• 著者: Cramer SL, Saha A, Liu J, Tadi S, Tiziani S, Yan W, Triplett K, Lamb C, Alters SE, Rowlinson S, Zhang YJ, Keating MJ, Huang P, DiGiovanni J, Georgiou G, Stone E
  • Corresponding author: George Georgiou; Everett Stone (University of Texas at Austin)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2016-11-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27869804

背景

がん細胞は遺伝的変異や異常増殖に伴い、正常細胞と比較して高いROS (reactive oxygen species: 活性酸素種) ストレスに曝されている。そのため、抗酸化物質であるGSH (glutathione: グルタチオン) による酸化還元バランスの維持が、がん細胞の生存および増殖に極めて重要である (Trachootham et al. 2009, Dixon et al. 2014)。GSHの合成において、L-Cys (L-cysteine: L-システイン) は律速前駆体として機能する。L-Cysは、生体内ではCBS (cystathionine β-synthase: シスタチオニンβ-シンターゼ) およびCGL (cystathionine γ-lyase: シスタチオニンγ-リアーゼ) といったトランスサルフレーション経路の酵素群によって合成されるが、多くの腫瘍組織ではこれらの酵素の発現が著しく低下している (Zhang et al. 2005)。そのため、がん細胞は細胞外のCSSC (L-cystine: L-シスチン) をxCT (cystine/glutamate antiporter: シスチン/グルタミン酸逆輸送体) トランスポーターを介して取り込み、細胞内でL-Cysに還元してGSH合成に利用している。

これまで、xCTの小分子阻害薬を用いたがん治療戦略が検討されてきたが、細胞外のL-Cysは他のASC (alanine-serine-cysteine) トランスポーターを介しても取り込まれるため、xCT阻害のみでは細胞外からのシスチン供給を完全に遮断するには不十分であった。また、全身のL-CysおよびCSSCプールを持続的に枯渇させる有効な手段は確立されておらず、がん細胞における抗酸化システムの破綻を誘導するための治療アプローチには大きなgapが残されていた。このように、全身循環におけるL-CysおよびCSSCの完全な枯渇がもたらす抗腫瘍効果や、正常組織への毒性プロファイルについては未解明であり、治療薬としての実用化に向けた知見が決定的に不足していた。

目的

本研究の目的は、タンパク質工学的手法を用いて、生体内でL-CysおよびCSSCを持続的かつ強力に分解・枯渇させることができる改変型ヒトCGL酵素 (cyst(e)inase) を開発することである。さらに、開発したcyst(e)inaseのPK (pharmacokinetics: 薬物動態) およびPD (pharmacodynamics: 薬力学) プロファイルをマウスおよび非ヒト霊長類であるカニクイザルにおいて評価し、全身的なL-Cys/CSSC枯渇がもたらす影響を検証する。また、前立腺がん、乳がん、およびCLL (chronic lymphocytic leukemia: 慢性リンパ性白血病) などの複数の腫瘍モデルを用いて、in vitroおよびin vivoにおける抗腫瘍有効性を実証するとともに、PEG (polyethylene glycol: ポリエチレングリコール) 化修飾による血中滞留性の向上効果や、長期投与時における正常組織への安全性および毒性プロファイルを詳細に明らかにすることを目的とする。

結果

改変型ヒトCGLの酵素活性向上と血中シスチン枯渇能の検証: タンパク質工学により作製された改変型ヒトCGL(E59T/E339V変異体)は、PLP (pyridoxal 5’-phosphate: ピリドキサール-5’-リン酸) 依存性酵素としての活性部位が最適化され、野生型と比較してL-Cysに対するkcat/KM値が25-fold increase、CSSCに対するkcat/KM値が50-fold increaseに向上した (Fig. 1b)。PEG化されたcyst(e)inaseは、FVB/Nマウス (n=5 mice) への50 mg/kg単回投与において、血中消失半減期25±2時間を示した (Fig. 3a)。この単回投与により、血清中のCSSCは4日間にわたりほぼ完全に枯渇し、フリーのL-Cysレベルは2日間にわたって4-fold decreaseした (Fig. 3b)。また、カニクイザル (n=2 cynomolgus monkeys) に対する8 mg/kgの単回静脈内投与においても、血清中の総システインプールが28時間にわたり持続的に枯渇することが確認され、投与に伴う血液学的・生化学的毒性は認められなかった (Fig. 1d)。

がん細胞におけるROS蓄積、GSH枯渇、および細胞周期停止の誘導: In vitroにおいて、cyst(e)inaseはマウス前立腺がん細胞株HMVP2の生存を有意に抑制し、そのIC50値はIC50 23 nMであった (Fig. 2a)。HMVP2細胞 (n=3 replicates) をcyst(e)inaseで処理したところ、投与4時間後には細胞内ROSレベルが有意に増加し (p<0.001)、24時間後には細胞内GSHレベルが著明に低下した (Fig. 2b, c)。この代謝ストレスに伴い、AMPK (AMP-activated protein kinase: AMP活性化プロテインキナーゼ) のリン酸化 (pAMPK Thr172) が増加し、mTOR (mechanistic target of rapamycin: ラパマイシン標的タンパク質) 経路の抑制を介してオートファジーマーカーであるLC3 (microtubule-associated protein 1 light chain 3: 微小管関連タンパク質1軽鎖3) IIの形成が誘導された (Fig. 2d, f)。さらに、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp27のタンパク質発現が7-fold increase以上に増加し、c-MycやCDK (cyclin-dependent kinase: サイクリン依存性キナーゼ) 2、CDK4の発現低下を伴うG0/G1期での細胞周期停止が誘導された (Fig. 2h, i)。ROS消去剤であるNAC (N-acetyl-L-cysteine: N-アセチル-L-システイン) の添加により、この細胞死は部分的に回復した (Fig. 2j)。

前立腺がんおよび乳がん移植モデルにおける顕著な腫瘍増殖抑制効果: In vivoにおける治療効果を検証するため、HMVP2細胞を移植したFVB/Nマウス (n=7 mice per group) に対し、50 mg/kgまたは100 mg/kgのcyst(e)inaseを4日おきに腹腔内投与した。その結果、対照群であるPBS (phosphate-buffered saline: リン酸緩衝生理食塩水) 投与群および熱失活酵素投与群では腫瘍が急速に増大したのに対し、cyst(e)inase投与群では腫瘍の増大が完全に抑制された (p<0.0001) (Fig. 3c)。同様に、DU145細胞を移植したヌードマウス (n=8 mice per group) における100 mg/kg投与 (Fig. 3e)、およびPC3細胞を移植したヌードマウス (n=7 mice per group) における50 mg/kgおよび100 mg/kg投与においても、極めて強力な腫瘍増殖抑制効果が示された (p<0.0001) (Fig. 3f)。さらに、NOD SCIDマウス (n=10 mice per group) に移植されたMDA-MB-361乳がん異種移植モデルにおいても、50 mg/kgおよび100 mg/kgの投与により腫瘍増殖が有意に抑制された (p<0.0001) (Supplementary Fig. 7)。

難治性CLLモデルにおける生存期間の劇的な延長と既存薬との比較: フルダラビン耐性を示すCLL様疾患モデルマウス (TCL1-Tg:p53-/-) 由来 of spleen cells (n=6 replicates) を用いた共培養系において、cyst(e)inaseは強力な細胞死を誘導した (Fig. 4a)。in vivo生存試験において、未治療群 (n=47 mice) の生存期間中央値は3.5ヶ月であったのに対し、標準治療薬であるフルダラビン投与群 (n=10 mice) は5.3ヶ月 (p<0.001) であった。これに対し、cyst(e)inase単剤投与群 (n=10 mice) は生存期間中央値が7.0ヶ月に達し、フルダラビン群を大幅に上回る生存延長効果を示した (p<0.0001) (Fig. 4b)。さらに、患者由来の17p欠損CLL細胞 (n=6 patient samples) に対しても、骨髄間質細胞による保護作用を克服して強力なアポトーシスを誘導した (Fig. 4d)。一方で、健常人由来の正常Bリンパ球 (n=4 donors) に対しては、0.1 μMのcyst(e)inase処理において生存率の低下は12%にとどまり、高い腫瘍選択性が実証された (Fig. 4f)。

抗酸化経路阻害剤との相乗効果および長期投与における安全性: Cyst(e)inaseは、GSH合成阻害剤であるBSO (buthionine sulfoximine: ブチオニンスルホキシミン) や、TXNR (thioredoxin reductase: チオレドキシン還元酵素) 阻害剤であるクルクミンと相乗的な細胞毒性を示した (Supplementary Fig. 8a, b)。22Rv1前立腺がん細胞を用いた異種移植モデル (n=7 per group) において、低用量のcyst(e)inase (25 mg/kg) とクルクミンの併用投与は、それぞれの単剤療法と比較して有意に強力な腫瘍増殖抑制効果を示した (p<0.01) (Supplementary Fig. 8g)。また、TCL1-Tg:p53-/-マウスを用いた生存試験において、5ヶ月以上にわたるcyst(e)inaseの長期継続投与(週2回、100 mg/kg)を行ったが、マウスの体重減少や行動異常、主要臓器(肝臓、腎臓、眼組織など)における病理組織学的な毒性は一切観察されず、極めて高い安全性が確認された (Supplementary Fig. 10)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の小分子を用いたxCT阻害薬によるアプローチと異なり、本研究で開発されたcyst(e)inaseは、細胞外のL-CysおよびCSSCプールを全身循環レベルで持続的かつ完全に枯渇させる。xCT阻害のみでは、他のアミノ酸トランスポーターを介したL-Cysの取り込みを阻止できず、がん細胞の抗酸化システムを十分に遮断できなかったが、cyst(e)inaseはトランスポーターの種類に依存せず、細胞外からのシスチン供給源そのものを根絶する点で決定的に異なる。

新規性: 本研究で初めて、遺伝子改変技術とPEG化修飾を組み合わせることで、生体内で極めて安定かつ強力にL-Cys/CSSCを分解する治療用酵素cyst(e)inase of human originの創出に成功した。また、全身的なL-Cys/CSSCの枯渇が、正常組織に対して重篤な毒性を示すことなく、がん細胞に対して選択的なGSH枯渇とROS蓄積を誘導し、強力な抗腫瘍効果を発揮することを本研究で初めて実証した。

臨床応用: 本治療戦略は、特に内因性のL-Cys合成経路(トランスサルフレーション経路)が欠損しているか、あるいは増殖に伴い極めて高いROSストレスを抱えているがん種(前立腺がん、乳がん、難治性CLLなど)に対する新規治療薬としての臨床応用が期待される。特に、染色体17p欠損を伴うフルダラビン耐性の難治性CLLにおいて、既存の標準治療薬を凌駕する生存期間延長効果を示したことは、臨床現場における極めて重要な translational な意義を持つ。また、BSOやクルクミンといった他の抗酸化経路阻害剤との併用療法は、相乗的な治療効果をもたらす臨床的有用性が示唆される。

残された課題: 今後の検討課題として、cyst(e)inaseに対する中和抗体の産生リスクや、ヒト臨床試験における長期的な免疫原性の評価が挙げられる。また、本酵素療法の効果を最大化するために、L-Cys/CSSC枯渇に対して感受性の高い腫瘍を特定するためのバイオマーカーの確立や、トランスサルフレーション経路の活性度を非侵襲的に評価する手法の開発が、今後の重要な研究方向性である。

方法

ヒトCGLのL-CysおよびCSSCに対する分解活性を向上させるため、活性部位のGlu59およびGlu339残基を標的とした組み合わせ飽和変異導入ライブラリーを作製し、高スループットスクリーニングにより活性向上変異体CGL-E59T-E339Vを同定した。この変異体の結晶構造解析は、1 mM L-Cys存在下で結晶化を行い、Advanced Light Source (ALS) ビームラインBL 5.0.3にて回折データを収集し、Phaserを用いた分子置換法により構造決定した。得られた構造情報はPDB (Protein Data Bank: タンパク質構造データバンク) にコード5EIGとして登録された。生体内での腎排泄を抑制し血中滞留性を向上させるため、CGL-E59T-E339Vのライシン残基に対して分子量5,000 DaのメトキシPEGサクシニミジルカルボキシメチルエステルを共有結合により修飾し、PEG化cyst(e)inaseを調製した。

薬物動態および薬力学評価として、FVB/Nマウスに対して50 mg/kgの単回腹腔内 (i.p.) 投与を行い、血清中のcyst(e)inase濃度およびL-Cys、CSSCを含む硫黄含有代謝物の経時的変化をUHPLC-MS/MS (ultra-high performance liquid chromatography-tandem mass spectrometry: 超高速液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析) により測定した。また、カニクイザル2頭に対して8 mg/kg of body weightの単回静脈内投与を行い、血清中L-Cys/CSSCの枯渇期間および血液学的・生化学的毒性を評価した。

In vitro評価では、前立腺がん細胞株であるPC3、DU145、およびHiMycマウス由来のHMVP2細胞、さらにTCL1-Tg:p53-/-マウス脾臓由来のCLL細胞および患者由来CLL細胞を用いた。細胞生存率はAlamar Blueアッセイ、MTT (3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide: 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド) アッセイ、またはアネキシンV/PI (propidium iodide: プロピジウムイオジド) 染色を用いたフローサイトメトリーにより測定した。細胞内ROSレベルはDCFDA (2’,7’-dichlorofluorescin diacetate: 2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセテート) 蛍光試薬を用いて検出し、GSHレベルは分光光度法により定量した。

In vivo抗腫瘍試験では、HMVP2細胞を同種移植したFVB/Nマウス、DU145およびPC3細胞を皮下移植したヌードマウス、MDA-MB-361乳がん細胞を乳腺脂肪体に移植したNOD SCIDマウスを用いた。治療群には50 mg/kgまたは100 mg/kgのcyst(e)inaseを3-4日おきに腹腔内投与し、腫瘍体積の推移を測定した。統計解析には、2群間比較としてStudent’s t-test、多群間比較としてone-way ANOVA (analysis of variance: 分散分析) またはtwo-way ANOVAを用い、生存曲線解析にはlog-rank検定を適用した。動物実験はすべてIACUC (Institutional Animal Care and Use Committee: 機関動物ケア使用委員会) の承認を得て実施した。