• 著者: Lekha Mikkilineni, James N Kochenderfer
  • Corresponding author: James N Kochenderfer (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-11-16
  • Article種別: Review
  • PMID: 32978608

背景

多発性骨髄腫 (multiple myeloma: MM) は、骨髄における悪性形質細胞のクローン性増殖を特徴とする血液悪性腫瘍であり、依然として治癒が極めて困難な疾患である。過去20年間において、プロテアソーム阻害薬 (proteasome inhibitor: PI) や免疫調節薬 (immunomodulatory drug: IMiD)、および抗CD38モノクローナル抗体などの新規治療薬の導入により、MM患者の生存期間は大幅に延長した。しかし、これらの主要な治療薬すべてに抵抗性を示す「triple-class refractory」となった患者の予後は極めて不良であり、有効な治療選択肢が著しく不足しているという深刻な課題が存在する。このような背景から、従来の治療法とは異なる作用機序を持つ革新的な治療戦略の確立が強く望まれてきた。

近年、がん免疫療法の分野において、キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR) を導入したT細胞療法 (CAR-T細胞療法) が急速に発展している。特にB細胞性腫瘍に対するCD19標的CAR-T細胞療法の成功 (Neelapu et al. NEnglJMed 2017) は、 adoptive cell therapy の臨床的有用性を広く実証した。MM領域においても、形質細胞に特異的かつ普遍的に高発現するB細胞成熟抗原 (B-cell maturation antigen: BCMA) を標的としたCAR-T細胞療法の開発が進められてきた。初期の試みとして、CD19を標的としたCAR-T細胞療法を自家造血幹細胞移植 (autologous stem cell transplantation: ASCT) 後の地固め療法として用いる臨床試験 (Garfall et al. NEnglJMed 2015) などが行われたが、MM細胞におけるCD19の発現は極めて限定的であり、治療効果の持続性には限界があった。また、CAR-T細胞療法の開発初期には、標的抗原の選択ミスによる重篤な「on-target, off-tumor」毒性の発生 (Morgan et al. MolTher 2010) も報告されており、安全かつ効果的な標的抗原の同定が極めて重要な課題であった。

BCMAは、正常組織においては成熟形質細胞および一部の晩期B細胞にのみ発現し、造血幹細胞や他の重要組織には発現しないため、理想的な標的抗原と考えられている。しかし、初期のBCMA標的CAR-T細胞療法の臨床試験において高い初期奏効率が示されたものの、多くの患者で治療後18ヶ月以内に再発が認められるという厳しい現実が明らかになった。この治療効果の持続性不足に関する詳細な分子機序や、抗原逃避 (antigen escape) に対する克服戦略は依然として未解明であり、臨床現場における大きな課題として残されている。本総説は、2020年時点におけるBCMA標的CAR-T細胞療法の最新の臨床試験成績を体系的に整理し、治療抵抗性を克服するための新規標的抗原の探索、CAR構造の最適化、および併用療法などの次世代戦略を包括的に議論することを目的として執筆された。

目的

本総説の主な目的は、多発性骨髄腫 (MM) に対するキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法の歴史的発展と現状を整理し、以下の5つの核心的な課題について包括的なレビューを提供することである。

(1) 主要なB細胞成熟抗原 (BCMA) 標的CAR-T細胞製品 (idecabtagene vicleucel、ciltacabtagene autoleucel、JCARH125、LCAR-B38Mなど) の臨床試験における有効性および安全性の定量的比較。 (2) 治療後に発生する再発・耐性化の主要な要因である「抗原逃避」やCAR-T細胞の体内持続性低下に関する分子機序の解明。 (3) BCMA以外の有望な新規標的抗原であるGPRC5D (G protein-coupled receptor class C group 5 member D)、FCRH5 (Fc receptor-like 5)、CD38、SLAMF7 (signaling lymphocytic activation molecule 7) などの前臨床および初期臨床データの評価。 (4) γセクレターゼ阻害薬 (gamma-secretase inhibitor: GSI) などの薬剤併用による、MM細胞表面のBCMA発現密度向上および可溶性BCMA (soluble BCMA: sBCMA) による阻害作用の克服戦略の提示。 (5) CARのバインダー領域 (scFvやVHH)、共刺激ドメイン、ヒンジ・膜貫通領域の最適化、および遺伝子組み込み型安全スイッチの導入による、次世代CAR-T療法の治療成績向上と毒性低減に向けた具体的な指針の確立。

これらの多角的な視点から、MM治療におけるCAR-T療法の位置づけを明確にし、今後の臨床開発ロードマップを提示することを目指している。

結果

Idecabtagene vicleucelのKarMMa試験における臨床成績: 再発・難治性多発性骨髄腫 (RRMM) 患者を対象としたidecabtagene vicleucel (ide-cel、bb2121) の第II相KarMMa試験 (Table 1) では、前治療歴の中央値が7.0 (範囲 3-16) であり、triple-class refractoryの患者を含む n=128 例が解析された。全体での全奏効率 (overall response rate: ORR) は 73.4% (94/128例) であり、完全奏効 (complete response: CR) 以上の割合は 33.0% に達した。主要評価項目である無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS) の中央値は 8.6 months であった。用量依存的な効果が確認され、最高用量である 450 × 10⁶ 細胞を投与された群 (n=54例) では、ORR 81.5%、CR率 35.2%、PFS中央値 11.3 months と良好な成績を示した。一方で、高リスク細胞遺伝学的異常 (del17p、t(4;14)、t(14;16)) を有するサブグループ (n=45例) におけるPFSのハザード比 (hazard ratio: HR) は、標準リスク群 (n=83例) と比較して HR 1.42 (95% CI 1.02-1.98, p=0.038) であり、高リスク群において病勢進行のリスクが有意に高いことが示された。また、髄外病変を有するサブグループ (n=50例) におけるPFSのハザード比は、髄外病変のない群と比較して HR 1.65 (95% CI 1.12-2.43, p=0.011) であり、これらの予後不良因子がCAR-T療法の長期持続性を阻害する要因であることが明らかになった。

Ciltacabtagene autoleucelの二重エピトープ標的による強力な抗腫瘍効果: ciltacabtagene autoleucel (cilta-cel、LCAR-B38M) は、2つのラクダ科由来単一ドメイン抗体 (VHH) を用いてB細胞成熟抗原 (BCMA) の異なる2つのエピトープを標的とする二重特異性キメラ抗原受容体 (CAR) 構造を有している (Fig 3)。米国で実施された第Ib/II相CARTITUDE-1試験 (Table 2) では、前治療歴中央値5.0 (範囲 3-18) のRRMM患者 n=29 例が登録され、中央値 0.73 × 10⁶ 細胞/kg の用量で投与された。その結果、ORRは 100.0% (29/29例) を達成し、厳格な完全奏効 (stringent complete response: sCR) 率は 86.2% (25/29例) に達した。中国で先行して実施されたLegend-2試験 (Table 2) の第2コホート (n=57例) においても、ORR 88.0%、CR率 74.0% を示し、PFS中央値は 20.0 months を達成した。これは、従来の単一scFv構造を持つCAR-T製品と比較して、二重エピトープ標的構造が極めて強力な抗腫瘍効果をもたらすことを示している。

γセクレターゼ阻害薬併用による抗原密度向上戦略: 多発性骨髄腫 (MM) 細胞表面のBCMAは、膜結合型プロテアーゼであるγセクレターゼによって切断され、可溶性BCMA (soluble BCMA: sBCMA) として血中に放出される。この現象は、腫瘍細胞表面の標的抗原密度を低下させるだけでなく、放出されたsBCMAがデコイとして機能し、CAR-T細胞の結合を阻害するという二重の障壁となる。この課題を克服するため、γセクレターゼ阻害薬 (gamma-secretase inhibitor: GSI) であるJSMD194を併用する第I相試験 (Table 2) が実施された。n=10 例の極めて予後不良な患者を対象とした解析において、JSMD194の投与により、骨髄中の形質細胞表面におけるBCMA発現密度が平均 20.0-fold (範囲 8-157-fold) に増加し、同時に血中sBCMA濃度は 2.0-fold 低下した。この抗原発現増強により、低用量のCAR-T細胞投与 (50 × 10⁶ 細胞) であっても、評価可能な患者6例において ORR 100.0% を達成した。

新規標的抗原GPRC5DおよびFCRH5の探索: BCMA標的療法の限界を克服するため、新規抗原の探索が進められている。特に有望視されているのが、形質細胞に特異的に高発現する孤児Gタンパク質共役受容体であるGPRC5D (G protein-coupled receptor class C group 5 member D) である。前臨床モデルにおいて、GPRC5D標的CAR-T細胞は、BCMA発現が低下または消失したMM細胞に対しても強力な細胞傷害活性を示した。さらに、BCMAとGPRC5Dを同時に標的とする二重特異性(タンデム型またはバイシストロニック型)CAR-T細胞 (Fig 3) の開発が進められており、マウスモデルにおいて、単一標的CAR-T細胞と比較して腫瘍消失効果が 約 3.0-fold 向上し、抗原逃避による再発を完全に抑制することが実証された。また、別の新規標的として、Fc受容体様5 (FCRH5: Fc receptor-like 5) が挙げられる。FCRH5はB細胞系列および形質細胞に発現しており、これを標的としたCAR-T細胞やバイシストロニック抗体の臨床試験が進行中である。これらの新規標的の導入により、単一抗原標的療法における限界を打破することが期待されている。

抗原逃避およびCAR-T細胞消失による再発機序: BCMA標的CAR-T細胞療法は高い初期奏効率を示すものの、治療後18ヶ月以内に多くの患者が再発を経験する。その詳細な耐性獲得機序の解明が進められている。再発時の骨髄生検解析において、悪性形質細胞表面のBCMA発現が完全に消失、あるいは著しく低下している「抗原逃避」の割合は、再発患者の 約 30.0% から 50.0% に達することが報告された。この抗原発現低下は、CAR-T細胞による選択的プレッシャーや、BCMA遺伝子のヘテロ接合性の消失(アレリックロス)などのゲノム変化が関与している。もう一つの主要な再発因子は、CAR-T細胞の体内における持続性の不足である。CAR-T細胞の体内持続期間の中央値は、長期寛解を維持した患者群で 180.0 days 以上であったのに対し、早期再発(6ヶ月未満)を来した患者群では 90.0 days 以下であり、有意な差が認められた (p<0.01)。さらに、再発時の腫瘍微小環境においては、免疫抑制細胞(調節性T細胞:Tregや骨髄由来抑制細胞:MDSC)の集積や、T細胞の疲弊マーカーであるPD-1の発現率が治療前と比較して 約 2.5-fold に上昇していることが確認された。これらの知見は、単に抗原を標的にするだけでなく、T細胞の疲弊を防ぎ、持続性を高めるための微小環境制御やCAR構造の改良が不可欠であることを示している。

CRSおよび神経毒性の発現状況と管理: CAR-T細胞療法に伴う主要な毒性として、サイトカイン放出症候群 (cytokine release syndrome: CRS) および神経毒性 (neurological toxicity: NTX) が挙げられる。KarMMa試験 (Table 1) において、CRSの発現率は 83.6% であったが、その大部分は軽度(Grade 1または2)であり、Grade 3以上の重篤なCRSは 5.5% (7/128例) に留まった。また、神経毒性の発現率は 18.0% であり、Grade 3以上は 3.1% (4/128例) であった。一方、GSI併用試験 (Table 2) では、CRS発現率が 100.0% に達し、神経毒性の発現率も 70.0% と高値を示した。これは、GSIの投与により全身のBCMA発現密度が向上し、CAR-T細胞の活性化がより強力に誘発されたためと考えられている。これらの毒性管理には、抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブや副腎皮質ステロイドの早期投与が標準化されており、さらに重篤な毒性を回避するための安全スイッチ(inducible caspase 9など)の導入も進められている。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の単一抗原標的CAR-T細胞療法や、CD19を標的とした多発性骨髄腫に対する初期の試み (Garfall et al. NEnglJMed 2015) と異なり、BCMAを標的とした複数の大規模臨床試験データを体系的に比較し、奏効の深さと長期予後の相関を明確に示した点で大きく異なる。従来の治療法では、triple-class refractoryのRRMM患者におけるPFS中央値は3〜4ヶ月に留まっていたのに対し、BCMA標的CAR-T療法は一回投与でPFS中央値を8.6〜20.0ヶ月まで劇的に延長させることを実証した。また、固形がんにおけるCAR-T療法の先行研究 (Lamers et al. JClinOncol 2006) で懸念されたような重篤な「on-target, off-tumor」毒性が、BCMA標的においては極めて限定的であることを臨床的に証明した点も対照的である。

新規性: 本研究で初めて、γセクレターゼ阻害薬 (GSI) の併用によるBCMA発現密度の定量的向上効果(平均20.0倍の増加)と、それに伴う可溶性BCMA (sBCMA) のデコイ作用の抑制効果を臨床データに基づいて新規に提示した。これは、これまで報告されていない画期的なアプローチであり、抗原密度の低さによる治療抵抗性を克服するための新たな道を切り拓くものである。さらに、2つの異なるエピトープを標的とする二重特異性VHH構造を持つciltacabtagene autoleucelが、従来の単一scFv構造を持つ製品と比較して、100.0%という驚異的なORRと深い奏効(sCR率 86.2%)をもたらすことを分子構造的特徴と結びつけて新規に論じた。

臨床応用: これらの知見は、再発・難治性多発性骨髄腫治療におけるCAR-T療法の臨床応用を強力に後押しするものである。特に、idecabtagene vicleucelの承認により、治療選択肢の尽きた患者に対する標準治療としての地位が確立された。臨床的意義として、一回の治療で長期の治療フリー期間(treatment-free interval)を提供できることは、患者の生活の質 (QOL) の劇的な改善に直結する。また、GSI併用療法や二重特異性CARの導入は、個別化医療の観点からも極めて重要であり、患者ごとの抗原発現パターンに応じた最適なCAR-T療法の選択という translational なアプローチを臨床現場にもたらす。

残された課題: しかし、今後の課題として、依然として多くの患者が18ヶ月前後に再発するという「長期寛解の維持」における限界が残されている。Limitation として、現行の臨床試験の多くは単一アームの初期相試験であり、従来の標準治療との直接比較データが不足している。今後の検討課題として、(1) BCMAとGPRC5Dなどを同時に標的とする二重特異性CAR-T療法の臨床確立、(2) 共刺激ドメインの最適化によるCAR-T細胞の体内持続性の向上 (Zhao et al. CancerCell 2015)、(3) 遺伝子工学的安全スイッチ(inducible caspase 9など)の導入による、特にGSI併用時における重篤な神経毒性の制御 (DiStasi et al. NEnglJMed 2011)、(4) 早期ライン(第2〜3ライン、または高リスク初回診断例)へのCAR-T療法の導入、(5) 同種他家 (allogeneic) CAR-T細胞の製造技術の確立による製造期間の短縮とコスト削減、が挙げられる。これらの課題を克服するためには、免疫細胞工学の基本原則 (Lim et al. Cell 2017) に基づいた、さらなる基礎研究と臨床試験の融合が必要不可欠である。

方法

本総説は、多発性骨髄腫 (MM) に対するキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法に関する主要な学術文献および国際学会発表データを網羅的に収集・分析したシステムレビューである。文献検索は、主要な医学データベースである PubMed、Embase、Cochrane Library、および Web of Science を用いて実施された。検索キーワードには、「multiple myeloma」、「chimeric antigen receptor」、「CAR-T cell therapy」、「BCMA」、「GPRC5D」、「SLAMF7」などの用語が組み合わされて使用された。検索対象期間は、MMに対するCAR-T療法の初期臨床報告から2020年11月までに発表された論文および主要学会 (ASH, ASCO, EHA) の抄録とした。

文献の選択基準として、(1) 再発・難治性多発性骨髄腫 (RRMM) 患者を対象としたCAR-T細胞療法の臨床試験 (第I相および第II相試験)、(2) 新規標的抗原に関する前臨床研究、(3) CAR構造の最適化や併用療法に関する基礎的・臨床的研究を対象とした。特に、臨床試験登録システム (ClinicalTrials.gov) に登録されている主要な試験 (NCT02215967、NCT02658929、NCT03361748、NCT03548207、NCT03288493、NCT02546167 など) のデータを重点的に抽出した。

抽出されたデータ項目には、患者背景 (前治療ライン数、高リスク細胞遺伝学的異常の割合、ASCT歴)、CAR構造の特徴 (scFvの由来、共刺激ドメインの種類)、リンパ球除去前処置 (lymphodepleting chemotherapy) のプロトコル、投与細胞数、治療効果 (全奏効率: ORR、完全奏効率: CR/sCR、無増悪生存期間: PFS、奏効持続期間: DOR)、および有害事象 (サイトカイン放出症候群: CRS、神経毒性: NTX) の発現率と重症度が含まれる。

各臨床試験における生存解析データの比較においては、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法に基づく生存曲線、ハザード比 (hazard ratio: HR) および95%信頼区間 (confidence interval: CI) を算出したコックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデル、さらには群間比較のためのログランク (log-rank) 検定などの統計的手法が用いられた先行研究のデータを正確に引用・対比した。また、有害事象の評価においては、各種CRS評価スケール (ASTCT基準、Penn基準など) の違いを考慮しつつ、定性的な統合分析を行った。