- 著者: Ruud D. Fontijn, Bruno Goud, Arnaud Echard, Florence Jollivet, Jan van Marle, Hans Pannekoek, Anton J.G. Horrevoets
- Corresponding author: Anton J.G. Horrevoets (Department of Biochemistry, Academic Medical Center, University of Amsterdam, The Netherlands)
- 雑誌: Molecular and cellular biology
- 発行年: 2001
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 11283271
背景
キネシン様タンパク質 (KLP) スーパーファミリーは、微小管を軌道とするモーター駆動型輸送を担い、有糸分裂期における染色体分離、紡錘体形成、およびサイトカイネシスに不可欠な役割を果たすことが知られている。RB6K (Rabkinesin 6) のマウスホモログは、以前にゴルジ体局在型 KLP として同定され、GTP結合型 Rab6 と相互作用することでゴルジ体から小胞体への逆行性小胞輸送に関与することが示唆されていた Echard et al. Science 1998。ヒト RB6K は染色体 5q 上に位置し、高増殖性組織(胸腺、骨髄、精巣)で選択的に高発現することが報告されていたが (Horrevoets et al. 1999)、その有糸分裂における機能的関連性は未解明のままであった。
KLP ファミリーは広範であり、その機能は細胞周期の各段階で異なる。例えば、MKLP-1 (mitotic kinesin-like protein 1) はアナフェーズ B における紡錘体極分離に寄与することが知られているが (Nislow et al. 1992)、RB6K が MKLP-1 サブファミリーに属しながらも、有糸分裂においてどのような独自の役割を果たすのかは不明であった。細胞内輸送の需要は細胞周期段階によって大きく変動するため、KLP の発現制御機構の解明は、細胞分裂機構を理解する上で重要な課題である。特に、細胞周期依存的な発現制御が示唆されている KLP も存在するが、その詳細なメカニズムは十分に解明されていなかった (King et al. 1996, Koepp et al. 1999)。また、CENP-E (Centromere Protein E) のような他の KLP は、細胞周期を通じて安定的に合成され、有糸分裂終期に急速に分解されることで細胞内濃度が制御されることが報告されており (Brown et al. 1994, Schaar et al. 1997)、RB6K においても同様の制御機構が存在するのか、あるいは異なるのかという知識ギャップが存在した。本研究では、この新規ヒト KLP である RB6K の細胞周期における役割、特にその発現制御と機能的意義を明らかにすることが求められていた。これまでの研究では、RB6K の細胞周期における厳密な発現制御メカニズムや、サイトカイネシスにおける必須機能については、詳細な解析が不足していた。
目的
本研究の目的は、新規ヒトキネシン様タンパク質 RB6K の細胞周期依存的な発現制御機構(mRNA およびタンパク質レベル)と、そのプロモーター構造を詳細に解析することである。具体的には、RB6K の転写開始部位を特定し、プロモーター活性が細胞周期のどの段階で最大となるかを明らかにすることを目指した。また、有糸分裂の各段階における RB6K の亜細胞局在変化を高解像度で追跡し、その局在が細胞周期の進行とどのように関連しているかを解明する。さらに、抗体マイクロインジェクションによる機能消失実験を通じて、RB6K がサイトカイネシスにおいて必須かつ非冗長的な機能を持つことを実験的に証明し、その機能不全が細胞分裂にどのような影響を与えるかを明らかにすることを最終的な目的とした。これにより、RB6K が細胞周期の最終段階で果たす役割を明確にし、細胞分裂機構における KLP の多様な機能の一端を解明することを目指した。
結果
RB6K 発現の M 期特異的上昇と mRNA・タンパク発現の同調性: ヒドロキシウレアブロック解放後の細胞周期同期化実験において、RB6K mRNA の発現は、フローサイトメトリーで G2/M 期細胞が最大となる時点(解放 10 時間後)に最高値に達し、その後 G1 期への移行に伴い低下した。この変動パターンは、サイクリン B mRNA のそれとほぼ同一であった (Fig. 3C)。RB6K タンパク質の発現も同様の動態を示し、G1 期の基底レベルと比較して M 期に約 10 倍の上昇が確認された (Fig. 3B)。in situ hybridization の結果、非同期培養細胞中の RB6K mRNA シグナルは有糸分裂細胞にほぼ限定されており (Fig. 2B)、細胞周期依存的発現が単細胞レベルで明確に可視化された。RB6K mRNA レベルは、ヒドロキシウレアブロック解放 10 時間後に最大値を示し、その後の 12 時間および 14 時間では徐々に減少した。
CDE-CHR 細胞周期制御エレメントによるプロモーター調節: 5’-RACE および primer extension 解析により、RB6K 遺伝子の転写開始部位が 2 箇所(position 1 および -13)に同定された (Fig. 4A, C)。転写開始部位から 1,349 bp 上流の配列をルシフェラーゼレポーターに挿入した実験では、CMV プロモーター駆動の対照が細胞周期によらず一定の活性を示したのに対し、RB6K プロモーターはノコダゾール(M 期)処理細胞で、ヒドロキシウレア(G1/S 期)処理細胞と比較して約 3.5 倍の有意に高いルシフェラーゼ活性を示した (p<0.05) (Fig. 5)。同定された転写開始部位の上流には、cdc25C、サイクリン A、cdc2、PLK 遺伝子で知られる G1 期転写抑制機構と共通の CDE-CHR (cell cycle-dependent element-cell cycle homology region) コンポジットエレメントが確認された (Fig. 4B)。この結果は、RB6K の転写が M 期特異的に活性化されることを強く示唆している。
有糸分裂各段階での亜細胞局在変化: 間期細胞では、RB6K はゴルジ体中間部に弱く局在した(平均蛍光強度 117±60 任意単位)。しかし、前期(prophase)には核内への著明な集積が観察され、CLSM 定量解析により核内蛍光強度は間期ゴルジ体の約 10 倍(1,244±322 任意単位、p<0.05)に達した (Fig. 2C)。RB6K-EGFP 融合タンパク質の構成的発現実験でも核局在が確認され、抗体非依存的に核移行が再現された (Fig. 2C)。M 期後期(アナフェーズ・テロフェーズ)には、RB6K は細胞赤道面に集積し、紡錘体中間帯(spindle midzone)の微小管と共局在した。サイトカイネシスの最終段階では、ミッドボディへの鋭い集中が観察された (Fig. 6A)。HeLa/Rab6-GFP 安定発現細胞での二重染色により、M 期の RB6K の大部分は Rab6 とは共局在せず、間期とは機能的に異なる挙動を示すことが確認された (Fig. 6B)。このことから、M 期における RB6K の機能は、ゴルジ体関連の機能とは独立している可能性が示唆される。
マイクロインジェクションによるサイトカイネシス完全阻害: 抗 RB6K IgG を G1/S ブロック解放後の HeLa 細胞に細胞質マイクロインジェクションすると (n=約100 cells/experiment、4 回の独立実験)、注入細胞の大多数で二核細胞が形成された (Fig. 7A)。これはサイトカイネシス失敗の明確な表現型であり、注入細胞の約 70% が二核細胞となった。二つの核は近接して存在し、機能的な分裂溝の形成が認められなかった (Fig. 7B)。対照の抗 von Willebrand factor IgG 注入細胞では、正常な細胞分裂が維持された。核分裂自体は正常に完了していることから、RB6K の機能阻害はアナフェーズ A 完了後の後期アナフェーズ B/サイトカイネシスを選択的に障害することが示された。構成的過発現実験では、RB6K または RB6K-EGFP 融合タンパク質の過剰発現が微小管の異常な束化を引き起こし、48 時間以内に細胞死を招いた。この結果は、RB6K の厳密な発現制御が細胞生存に不可欠であることを示唆している。RB6K の過剰発現により、微小管の異常な束化が観察され、細胞は有糸分裂に入ることなく 48 時間以内に細胞死に至った (Fig. 2C, panels 3 and 4)。
考察/結論
本研究は、新規ヒトキネシン様タンパク質 RB6K (Rabkinesin 6) が細胞周期 M 期に発現が最大化し、紡錘体中間帯とミッドボディへの局在を介してサイトカイネシスに不可欠な役割を果たすことを初めて実証した。
先行研究との違い: これまでの研究では、マウス RB6K がゴルジ体関連 KLP として Rab6 と相互作用し、ゴルジ体ダイナミクスに関与することが示唆されていた Echard et al. Science 1998。しかし、本研究では、M 期に誘導合成された RB6K の大部分が Rab6 とは共局在しないことを示し、間期とは異なる機能的文脈で作用することを発見した。これは、同一タンパク質が細胞周期段階によって質的に異なる機能を持つという点で、従来の知見と対照的である。また、MKLP-1 抗体注入がアナフェーズ前の細胞に作用するのとは異なり (Nislow et al. 1990)、RB6K 抗体はアナフェーズ B 以降に選択的に作用することから、両者が MKLP-1 サブファミリーに属しながらも機能的に時間軸で分業していることが示唆される。
新規性: 本研究で初めて、RB6K の発現が CDE-CHR 配列依存の M 期特異的プロモーター活性化とそれに続く G1 期での転写抑制という機構によって厳密に制御されることを明らかにした。この制御様式は、サイクリン B、cdc25C、cdc2、PLK 遺伝子と同一の設計原理を共有しており (Zwicker et al. 1995)、細胞分裂装置の構成要素が協調的に発現制御される普遍的機序の一端を示す新規な発見である。また、RB6K の M 期における核内集積、その後の紡錘体中間帯およびミッドボディへの局在変化は、サイトカイネシスにおけるその必須機能と密接に関連する新規な知見である。構成的過剰発現が細胞死を招くという発見も、RB6K の厳密な発現制御の重要性を示す新規な側面である。
臨床応用: RB6K のサイトカイネシスにおける必須機能の解明は、細胞増殖異常を伴う疾患、特にがん治療の新たな標的開発に臨床的意義を持つ可能性がある。細胞分裂を特異的に阻害する薬剤は、がん細胞の増殖を抑制する上で重要であり、RB6K の機能阻害が二核細胞形成を招くという本研究の知見は、RB6K を標的とした新規抗がん剤開発の基盤となり得る。また、過剰発現が細胞毒性を示すという結果は、RB6K の厳密な発現制御が細胞の恒常性維持に不可欠であることを示しており、異常な RB6K 発現が疾患病態に寄与する可能性も示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、RB6K がサイトカイネシスにおいて具体的にどのような分子と相互作用し、その機能を実行しているのかを詳細に解析する必要がある。特に、紡錘体中間帯やミッドボディにおける RB6K の結合パートナーを同定することは、そのメカニズムを解明する上で重要である。また、RB6K の M 期における核内移行のメカニズムや、間期ゴルジ体での Rab6 との相互作用と M 期機能との関連性についても、さらなる研究が求められる。過剰発現による細胞死のメカニズムや、RB6K のユビキチン化非依存的なタンパク質分解経路の特定も今後の研究課題である。本研究の limitation としては、in vivo での RB6K の機能解析が不足している点が挙げられる。
方法
細胞株として、ヒト臍帯静脈内皮細胞不死化株 EC-RF24 および HeLa 細胞を用いた。EC-RF24 細胞は、Fontijn et al. (1995) によって確立された信頼性の高い内皮細胞モデルである。細胞周期の同期化は、2 mM ヒドロキシウレアによる 20 時間の G1/S 期ブロック後、新鮮培地への交換による解放によって実施した。細胞は 2 時間間隔でサンプリングされ、プロピジウムヨード染色を用いたフローサイトメトリーにより同期度が確認された。RB6K mRNA の発現レベルは、RB6K cDNA プローブ(ヌクレオチド 1712~2972)を用いたノーザンブロット解析により定量され、サイクリン B mRNA の発現と比較された。タンパク質発現は、アフィニティー精製された抗マウス RB6K 抗体(Echard et al. Science 1998)を用いたウェスタンブロットにより定量された。等量ローディングの確認には α-チューブリン抗体が用いられた。
RB6K の亜細胞局在は、Cy3 標識抗体を用いた蛍光免疫染色と、Leica CLSM(共焦点レーザー走査顕微鏡)により可視化された。間期ゴルジ体および前期核における蛍光強度は、Leica Qwin ソフトウェアを用いて定量された。mRNA 発現の細胞周期依存性は、35S-UTP 標識リボプローブを用いた in situ hybridization によって EC-RF24 細胞で確認された。プロモーター解析では、5’-RACE 法および primer extension 法により RB6K 遺伝子の転写開始部位が同定された。その後、転写開始部位から 1,342 bp 上流の配列を pGL3-basic-luc レポータープラスミドに挿入し、ヒドロキシウレア(G1/S 期)またはノコダゾール(M 期)処理細胞におけるルシフェラーゼ活性を比較することで、プロモーター活性の細胞周期依存性が評価された。ルシフェラーゼ活性は、コトランスフェクトされた pSVβ-ガラクトシダーゼベクターの β-ガラクトシダーゼ活性で正規化された。ルシフェラーゼ活性の比較には Student t-test が用いられた。RB6K-EGFP 融合タンパク質の構成的発現実験も行われ、その局在が抗体非依存的に確認された。
機能解析では、G1/S ブロック解放後の HeLa 細胞の細胞質に、アフィニティー精製抗 RB6K IgG(1.5 mg/mL)をマイクロインジェクションした (n=約100 cells)。20 時間後、免疫蛍光顕微鏡により細胞の核数と細胞数を判定し、サイトカイネシス失敗の表現型を評価した。対照群としては、抗 von Willebrand factor IgG を注入した細胞を用いた。