• 著者: Xuelian Ning, Zitong Fu, Jing Zhang, Shuangshu Gao, Zihan Cui, Mingqi Cong, Qingyu Guo, Xixi Sun, Jing Li, Minghui Zhang, Shuoshuo Wang
  • Corresponding author: Minghui Zhang (Department of Oncology, Chifeng Municipal Hospital, Chifeng, China); Shuoshuo Wang (Department of Pathology, Harbin Medical University, Harbin, China)
  • 雑誌: Cancer Chemotherapy and Pharmacology
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-06-19
  • Article種別: Review
  • PMID: 37335335

背景

肺がんは世界のがん関連死原因の第1位であり、非小細胞肺がん (NSCLC) が約 85% を占め、その内訳は肺腺がん (LUAD) と肺扁平上皮がん (LUSC) であると報告されている Thai et al. Lancet 2021。過去20年間で、疾患生物学と腫瘍進行メカニズムの理解が深まり、予測バイオマーカーの応用と治療法の改善により、肺がん治療は大きく進歩した。特に、低分子チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) や免疫療法は、一部の患者において著しい治療効果を示している。しかし、進行期の肺がん患者の生存率は依然として低いままであり、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。

選択的スプライシング (alternative splicing: AS) は、ヒトの多エクソン遺伝子の約 95% で生じる普遍的な遺伝子発現制御プロセスである。このメカニズムは、5種類のスプライソソームサブコンプレックスと 300 以上のタンパク質が関与し、pre-mRNA 上のシス作用要素 (エクソンスプライシングサイレンサー: ESS、イントロンスプライシングサイレンサー: ISS、エクソンスプライシングエンハンサー: ESE、イントロンスプライシングエンハンサー: ISE) とトランス作用因子 (SRタンパク質ファミリー、hnRNPファミリー、CELFなど) の協調によって厳密に制御されている (Fig. 1)。ASの主要な4つのパターン(エクソンスキッピング 38.4%、選択的3’/5’スプライスサイト選択、イントロン保持、相互排他的エクソン)に異常が生じることで、肺がんの発生、増殖、浸潤、転移、血管新生、薬剤耐性といった多岐にわたる病態が駆動されることが示唆されている。

先行研究では、ASが肺がんにおいて重要な役割を果たすことが示されてきた。例えば、Pio et al. JThoracOncol 2009やCoomer et al. (2019) のレビューでは、主に肺がんに関連するスプライシングバリアントのカタログ化や、主要なスプライシング制御因子の発現変化、異常なASを駆動するメカニズムに焦点が当てられていた。しかし、ASが肺がんの各臨床プロセス(発がん、増殖、浸潤、転移、血管新生、薬剤耐性)にどのような分子機構で関与するのかを包括的かつ体系的に整理し、ASを標的とした診断・予後バイオマーカーや治療戦略としての具体的な候補分子と応用可能性を提示するレビューはこれまで不足していた。この知識のギャップを埋めることが本稿の目的である。ASのメカニズムは複雑であり、その全貌は未解明な点が多く残されている。

目的

本レビューの目的は、選択的スプライシング (AS) の異常およびスプライシング制御因子の機能不全が、肺がんの発がん、腫瘍成長、浸潤・転移、血管新生、および薬剤耐性といった病態形成にどのように寄与するかを総合的に整理することである。さらに、ASアイソフォームを肺がんの診断・予後バイオマーカーとして、また新たな治療標的として実装するための具体的な候補分子と治療戦略を提示する。これにより、AS研究が肺がんの精密医療に貢献する可能性を明確にし、今後の研究方向性を示すことを目指す。特に、ASイベントが腫瘍抑制因子または癌促進因子として機能する「アイソフォームスイッチ」の概念を強調し、その臨床的意義を考察する。

結果

発がんに関わる癌促進性スプライスバリアント: 選択的スプライシング (AS) の異常は、肺がんの発がんにおいて中心的な役割を果たす。例えば、AIMP2の選択的スプライスバリアントであるAIMP2-DX2は、エクソン2の欠失によりAIMP2の腫瘍抑制機能を阻害し、ヒト肺がん細胞および組織で高発現している。GLDCの新規ASバリアントであるGLDCV1は、GLDC-fl (full-length GLDC) アイソフォームと比較してより強い発がん能を示し、MAPK/ERKおよびP38経路を活性化することで腫瘍形成を促進する。GLDCV1とGLDC-flはともにERK経路を活性化し、サイクリンD1の発現を増加させることで早期がん発症に関与することが示された。一方、A-RafのスプライシングバリアントであるDA-Rafは、構成的に活性化されたK-Rasによって誘導される細胞形質転換を抑制する腫瘍抑制型アイソフォームとして機能する。また、NSR100 (SRRM4) はRESTのASを制御し、小細胞肺がん (SCLC) 特異的なsRESTサブタイプを産生し、sRESTの発現はSCLCの病因と密接に関連することが報告された。細胞接着分子C-CAM1は、腫瘍抑制型L-フォームと腫瘍促進型S-フォームのアイソフォームスイッチが肺がんの腫瘍形成に関与することが示唆されている。さらに、シャペロンタンパク質SmgGDS (RAP1GDS1) は、高悪性度のがん細胞でSmgGDS-607とSmgGDS-558の比率が607:558と高い腫瘍促進性スプライシングプログラムを有し、これが複数の低分子GTPaseのプレニル化を促進することで悪性形質に寄与することが確認された (Fig. 2)。

スプライシング制御因子 (splicing regulatory factors) の異常による肺がん化: スプライシング制御因子も肺がんの発がんに重要な役割を果たす。RBM10遺伝子のLUADにおける変異は、EIF4Hエクソン5のスプライシングに大きな変化をもたらし、EIF4H-Lの高発現を介して異種移植片形成を促進する。RBM10は通常、EIF4Hエクソン5のスプライシングを抑制することでLUADの進行を抑制する。hnRNP L (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein L) のリン酸化は、カスパーゼ9a/9b比を低下させることでNSCLC細胞の腫瘍形成能を制御する。また、hnRNP A1およびA2は、Tid1 pre-mRNAのエクソン11のASを促進し、Tid1-Lの発現を抑制することでEGFR関連シグナル伝達を可能にし、NSCLCの発生を促進する。高レベルのhnRNP A1、hnRNP A2、およびEGFRを発現するNSCLC患者は、Tid1-Lの発現が低い場合に全生存期間 (OS) が短縮される傾向が示された。

増殖・アポトーシス制御におけるASの役割: 肺がん細胞の増殖とアポトーシスは、様々な遺伝子のASによって影響を受ける。P120-カテニン (P120CTN) のアイソフォーム3Aは、G1期細胞の割合を有意に増加させ、S期細胞の割合を減少させることで、ヌードマウスにおける腫瘍サイズを大幅に縮小させ、細胞周期の強力な阻害効果を示す。一方、アイソフォーム1Aは異なる細胞周期制御を示す。Smad4のΔ95-287アイソフォームは細胞増殖を促進するが、Δ153-319アイソフォームはVIM発現を抑制することでEMTおよび細胞移動を抑制する。スプライシング制御因子QKI-5は、ADD3エクソン14の組み込みを抑制し、細胞増殖を阻害する。KLF6-SV1は、肺腺がん (LUAD) で特異的に上方制御される抗アポトーシス性タンパク質である。AIMP2のスプライシングバリアントは、P53およびTNF-αアポトーシスシグナルを阻害することで腫瘍を誘導する。リボソームS6キナーゼ1 (S6K1) の短鎖アイソフォームはNSCLCで高発現し、その阻害はプロアポトーシス因子BH3-onlyタンパク質Bimの上方制御を介してアポトーシスを誘導する (mTORC1-4E-BP1経路が部分的に介在)。スプライシング制御因子PHF5A (PHD finger protein 5A) のノックダウンは、LUAD細胞において細胞増殖とクローン形成能を有意に阻害し、シスプラチン誘発アポトーシスを増強し、G0/G1期細胞周期停止を誘導する。

原がん遺伝子・経路関連のAS: MYCはスプライシング制御因子SRSF1 (serine/arginine-rich splicing factor 1) を誘導し、SRSF1は転写因子TEAD1とシグナル伝達キナーゼMKNK2のASを媒介する。SRSF1のノックダウンは、MYC過剰発現細胞株の増殖とアンカー非依存性増殖を有意に減少させる。NOTCH経路は肺腺がんの細胞増殖を制御する重要な経路であり、QKI/NUMB/Notch経路も肺がん細胞の増殖を制御する。QKI-5はNUMB pre-RNAの2つのRNA要素に結合することでASを制御し、QKI-5の異所性発現は細胞増殖を有意に減少させる。RBM5、6、10はNUMB ASの主要な標的であり、RBM10の過剰発現はNUMBエクソン9の排除とNUMB PRRSタンパク質アイソフォームの蓄積をもたらし、細胞のクローン形成能を低下させる。RBM5/6とRBM10はNUMB ASを拮抗的に調節し、細胞増殖に逆の影響を与える。テロメラーゼの触媒サブユニットであるhTERT (human telomerase reverse transcriptase) のASは、テロメラーゼ活性を直接規定し、NOVA1がPTBP1と協調してエクソン7および8の保持を促進することで、酵素活性を持つ全長hTERTの産生を促進する。hTERTのASは、テロメア維持だけでなく、細胞増殖、アポトーシス抵抗性、DNA損傷修復にも関与することが示唆されている (Fig. 3)。

浸潤・転移におけるASの役割: 肺がんの浸潤と転移は、同じ遺伝子から派生する異なるタンパク質アイソフォームによって異なる機能を示すことでASが寄与する。hMENAΔv6はA549細胞の浸潤能を増加させるが、hMENA11aは浸潤を減少させる。hMnSODの2つのアイソフォームも同様に異なる機能を示す。hMnSOD222の過剰発現はhMnSOD183と比較して細胞転移をより強力に促進し、VEGF、MMPs、ビメンチンの上方制御とE-カドヘリンの下方制御を伴う。低酸素誘導因子HIF-1αの長鎖 (HIF-1αL) および短鎖 (HIF-1αS) アイソフォームは、スプライシング制御因子RBM4とSRSF1の拮抗作用によりエクソン14の組み込みが影響を受け、細胞の転移特性に異なる影響を与える。CD44のスプライシングバリアントV5およびV6は扁平上皮がんの転移を促進する可能性があり、V10アイソフォームは未分化小細胞がんまたは大細胞がんにおける腫瘍増殖および進行に関連する。Ehm2/1の過剰発現はA549細胞の浸潤と移動を有意に減少させるが、Ehm2/2はA549細胞の浸潤と移動を促進し、両者はEMTマーカーの発現に逆の影響を与える。P120CTNのアイソフォーム1AはE-カドヘリンとβ-カテニンの発現を促進し、Rac1活性を弱めることで腫瘍細胞の浸潤を強力に阻害する。一方、アイソフォーム3AはCdc42とRhoAの活性化を抑制することで比較的弱い転移阻害効果を示す。T細胞因子4 (TCF-4) のスプライスバリアントであるTcf-4kは、Wnt経路を下方制御することでNSCLCの増殖と移動を抑制する腫瘍抑制因子として機能する。PD-L1遺伝子のASによって生成されるPD-L1-lncアイソフォームは、c-Myc活性を向上させることで腫瘍細胞の浸潤を強力に促進する。BIN1エクソン12Aの組み込み体であるBIN1+12Aは、BIN1のNSCLC細胞に対する浸潤抑制能を排除する。PTBP1 (polypyrimidine tract binding protein 1) はMena pre-mRNAのエクソン11の組み込みを調節し、Mena11aに依存して肺がん細胞の浸潤と移動を促進する。スプライシング制御因子PHF5Aは、LUADの進行を促進し、LUAD細胞株の浸潤と移動を促進する。hnRNPの自己スプライシングによって産生される3つのアイソフォーム (A1、A2、B1) の転写レベルは、血清除去条件下で増加し、転移性表現型を促進する可能性がある。

血管新生におけるASの役割: 血管新生は、栄養と酸素の供給を増加させ、遠隔転移の経路を提供することで、腫瘍の成長と拡散に重要な役割を果たす。血管内皮増殖因子 (VEGF) は、血管透過性を高め、内皮細胞に抗アポトーシス効果を発揮することで細胞移動を促進する重要な血管新生促進因子である。ASによりVEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF189、VEGF206の5つの異なるアイソフォームが生成される。特に、VEGF189アイソフォームをリボザイムで特異的に阻害すると、NSCLC細胞株 (OZ-6/VR) の異種移植片における血管形成と増殖が低下した。これは、細胞関連VEGFアイソフォームであるVEGF189が、NSCLC異種移植片のストロマ血管形成と生体内増殖に不可欠な役割を果たすことを示唆している。フィブロネクチン (FN) のスプライシングバリアントED-B FNは、NSCLCの血管新生時に高発現し、内皮細胞の移動経路となる。低酸素条件下では、Clk1とClk4が組織因子 (TF) の短鎖アイソフォームを産生し、A549細胞の増殖と血管新生を促進する。Clk1とClk4の阻害は、低酸素下でのA549細胞の血管新生能を低下させる。

薬剤耐性におけるASの役割: ASは肺がんの薬剤耐性形成にも関与する。SRSF1はイントロン6の新規ISEと特異的に相互作用し、カスパーゼ9のエクソン3、4、5、6カセットの組み込みを調節する。カスパーゼ9b (抗アポトーシス型) の発現を人為的に増加させると、NSCLC細胞のダウノルビシン、シスプラチン、パクリタキセルに対するIC50値が増加する。逆に、カスパーゼ9bの発現を下方制御すると、これらの化学療法剤に対するIC50値が減少する。スプライシング因子ESRP1 (epithelial splicing regulatory protein 1) は、CARM1FLとCARM1ΔE15の比率を調節することで、SCLCの化学療法耐性をin vivoおよびin vitroで抑制する。CARM1FLはSmad7のメチル化を調節することでTGF-β/Smad経路を活性化し、SCLCの化学療法耐性を促進する。パクリタキセルは、癌関連遺伝子のASを調節し、ECT2-Sの産生を促進する。ECT2-Sのリン酸化はRhoファミリーGTPaseを活性化し、癌の進行を促進する。

治療応用・バイオマーカーとしてのAS: ASは肺がんの診断、予後、治療応答のバイオマーカーとして機能する可能性がある。NCAM-180 (エクソン18を含むアイソフォーム) はSCLC細胞に特異的に発現し、血中のエクソン18レベルを定量することで化学療法負荷のリアルタイムモニタリングが可能となる。KLF6-SV1を標的としたsiRNAとシスプラチンの併用療法は、アポトーシスを著しく増強する。PD-L1遺伝子のASによって産生される長鎖非コードRNA (lncRNA) であるPD-L1-lncは、c-Myc活性を増加させることでLUADの増殖と転移を促進し、PD-L1-lncの特異的枯渇とPD-L1阻害剤の併用がLUAD治療の可能性として提案されている。XAGE-1bモノクローナル抗体USO9-13は、肺がん免疫療法の標的として設計された。スプライシング制御因子阻害剤として、SF3b (splicing factor 3b) を阻害するメアヤマイシンや、PHF5Aを特異的に阻害するプラジエノリドが研究段階にある。SRSF1のノックダウンは、PTPMT1の短鎖アイソフォーム産生を促進し、DNA二本鎖切断を誘導することで腫瘍細胞を放射線感受性にする。ダイエタリーアピゲニンは、スプライシングのリプログラミングとHsp70との直接相互作用を介して、薬剤耐性を克服し、アポトーシスを阻害する可能性が示唆されている。QKIの核内低発現は、無病生存期間 (DFS) の独立した予後因子であり、QKIは肺がんでしばしば下方制御され、予後不良と有意に関連する。hMENAアイソフォームの発現は、早期NSCLCの再発と死亡のリスクを正確に予測する予後評価に寄与する。

考察/結論

本総説は、肺がんにおける選択的スプライシング (AS) 研究の現状を、発がん、増殖、浸潤・転移、血管新生、薬剤耐性の5つの主要な病態生理学的軸に沿って体系的に整理した。これにより、スプライスバリアントが腫瘍抑制因子としてもオンコプロテインとしても機能し得る「アイソフォームスイッチ」という、臨床的に重要な概念を明確に示した。

先行研究との違い: これまでのレビュー、例えばPio et al. JThoracOncol 2009やCoomer et al. (2019) は、主にスプライシングバリアントのカタログ化や主要なスプライシング制御因子の発現変化に焦点を当てていた。本稿はこれらと異なり、PD-L1-lnc、hTERT-NOVA1-PTBP1複合体、ECT2-Sなど、近年報告された新規の分子メカニズムや、スプライシング制御因子を標的とした治療戦略(メアヤマイシン、プラジエノリドなど)、さらにはダイエタリーフラボノイドによるスプライシングのリプログラミングといった、より広範な治療的アプローチを統合して提示した点に新規性がある。

新規性: 本研究で初めて、ASが肺がんの多岐にわたる病態形成に中心的な役割を果たすことを包括的に示し、特にスプライシング制御因子の異常が癌促進性アイソフォームの生成を介して腫瘍の悪性化を駆動するメカニズムを詳細に解説した。また、ASを標的とした治療戦略の多様な可能性(siRNA、モノクローナル抗体、スプライシング制御因子阻害剤、食事療法との併用など)を具体的に提示し、診断・予後バイオマーカーとしてのASの潜在的な価値を強調した。

臨床応用: 本知見は、ASを肺がんの精密医療に臨床応用するための具体的な道筋を示唆する。ASアイソフォーム比を用いた予後層別化(QKI発現、hMENAアイソフォーム、NCAM-180、hnRNP A1/A2/EGFRシグネチャなど)、オンコジェニックアイソフォーム特異的siRNAノックダウンと化学療法の併用(KLF6-SV1、PD-L1-lnc、S6K1短鎖アイソフォームなど)、アイソフォーム特異的モノクローナル抗体(XAGE-1bに対するUSO9-13など)、およびスプライシング制御因子阻害剤によるチェックポイント阻害剤や放射線治療感受性増強などが、今後の臨床現場での展開が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) スプライスバリアントの血液や循環エクソソームにおける検出系の標準化と臨床実装、(2) スプライシング因子の広範な特異性に伴うオフターゲット影響の評価と克服、(3) アイソフォームレベルのバイオマーカーのプロスペクティブな臨床検証、(4) hTERTスプライシングのテロメア機能に独立した作用機序のさらなる解明、(5) PD-L1-lncとPD-L1阻害剤併用療法の臨床的有効性の評価、(6) 大規模RNAシーケンスとスプライシングイベント解析を組み合わせた未同定バリアント(例: NFIB、ENAH、SPAG9)の臨床的意義の検証が挙げられる。ASを標的とした治療と既存の化学療法や免疫療法の組み合わせは、肺がん治療の転帰を質的に改善する可能性を秘めており、今後10年間の精密腫瘍学の重要な柱となることが期待される。

方法

本レビューは、肺がんにおける選択的スプライシング (AS) の役割に関する既存の文献を包括的にレビューする形式で実施された。特定の実験プロトコルや患者コホートを用いた研究ではないため、実験的な「方法」セクションは該当しない。

文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学データベースを用いて行われた。検索キーワードには、「alternative splicing」、「lung cancer」、「splicing regulators」、「isoforms」、「tumorigenesis」、「proliferation」、「invasion」、「metastasis」、「angiogenesis」、「drug resistance」、「biomarkers」、「therapy」などが含まれた。関連する原著論文、レビュー記事、総説が収集され、ASが肺がんの様々な病態生理学的プロセスにどのように関与しているかについて詳細な分析が行われた。検索期間は論文の公開日である2023年6月までとし、関連性の高い文献を優先的に抽出した。

収集された情報に基づき、ASの異常が肺がんの発がん、増殖、浸潤・転移、血管新生、薬剤耐性に与える影響について、分子メカニズムの観点から体系的に整理された。特に、特定のASアイソフォームが腫瘍促進的または腫瘍抑制的に作用する例、およびスプライシング制御因子の異常が肺がんの病態に与える影響が詳細に検討された。本レビューでは、文献の質を評価するための特定のエビデンスレベル評価システム(例: GRADE)は採用していないが、複数の研究で繰り返し報告されている知見を優先的に取り上げた。

さらに、ASアイソフォームを診断・予後バイオマーカーとして利用する可能性、およびASを標的とした治療戦略(siRNA、モノクローナル抗体、スプライシング制御因子阻害剤など)の現状と将来性についても評価された。これらの情報は、Table S1に腫瘍関連アイソフォームの一覧として、Table S2に治療応用事例の一覧としてまとめられている。

本レビューでは、ASのタイプと肺がんの臨床プロセスとの関連性を視覚的に示すため、Figure 2が作成された。また、関連するシグナル伝達経路と分子の相互作用をリング構造図で示すFigure 3も提示され、ASが肺がんの複雑なネットワークにおいて果たす中心的な役割が強調されている。これにより、ASが肺がんの病態形成に多角的に関与するメカニズムを包括的に理解するための枠組みが提供された。