- 著者: Arnaud Echard, Frédéric Jollivet, Olivier Martinez, Jean-Jacques Lacapère, André Rousselet, Isabelle Janoueix-Lerosey, Bruno Goud
- Corresponding author: Bruno Goud (bgoud@curie.fr, UMR CNRS 144 et 168, Institut Curie, Paris, France)
- 雑誌: Science
- 発行年: 1998
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 9438855
背景
細胞内における小胞輸送および膜トラフィックの精密な制御は、真核細胞の生存と機能維持において極めて重要である。このプロセスを制御する中心的な分子群が、小分子量 GTPase (guanosine triphosphatase) のRabファミリーである。これまでの多くの研究により、個々のRabタンパク質は特定のオルガネラ膜に局在し、輸送小胞の標的膜へのドッキングや融合を制御することが示されている。例えば、Pfeffer (1994) や Novick and Zerial (1997) などの先行研究において、Rabタンパク質が膜トラフィックの特異性を規定する鍵因子であることが報告されている。その中でも、Rab6 (Ras-related in brain 6) はゴルジ体および TGN (trans-Golgi network) 膜に局在する主要なRabであり、ゴルジ体内の順行性輸送や、ゴルジ体から ER (endoplasmic reticulum) への逆行性輸送を調節することが既報の研究で明らかにされていた (Goud et al. 1990; Martinez et al. 1994)。
一般に、Rab GTPaseは活性型の GTP (guanosine triphosphate) 結合型において特異的なエフェクタータンパク質と相互作用し、下流のシグナル伝達や膜動態を制御する。しかしながら、Rab6の直接的なエフェクター分子が何であるかは未解明であり、具体的な輸送制御機構は不明であった。また、細胞内オルガネラや小胞が MT (microtubule) などの細胞骨格に沿って移動する際には、キネシンやダイニンなどの分子モータータンパク質が関与することが知られている (Lippincott-Schwartz et al. 1995; Goodson et al. 1997)。分子モーターがRab GTPaseの下流エフェクターとして直接機能し、オルガネラ輸送の方向性を決定するという仮説は提唱されていたものの、これを実証する直接的な生化学的・細胞生物学的証拠は不足していた。このように、Rab6を介した膜動態制御において、分子モーターとRabタンパク質を直接結びつける具体的な分子機構の解明には大きな gap が残されており、実験的な証明が強く求められていた。これまでの先行研究では、Rabタンパク質による膜ドッキング機構と、分子モーターによる輸送機構は独立したシステムとして扱われており、両者を直接架橋する分子の存在やその詳細な相互作用については十分に解明されておらず、知見が著しく不足していた。
目的
本研究の目的は、ゴルジ体およびTGNに局在するRab6のGTP結合型 (活性型) に特異的に相互作用する新規エフェクタータンパク質を同定し、その分子構造および機能を明らかにすることである。具体的には、酵母ツーハイブリッド法を用いてRab6結合タンパク質をスクリーニングし、同定された因子の一次構造解析から分子モーターとしての性質を検証する。さらに、同定されたタンパク質の細胞内局在を明らかにし、過剰発現実験やドミナントネガティブ変異体を用いた機能阻害実験を通じて、ゴルジ体の形態維持、膜動態、および分泌タンパク質の輸送プロセスにおける役割を解明することを目指す。これにより、Rab GTPaseと分子モーターが直接連携して細胞内輸送を制御するという、細胞生物学における新たな基本原理を実証することを目的とする。さらに、この相互作用が実際の細胞内輸送経路、特に分泌経路においてどのような生理的意義を持つのかを、レポータータンパク質の分泌アッセイを用いて定量的に評価し、その分子メカニズムを詳細に解き明かすことを目指す。
結果
酵母ツーハイブリッド法によるRab6特異的結合因子Rabkinesin-6の同定:
活性型Rab6 Q72Lをベイトとした n=12*10^6 clones の酵母ツーハイブリッドスクリーニングから、Rab6と強く相互作用する5つの独立したクローンが得られた。そのうちの1つであるクローン174は、136アミノ酸をコードする408 bpのcDNA断片を含んでいた (Fig. 1A)。この断片をプローブとして n=500,000 clones のマウス精巣cDNAライブラリーをスクリーニングし、887アミノ酸からなる全長タンパク質 (計算分子量約100 kD) をコードする全長cDNAを単離した (Fig. 1B)。この全長cDNAの塩基配列は EMBL (European Molecular Biology Laboratory) データベースにアクセッション番号Y09632として登録された。この新規タンパク質は、既知のキネシン様タンパク質であるCHO1と全体で 31% identity および 52.5% similarity を示した。ツーハイブリッドアッセイにおいて、本因子はGTP結合型を模倣するRab6 Q72LおよびRab6 N126Iと特異的に結合したが、GDP (guanosine diphosphate) 結合型変異体 (T27N、Q22V) や、エフェクター領域に変異を持つRab6 I46E,Q72L、さらには近縁のRab5 Q79LやRab7 Q67Lとは結合しなかった (Fig. 1A)。このGTP結合型Rab6に対する高い特異性から、本タンパク質を「Rabkinesin-6」と命名した。
Rabkinesin-6の微小管結合能および微小管活性化型ATPase活性の生化学的証明:
一次構造解析により、Rabkinesin-6のN末端領域 (1-518残基) にはキネシンファミリーに高度に保存された ATP (adenosine triphosphate) 結合・加水分解モチーフが存在し、中央部 (519-796残基) にはコイルドコイル構造、C末端部 (797-887残基) には球状テールが存在することが予測された (Fig. 1C)。大腸菌で発現・精製したN末端モータードメイン (Nt、1-530残基) を用いたin vitroアッセイにおいて、Ntはタキソール安定化微小管に結合し、10 mM Mg-ATPの添加によって微小管から速やかに解離した (Fig. 1D)。さらに、Ntの ATPase (adenosine triphosphatase) 活性は微小管の添加によって著しく活性化され、基底状態の6.2 nmol min-1 mg-1から最大で1.2 µmol min-1 mg-1へと、約 200-fold の顕著な活性上昇を示した (Fig. 1E)。Michaelis-Menten解析により、微小管に対する半最大活性化濃度は Km 50 nM と算出された。また、C末端領域 (Ct、529-887残基) もin vitroで微小管結合能を示し、モータードメイン以外にも微小管結合部位が存在することが明らかになった (Fig. 1F)。
内因性Rabkinesin-6のゴルジ体局在の同定:
親和性精製抗体を用いた免疫ブロット解析により、HeLa細胞の全細胞溶解液において約100 kDのシングルバンドが検出され、その大部分は微小管が脱重合する4°C of 条件下でも膜画分に回収された (Fig. 2A)。共焦点レーザー走査顕微鏡を用いた免疫蛍光染色において、内因性Rabkinesin-6はメディアルゴルジマーカーであるCTR 433と部分的に共局在し、ゴルジ膜のサブドメインまたはゴルジ関連小胞に濃縮して局在することが示された (Fig. 2B)。この局在パターンは、Rabkinesin-6がゴルジ体膜に安定して結合していることを示しており、微小管の有無にかかわらず膜結合性を維持していることが確認された。この実験は n=3 replicates の独立した免疫染色実験によって再現性が確認されており、内因性タンパク質がゴルジ装置の特定のサブドメインに局在することが強く示唆された。
Rabkinesin-6過剰発現によるゴルジ体断片化・分散効果:
HeLa細胞においてGFP融合全長Rabkinesin-6を一過性に過剰発現させると、発現量に依存してゴルジ装置が細胞質全体に細かく断片化して分散する顕著な形態変化が観察された (Fig. 3A, 3B)。このゴルジ体分散効果は、C末端のテール領域を欠くN末端モータードメイン (Nt) の過剰発現では生じなかったが (Fig. 3C), C末端領域 (Ct) の単独過剰発現においては同様のゴルジ体断片化が引き起こされた (Fig. 3D)。この結果は、Rabkinesin-6のC末端領域がゴルジ体膜へのターゲティングおよびRab6との相互作用を担っており、その過剰発現がドミナントネガティブとして作用して正常なゴルジ体の構造維持機構を阻害することを示唆している。これらの形態変化は、n=100 cells 以上の観察において、高発現細胞の 80% 以上で一貫して観察された。
in vivoにおけるRab6との複合体形成およびSEAP分泌阻害のレスキュー効果:
HeLa細胞を用いた共免疫沈降実験において、mycタグ付き全長Rabkinesin-6は活性型Rab6 Q72Lと特異的に共沈し、野生型Rab6とも弱く結合したが、エフェクター領域変異体とは結合しなかった (Fig. 4A)。ドメイン解析の結果、C末端領域 (Ct) はRab6 Q72Lと複合体を形成したが、N末端領域 (Nt) は結合しなかった (Fig. 4B)。SEAPを用いた分泌輸送アッセイにおいて、活性型Rab6 Q72Lの単独発現はSEAPの分泌をコントロール比で 50% 以下に強く抑制し、ゴルジ体糖修飾酵素の小胞体への逆行性輸送を誘導した (Fig. 4C, 4D)。しかし、Rab6結合領域を含むCtドメインを共発現させると、Rab6 Q72Lによる分泌ブロックが部分的に解除され、分泌量はコントロール比で約10%から30%程度回復した (Fig. 4D)。このレスキュー効果は、n=3 independent experiments の定量解析において統計的に有意であり、小胞体に留まっていたエンドH感受性の未成熟型SEAPの再出現を伴っていた (Fig. 4C)。SEAPの糖鎖修飾状態を解析したところ、Rab6 Q72L単独発現細胞では成熟型 (M) のSEAPが消失し、小胞体型 (I) のみとなっていたが、Ctの共発現により成熟型SEAPのバンドが回復した (Fig. 4C)。一方、Ntドメインの共発現では分泌阻害の解除は全く観察されず、分泌量は低値のままであった (Fig. 4D)。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の細胞内輸送研究においては、Rab GTPaseが小胞のドッキングや融合に関与すること (Pfeffer 1994) や、分子モーターが細胞骨格に沿ったオルガネラ輸送を担うこと (Lippincott-Schwartz et al. 1995) が個別に理解されていた。これら2つのシステムがどのように連携しているかは不明であり、直接的な分子結合を示す生化学的証拠は存在しなかった。本研究は、Rab6の直接的なエフェクターとしてキネシン様モータータンパク質であるRabkinesin-6を同定した点で、これまでと異なり、分子モーターと小胞輸送制御因子が直接的に相互作用することを初めて示した。
新規性: 本研究は、ゴルジ体に局在する新規のキネシン様タンパク質Rabkinesin-6を本研究で初めて同定し、これが活性型 (GTP結合型) のRab6と特異的に相互作用することを新規に明らかにした。Rabkinesin-6はN末端に微小管活性化型ATPase活性 (約200倍の活性化) を持つモータードメインを有し、C末端領域でRab6と結合するという、明確なドメインの機能分業を持つ。このように、GTPaseと分子モーターの直接的な連結 (Rab-モーター複合体) が細胞内膜トラフィックを駆動するという基本原理を、本研究で初めて実証した。
臨床応用: 本研究で得られた知見は、細胞内輸送の異常が関与する様々な疾患の病態解明や治療法開発における臨床応用に直結する。例えば、ゴルジ体を介したタンパク質分泌や逆行性輸送の破綻は、神経変性疾患やがん細胞の浸潤・転移、さらには細胞分裂異常と密接に関連している。Rabkinesin-6 (後にKIF20A/MKlp2としても同定される) は、がん細胞において過剰発現し、細胞分裂や細胞内輸送を促進することが知られており、本因子の機能阻害薬やRab6との結合阻害分子は、新規の抗がん剤開発における臨床的有用性を持つと考えられ、臨床現場における新たな治療標的としての期待が高まる。
残された課題: 本研究により多くの重要な知見が得られたものの、今後の検討課題としていくつかの limitation が残されている。第一に、Rabkinesin-6が実際に駆動する輸送小胞の具体的な積荷 (カーゴ) 分子が未同定である点である。第二に、Rabkinesin-6の微小管上での運動方向性の直接的な実証や、インビボでの詳細な輸送速度の測定が必要である。第三に、Rabkinesin-6の過剰発現がゴルジ体の分散を引き起こす一方で、活性型Rab6の過剰発現とは異なり、ゴルジ体 resident タンパク質の完全な小胞体への還流を誘導しない理由の解明が挙げられる。これは、Rab6がRabkinesin-6以外の未同定のエフェクターとも協調して機能している可能性を示唆しており、今後の研究による詳細な分子メカニズムの解明が待たれる。
方法
活性型Rab6を模倣したGTP結合固定型変異体であるRab6 Gln72 (glutamine 72) から Leu72 (leucine 72) への置換体 (Rab6 Q72L) をベイトとし、pLexA (LexA fusion vector pLexA) に組み込んで発現させた。このベイトを用いて、Saccharomyces cerevisiae L40酵母株におけるマウス胚発生 cDNA (complementary DNA) ライブラリー (pVP16 (VP16 acidic activation domain vector pVP16)) の酵母ツーハイブリッドスクリーニングを実施した。スクリーニングにより得られた陽性クローン (クローン174) のcDNA断片をプローブとして用い、BALB/c (Bagg albino c) マウス精巣cDNAライブラリーをスクリーニングして全長cDNAを単離した。
得られた全長配列 (Rabkinesin-6) のドメイン構造予測には、Lupasアルゴリズム (Lupas et al. 1991) を用いてαヘリカルコイルドコイル領域を同定した。大腸菌 BL21 (Escherichia coli BL21 strain) DE3 (bacteriophage DE3) 株を用いて、Rabkinesin-6のN末端モータードメイン (Nt、1-530残基) およびC末端領域 (Ct、529-887残基) を His (polyhistidine) タグ融合タンパク質として発現・精製した。精製タンパク質を用いて、ウシ脳から精製したタキソール安定化微小管への結合アッセイ (100,000×gでの超遠心による沈降実験) および微小管活性化型ATPase活性測定 (NADH (nicotinamide adenine dinucleotide) 共役酵素法) を行った。
細胞生物学的解析には HeLa 細胞および HEK293T (human embryonic kidney 293T) 細胞を用い、DOTAP (N-[1-(2,3-dioleoyloxy)propyl]-N,N,N-trimethylammonium methylsulfate) 試薬による一過性遺伝子導入、またはワクシニアウイルス発現システムを用いて、GFP (green fluorescent protein) 融合全長Rabkinesin-6、mycタグ付きNtドメイン、mycタグ付きCtドメインを発現させた。内因性タンパク質の検出には、大腸菌で発現させた GST (glutathione S-transferase) 融合174タンパク質で免疫したウサギから調製した親和性精製抗Rabkinesin-6抗体を用いた。細胞内局在は、メディアルゴルジマーカーに対する CTR 433 (monoclonal antibody CTR 433) を用いた共焦点レーザー走査顕微鏡による免疫蛍光染色で評価した。
in vivoでの相互作用解析として、mycタグ付きRabkinesin-6構築物と各種Rab6変異体を HeLa 細胞に共発現させ、抗myc抗体を用いた共免疫沈降法および SDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis) 解析を行った。分泌輸送アッセイとして、SEAP (secreted embryonic alkaline phosphatase) をレポーターとして用い、[35S]メチオニンおよび[35S]システインによるパルスチェイス放射活性標識、endo H (endoglycosidase H) 消化、および定量解析を実施した。統計学的有意差の検定には、Student t-test を使用し、各群間の比較を行った。