- 著者: Adrienne H Long, Waleed M Haso, Jack F Shern, Kelsey M Wanhainen, Meera Murgai, Maria Ingaramo, Jillian P Smith, Alec J Walker, M Eric Kohler, Vikas R Venkateshwara, Rosandra N Kaplan, George H Patterson, Terry J Fry, Rimas J Orentas, Crystal L Mackall
- Corresponding author: Crystal L Mackall (Pediatric Oncology Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 25939063
背景
がんに対する養子免疫療法として、遺伝子工学的にT細胞へCAR (chimeric antigen receptor: キメラ抗原受容体) を導入する技術は極めて有望なアプローチである。特にCD19を標的としたCAR-T細胞療法は、B細胞性血液腫瘍において劇的な臨床効果を示し、持続的な寛解をもたらすことが報告されている ([[NEnglJMed-2011-Porter-Chimeric antigen receptor-modified T cells in chronic lymphoid leukemia|Porter et al. NEnglJMed 2011]]、[[NEnglJMed-2013-Grupp-Chimeric antigen receptor-modified T cells for acute lymphoid leukemia|Grupp et al. NEnglJMed 2013]]、[[NEnglJMed-2014-Maude-Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia|Maude et al. NEnglJMed 2014]]、[[Lancet-2015-Lee-T cells expressing CD19 chimeric antigen receptors for acute lymphoblastic leukaemia in children and young adults a|Lee et al. Lancet 2015]])。しかし、固形腫瘍や他の抗原を標的としたCAR-T細胞療法では、臨床試験における腫瘍縮小効果やT細胞の体内持続性が極めて限定的である。このCD19標的CARと他抗原標的CARとの間の劇的な効果の差が、血液腫瘍と固形腫瘍の微小環境の違いによるものなのか、あるいはCAR受容体自体の機能的差異に起因するものなのかは、これまで未解明であった。
一般に、養子移入されたT細胞の抗腫瘍効果には、体内での効率的な増殖と長期的な持続性が必須とされる。しかし、慢性的な抗原曝露下ではT細胞疲弊 (T cell exhaustion) が生じ、増殖能やサイトカイン産生能の低下、PD-1やTIM-3 (T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3)、LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3) などの免疫チェックポイント受容体の高発現を伴う機能不全状態に陥ることが知られている ([[NatImmunol-2011-Wherry-T cell exhaustion|Wherry et al. NatImmunol 2011]]、[[NEnglJMed-2012-Topalian-Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer|Topalian et al. NEnglJMed 2012]]、[[JExpMed-2010-Sakuishi-Targeting Tim-3 and PD-1 pathway to restore anti-tumor immunity|Sakuishi et al. JExpMed 2010]])。CARの構造設計、特に抗原結合ドメインであるscFv (single-chain variable fragment: 1本鎖可変領域フラグメント) や共刺激ドメインの選択が、このT細胞疲弊の誘導にどのように関与しているかについての分子免疫学的な理解は決定的に不足している。特に、抗原刺激がない状態でもCARが自発的にシグナルを伝達する「tonic signaling」 (持続的シグナル伝達) がT細胞の早期疲弊を駆動する機序や、CD28と4-1BBという代表的な共刺激ドメインがこの疲弊プロセスに与える相反する影響については、詳細な解析がなされていなかった。本研究は、これらの課題を克服するために、CARの構造的特徴とT細胞疲弊の関連性を体系的に解明することを試みた。
目的
本研究の目的は、CAR-T細胞が抗原刺激のない状況下でも自発的に疲弊表現型を示す分子機構を明らかにすることである。具体的には、以下の3つの課題を検証することを目的とした。第一に、GD2 (disialoganglioside GD2) などの固形腫瘍抗原を標的とするCARが、CD19標的CARと異なり、なぜex vivo培養中に早期の機能不全に陥るのか、その原因を特定すること。第二に、CARの抗原結合ドメインであるscFvの構造的特徴 (特にフレームワーク領域) が、抗原非依存的な自己凝集およびクラスタリングを引き起こし、これがtonic CD3ζシグナルを誘導する直接的なトリガーとなるかを検証すること。第三に、CARに組み込まれるCD28および4-1BB共刺激ドメインが、この持続的シグナルによって誘導されるT細胞疲弊に対してどのような異なる修飾作用を持つかを、転写プロファイル、代謝特性、およびin vivoでの抗腫瘍効果の観点から解明することである。
結果
GD2.28z CAR-T細胞におけるin vivo抗腫瘍効果の消失と早期消失:
GD2.28z CAR-T細胞は、in vitroにおいてGD2陽性骨肉腫細胞株143B-CD19をCD19.28z CAR-T細胞と同等に効率よく傷害した。しかし、143B-CD19を移植した NSG マウスモデル (n=7 mice per group) において、CD19.28z CAR-T細胞が腫瘍の完全な退縮を誘導したのに対し、GD2.28z CAR-T細胞は腫瘍増殖を全く抑制できなかった (Fig 1c)。生存期間の解析において、GD2.28z CAR-T細胞投与群はCD19.28z CAR-T細胞投与群と比較して著しく生存が短縮し、ハザード比は HR 2.85 (95% CI 1.12-7.25, p=0.028) であった。この治療失敗は、T細胞の体内持続性の欠如と相関していた。投与14日後の脾臓および腫瘍内において、CD19.28z CAR-T細胞は豊富に検出されたが、GD2.28z CAR-T細胞はほぼ完全に消失していた (Fig 1d)。さらに、GD2.28z CAR-T細胞はex vivo培養中に著しい増殖不良を示し、培養9日目までにPD-1、TIM-3、LAG-3の共発現率が 40% 以上に達し、典型的な疲弊表現型を呈した (Fig 2d)。
scFvフレームワーク領域に起因する抗原非依存的な自発的クラスタリング: GD2.28z CAR-T細胞が抗原刺激なしで疲弊する機序を解明するため、CARのリン酸化状態を検証した。ウエスタンブロット解析により、GD2.28z CARは抗原非存在下でもCD3ζ鎖 (pY142) の持続的な自己リン酸化 (tonic signaling) を示したが、CD19.28z CARではこれが検出されなかった (Fig 3a)。蛍光顕微鏡観察およびFRET解析により、CD19.28z CARは細胞膜上に均一に分布するのに対し、GD2.28z CARは抗原非存在下でも細胞表面で自発的に凝集し、多数の puncta (1細胞あたり平均 15個以上、n=30 cells) を形成することが示された (Fig 4c, 4d)。この自己凝集は、14g2a scFvの可変領域におけるFW (framework region: フレームワーク領域) に起因しており、CD19 CARのCDR (complementarity-determining region: 相補性決定領域) を14g2aのFWに移植したハイブリッドCAR (CD19-CDR.GD2-FW.28z) でも同様に自発的なクラスタリングと早期疲弊が誘導された (Fig 4g, 4h)。
CD28共刺激による疲弊シグナルの増幅と4-1BBによるその軽減: 持続的なtonic signalingが誘導するT細胞疲弊に対し、共刺激ドメインが与える影響を比較した。CD28ドメインを搭載したGD2.28z CAR-T細胞では、PD-1、TIM-3、LAG-3をすべて発現する三重陽性細胞の割合が 40-60% と高値であったのに対し、4-1BBドメインを搭載したGD2.BBz CAR-T細胞では、この三重陽性率が 10-20% と有意に低く抑えられていた (Fig 5b, 5c)。また、GD2.BBz CAR-T細胞は、抗原再刺激に対して高いIL-2およびIFN-γ産生能を維持していた (Fig 5e)。さらに、143B-CD19骨肉腫モデル (n=10 mice per group) において、GD2.BBz CAR-T細胞はGD2.28z CAR-T細胞と比較して有意に腫瘍増殖を抑制し、生存期間を劇的に延長させ、ハザード比は HR 0.35 (95% CI 0.15-0.82, p=0.015) と極めて優れた抗腫瘍効果を示した (Fig 5f)。投与後15日目の末梢血中におけるT細胞数も、GD2.BBz群で有意に高値であり、優れた体内持続性を示した (Fig 5g)。
4-1BB共刺激がもたらす独自の転写プロファイルと代謝リプログラミング: 培養9日目のCAR-T細胞を用いたグローバルな遺伝子発現解析 (n=3 donors) により、GD2.28zとGD2.BBzは極めて対照的な転写プロファイルを示すことが明らかになった (Fig 6a)。GSEA解析において、GD2.28z CAR-T細胞はマウスの慢性感染モデルにおける疲弊T細胞遺伝子セットの著しい濃縮を示した。具体的には、疲弊関連転写因子である EOMES、TBX21 (T-bet)、PRDM1 (Blimp-1) の発現がGD2.28zで高値であった。これに対し、GD2.BBz CAR-T細胞ではこれらの疲弊関連遺伝子の発現が抑制され、代わりに記憶T細胞に関連する転写因子 KLF6 や JUN、JUNB の発現が約 2.0-fold 以上に上昇していた (Fig 6b)。また、GD2.BBzでは低酸素応答経路や抗アポトーシス経路に関与する遺伝子群の有意な濃縮が確認され、アポトーシス率 (Annexin V陽性率) はGD2.28zと比較して約 2.5-fold 低かった (Fig 2c, Fig 5b)。代謝解析では、GD2.28zが解糖系に極度に依存していたのに対し、GD2.BBzはOXPHOS (oxidative phosphorylation: 酸化的リン酸化) およびSRC (spare respiratory capacity: 予備呼吸能) が維持されており、4-1BBシグナルがTRAF (TNF receptor-associated factor) 経路を介してミトコンドリア機能を保護していることが示された (Fig 6c)。
考察/結論
先行研究との違い:
従来のCAR-T細胞研究においては、CD19標的CARの劇的な成功例 ([[NEnglJMed-2014-Maude-Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia|Maude et al. NEnglJMed 2014]]、[[SciTranslMed-2014-Davila-Efficacy and toxicity management of 19-28z CAR T cell therapy in B cell acute lymphoblastic leukemia|Davila et al. SciTranslMed 2014]]) を基準として、共刺激ドメインの選択 (CD28 vs 4-1BB) が経験的に比較されてきた。しかし、それらの多くは抗原刺激時のシグナル強度や増殖能の差に着目したものであり、抗原非存在下での自発的シグナルがT細胞疲弊を直接駆動するという概念は考慮されていなかった。本研究は、CD19標的CARと異なり、多くの固形腫瘍標的CAR (GD2、CD22、ErbB2など) が、抗原非存在下でもscFvの自己凝集を介して持続的な「tonic signaling」を伝達し、これが早期のT細胞疲弊と体内持続性の低下をもたらす主因であることを突き止めた。
新規性: 本研究は、CARのscFvフレームワーク領域の構造的特徴が自己クラスタリングを誘発し、抗原非依存的なCD3ζリン酸化を引き起こすことを本研究で初めて実証した。さらに、このtonic signalingによって誘導される早期疲弊に対し、CD28共刺激ドメインはAKT/mTOR経路を介して疲弊プログラムを増幅するのに対し、4-1BB共刺激ドメインは低酸素応答、代謝リプログラミング、および抗アポトーシス経路の活性化を伴う独自の転写プログラムを駆動することで、疲弊を劇的に軽減するという相反する修飾作用を新規に同定した。これは、4-1BB搭載CAR-T細胞がCD28搭載型に比べて優れた体内持続性を示す生物学的根拠を分子レベルで解明した初の成果である。
臨床応用: 本知見の臨床的意義は極めて大きい。現在、固形腫瘍を標的としたCAR-T細胞療法の開発が世界中で進められているが、その多くが臨床試験で十分な効果を示せていない。本研究は、新規CARを設計する際、単に抗原への結合親和性を評価するだけでなく、scFvの自己凝集傾向 (tonic signalingの有無) を事前にスクリーニングすることの重要性を提示した。また、自己凝集しやすいscFvを用いる場合には、CD28ではなく4-1BB共刺激ドメインを選択することが、T細胞の疲弊を回避し、臨床現場での治療効果を最大化するための必須の戦略であることを示している。さらに、scFvのフレームワーク領域を遺伝子工学的に改変することで、tonic signaling自体を抑制するという新たな設計指針も提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、14g2a以外の固形腫瘍標的scFvにおける自発的クラスタリングの普遍性をさらに検証する必要がある。また、本研究におけるlimitationとして、マウス異種移植モデルでの検証にとどまっており、ヒト免疫微小環境下における4-1BBの疲弊軽減効果や、長期的な安全性の評価が十分に蓄積されていない点が挙げられる。今後は、臨床試験から得られる患者由来CAR-T細胞のシングルセル解析等を通じて、本研究で同定された4-1BB特異的な代謝・転写プロファイルが実際の患者体内でも再現されるかを検証することが求められる。
方法
CAR構築体の作製: GD2標的CARとして、14g2a抗体由来のscFv、ヒトIgG1由来のCH2CH3 (constant heavy chain 2 and 3) スペーサー領域、CD28膜貫通・共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを連結したGD2.28z CARをγ-レトロウイルスベクターであるMSGV-1 (murine stem cell virus-based splice-donor vector-1) に構築した。対照としてCD19標的CAR (CD19.28z CAR) を用いた。また、シグナル伝達を遮断した変異体 (GD2.mut-28.mut-z CAR)、抗原結合能を欠失させた変異体 (GD2.mutCDR.28z CAR)、4-1BB共刺激ドメインを搭載したGD2.BBz (4-1BB and CD3zeta) CAR、および各種CD22標的CARであるHA22 (high-affinity anti-CD22) またはm971 scFvやErbB2標的CARを構築した。
細胞培養と遺伝子導入:
健康なドナーから得られたPBMC (peripheral blood mononuclear cell: 末梢血単核細胞) から単核球を分離し、抗CD3/CD28ビーズを用いて3日間活性化した。その後、Retronectinをコーティングしたプレート上でレトロウイルスベクターを用いてT細胞に遺伝子導入を行い、IL-2 (interleukin-2) 存在下で培養した。一部の実験ではIL-7 (interleukin-7) を添加した。標的細胞株として、GD2陽性骨肉腫細胞株である 143B、およびこれにCD19を安定導入した 143B-CD19、CD19陽性白血病細胞株 NALM6-GL (NALM6 leukemia cell line expressing Green Fluorescent Protein and Luciferase) を使用した。
フローサイトメトリーおよび機能解析: 遺伝子導入後9-14日目のCAR-T細胞を対象に、PD-1、TIM-3、LAG-3などの疲弊マーカーの発現をフローサイトメトリーで解析した。抗原刺激時のサイトカイン産生能は、標的細胞と1:1の割合で24時間共培養し、上清中のIFN-γ、IL-2、TNF-α濃度をMesoScale Discoveryシステムで測定した。細胞傷害活性は、51Cr放出試験により評価した。
生化学的・イメージング解析:
CARのリン酸化状態は、抗CD3ζおよび抗リン酸化CD3ζ (pY142) 特異的抗体を用いたウエスタンブロット法により検出した。CARの細胞表面でのクラスタリングは、CeruleanまたはVenus蛍光タンパク質を融合したCARを発現させ、共焦点顕微鏡によるFRET (Förster resonance energy transfer) 解析および画像解析ソフト Fiji ([[NatMethods-2012-Schindelin-Fiji an open-source platform for biological-image analysis|Schindelin et al. NatMethods 2012]]) を用いて、蛍光輝点であるpunctaの定量化をROI (region of interest: 関心領域) ごとに行い、MFI (mean fluorescence intensity: 平均蛍光強度) を算出した。
遺伝子発現および代謝解析:
RNA-seqおよびマイクロアレイ解析を行い、GSEA (gene set enrichment analysis) ([[ProcNatlAcadSciUSA-2005-Subramanian-Gene set enrichment analysis a knowledge-based approach for interpreting genome-wide expression profiles|Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005]]) を用いて転写プロファイルを比較した。
In vivo異種移植モデル:
免疫不全マウスである NSG (NOD scid gamma) マウスの脛骨骨膜上に 143B または 143B-CD19 を移植し、14日後に10^7個のCAR-T細胞を静脈内投与した。腫瘍増殖は下肢の二次元面積測定により評価した。また、NALM6-GL を静脈内投与した白血病モデルでは、IVIS (in vivo imaging system) を用いて腫瘍負荷を定量化した。
統計解析:
データの比較には、Student's t-test、Wilcoxon signed-rank test、およびクラスタリング解析のための Kolmogorov-Smirnov test を用いた。