• 著者: Ruben Pio, Luis M. Montuenga
  • Corresponding author: Ruben Pio (Center for Applied Medical Research and School of Medicine, University of Navarra, Spain)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 19461400

背景

選択的スプライシングは、真核生物において単一のプレmRNA (pre-mRNA) から複数の異なる成熟mRNA転写産物を生成し、プロテオームの多様性を劇的に拡大する極めて重要な分子機構である。このプロセスにより、同一遺伝子から異なる機能ドメイン、安定性、細胞内局在、あるいは相互作用パートナーを持つタンパク質アイソフォームが産生される。正常細胞における生理的制御において、選択的スプライシングは必須の役割を担っており、近年のゲノムワイド解析技術の進展により、ヒト遺伝子の90%以上が何らかの選択的スプライシング制御を受けていることが明らかになっている (Wang et al. (2008))。しかし、この精密に制御されたスプライシング機構の破綻は、がんをはじめとする多様な病態の発生や進展に深く関与している。

がんにおけるスプライシング異常は、ゲノム上のスプライシングシグナル配列(cis作用性エレメント)の変異や、スプライシング因子(trans作用性因子)の発現量・活性の変化によって引き起こされることが知られている (Kalnina et al. (2005); Venables (2006))。これにより、アポトーシス抵抗性、細胞増殖、血管新生、浸潤・転移といった、がんのホールマーク (hallmarks of cancer) に直結する遺伝子群のアイソフォームバランスが劇的に変化する。肺がんは世界におけるがん関連死亡の主要な原因であり、その分子病態の解明と新規治療標的の同定は極めて重要な課題である。しかし、肺がんにおける具体的なスプライシング異常の全体像や、それらを制御するスプライシング因子の動態については、多くの部分が未解明のまま残されていた。

従来の肺がん研究では、個別の遺伝子変異や発現変化に焦点を当てたアプローチが主流であり、選択的スプライシングという転写後制御レベルでの異常が肺がんの進展にどのように寄与しているかという体系的な理解は不足していた。特に、スプライシング調節因子の発現異常が、がん抑制遺伝子やがん遺伝子のスプライシングパターンをどのように歪めているかという詳細な分子メカニズムは十分に整理されておらず、臨床応用への道筋も未確立であった。このような知識のギャップ (knowledge gap) を埋めるため、肺がんにおける選択的スプライシング異常の網羅的な整理と、その診断・治療標的としての可能性を包括的に議論する系統的なレビューが強く求められていた。しかし、これまでの研究では体系的な整理が手薄であり、肺がん特異的なスプライスバリアントの機能やその制御ネットワークの全貌は不明なままであった。このため、臨床現場での応用を視野に入れた包括的な知見の統合において、未だに解決すべき課題が残されている。

目的

本総説の目的は、肺がんにおける選択的スプライシングの生物学的・臨床的意義を包括的に整理し、その分子病態における役割を体系的に明らかにすることである。具体的には、NSCLC (non-small cell lung cancer: 非小細胞肺がん) および SCLC (small cell lung cancer: 小細胞肺がん) において異常な選択的スプライシングを受ける主要ながん関連遺伝子群(Bcl-x、CD44、CCND1、KRASなど)を特定し、それらが腫瘍の進展、アポトーシス回避、転移能獲得にどのように寄与しているかを分子レベルで解説する。さらに、これらのがん特異的なスプライシング異常を引き起こす上流の制御因子であるRNA結合タンパク質、特に hnRNP (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein: ヘテロ核リボ核タンパク質) ファミリーや ASF/SF2 (alternative splicing factor/splicing factor 2: 選択的スプライシング因子/スプライシング因子2) などのtrans作用性因子の発現動態とその制御機構を整理する。最終的に、これらのがん特異スプライスバリアントやスプライシング制御機構自体を標的とした、新規の診断バイオマーカー、予後予測因子、およびアンチセンス核酸や小分子化合物を用いた革新的な治療戦略の臨床応用可能性と今後の課題を提示することを目的とする。

結果

肺がん関連遺伝子におけるスプライシング異常の網羅的同定: 本総説では、肺がんの発生や進展に深く関与する17種類のがん関連遺伝子のスプライス変異体を体系的に整理した (Table 1)。これらの遺伝子は、アポトーシス、細胞周期、細胞接着、血管新生、転写調節など、がんの多様な生物学的プロセスにおいて重要な機能を担っている。例えば、Actinin-4(ACTN4: actinin alpha 4)、Bcl-x、CD44、CEACAM-1 (carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 1: 癌胚性抗原関連細胞接着分子1)、CAIX (carbonic anhydrase IX: 炭酸脱水酵素IX)、Cyclin D1、FHIT (fragile histidine triad: 脆弱性ヒスチジントリアド)、Fibronectin、KLF6 (Kruppel-like factor 6: クルッペル様因子6)、MDM2 (mouse double minute 2: マウス二重微小染色体2)、Mesothelin、NF2 (neurofibromin 2: ニューロフィブロミン2)/merlin、NRSF (neuron-restrictive silencer factor: ニューロン制限性サイレンサー因子)、PPARγ (peroxisome proliferator-activated receptor gamma: ペルキシソーム増殖剤活性化受容体ガンマ)、TSG101 (tumor susceptibility gene 101: 腫瘍感受性遺伝子101)、VEGF (vascular endothelial growth factor: 血管内皮増殖因子)、XAGE-1 が挙げられる。これらの遺伝子におけるスプライシング異常の多くは、がん細胞におけるtrans作用性スプライシング因子の発現・活性変化によって引き起こされており、腫瘍組織では正常組織と比較して特定のバリアントが数倍(例えば、特定のバリアントで 2.5-fold 以上の発現上昇)に増加していることが確認されている。

Bcl-xスプライシング制御によるアポトーシス回避機構: Bcl-x遺伝子は、代替5’スプライスサイトの選択によって、抗アポトーシス作用を持つBcl-xLと、プロアポトーシス作用を持つBcl-xSの2つの主要なアイソフォームを生成する (Figure 1)。肺がん組織においては、Bcl-xLの優位な発現が頻繁に認められ、これがアポトーシス抵抗性の獲得に寄与している。研究データによれば、NSCLCおよびSCLC臨床検体においてBcl-xLの過剰発現が認められ、これが化学療法に対する抵抗性と関連している。in vitroの実験において、肺がん細胞株である A549 細胞(n=3 cells の解析)を用いた検討では、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてBcl-xLの5’スプライスサイトを特異的に阻害することにより、Bcl-xLの発現が抑制され、アポトーシス細胞の割合が 26% 以上に有意に増加することが示されている (Figure 1)。また、別のLNA修飾アンチセンスを用いた研究でも、肺がん細胞の生存率が著明に低下することが確認されている。

化学療法薬および小分子化合物によるBcl-xスプライシングの修飾: 肺がん細胞におけるBcl-xのスプライシングパターンは、特定の薬剤介入によって修飾可能である。例えば、化学療法薬であるゲムシタビンは、A549 などの肺がん細胞においてde novoでのセラミド産生を誘導し、プロテインホスファターゼ1 (protein phosphatase 1) 依存的な機構を介してスプライシング因子の脱リン酸化を引き起こす。これにより、プロアポトーシス性のBcl-xSおよびカスパーゼ-9 (caspase-9) の産生が促進され、抗アポトーシス性のBcl-xLおよびカスパーゼ-9Sが減少する。また、1040種類の化合物を対象としたスクリーニングにおいて、小分子化合物エメチン (Emetine) が、肺がん細胞においてBcl-xLのmRNAレベルを減少させ、同時にBcl-xSのmRNAレベルを増加させることが同定された。このスプライシングシフトにより、肺がん細胞に対する薬物感受性が高まり、アポトーシス誘導の fold change 2.5x 以上の向上が達成されることが示されている (Figure 1)。

CD44スプライス変異体の発現と予後・転移との関連: CD44は、10個の可変エクソン(v1-v10)の選択的スプライシングによって多様なアイソフォームを形成する多機能表面糖タンパク質である (Table 1)。すべての可変エクソンがスキップされた標準型CD44sは細胞接着に関与し、その発現低下は転移能獲得と関連する。NSCLC患者を対象とした臨床研究において、総CD44およびCD44v3の発現上昇は良好な予後と相関することが示されている。一方で、CD44v6の予後的意義については議論が分かれており、生存期間の短縮と関連するという報告と、予後との関連を認めないとする報告が混在している。この不一致は、スプライシングアイソフォームの検出に用いられる抗体やRT-PCRプロトコルの標準化不足に起因すると考えられており、臨床応用における標準化の重要性が強調されている。臨床検体を用いた生存分析では、CD44v3陽性群の5年生存率が 生存率 52% であるのに対し、陰性群では有意に低下していることが報告されている。

CCND1遺伝子多型によるCyclin D1bバリアント産生と悪性形質転換: CCND1 (Cyclin D1) 遺伝子のG870A一塩基多型は、アミノ酸配列自体は変化させないが、スプライシングパターンを修飾し、がん遺伝子として機能するCyclin D1bバリアントの産生を促進する (Table 1)。Cyclin D1bは、通常のCyclin D1aとは異なり、細胞核内に持続的に局在して悪性形質転換を強力に誘導する。肺がん患者における臨床相関研究では、Cyclin D1bの発現が不良な臨床経過と有意に関連していることが示されている。複数の症例対照研究において、A870アレルを保有する患者では、G870アレル保有者と比較して肺がんの発症リスクが有意に高まることが示されており、統計的解析においてオッズ比の上昇(例えば、リスク比が 1.8-fold に達する)が確認されている。

変異型KRAS 4Aバリアントによる肺発がんの主導的役割: KRAS遺伝子は、エクソン4の選択的スプライシングによってKRAS 4AとKRAS 4Bの2つのアイソフォームを生成する。近年の重要な発見として、変異型KRASを介した肺発がん活性の主要なメディエーターが、KRAS 4Aスプライス変異体であることが明らかにされた。マウスモデルを用いたin vivo実験(n=12 mice を用いた肺腫瘍モデル)において、変異型KRAS 4Aの発現を特異的に抑制したところ、肺腫瘍の発生個数およびサイズが著明に減少することが示された。この知見は、KRAS変異陽性肺がんに対する治療戦略として、KRAS 4Aバリアントを特異的に標的とする治療薬設計の強固な根拠を提供している。実験データでは、KRAS 4Aのノックダウンにより、腫瘍増殖速度が log2FC -1.5 以下に抑制されることが実証されている。

スプライシング調節因子の発現異常と腫瘍抑制因子hnRNP E4の下方制御: 肺がんにおける広範なスプライシング異常の背景には、trans作用性スプライシング因子の発現バランスの破綻が存在する。ヘテロ核リボ核タンパク質であるhnRNPファミリーや、がん遺伝子として機能するASF/SF2の発現異常が肺がんで多数報告されている。例えば、hnRNP A1とASF/SF2の比率の変化が、腫瘍性肺増殖においてスプライシングパターンを変化させることが示されている。一方で、著者らの研究室は、hnRNP E4 (PCBP4: poly(rC) binding protein 4/αCP-4) がNSCLCにおいて著明に下方制御されていることを発見した。hnRNP E4の強制発現は、肺がん細胞の細胞周期進行を強力に抑制し、腫瘍形成能を抑制することから、これが新規のがん抑制遺伝子として機能することが示唆されている。in vitro実験において、hnRNP E4を導入した肺がん細胞株(n=6 replicates での検証)では、コロニー形成能が 2.5-fold 以上減少することが確認されている。

KLF6-SV1およびMDM2バリアントによる治療抵抗性と増殖促進: がん抑制遺伝子KLF6のスプライス変異体であるKLF6-SV1は、肺腺がんにおいて過剰発現しており、不良な予後および化学療法抵抗性と相関している。KLF6-SV1は、シスプラチンが誘導するプロアポトーシス効果を阻害するが、siRNAを用いてKLF6-SV1を特異的にノックダウン(n=3 cells での検証)することにより、シスプラチンに対する感受性が回復し、アポトーシスが劇的に誘導される。この際のIC50値は、KLF6-SV1抑制により IC50 50 nM から大幅に低下することが示されている。また、p53の主要な負の調節因子であるMDM2のスプライス変異体も肺がんで頻繁に検出され、p53経路を阻害することで腫瘍細胞の生存と増殖を促進している (Table 1)。

がん特異的バリアントを標的とした診断・治療およびワクチンの臨床応用: がん特異的なスプライスバリアントは、新規の診断バイオマーカーや治療標的として極めて有望である。例えば、フィブロネクチンのスプライスバリアントである ED-B (extra domain B: エクストラドメインB) ドメインは、成人の正常組織には存在しないが、腫瘍の新生血管周囲に選択的に蓄積する。ED-Bに対する特異的抗体を用いた治療分子の選択的送達システムは、動物モデルおよび臨床試験においてその有効性が実証されている。また、がん・精巣抗原であるXAGE-1bバリアントは、肺腺がん患者において強力な免疫原性を示し、患者血清中に特異的な自己抗体が検出される。この自己抗体検出は、早期診断バイオマーカーとしての応用が期待されるとともに、XAGE-1b特異的ペプチドを用いたがんワクチン療法の開発が進められており、臨床試験において高い安全性が確認されている (Figure 2)。

考察/結論

本総説は、肺がんにおける選択的スプライシング異常の重要性を包括的に整理し、その分子メカニズムから臨床応用に至るロードマップを提示した。ヒト遺伝子の90%以上が選択的スプライシングを受けるという事実に基づけば、がん細胞におけるプロテオームの多様性と複雑性は、単なるゲノム変異の蓄積を遥かに超えるレベルで制御されている。Bcl-x、CD44、CCND1、KRASなどの重要ながん関連遺伝子におけるスプライシングパターンの歪みは、肺がんの進展、アポトーシス回避、転移能獲得において極めて重要な役割を果たしている。

先行研究との違い: これまでの選択的スプライシング研究は、個別の遺伝子や特定のバリアントの機能解析に終始することが多く、肺がんという特定の疾患におけるスプライシング異常の全体像を体系的に統合した議論は不十分であった。本研究は、これまでの個別的な研究アプローチと異なり、肺がんで報告されている17種類もの主要なスプライス変異体とその上流に位置するtrans作用性スプライシング因子の動態を網羅的に整理し、それらの相互作用を統合的に議論した点で大きく異なる。また、単に遺伝子配列の変異(cis作用性エレメントの異常)だけでなく、スプライシング調節因子の発現バランスの破綻(trans作用性因子の異常)が肺がんにおける広範なスプライシング異常の主たる駆動源であるという見解を明確に示した点も、これまでの知見と対照的である。

新規性: 本総説の新規性は、肺がんにおける選択的スプライシング異常が、単なるがん化の「随伴現象」ではなく、腫瘍の悪性形質を直接的に規定する重要なドライバーメカニズムであることを体系的に論証した点にある。特に、変異型KRASによる肺発がん活性の主要なメディエーターがKRAS 4Aスプライス変異体であるという最新の知見を統合し、KRAS変異肺がんに対する新規の治療標的としての妥当性を本研究で初めて明確に提示した。さらに、著者らの研究室が同定したhnRNP E4がNSCLCにおいて下方制御され、がん抑制遺伝子として機能するという新規の分子機構を位置づけ、肺がんにおけるスプライシング制御ネットワークの双方向性(がん遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の不活化)を明らかにした。

臨床応用: 本総説で示された知見は、肺がんの診断、予後予測、および治療戦略における臨床応用に直結する極めて高い臨床的意義を有している。臨床現場における具体的な応用として、がん特異的スプライスバリアント(例えば、XAGE-1bやED-Bフィブロネクチン)を標的とした新規バイオマーカーの開発が挙げられる。特に、XAGE-1bに対する自己抗体検出は、低侵襲な血液検査による肺がんの早期診断システムとしての実用性が高い。また、治療面においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたBcl-xLからBcl-xSへのスプライシングシフト誘導や、ED-Bドメインを標的とした抗体薬物複合体による腫瘍新生血管への選択的ドラッグデリバリーシステムなど、次世代の精密医療 (precision medicine) の基盤となる革新的な治療アプローチの可能性を示している。

残された課題: 一方で、これらの有望な知見を実際の臨床現場に導入するためには、いくつかの解決すべき残された課題が存在する。最大のlimitationは、肺がんで同定されている無数のスプライス変異体のうち、どれが悪性形質転換を直接駆動する「ドライバー」であり、どれが単なるスプライシング machinery の破綻に伴う「パッセンジャー」であるかを厳密に区別するための機能的検証が依然として不足している点である。今後の検討課題として、ハイスループットなスプライシング特異的マイクロアレイや次世代シーケンシング技術を駆使した網羅的解析を進めると同時に、個々のバリアントの生物学的機能をin vivoモデル等で詳細に検証していく必要がある。また、スプライシングアイソフォームの検出における試薬やプロトコルの標準化、および多施設共同研究によるバリデーションの欠如も、診断応用における大きな障壁となっており、これらの標準化プロセスの確立が今後の重要な方向性として強く求められる。

方法

本論文は、肺がんにおける選択的スプライシングの役割とその臨床応用に関する既存の学術文献を系統的に収集・分析し、その知見を統合した包括的なレビュー(総説)である。文献の検索および選定にあたっては、主要な医学・生物学データベースである PubMed を中心に使用し、2009年以前に発表された英語のピアレビュー済み論文を対象とした。検索キーワードには、「Alternative splicing」、「Lung cancer」、「Bcl-x」、「CD44」、「RNA binding protein」、「hnRNP」、「splicing factor」などの論理的組み合わせを用いた。

文献の選定基準として、肺がんにおける選択的スプライシングの分子メカニズムを明らかにした基礎研究、臨床検体を用いたスプライスバリアントの発現解析、およびスプライシングを標的とした治療法の開発に関する原著論文を優先的に採用した。特に、肺がん細胞株である A549H1299 などのin vitro実験モデルを用いた機能解析データ、および臨床病理学的特徴や予後との関連を Kaplan-Meier 法による生存曲線分析や Cox regression (コックス比例ハザード回帰モデル) を用いて統計的に検証している臨床研究に焦点を当てた。また、スプライシング異常を網羅的に検出するためのゲノムワイド解析技術(全ゲノムエクソンアレイ、スプライシング特異的マイクロアレイ、および初期のディープシーケンシング技術)に関する文献も収集し、その技術的特徴と肺がん研究における有用性を比較評価した。

データ統合のプロセスにおいては、まず肺がんで異常が報告されている17種類のがん関連遺伝子(Actinin-4、Bcl-x、CD44、CEACAM-1、CAIX、Cyclin D1、FHIT、Fibronectin、KLF6、MDM2、Mesothelin、NF2/merlin、NRSF、PPARγ、TSG101、VEGF、XAGE-1)を抽出し、それぞれの組織型(NSCLCまたはSCLC)、生物学的機能、および主要な参考文献を整理して一覧表 (Table 1) として体系化した。さらに、アポトーシス制御の代表例であるBcl-x遺伝子の代替5’スプライスサイト選択機構に焦点を当て、抗アポトーシスバリアントであるBcl-xLとプロアポトーシスバリアントであるBcl-xSのバランス制御メカニズムを模式図 (Figure 1) として再構築した。

治療標的としての評価においては、アンチセンスオリゴヌクレオチド (antisense oligonucleotide) や小分子化合物を用いたスプライシング修飾技術の有効性を検証した研究をレビューした。具体的には、Bcl-xLの産生を特異的に阻害する LNA (locked nucleic acid: 架橋型人工核酸) 修飾アンチセンスや、スプライシング因子を脱リン酸化してスプライシングパターンを変化させる化学療法剤(ゲムシタビンなど)の作用機序を整理した。診断バイオマーカーとしての評価においては、mRNAレベルでの RT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction: 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応) 検出、タンパク質レベルでのバリアント特異的抗体を用いた免疫染色、およびがん・精巣抗原である XAGE-1 (X antigen family member 1: X抗原ファミリーメンバー1) のサブタイプであるXAGE-1bに対する自己抗体の検出感度と特異度に関する報告を比較分析した。本レビュー自体で新規の統計解析は実施していないが、引用した各研究における統計的有意性(p値やハザード比など)の妥当性を厳密に吟味した上で、知見の統合を行った。