- 著者: Milon de Jong, Myrthe Veth, Tereza Brachtlová, Lisa A King, José Saura-Esteller, Tamara M Bechler, Pauline M van Helden, Canan Alhan, Roeland Lameris, Tanja D de Gruijl, Hans J van der Vliet
- Corresponding author: Hans J van der Vliet (Amsterdam UMC, Vrije Universiteit Amsterdam)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- DOI: 10.1136/jitc-2025-013127
背景
Vγ9Vδ2-T細胞はヒト末梢血T細胞の1-10%を占める自然免疫様リンパ球サブセットであり、腫瘍細胞の代謝異常に伴って蓄積するホスホ抗原 (pAgs: phosphoantigens) をブチロフィリン2A1/3A1複合体を介して認識し、MHC非依存的に多様ながん種を殺傷する能力を持つ。腫瘍浸潤および末梢血中のVγ9Vδ2-T細胞頻度が複数の悪性腫瘍において臨床転帰と正相関することが示されており、治療標的として注目されている。同グループは以前、CD1d (cluster of differentiation 1d; MHCクラスI様脂質抗原提示分子) およびVδ2-TCR鎖に対する二重特異性T細胞エンゲージャー (bsTCE: bispecific T-cell engager) を開発し、多発性骨髄腫 (MM: multiple myeloma) および急性骨髄性白血病 (AML: acute myeloid leukemia) モデルでVγ9Vδ2-T細胞とtype 1 NKT (natural killer T) 細胞の両方を活性化し強力な抗腫瘍応答を誘導することを示した (Madsen et al. TrendsCancer 2026)。一方、CD3標的bsTCEは B細胞悪性腫瘍で顕著な臨床効果を示しているが、サイトカイン放出症候群 (CRS) ・神経毒性・腫瘍外毒性が問題となっており、制御性T細胞 (Tregs) の同時活性化による治療効果の減弱も課題とされている (Wermke et al. NatMed 2026)。Vγ9Vδ2-T細胞やtype 1 NKT細胞などの自然免疫様T細胞サブセットを選択的に活性化する戦略は、これらの毒性を回避しながら有効性を維持できる可能性を有する。しかし、骨髄異形成症候群 (MDS: myelodysplastic syndromes) や高齢のMM患者では加齢・疾患・前治療によるVγ9Vδ2-T細胞数の減少が認められており、bsTCE療法に組み合わせてこれらの細胞を数的・機能的に増強する薬剤の同定が重要な課題として残されていた (Mikkilineni et al. NatRevClinOncol 2021)。CD1d-Vδ2 bsTCEとMM/AML/MDS標準治療薬の組み合わせがVγ9Vδ2-T細胞の抗腫瘍活性に与える影響は未解明であり、最適な併用療法を確立するために必要な知識が根本的に不足しており、このことがCD1d-Vδ2 bsTCE療法の臨床開発における重要な障壁となっていた。
目的
MM、AML、MDSの標準治療薬がCD1d-Vδ2 bsTCE誘導Vγ9Vδ2-T細胞の抗腫瘍活性に与える影響を系統的に評価し、相乗的増強効果を持つ薬剤を同定して、その作用機序を解明すること。特に、免疫調節薬 (IMiD: immunomodulatory drug) レナリドミドのVγ9Vδ2-T細胞機能に対する効果とその分子機序を詳細に検討し、MDS患者検体でのTranslationalな意義を示すこと。
結果
レナリドミドはCD1d-Vδ2 bsTCEとの相乗的抗腫瘍活性および細胞傷害機能増強を示す:
MM・AML/MDS標準治療薬とCD1d-Vδ2 bsTCEをチェッカーボード形式で組み合わせたBliss Independence modelによる相乗性評価において、ボルテゾミブは全濃度域で拮抗作用、ダラツムマブはEC50超の濃度で拮抗、アザシチジン・ベネトクラクス・デキサメタゾンは相加効果を示した (Fig 1A, Fig S1)。一方、IMiDのレナリドミド (lenalidomide, LEN) はCD1d-Vδ2 bsTCEとの組み合わせで最大Bliss相乗スコア19.3 (1.5 pM bsTCE + 1.25 μM LEN) を示し、bsTCEがサブ最適濃度 (EC50未満) のときに特に顕著な相乗効果を発揮した (Fig 1B)。LEN前処理 (1 μM、72時間; 経口25 mg/日の臨床関連濃度) PBMCとCD1d+MM細胞およびCD1d-Vδ2 bsTCEとの18時間共培養では、Vγ9Vδ2-T細胞の活性化 (CD25アップレギュレーション, Fig 1C)、脱顆粒 (CD107aアップレギュレーション; Fig 1D) およびグランザイムB分泌 (Fig 1E) が有意に増強され、CD1d+MM細胞傷害も有意に増大した (Fig 1F)。LEN単独ではこれらの変化は認められなかった。さらにLEN前処理PBMCにCD1d-Vδ2 bsTCE刺激を与えると、Vγ9Vδ2-T細胞でのIL-2産生が選択的に増強され (Fig 1G)、精製Vγ9Vδ2-T細胞の48時間培養においてもIL-2、TNF、IFNγ分泌がbsTCE濃度依存的に有意に増強された一方でIL-10分泌は減少した (Fig 1H)。IL-6は検出されず、TregsはbsTCE+LEN処理でも活性化・増殖しなかった。
CD1d-Vδ2 bsTCE+レナリドミドはVγ9Vδ2-T細胞増殖を30.8倍まで増強する:
PBMC、CD1d+MM細胞、CD1d-Vδ2 bsTCE (10 nM)、LEN (1 μM) の7日間共培養においてVγ9Vδ2-T細胞の増殖を評価した。CD1d-Vδ2 bsTCE単独でもKi-67発現・CFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 希釈・Vγ9Vδ2-T細胞の8.3±41.6倍 (中央値±IQR) の増殖を誘導したが、LEN共処理により増殖は30.8±73.6倍 (中央値±IQR) へと統計学的に有意に増強された (p<0.0001, n=39; Fig 2A,B)。type 1 NKT細胞の増殖もLEN共処理により増強された (Fig S4A)。表現型解析では、bsTCE+LEN処理Vγ9Vδ2-T細胞はCD25・HLA-DRおよびアゴニスト受容体DNAM-1 (DNAX Accessory Molecule-1) の発現が高く、終末分化マーカーCD57は有意に低下し (Fig 2C)、セントラルメモリー表現型を主体とした分布を示した (Fig 2D)。PD-1・NKG2A発現は上昇したが、これは疲弊ではなく活性化を反映していると考えられ、再刺激 (C1R.CD1d細胞) でのVγ9Vδ2-T細胞の脱顆粒と腫瘍細胞傷害能が維持されることによって確認された (Fig 2E)。またbsTCE+LEN処理によりVγ9Vδ2-T細胞にCD4弱発現 (CD4dim: 活性化により誘導されるCD4を弱発現する表現型) が誘導されたが (Fig 2F,G)、CD4+/CD8+/CD4-CD8- 各サブセット間でTNF・IFNγ産生比率に差はなく (Fig 2H)、機能的均一性が維持されていた。
CD28リン酸化・Notchシグナリング・IL-2放出がレナリドミドの免疫増強機序の三本柱:
LEN存在下でのVγ9Vδ2-T細胞増殖増強機序を解析した。まずIL-2の役割をIL-2中和抗体 (抗IL-2抗体 10 μg/mL) で検討したところ、IL-2中和はbsTCE±LEN条件でVγ9Vδ2-T細胞増殖を完全に消失させた (Fig 3A)。しかし外来性IL-2 (100 IU/mL rhIL-2) 添加下でもLENはさらなる増殖増強効果を示し (Fig 3B)、IL-2以外の機序の存在が示唆された。フォスフォフローサイトメトリーにより、LENはVγ9+T細胞でチロシン218番 (Tyr218: Tyrosine 218) のCD28リン酸化を15分以内に誘導し、CD1d-Vδ2 bsTCE共存下では顕著に増強されることが確認された (Fig 3C)。CTLA-4 Ig (アバタセプト 10 μg/mL) によるCD28リガンド結合阻害はbsTCE単独条件でのVγ9Vδ2-T細胞増殖とIL-2分泌を抑制したが、LEN+bsTCE条件ではCTLA-4 Ig抑制をLENが克服し増殖とIL-2産生が維持された (Fig 3D,E)。これはLENが細胞外CD28リガンド依存性を迂回し、細胞内CD28を直接リン酸化することを示している。Notchシグナリングの役割はqPCR解析により確認され、LEN処理Vγ9Vδ2-T細胞でNotch下流標的遺伝子 Hes1 (Hairy and Enhancer of Split 1) のmRNA発現が有意に上昇した (Fig 3F)。γ-セクレターゼ阻害薬 (GSI: gamma-secretase inhibitor) RO429097 (10 μM) およびNotch転写複合体活性化阻害薬CB-103 (10 μg/mL) はbsTCE単独およびbsTCE+LEN条件でのVγ9Vδ2-T細胞増殖とIL-2産生を減弱させ (Fig 3G,H)、さらにCTLA-4 Ig+Notch阻害の組み合わせではLENの補償効果が失われた (Fig 3I,J)。これらの結果はLENがCD28細胞内リン酸化・Notchシグナリング・IL-2放出の三経路を介してVγ9Vδ2-T細胞エフェクター機能を増強することを示している。
MDS患者骨髄検体においてレナリドミドはVγ9Vδ2-T細胞増殖を可能にする:
LEN未治療MDS患者 (n=5) およびLEN維持療法中患者 (n=3; 5-10 mg/日) の末梢血Vγ9Vδ2-T細胞頻度は、LEN未治療群1.04%±0.52 vs LEN曝露群4.71%±6.08 (mean±SD) と健常者範囲内であり (Fig 4A)、免疫チェックポイント発現 (PD-1・TIGIT・TIM-3) は両群で低く、LEN曝露の有無で有意差はなかった (Fig 4B)。MDS患者PBMC検体ではCD1d-Vδ2 bsTCEがVγ9Vδ2-T細胞の活性化と増殖を誘導し、LEN共処理でさらに増強された (Fig 4D,E)。骨髄単核球 (BMMC: bone marrow mononuclear cells) 検体では骨髄内Vγ9Vδ2-T細胞頻度は0.49%±0.44% (total T cells中) と低く (Fig 4F)、bsTCE単独では7日間培養でVγ9Vδ2-T細胞増殖は認められなかった (Fig 4G,H)。しかしLEN共処理によりCD1d-Vδ2 bsTCE誘導Vγ9Vδ2-T細胞の活性化と増殖が可能となった。さらにMDS患者由来BMMCとアロジェニックVγ9Vδ2-T細胞の一夜共培養において、CD1d-Vδ2 bsTCEはCD1d+MDS芽球の強力な溶解を誘導した (Fig 4I-K)。これらの結果はLENがMDS骨髄微小環境においてVγ9Vδ2-T細胞を機能的に救済し増殖可能とすることを示している。
考察/結論
本研究は、MM・AML・MDSに対する標準治療薬とCD1d-Vδ2 bsTCEの網羅的な相互作用評価を行い、IMiDレナリドミドが顕著な相乗的免疫増強効果を示すことを発見した。① 先行研究との違いとして、CD3標的bsTCEは臨床的に優れた成績を示す一方でCRS・神経毒性・Treg同時活性化による治療効果減弱が問題とされてきたのと異なり、CD1d-Vδ2 bsTCEはVγ9Vδ2-T細胞とtype 1 NKT細胞を選択的に活性化しIL-6産生やTreg増殖を誘導しないため、安全性プロファイルが優れていることが示された。また、IMiDがαβ-T細胞のIL-2産生やCD28シグナリングを増強することは既知であったが、② 新規に同機序がVγ9Vδ2-T細胞にも及ぶことが初めて示された。特にLENによるVγ9Vδ2-T細胞のCD28細胞内Tyr218リン酸化誘導、Hes1発現亢進によるNotch活性化、これらを介したIL-2放出の増強という三段階の機序の解明は本研究固有の成果である。LENはセレブロン (CRBN: cereblon) を介してIkaros (IKZF1) /Aiolos (IKZF3) を分解しNotchシグナルとIL-2発現を脱抑制するとされており、この機序がVγ9Vδ2-T細胞にも共通することが示された。さらにMDS骨髄微小環境においてVγ9Vδ2-T細胞がbsTCE単独では増殖できないという問題をLEN共処理が解決できることは、del(5q)の有無にかかわらずMDS患者への③ 臨床応用に向けた重要な根拠を提供する。LENはすでにMM・del(5q) MDS・複数のリンパ腫で承認されており、CD1d-Vδ2 bsTCEとの併用は既存薬活用として速やかに臨床試験設計が可能である。実際にCD3-bsTCEとLEN併用はMM対象の複数フェーズ3試験で検討されており、本研究はその成功を自然免疫様T細胞エンゲージャー療法に拡張する科学的根拠を与える。④ 残された課題として、in vitroおよびMDS患者検体での有望な結果をin vivo動物モデルおよび臨床試験で検証する必要がある。また、LENのカゼインキナーゼ1α (CK1α: casein kinase 1A1) 分解を介したdel(5q) MDS芽球アポトーシス誘導作用と本研究で示した免疫増強効果が in vivo環境でどのように統合されるかは今後の検討課題である。bsTCE+LEN療法における最適用量・スケジュール・抵抗性機序の解明も今後の研究が必要であり、骨髄微小環境でのVγ9Vδ2-T細胞疲弊や免疫チェックポイント発現増加への対策も検討すべき重要な問題として残される。
方法
研究デザイン: 前臨床in vitro試験。健常ドナー末梢血単核球 (PBMC) およびMDS患者PBMC・骨髄単核球 (BMMC) を用いた細胞機能アッセイ。
細胞株・試薬: MM.1s.CD1d (CD1d強制発現MM細胞株)、MOLM-13 (AML細胞株)、C1R.CD1d細胞株。CD1d-Vδ2 bsTCE (LAVA Therapeutics製)。LEN (Sigma-Aldrich; 1 μM)。ボルテゾミブ、デキサメタゾン、ダラツムマブ、アザシチジン、ベネトクラクス (MedChemExpress)。阻害薬:アバタセプト (CTLA-4 Ig)、CB-103 (Notch転写複合体阻害)、RO429097 (GSI)、ラパマイシン (mTOR阻害)。
細胞傷害・活性化アッセイ: 48時間共培養、フローサイトメトリーによる生腫瘍細胞定量 (123 counting eBeads)、Bliss Independence modelで相乗性評価 (SynergyFinder Rパッケージ)。
増殖・表現型アッセイ: 7日間共培養、Ki-67染色・CFSE希釈・eBeads定量による細胞数計測。フォスフォフローサイトメトリーで CD28 Tyr218リン酸化を評価。
Notchシグナリング評価: Hes1 mRNA発現をqPCR (Roche LightCycler 480, GAPDH正規化, ΔΔCt法) で定量。
MDS患者検体: LEN未治療5例・LEN曝露3例のPBMC、5例のBMMC。倫理承認: Medical Ethical Committee Amsterdam UMC (ref. 2018.104)。
統計解析: paired t-test、一元配置ANOVA + Tukey検定、二元配置ANOVA + Šídák検定、GraphPad Prism V.10.2.0。p≤0.05を有意とした。