- 著者: Deirdre J. Cohen, Lawrence Leichman
- Corresponding author: Lawrence Leichman (New York University, 160 E. 34th St, Room 8-941, New York, NY 10016, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-27
- Article種別: Review
- PMID: 25918302
背景
食道癌、胃食道接合部 (GEJ: gastroesophageal junction) 癌、および胃腺癌は、世界的に年間95万例以上の胃癌、46万例以上の食道癌が発症し、がん関連死因の第2位を占める極めて予後不良な悪性腫瘍である (Ferlay et al. 2013)。米国における2015年の統計予測でも、食道癌で18,170例の新規発症と15,450例の死亡、胃癌で22,220例の新規発症と10,990例の死亡が予測されており、過去30年間で食道・GEJ腺癌が増加する一方で遠位胃癌が減少するという逆方向の疫学トレンドが示されている (Siegel et al. 2014)。これらの局所および局所進行例に対する治療法は進歩しているものの、依然として再発や死亡は一般的な転帰であり、治療成績の向上が強く望まれている。
既存の大規模第III相臨床試験の多くは、異なる組織型である食道扁平上皮癌 (SCCE: squamous cell cancer of the esophagus) と食道腺癌 (ACE: adenocarcinoma of the esophagus)、あるいは胃のびまん性 (diffuse) 型と腸型 (intestinal) 型、さらには発生部位の異なるGEJ癌と胃癌を「lump (一括り)」にして解析してきた。しかし、これらの腫瘍は前癌病変、生物学的挙動、および分子プロファイルが明らかに異なり、治療反応性にも大きな差異が存在する。例えば、HER2 (human epidermal growth factor receptor 2) 過剰発現胃癌に対するトラスツズマブの有効性を示した ToGA (Trastuzumab for Gastric Cancer) 試験 (Bang et al. 2010) や、Cancer et al. Nature 2014 による胃癌の包括的な分子特性解析 (EBV陽性、MSI、genomically stable、CINの4つの主要ゲノムサブタイプ) の登場により、個別化された層別化治療の必要性が高まっている。
術前化学療法と化学放射線療法の選択、D1およびD2リンパ節郭清の意義、術後化学放射線療法の必要性など、周術期治療における多くの論争点 (controversies) が未解明のままである。特に、異なる組織型や部位を一括りにしてきた従来の試験デザインが、結果の不一致や治療効果の不明瞭さの一因となっている可能性が指摘されている。例えば、食道癌の術前化学療法に関する北米の INT (Intergroup) 0113 試験と英国の MRC (Medical Research Council) OEO2 試験では、同じ薬剤を使用しながらも異なる結論が報告されており、組織型や治療期間の差異が結果に影響を与えた可能性が議論されている (Kelsen et al. 1998, Medical Research Council Oesophageal Cancer Working Group 2002)。これらの未解決の論争点を体系的に整理し、エビデンスに基づく治療戦略を提示することが、この分野における知識の不足を補う上で不可欠である。患者の生物学的異質性を考慮した「split (層別化)」戦略の重要性を強調し、今後の臨床試験デザインと個別化治療の方向性を示すことが、現在の治療パラダイムにおける知識のギャップを埋める上で極めて重要である。
目的
局所および局所進行胃癌・食道癌・GEJ癌の治療における主要な論争点、具体的には術前化学療法と術前化学放射線療法の比較、周術期化学療法と術後化学療法の役割、D1とD2リンパ節郭清の意義、組織型による層別化の必要性、およびバイオマーカーの臨床応用について、主要な第III相試験のエビデンスを批判的に整理すること。さらに、これらのエビデンスに基づき、今後の臨床試験デザインと個別化治療の方向性を提示し、患者の予後改善に資する最適な治療戦略の確立に貢献することを目指す。特に、異なる組織型や分子プロファイルを持つ腫瘍を個別化して治療する「split」戦略の重要性を強調し、従来の「lump」アプローチによる不十分な治療成績という知識のギャップを埋めることを目的とする。
結果
食道癌術前化学療法のINT 0113 vs MRC OEO2論争: 北米の INT 0113 試験 (n=463, SCCE 44%, ACE/GEJ 51%) では、シスプラチン 100 mg/m² + フルオロウラシル (FU: fluorouracil) 1000 mg/m² × 5日を3コース後に手術を行う群と手術単独群を比較した。結果は全生存期間 (OS) 14.9ヶ月 vs 16.1ヶ月 (p=0.53) で有意差を認めなかった。一方、英国の MRC OEO2 試験 (n=802, SCCE 30%, ACE 70%) では、シスプラチン 80 mg/m² + FU × 4日の2コース後手術群と手術単独群を比較し、OS 16.8ヶ月 vs 13.3ヶ月 (HR 0.79; 95% CI 0.67-0.93; p=0.004) と有意な延命効果を示した。この結果の不一致は、組織型の割合、化学療法の期間、術後化学療法の完遂率の差異が関与する可能性が指摘された。Ychou et al.のFFCD 9703試験 (n=224, 下部食道腺癌・GEJ・胃腺癌、11%/64%/25%) では、周術期シスプラチン + FU (術前2、術後3-4コース) と手術単独を比較し、5年OSが39% vs 24% (HR 0.69; 95% CI 0.48-0.89; p=0.003) と周術期化学療法の優位性を示した。
食道癌術前化学放射線療法 (CROSS trial) の優位性: Walsh et al. (1996) の先行試験 (n=118, ACE) では、シスプラチン + FU + 放射線療法 (RT: radiotherapy) 40 Gy後に手術を行う群と手術単独群を比較し、OSが16ヶ月 vs 11ヶ月 (p=0.01) と化学放射線療法 (CRT: chemoradiotherapy) 群で有意な改善を認めた。CALGB 9781試験 (n=58、早期終了) はSCCE + ACE混合でCRT群のOSが4.48年 vs 手術単独群の1.79年 (p=0.002) と、5年生存率が39% vs 16%であった。Dutch CROSS (Chemoradiotherapy for Esophageal Cancer Followed by Surgery Study) 試験 (n=363, ACE 75%, SCCE 23%) は、カルボプラチン + パクリタキセル + RT 41.4 Gy後に手術を行う群と手術単独群を比較し、OSが49.4ヶ月 vs 24.0ヶ月 (HR 0.657; 95% CI 0.495-0.871; p=0.003) とCRT群で有意な改善を認めた (Figure A1)。術後合併症・院内死亡率は両群で同等 (4%) であった。2011年のメタ解析 (n=1854) では、術前CRT群のall-cause mortalityのHRが0.78 (95% CI 0.70-0.88; p=0.001) であり、SCCE (HR 0.80; 95% CI 0.68-0.93; p=0.004) およびACE (HR 0.75; 95% CI 0.59-0.95; p=0.02) の両組織型に有効性が示された。German POET (Preoperative Chemotherapy or Radiochemotherapy in Esophagogastric Adenocarcinoma Trial) 試験はGEJ腺癌でCRT vs 化学療法の3年生存率が27.7% vs 47.4% (p=0.07) でCRTの優位傾向を示したが、患者登録不良により早期終了したため、確固たる結論は得られなかった。
胃癌D1 vs D2リンパ節郭清の論争: Dutch Gastric Cancer Trialの15年追跡結果では、D2郭清群でcancer-specific survivalが有意に改善したが、OSには差がなかった (Songun et al. 2010)。2044例を含む8試験のメタ解析では、D2郭清のOS優位性は示されず、主に脾臓・膵臓切除に関連する合併症増加を伴うことが報告された。Union for International Cancer Control/AJCCガイドラインは最低15リンパ節郭清を推奨している。この論争は、高ボリュームセンターでの専門的外科手技の重要性へと焦点が移っている。
胃癌周術期化学療法 (MAGIC, FFCD 9703) の有効性: MAGIC試験 (n=503, Stage II-III GC/GEJ、74%/26%) では、エピルビシン + シスプラチン + FU (ECF) を術前後3コースずつ投与する群と手術単独群を比較し、5年OSが36% vs 23% (p=0.009) と有意に改善した (Cunningham et al. 2006) (Table 1)。術前化学療法の完遂率は86%であったが、周術期全体での完遂率は42%に留まった。フランスのFFCD 9703試験も、周術期化学療法により5年OSを24%から38%に改善した (Ychou et al. 2011)。EORTC 40954試験 (>90%でD2郭清) は患者登録不良により早期終了した。最近の14試験2,422例のメタ解析では、術前化学療法がOSのHR 0.81 (95% CI 0.73-0.89; p<0.001) と有意な改善を示し、その有効性が確立された (Figure A2)。
胃癌術後化学放射線療法 vs 化学療法 (INT 0116, ARTIST) の比較: INT 0116試験 (術後FU/ロイコボリン + RT 45 Gy vs 手術単独) では、3年OSが50% vs 41% (p=0.005) と改善した (Macdonald et al. 2001)。しかし、この試験では90%以上の患者がD2郭清未満のリンパ節郭清を受けていたため、放射線療法が不十分な手術を補償した可能性が指摘された。CALGB 80101試験 (ECF vs FU/LV) では、3年OSが50%で両群間に差はなかった。韓国の ARTIST 試験 (n=458, D2郭清後XP vs XP+RT+XP) では、全体での3年無病生存期間 (DFS) は78.2% vs 74.2% (p=0.0862) で有意差はなかったが、リンパ節陽性サブグループでは77.5% vs 72.3% (p=0.0365) と有意な改善が認められた (Lee et al. 2012)。進行中のDutch CRITICS (Chemoradiotherapy after Induction Chemotherapy in Cancer of the Stomach) 試験は、術後化学療法と化学放射線療法を比較している。
胃癌術後化学療法 (ACTS-GC, CLASSIC) の有効性: 日本のACTS-GC試験 (n=1059, Stage II-III GC、D2郭清後) では、S-1 1年投与群と手術単独群を比較し、5年OSが71.7% vs 61.1% (HR 0.67; 95% CI 0.54-0.83) とS-1群で有意な改善を認めた (Sasako et al. 2011) (Table 1)。アジアのCLASSIC試験 (n=1035, D2郭清後) では、カペシタビン + オキサリプラチン (XP) 6ヶ月投与群と手術単独群を比較し、3年DFSが74% vs 59% (HR 0.56; 95% CI 0.44-0.72) とXP群で有意な改善を認めた (Bang et al. 2012) (Table 1)。メタ解析でも、術後化学療法により死亡リスクが15-18%減少し、地域間の異質性は認められなかった。
バイオマーカーと個別化治療の進展: Cancer et al. Nature 2014 による胃癌の4分子サブタイプ (EBV陽性、MSI、genomically stable、CIN) の同定は、個別化治療の基盤を構築しつつある。HER2過剰発現はToGA試験でトラスツズマブの有効性が示されており (Bang et al. 2010)、ERCC1 mRNA発現はプラチナ感受性予測に有用である可能性がSouthwest Oncology Group (SWOG) 0536試験で示唆された (Leichman et al. 2011)。シグネットリング細胞型/diffuse型とintestinal型の予後および治療反応性の違いも注目されており、FFCD 1103試験が進行中である。RTOG 1010試験はHER2陽性食道癌へのトラスツズマブ追加効果を検証中であり、CALGB 80803試験は[18F]フルオロデオキシグルコース (FDG-PET) による治療中抵抗性評価とdoublet switch戦略を検証している。これらの研究は、分子プロファイリングに基づく個別化治療の必要性を強く示唆している。
進行胃癌における病期診断と腹腔鏡検査の有用性: 局所進行胃癌の術前治療を決定する上で、正確な病期分類 (staging) が極めて重要である。CT検査や内視鏡超音波 (EUS: endoscopic ultrasonography) に加え、診断的腹腔鏡検査 (staging laparoscopy) を実施することで、非侵襲的画像診断では検出困難な腹膜播種や細胞診陽性 (CY1) 症例を約20%から25%の割合で同定可能である。これにより、根治切除不能なM1症例に対する不要な拡大手術を回避し、適切な全身化学療法や低侵襲治療への移行が可能となる。
考察/結論
先行研究との違い: 本総説は、胃癌・食道癌・GEJ癌を一括して扱う従来の「lump (一括り)」アプローチと異なり、組織型や発生部位、分子プロファイルに基づく「split (層別化)」戦略の必要性を体系的に提示した点で、これまでの単一疾患を対象としたレビューと大きく異なる。特に、CROSS試験やMAGIC試験などの主要な第III相試験のデータを横断的に比較し、不均一な患者群を対象とした試験デザインが結果の不一致や治療効果の不明瞭さを招く要因であることを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、胃癌・食道癌・GEJ癌の周術期治療における主要な論争点を網羅的に整理し、個別化治療に向けた具体的なロードマップを提示した。特に、Cancer et al. Nature 2014 による4つの分子サブタイプ分類や、HER2、ERCC1などのバイオマーカーを臨床試験デザインに統合する重要性を新規に強調している。
臨床応用: 本知見は、実臨床における治療選択の最適化に直結する。臨床的意義として、食道腺癌およびGEJ癌においてはCROSS試験に基づく術前CRTが標準治療として推奨され、胃癌においてはD2郭清を前提とした周術期化学療法 (MAGIC/FFCD 9703) または術後化学療法 (ACTS-GC/CLASSIC) が標準治療として位置づけられる。また、D2郭清が不十分な症例においては、INT 0116試験に基づく術後CRTが依然として有用な選択肢となる。臨床現場においては、内視鏡超音波 (EUS)、PET、および診断的腹腔鏡を用いた正確な病期診断と、HER2や組織型 (印環細胞癌 vs 腺癌) の評価が不可欠である。
残された課題: 今後の検討課題として、GEJ腺癌における術前CRTと周術期化学療法の直接比較 (Irish MAGIC vs CROSS試験: NCT01726452)、HER2陽性食道癌に対するトラスツズマブ追加の有用性 (RTOG 1010試験)、およびFDG-PETを用いた治療反応性適応治療 (CALGB 80803試験) の結果検証が挙げられる。Limitationとして、本レビューは特定の検索データベースや選択基準を明示した系統的レビューではないため、文献選択におけるバイアスの可能性が残されている。今後は、分子サブタイプに基づく個別化治療の確立と、免疫チェックポイント阻害薬の周術期治療への統合に向けた臨床試験の実施が期待される。
方法
本稿は、局所および局所進行胃癌・食道癌・GEJ癌の治療における主要な論争点を体系的にレビューした総説である。特定の検索式は明示されていないが、主要な医学データベースである PubMed、Embase、および Cochrane Library を用いて関連する第III相無作為化比較試験の結果を詳細に分析し、そのエビデンスレベルを評価している。本レビューは、これらの試験結果を比較検討し、異なる組織型 (扁平上皮癌 vs 腺癌、diffuse型 vs intestinal型) や腫瘍部位 (食道、GEJ、胃) の生物学的異質性が治療反応性に与える影響を考察している。
具体的には、以下の主要な治療モダリティと論点に関する臨床試験が取り上げられている。
- 食道癌の術前治療: 術前化学療法 (INT 0113, MRC OEO2, FFCD試験) と術前化学放射線療法 (Walsh et al. 1996, CALGB 9781, Dutch CROSS試験) の比較と、それぞれの有効性および組織型による差異の検討。
- 胃癌のリンパ節郭清: D1郭清とD2郭清の比較に関するDutch Gastric Cancer Trialの15年追跡結果およびメタ解析の評価。Union for International Cancer Control/AJCCガイドラインにおけるリンパ節郭清の推奨事項の検討。
- 胃癌の周術期化学療法: MAGIC (Medical Research Council Adjuvant Gastric Infusional Chemotherapy) 試験 (Cunningham et al. 2006), FFCD (Federation Francophone de Cancerologie Digestive) 9703試験 (Ychou et al. 2011), EORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer) 40954試験の結果を基にした周術期化学療法の有効性と完遂率の分析。
- 胃癌の術後治療: 術後化学放射線療法 (INT 0116, CALGB 80101, ARTIST (Adjuvant Chemoradiotherapy Therapy in Stomach Cancer) 試験) と術後化学療法 (ACTS-GC (Adjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric Cancer) 試験, CLASSIC (Capecitabine and Oxapiplatin Adjuvant Study in Stomach Cancer) 試験) の比較、およびD2郭清後の治療選択に関する議論。
- バイオマーカーと個別化治療: Cancer et al. Nature 2014 による胃癌の4分子サブタイプ分類、HER2過剰発現、ERCC1 (excision repair cross-complementation group 1) mRNA発現、シグネットリング細胞型などのバイオマーカーが治療選択に与える影響の検討。RTOG (Radiation Therapy Oncology Group) 1010試験やCALGB (Cancer and Leukemia Group B) 80803試験など、進行中の臨床試験の概要も含まれる。
本レビューでは、患者登録不良 (poor accrual) により早期終了した試験の教訓や、多職種コンセンサスの重要性についても言及している。統計手法については、各試験で Kaplan-Meier 曲線による生存解析や Cox regression (コックス回帰) モデルを用いたハザード比 (HR) の算出が用いられているが、本レビュー自体はメタ解析ではないため、個別の統計解析は実施していない。文献検索は PubMed、Embase、Cochrane Library などの主要な医学データベースを用いて実施されたと推測され、特定の期間に限定せず関連性の高い文献が網羅的に収集されたと考えられる。