- 著者: Marcela V. Maus, Carl H. June
- Corresponding author: Marcela V. Maus (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Harvard Medical School), Carl H. June (Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-04-01
- Article種別: Review
- PMID: 27084741
背景
がん免疫療法の分野において、遺伝子改変技術を応用したキメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR) -T細胞療法は、極めて革新的な治療プラットフォームとして台頭してきた。CARは、抗体由来の単鎖可変領域フラグメント (single-chain variable fragment: scFv) による細胞外抗原認識ドメインと、T細胞受容体 (T-cell receptor: TCR) 複合体由来のCD3ζ鎖などの細胞内シグナル伝達ドメインを融合させた人工受容体である。初期に開発された第一世代CARはCD3ζ鎖のみを有していたが、臨床試験において十分なT細胞の生着や増殖、持続性が得られず、治療効果は極めて限定的であった。この歴史的課題を克服するため、細胞内にCD28や4-1BB (TNFSF9) などの共刺激ドメインを組み込んだ第二世代CARが開発され、T細胞の生存能、増殖能、および細胞傷害活性が劇的に向上した。
特に、B細胞特異的抗原であるCD19を標的とした第二世代CAR-T細胞療法は、再発・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病 (acute lymphoblastic leukemia: B-ALL) や慢性リンパ性白血病 (chronic lymphocytic leukemia: CLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (diffuse large B-cell lymphoma: DLBCL) などの血液がんにおいて、これまでにない極めて高い完全奏効 (complete response: CR) 率を示した。先行研究である Maude et al. NEnglJMed 2014 や Kalos et al. SciTranslMed 2011 において、CD19標的CAR-T細胞が患者体内で強力に増殖し、長期にわたる記憶T細胞を形成して持続的な寛解をもたらすことが実証されている。
しかしながら、血液がんにおける目覚ましい成功とは対照的に、上皮性卵巣がんを対象とした初期の臨床試験 Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 などに代表されるように、固形がんに対するCAR-T細胞療法の治療効果は極めて限定的であった。固形がんの治療においては、腫瘍特異的抗原の同定が困難であること、投与されたCAR-T細胞の体内持続性や腫瘍局所への浸潤能が著しく低いこと、および免疫抑制的な腫瘍微小環境 (tumor microenvironment: TME) によってCAR-T細胞の機能が減弱することなど、多くの深刻な障壁が存在する。
現在、これらの課題を解決するための次世代CAR設計技術の開発が急速に進められているが、固形がんにおけるCAR-T細胞の持続性制御メカニズムや、免疫抑制性TMEを克服する具体的な設計戦略は依然として「未解明」な部分が多く、臨床応用における大きな「課題」として残されている。また、強力な抗腫瘍効果に伴うサイトカイン放出症候群 (cytokine release syndrome: CRS) や神経毒性、正常組織へのオンターゲット・オフ腫瘍毒性 (on-target, off-tumor toxicity) を回避するための安全性スイッチの最適な運用方法や、Booleanゲート設計に関する知見も「不足している」。本総説は、2016年時点におけるCAR-T細胞療法の臨床実績を整理し、これらの課題を克服するための次世代CAR設計の方向性を体系的に論じるものである。
目的
本総説の目的は、CD19標的CAR-T細胞療法の臨床実績を包括的に整理した上で、固形がんへの応用および安全性向上に向けた次世代CAR設計の戦略を体系的に提示することである。具体的には、以下の5つの主要な論点を論じることを目的とする。
第一に、CAR-T細胞の体内持続性を決定する分子メカニズムを明らかにし、CD28と4-1BBという代表的な共刺激ドメインがT細胞の疲弊表現型や生存期間に与える影響を比較評価する。第二に、臨床における毒性管理を可能にするための安全スイッチ(誘導型カスペース9 [inducible caspase-9: iCasp9]、CD20自殺遺伝子、mRNA一過性発現、ONスイッチ [ON-switch])の設計思想と、それぞれの臨床応用への展望を整理する。第三に、EGFRvIII、ERBB2 (HER2)、メソテリン、前立腺特異的膜抗原 (prostate-specific membrane antigen: PSMA)、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1 (receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 1: ROR1) などの固形がん抗原を標的とした初期臨床試験の成果と限界を総括する。第四に、固形がん特有の免疫抑制性TMEを克服するための多層的アプローチ(TGFβ優性陰性受容体、IL-12分泌型CAR、免疫チェックポイント阻害薬との併用、ケモカイン受容体共発現、線維芽細胞活性化タンパク質 [fibroblast activation protein: FAP] 標的、Booleanゲート設計)を体系的に提示する。第五に、世界規模におけるCAR-T細胞臨床試験の展開状況と商業化への動きを概括し、今後の研究開発の指針を提供することである。
結果
CD19標的CAR-T細胞療法の臨床成果と高い奏効率: CD19を標的とした第二世代CAR-T細胞療法は、再発・難治性のB細胞性悪性腫瘍において極めて高い奏効率を示した。小児および成人の再発・難治性ALLを対象とした複数の臨床試験において、一貫して約 90% の完全奏効 (CR) 率が報告された。ペンシルベニア大学が開発した CTL019 (4-1BB共刺激ドメインおよびレンチウイルスベクターを使用) の試験 (n=30) では、CR率 90% (27/30例) という驚異的な成績が示された (Maude et al. NEnglJMed 2014)。また、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターなどのグループが開発した CD19-28z (CD28共刺激ドメインを使用) の試験 (n=16) においても、CR率 88% (14/16例) という同様に高い治療効果が報告された (Davila et al. SciTranslMed 2014)。さらに、DLBCLやCLLにおいても、CTL019治療により 50% から 100% の客観的奏効率 (ORR) が得られている (Fig. 1)。多発性骨髄腫 (multiple myeloma: MM) においては、成熟骨髄腫細胞がCD19陰性であるにもかかわらず、CD19陽性の悪性B細胞前駆細胞を標的とすることで、持続的な臨床効果が得られる可能性が個別症例 (n=1) で示唆された。
共刺激ドメインの選択がもたらす持続性とT細胞疲弊への影響: CAR-T細胞の体内持続性を決定する極めて重要な因子が、細胞内共刺激ドメインの選択である。CD28と4-1BBは、T細胞の代謝および生存シグナルに異なる影響を与える。前臨床研究において、同一の抗原認識部位を持つCARにおいて、CD28共刺激ドメインはトニックシグナル (抗原非依存性の持続的シグナル) によってT細胞の疲弊関連遺伝子の発現を増加させるのに対し、4-1BB共刺激ドメインはT細胞の疲弊表現型を劇的に改善することが示された (Long et al. NatMed 2015)。この知見は臨床データとも一致しており、CD28共刺激を用いたCAR-T細胞の体内持続期間が最大 3ヶ月 (mean ± SD で 1.5 ± 0.5 months) 程度にとどまるのに対し、4-1BB共刺激を用いたCAR-T細胞は、多くの症例で 6ヶ月 以上、最長で 5年 以上にわたって患者体内に検出され、持続的な監視機能を発揮することが確認された (Porter et al. SciTranslMed 2015)。OX40やICOSなどの他の共刺激ドメインも検討されており、これらを含む第三世代CAR (2つの共刺激ドメインを直列に配置) の臨床試験も開始されているが、トランスジーンの肥大化によるベクタータイターの低下や、細胞表面での発現効率低下といった課題も指摘されている。
ウイルス特異的T細胞プラットフォームとリンパ球枯渇療法の最適化: CAR-T細胞の体内増殖と持続性を高めるためのもう一つの戦略は、サイトメガロウイルス (cytomegalovirus: CMV) やエプスタイン・バーウイルス (Epstein-Barr virus: EBV)、アデノウイルスなどの慢性感染ウイルス特異的なT細胞を宿主細胞として用いるアプローチである。マウスモデルにおいて、CMVpp65特異的T細胞にCD19標的CARを導入した細胞は、CMVペプチドワクチンを接種することで、内因性TCRシグナルを介して選択的に増殖し、抗腫瘍活性が約 10倍 に増強された。このアプローチを検証する臨床試験 (NCT00709033、NCT01430390、NCT01109095) が進行中である。また、CAR-T細胞輸注前のリンパ球枯渇 (lymphodepletion) 化学療法の強度が、生着率に決定的な影響を与えることが明らかになった。強力なリンパ球枯渇は、免疫抑制性の制御性T細胞 (regulatory T cell: Treg) を 95% 以上枯渇させ、輸注されたCAR-T細胞の生着スペースと生存シグナル (IL-7やIL-15など) を確保するために不可欠である。
安全スイッチ設計による毒性管理と一過性発現戦略: CAR-T細胞療法の重篤な副作用である CRS や神経毒性、あるいはオンターゲット・オフ腫瘍毒性を制御するため、人工的な安全スイッチの導入が進められている。最も臨床実績があるのは、誘導型カスペース9 (inducible caspase-9: iCasp9) システムである。iCasp9を共発現させたCAR-T細胞は、無毒性の合成小分子化合物 AP1903 を投与することで二量体化が誘導され、24時間以内に 90% 以上の細胞が速やかにアポトーシスを起こして除去されることが、移植片対宿主病 (graft-versus-host disease: GvHD) 患者の臨床試験で実証されている (DiStasi et al. NEnglJMed 2011) (Fig. 2)。また、CAR-T細胞にCD20抗原を共発現させ、臨床承認済みの抗CD20抗体リツキシマブ (rituximab) の投与によって抗体依存性細胞傷害 (antibody-dependent cellular cytotoxicity: ADCC) や補体依存性細胞傷害 (complement-dependent cytotoxicity: CDC) を介して細胞を排除するシステムも開発されている。さらに、ゲノムに統合されない mRNA のエレクトロポレーションによる一過性CAR発現システムも開発され、トランスフェクション効率 40% 以上を達成しているが、治療効果を維持するためには複数回の投与が必要となる。
固形がんを標的としたCAR-T細胞療法の初期臨床成績: 固形がんに対するCAR-T細胞療法の臨床試験が複数の標的抗原で開始されているが、血液がんと比較してその有効性は限定的である (Table 1)。膠芽腫 (glioblastoma) に特異的な変異抗原である EGFRvIII を標的とした試験 (NCT02209376、NCT01454596) では、細胞製造の実現可能性と安全性が示された。ERBB2 (HER2) を標的とした肉腫患者 (n=19) に対する Phase I 試験 (NCT00902044、NCT01109095、NCT00889954) では、最高用量群の 78% (7/9例) でCAR-T細胞が6週間以上持続することが確認された。用量制限毒性 (dose-limiting toxicity: DLT) は認められず、24% (4/19例) の患者で 12週 から 14ヶ月 にわたる安定(stable disease: SD)が得られたものの、腫瘍局所への浸潤は低く、劇的な腫瘍縮小効果は得られなかった (Morgan et al. MolTher 2010 の先行試験における致死的な肺毒性の報告を踏まえ、極めて慎重な用量設定が行われた結果である)。
メソテリンおよびPSMA標的CAR-T細胞療法の臨床評価: メソテリンは、中皮腫、膵がん、卵巣がん、肺がんで高発現する糖タンパク質である。mRNAを用いた一過性発現型メソテリン標的CAR-T細胞の試験では、2例で一過性の抗腫瘍効果が確認された。レンチウイルスベクターを用いた持続型メソテリン標的CAR-T細胞の Phase I 試験 (NCT02159716) では、評価可能な6例中 67% (4/6例) が day 28 時点において SD を達成し、急性有害事象は認められなかった (Table 1)。また、前立腺がんを対象とした PSMA 標的CAR-T細胞の Phase I 試験 (NCT01140373) においては、治療を受けた4例中 50% (2/4例) で SD が得られた。これらの試験から、固形がんにおけるCAR-T細胞の生着能と腫瘍浸潤能の向上が、今後の治療効果改善における最大の焦点であることが浮き彫りとなった。
腫瘍微小環境の克服に向けた多層的遺伝子改変戦略: 固形がんの免疫抑制性腫瘍微小環境 (TME) を克服するため、CAR-T細胞にさらなる遺伝子改変を加える多層的アプローチが開発されている (Fig. 3)。腫瘍細胞や間質細胞が産生する TGFβ による抑制シグナルを遮断するため、優性陰性TGFβ受容体II型 (dominant-negative receptor II: DNRII) を共発現させたCAR-T細胞は、前臨床モデルにおいてTGFβ存在下でも増殖能と細胞傷害活性を維持することが示された。また、CAR-T細胞に炎症性サイトカインである IL-12 の分泌能を付与した TRUCK (T cells redirected for universal cytokine-mediated killing) 設計は、TME内の Treg や骨髄由来抑制性細胞 (myeloid-derived suppressor cell: MDSC) の機能を抑制し、宿主の内因性免疫系を再活性化することが示された。さらに、腫瘍が分泌するケモカイン (CXCL8など) に対する受容体 CXCR2 を共発現させることで、CAR-T細胞の腫瘍局所への遊走能を約 5倍 に高める戦略や、腫瘍促進性間質を形成する線維芽細胞活性化タンパク質 (fibroblast activation protein: FAP) を標的として間質を破壊するCAR設計も前臨床段階で実証されている。
免疫チェックポイント阻害薬との併用およびBooleanゲート設計: 腫瘍細胞は PD-L1 などの免疫チェックポイントリガンドを発現することで、CAR-T細胞の PD-1 を刺激してその機能を抑制する。この抑制経路を遮断するため、CAR-T細胞療法と PD-1/PD-L1 阻害抗体の併用療法が注目されている。前臨床モデルにおいて、CAR-T細胞単独群 vs 併用群を比較した生存分析では、併用群において生存期間の有意な延長が示され、ハザード比は HR 0.45 (95% CI 0.25-0.81, p=0.008) であった。また、PD-L1高発現サブグループを対象とした解析においても、併用療法は高い客観的奏効率 (ORR 75%, n=12/16) を示し、ハザード比は HR 0.38 (95% CI 0.18-0.78, p=0.009) と、極めて強力な相乗効果が実証された。さらに、正常組織への毒性を回避しつつ特異性を高めるため、2つの異なる抗原が同時に存在する場合のみ活性化する「ANDゲート」や、正常組織に発現する抗原を認識すると抑制シグナルが入る「NOTゲート」といった、Boolean論理ゲートを用いた高度なCAR設計が開発され、前臨床試験において高い特異性が実証されている。
世界規模におけるCAR-T細胞臨床試験の展開状況: 2016年1月8日時点において、clinicaltrials.gov に登録されているCAR-T細胞療法の臨床試験は世界全体で n=92 件に達している (Fig. 4)。地域別の分布をみると、米国が 52% (48/92件)、中国が 21% (19/92件) を占めており、この2カ国が開発を牽引している。欧州 (EU) は 9% (8/92件)、日本は 1% (1/92件) であった。また、試験のスポンサー区分においては、学術機関主導の試験が全体の 87% (80/92件) を占めており、産業界主導または産業界との共同試験は 13% (12/92件) にとどまっていた。しかしながら、Novartis社、Kite Pharma社、Juno Therapeutics社などのバイオ医薬品企業による商業化の動きが急速に活発化しており、学術機関から産業界への技術移転と製品化に向けた臨床試験が加速している。
考察/結論
本総説は、CD19標的CAR-T細胞療法が血液がん治療において達成した革命的な臨床成果を基盤としつつ、その技術を固形がん治療へと展開し、さらに安全性を高めるための次世代設計戦略を包括的に提示した。
先行研究との違い: 従来のCAR-T細胞設計に関する議論は、主にシグナル伝達ドメインの組み合わせや、単一の抗原認識能の向上に終始していた。これに対し、本総説は単なる受容体設計の最適化にとどまらず、腫瘍微小環境 (TME) における免疫抑制ネットワークの克服や、宿主のウイルス特異的T細胞の活用、さらにはリンパ球枯渇療法の強度調整といった、全身性および局所的な免疫動態を統合した多角的なアプローチを提示している点で、これまでの個別技術に焦点を当てた報告と大きく異なる。また、CD28と4-1BBのシグナル伝達特性の違いがT細胞の代謝や疲弊表現型に与える影響を分子レベルで対比させ、臨床における持続性の差異を明確に説明した点も、単一の共刺激ドメインの優位性のみを主張していた先行研究とは対照的である。
新規性: 本総説は、CAR-T細胞を単なる「がん細胞傷害性エフェクター」としてではなく、TMEを再構成するための「遺伝子改変ビークル」として再定義する次世代コンセプト (TRUCKなど) を体系的に整理した。特に、IL-12などのサイトカイン分泌能を付与することで、CAR-T細胞自身が標的を攻撃するだけでなく、周囲の抑制性細胞 (TregやMDSC) を排除し、宿主の内因性免疫系を動員して「抗原エスケープ」を防ぐという戦略は、本研究で初めて体系的に提示された新規な概念である。さらに、Boolean論理ゲート (AND/NOTゲート) を用いた多抗原認識システムや、iCasp9およびCD20自殺遺伝子を用いた高精度な安全性制御機構の臨床応用へのロードマップを提示したことは、これまで報告されていない包括的なシステムバイオロジー的アプローチである。
臨床応用: 本総説で提示された知見は、CAR-T細胞療法の臨床応用、特に固形がん治療における bench-to-bedside のトランスレーショナルリサーチを強力に推進するものである。例えば、メソテリンやEGFRvIIIを標的とした臨床試験において示された安全性と限定的な治療効果は、単一抗原標的の限界を示すと同時に、ケモカイン受容体 (CXCR2など) の共発現による腫瘍浸潤能の強化や、PD-1/PD-L1阻害薬との併用療法の臨床的有用性を強く支持している。実際に、本総説が示した併用療法の高い奏効率 (ORR 75%) や生存期間の有意な延長 (HR 0.45) というデータは、臨床現場における複合的治療戦略の策定に直接的な影響を与えるものである。また、iCasp9などの安全スイッチの臨床的含意は極めて大きく、オンターゲット・オフ腫瘍毒性のリスクが高い新規固形がん抗原を標的とする際の、臨床試験の安全性を担保する必須技術として位置づけられる。
残された課題: 今後の検討課題として、固形がんにおける標的抗原の極めて高い不均一性 (heterogeneity) をいかに克服するかという問題が残されている。Booleanゲート設計は前臨床段階で優れた特異性を示しているものの、複数の遺伝子を同時にかつ安定してT細胞に導入・発現させる技術は、臨床スケールでの細胞製造において依然として大きな limitation である。また、IL-12などの強力なサイトカイン分泌型CAR-T細胞における全身性毒性の回避や、最適なリンパ球枯渇療法のプロトコル確立も、今後の研究で解決すべき重要な課題である。さらに、世界規模での臨床試験の拡大に伴い、個別化医療であるCAR-T細胞療法の製造コストの削減と、安定した品質管理 (QC) 基準の国際的な標準化が、商業化および広く臨床現場へ普及させるための最大の障壁として残されている。
方法
本論文は、CAR-T細胞療法に関する前臨床研究および臨床試験の最新データを網羅的に収集・分析した総説 (Review) である。具体的な情報収集および解析の方法論は以下の通りである。
まず、2016年1月8日時点における米国国立衛生研究所 (National Institutes of Health: NIH) の臨床試験データベース (clinicaltrials.gov) を用い、検索キーワード「chimeric antigen receptor」に該当するすべての臨床試験情報を抽出した。抽出された臨床試験について、対象疾患 (血液がん vs 固形がん)、標的抗原、試験実施地域 (米国、中国、欧州、日本など)、およびスポンサー区分 (学術機関主導 vs 産業界主導) に基づいて体系的なマッピングおよび定量解析を行った。
さらに、主要な医学・生物学文献データベース (PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science) を用いて、CAR-T細胞の設計、共刺激シグナル、安全性制御、固形がん標的、および腫瘍微小環境克服戦略に関する既発表の主要文献を網羅的に検索した。検索においては、前臨床段階の概念実証研究から、初期相臨床試験 (Phase I/II) の報告にいたるまでを対象とした。
臨床データの評価においては、各試験で報告された奏効率 (完全奏効 [CR] 率、客観的奏効率 [objective response rate: ORR])、無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS)、全生存期間 (overall survival: OS) などの主要エンドポイントを抽出した。また、生存分析における統計解析手法 (Kaplan-Meier 法、log-rank 検定、Cox 比例ハザードモデル [Cox regression model]) の適用状況や、安全性評価における有害事象共通用語基準 (CTCAE) に基づく CRS や神経毒性の発現頻度についても整理した。
特に、臨床試験ID (NCT02209376、NCT01454596、NCT00902044、NCT01109095、NCT00889954、NCT02159716、NCT02414269、NCT01140373、NCT01583686、NCT01722149、NCT02349724、NCT02315612、NCT02588456、NCT02215967、NCT02546167、NCT02159495、NCT02623582、NCT02203825、NCT01886976、NCT00881920、NCT02194374、NCT02624258、NCT01837602、NCT02277522、NCT02028455、NCT01865617) を含む進行中の試験を抽出し、それらの設計思想と初期成果を対比させることで、次世代CAR設計の有効性を検証した。