患者は対象外とされた。

患者除外基準: 脳転移のみを有する患者、New York Heart Association class IIIまたはIVの心機能障害を有する患者、メラノーマに対する全身性の前治療(局所灌流を含む)を受けた患者、および過去4週間以内に放射線療法を受けた患者は除外された。また、妊娠中または授乳中の女性も対象外とされた。

無作為化と層別化: 患者は、参加施設、性別、および転移部位(軟部組織[皮膚、リンパ節、肺]のみ vs その他の臓器)で層別化され、中央オフィスにてDartmouthレジメン群(Arm A)またはダカルバジン単剤群(Arm B)に無作為に割り付けられた。本試験はNCT番号は付与されていないが、厳格なプロトコルに従って実施された。

治療プロトコル:

  • Arm A (Dartmouthレジメン群): 119例が割り付けられた。タモキシフェン10 mgを1日2回経口で、細胞傷害性化学療法の1週間前から開始し、試験期間中継続した。カルムスチン150 mg/m²をDay 1に投与し、シスプラチン25 mg/m²とダカルバジン220 mg/m²をDay 1からDay 3まで毎日投与した。治療サイクルは3週ごとであったが、カルムスチンは隔サイクル(1サイクル目、3サイクル目など)で投与された。制吐剤としてデキサメタゾン20 mg静注とオンダンセトロン24 mg静注またはグラニセトロン10 µg/kg静注が投与された。遅延性悪心・嘔吐の予防も推奨された。
  • Arm B (ダカルバジン単剤群): 121例が割り付けられた。ダカルバジン1,000 mg/m²を3週ごとに短時間静脈内注入で投与した。制吐剤はArm Aと同様のレジメンが用いられたが、遅延性悪心・嘔吐に対する治療は行われなかった。

治療は全量で投与され、プロトコル上での用量減量は許可されなかった。毒性からの回復が必要な場合は、治療を遅延させることが可能であった。Grade 4の好中球減少と発熱が先行サイクルで認められた場合、G-CSFの使用が許可された。

評価項目:

  • 主要評価項目: 全生存期間 (OS) は、無作為化日から死亡日までの期間として定義された。
  • 副次評価項目: 客観的奏効率 (ORR) は、標準的なRECIST基準(完全奏効 [CR] または部分奏効 [PR])に基づいて評価された。CRは、全ての腫瘍病変の消失が30日以上持続し、生検による確認が必要とされた。PRは、全ての測定可能病変の最大径と垂直径の積の合計が50%以上縮小し、30日以上持続することと定義された。毒性は、NCI Common Toxicity Criteria (CTC) を用いて記録・評価された。少なくとも1コースの治療を受けた患者は、毒性評価の対象とされた。

統計解析: 試験は、ダカルバジン単剤群の生存期間中央値9ヶ月に対し、Dartmouthレジメン群で50%の生存期間改善(生存期間中央値13.5ヶ月)を検出するために80%の検出力と5%の有意水準で設計された。奏効率に関しては、ダカルバジン群の奏効率20%に対し、Dartmouth群で40%の奏効率を検出するために90%の検出力と5%の有意水準で設計された。必要な登録患者数は236例と算出された。

生存期間の推定にはKaplan-Meier法が用いられ (Kaplan and Meier 1958)、両群間の比較にはログランク検定が適用された (Mantel 1966)。奏効率および毒性の治療群間差の評価には、Fisherの正確検定が用いられた。解析は、無作為化された全患者を対象としたintention-to-treat (ITT) 解析と、適格かつ治療を受けた患者のみを対象とした解析の両方で行われた。