• 著者: Gang Wang, Anup K. Biswas, Wanchao Ma, Manoj Kandpal, Courtney Coker, Paul M. Grandgenett, Michael A. Hollingsworth, Rinku Jain, Kurenai Tanji, Sara López-Pintado, Alain Borczuk, Doreen Hebert, Supak Jenkitkasemwong, Shintaro Hojyo, Ramana V. Davuluri, Mitchell D. Knutson, Toshiyuki Fukada, Swarnali Acharyya
  • Corresponding author: Swarnali Acharyya (Institute for Cancer Genetics, Columbia University)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29875463

背景

転移癌患者の多くは骨格筋量と筋力の著明な喪失を特徴とする悪液質 (cachexia) を発症し、予後不良・化学療法への忍容性低下・横隔膜および心筋萎縮による呼吸・心不全を介した早期死亡の主要原因となる。悪液質の分子基盤として ubiquitin (ユビキチン)-proteasome 系とオートファジー経路の活性化による筋タンパク質分解亢進が知られており、IL-6・myostatin・TNFα・TGFβなどのサイトカイン、PTHrP (parathyroid hormone-related protein) が主要なメディエーターとして報告されてきた (Argiles et al. NatRevCancer 2014)。転移過程では腫瘍細胞が分泌するエクソソームや可溶性因子が骨格筋を含む遠隔臓器に全身的影響を与え (Becker et al. CancerCell 2016)、循環腫瘍細胞が多臓器に播種することで癌は全身疾患として進行する (Massague et al. Nature 2016)。承認治療薬が存在しない悪液質では、転移癌特異的な誘発機序を標的とした新規アプローチが求められている。

動物モデルおよびヒト悪液質患者の骨格筋では過剰な亜鉛蓄積が報告され (Larsson 1987; Siren 2010)、悪液質患者では体重減少 >9.5% の症例で筋内亜鉛濃度が対照の約2倍に達することも記述されていた。しかし、この亜鉛過剰蓄積を引き起こすトランスポーターの同定と、亜鉛蓄積が筋萎縮を引き起こす分子機序は gap in knowledge として解明されていなかった。また先行研究では悪液質のメカニズムとして筋タンパク質分解亢進に注目が集まっており、転移癌特異的に亜鉛恒常性が破綻して筋萎縮を駆動するという経路は何が足りなかったかという点で全く未解明であった。

目的

5種の独立した転移癌マウスモデルを用いたトランスクリプトーム解析により、転移癌モデル横断的に悪液質筋で共通して変動する新規ドライバー分子を同定し、その因果関係・誘導機序・分子機構を解明するとともに、悪液質治療の新規標的を提示する。

結果

ZIP14亜鉛トランスポーターの悪液質筋における同定とモデル横断的発現特異性:4T1・C26m2腫瘍切除後2-3週で遠隔転移が形成され、体重減少とグリップ強度の有意な低下 (P<0.0001) が出現した (Fig. 1a,b)。前脛骨筋切片の形態計測で筋線維径が有意に減少し (Fig. 1c,d)、Trim63 (MuRF1, muscle RING-finger protein 1)・Fbxo32 (MAFbx, muscle atrophy F-box protein)・Fbxo31・MUSA1 (muscle ubiquitin ligase 1) などユビキチンリガーゼ遺伝子群が前脛骨筋・横隔膜・腓腹筋・四頭筋・心筋で転写的に上方制御された (Fig. 1e)。食餌量・水分摂取量は正常で食欲不振性悪液質ではないことが確認された。

両モデルの悪液質前脛骨筋でRNA-seqを実施した結果 (各群n=2)、C26m2と4T1に共通する3,140遺伝子の発現変動が同定された (Fig. 2a)。DAVID機能クラスタリングでは上方制御遺伝子においてタンパク質分解 (オートファジー・プロテアソーム) 経路の富化に加え、亜鉛結合・亜鉛輸送関連遺伝子クラスターが最高 Enrichment Score (ES=12.08、P<0.00001) で同定された (Fig. 2a)。SLC39ファミリー亜鉛流入トランスポーター遺伝子群の中でSlc39a14 (Zip14) のみが悪液質前脛骨筋・横隔膜・腓腹筋・四頭筋・心筋で特異的かつ顕著に上方制御された (Fig. 2b-d)。KrasG12D/p53欠損GEMM・KrasG12D/Lkb1欠失GEMM・PC9-BrM3 EGFR変異異種移植という4種の独立した転移性肺癌モデルでもZip14誘導が確認された (Fig. 3a,b)。対照的に、悪液質を伴わない非転移性Pten/Lkb1欠失GEMMおよびRb/p53欠失 SCLC allograft では Zip14 誘導がなく、「転移+悪液質」への特異性が示された。

ヒト患者での臨床的検証とTNFα/TGFβ-NFκB/SMAD依存的誘導機序の解明:転移性進行癌患者の筋組織切片でZIP14 IHCを実施した結果、悪液質群n=43例中19例が萎縮筋線維にZIP14特異的染色陽性であったのに対し、非悪液質群n=53例では8例のみが陽性であり、両群の差は統計学的に有意であった (Pearson’s chi-square test、P=0.002) (Fig. 3c)。ZIP14染色の低発現は非萎縮筋線維では両群で共通しており、ZIP14発現が萎縮筋線維に特異的であることが示された。この所見は3種の独立した抗ZIP14抗体で再現確認された。

IPAによる上流制御因子解析と in vitro 検証から、TNFα (50 ng/mL) とTGFβ (10 ng/mL) がヒト初代筋細胞とC2C12筋芽細胞でZip14発現を有意に誘導することが示された (Fig. 3d)。NFκB阻害薬BAY 11-7085はTNFα誘導のZip14発現を遮断し、TGFβRI阻害薬SB431542 (SMAD阻害) はTGFβ誘導を遮断したが、AP-1阻害薬CC-401では遮断されず、NFκBとSMADシグナル経路の特異性が明示された (one-way ANOVA、F(9,36)=161.9)。in vivo では4T1モデルにおいてTGFβ中和抗体 (clone 1D11) またはTNFα中和抗体 (clone XT3.11) の投与が前脛骨筋のZip14発現を有意に低下させ (F(4,24)=10.3; Fig. 3e)、C26m2モデルでも同様であった (F(4,18)=20.7; Fig. 3f)。両抗体の同時投与は単独投与より強力な抑制をもたらしたが完全には消失せず、他の転移関連因子の寄与が示唆された。

Zip14欠損および筋特異的ノックダウンによる筋萎縮の著明な抑制と亜鉛恒常性乱れ:ZIP14が転移癌誘発性悪液質の因果的ドライバーかを検証するため、Zip14全身KOマウスと野生型マウスに4T1細胞を移植した。両群で転移腫瘍量は同等であったにもかかわらず、KOマウスでは腫瘍担持下での筋萎縮が著明に抑制され、ユビキチンリガーゼ遺伝子 Trim63 の誘導も有意に減弱した (one-way ANOVA、Trim63-腓腹筋 F(3,21)=221.0、MUSA1-腓腹筋 F(3,26)=12.3) (Fig. 4a-c)。全身KOの二次効果を除くため、AAV-shZip14を腓腹筋に筋特異的に導入したところ、C26m2転移モデルでも同様の筋萎縮抑制が確認された (Fig. 4d-g)。線維タイプ分布・スイッチング・血管化は野生型とKO間で差異がなく、ZIP14の筋細胞内在性の役割が示された。

ICP-MS測定では4T1・C26m2転移モデルの腓腹筋・前脛骨筋・横隔膜で亜鉛の異常蓄積を認め、同時に血清亜鉛の低下が確認された (Fig. 4h)。LA-ICP-MSでは単一筋線維での亜鉛蓄積も可視化された。KOマウスでは悪液質モデル下でも筋亜鉛蓄積は生じなかった。亜鉛補充投与は非腫瘍担持マウスでは悪影響を与えなかったが、C26m2転移担持野生型マウスでは体重減少と筋萎縮を著明に悪化させ、KOマウスでは悪化しなかった (Fig. 4i,j)。これにより亜鉛・ZIP14・転移癌腫瘍の三者が悪液質形成に必要であることが示された。

ZIP14媒介亜鉛蓄積による筋分化阻害とMyHC喪失の分子機序:磁気・フローサイトメトリーソーティングで精製した筋前駆細胞亜集団を解析した結果、C26m2・4T1転移モデルでZip14はCD31-CD34+CD45-SCA-1 (stem cell antigen-1)+およびCD31-CD34+CD45-INTα7 (integrin alpha-7)+の筋サテライト細胞集団で特異的に誘導され、ヒト筋PAX7 (paired box 7) 陽性サテライト細胞でも確認された (Fig. 5a)。また成熟分化筋線維でもZIP14発現が観察された (Fig. 5b)。

C2C12筋芽細胞と初代筋芽細胞にAdenoZip14を感染させ、ZnCl2 50 μM で処理した実験では、Zip14非発現細胞では亜鉛処理でも分化が正常に進行したのに対し、Zip14発現細胞では亜鉛存在下でMyHC発現と筋細胞融合が選択的に遮断された (n=3の独立した反復実験で確認、細胞生存率に変化なし) (Fig. 5c,d)。Zip14発現筋芽細胞への亜鉛添加はMyoD (myogenic differentiation factor)・Mef2c (myocyte enhancer factor 2C)・Myf5 (myogenic factor 5) の転写を抑制し (Cyclin D1は変化なし)、4T1・C26m2悪液質筋でのMyoD・Mef2c低下はRNA-seqでも確認された (Fig. 5e,f)。一方、分化筋管細胞でのZip14過剰発現+亜鉛処理はMyHCタンパクの著明な喪失を誘導したが、スケルタルアクチン・トロポミオシン・トロポニン・デスミン・MyLC (myosin light chain) など他のミオフィブリルタンパクには変化がなかった (Fig. 5g)。MyHC喪失はプロテアソーム阻害薬MG132で阻止され、Trim63・Psma1 (proteasome subunit alpha type 1) などのUPS (ubiquitin-proteasome system、ユビキチン-プロテアソーム系) 遺伝子の上方制御を伴った。in vivo では shZip14ノックダウンまたはZip14-KOマウスの悪液質筋でMyHCが正常レベルに回復し (Fig. 5h,i)、Zip14-KOマウスへのAAV-Zip14再発現が筋萎縮とMyHC喪失を回復させた。Zip14再発現は非腫瘍担持マウスでは筋萎縮を誘発せず、腫瘍環境との協働が必要であることが示された。

考察/結論

本研究は転移癌誘発性悪液質の包括的分子機序として、「腫瘍由来TNFα/TGFβ → NFκBおよびSMADシグナル → 骨格筋ZIP14上方制御 → 亜鉛過剰流入 → 筋前駆細胞でのMyoD/Mef2c抑制 (筋分化障害) および成熟筋細胞でのMyHC喪失 (筋萎縮) → 悪液質」という経路を本研究で初めて確立した。5種の独立したマウスモデル (allograft×2、GEMM×2、PDX (patient-derived xenograft)×1) とヒト転移癌患者筋組織 (悪液質43例・非悪液質53例) で再現されたことは高い信頼性を与える。

これまでの研究との違い:既報の悪液質メディエーターとしてIL-6 (STAT3活性化)・myostatin・PTHrP・TNFα/IFNγ (interferon-gamma、直接筋タンパク分解促進) が報告されてきたが、これらはすべて筋タンパク質分解経路に作用する分子であった。これまでの研究と異なり、本研究は亜鉛輸送体という全く新規のクラスの分子が悪液質のドライバーとなることを遺伝的手法で実証した。先行研究では悪液質筋の亜鉛過剰蓄積は記述的に観察されていたが、対照的にその蓄積を引き起こすトランスポーターの同定と病態的意義の解明には至っていなかった。また、KrasG12D;Lkb1fl/fl GEMMやPC9-BrM3 EGFR変異肺癌モデルを含む4種の転移性肺癌モデルでの検証は既報よりも幅広いがん種での普遍性を示す。

新規性:本研究で初めて、ZIP14-亜鉛軸が骨格筋の筋前駆細胞と成熟筋線維の両者を異なる機序で傷害すること (前駆細胞: MyoD/Mef2c抑制→再生障害 / 成熟筋: MyHC喪失→萎縮) を実証した。Zip14-KOマウスへのAAV-Zip14再発現によって悪液質が回復するという「gain-of-function」実験は novel な因果的証拠を提供する。さらに亜鉛補充が転移癌モデルで悪液質をZip14依存的に悪化させる所見もこれまで報告されていない新知見である。ZIP14が亜鉛以外に鉄・マンガン輸送にも関与することが肝臓・脳で知られており、骨格筋での多ミネラル輸送の役割も新規な探索領域となる。

臨床応用:低血清亜鉛を示す転移癌患者への亜鉛補充は臨床現場で行われることがあるが、本研究の結果は転移癌担持マウスでZip14依存的に亜鉛補充が悪液質を悪化させることを示した。この知見は亜鉛補充の慎重な再考という臨床的意義を持ち、ZIP14阻害薬の開発、筋標的AAVベクターによるshZIP14送達、亜鉛キレート療法などが治療戦略として提示された。臨床応用の観点から、ZIP14タンパク発現と血清亜鉛比は悪液質の診断バイオマーカーとしての検証が期待される。

残された課題:(1) TNFα/TGFβ中和でも完全抑制されなかったZip14誘導因子の同定、(2) 亜鉛恒常性の全身調節 (肝臓・骨髄・胸腺での動態) と悪液質進行の関係、(3) 鉄・マンガンなど他ミネラルのZIP14介在輸送が悪液質に寄与する可能性、(4) 化学療法との相互作用評価、(5) 亜鉛補充中止後の筋量回復の可逆性評価、が future research として挙げられる。limitation として、ヒト患者コホートが剖検由来であり縦断的サンプリングが不可能な点、Zip14-KOマウスが矮小症・脊柱側弯などの基礎的表現型を持つため全身KOの解釈に制限がある点が残存する。今後の更なる検討によりZIP14標的化が悪液質患者の生存と QOL (quality of life) 改善につながることが期待される。

方法

乳癌モデルとして4T1細胞をBALB/cマウスに、大腸癌モデルとしてC26m2細胞 (C26 colon carcinoma in vivo-selected metastatic subline) をCD2F1 (CD2F1 hybrid mouse) マウスに皮下投与し、腫瘍切除・再発法 (resection-and-relapse approach) で転移を誘導した。GEMM (genetically engineered mouse model、遺伝子改変マウスモデル) としてKrasLSL-G12D/+;p53fl/fl (Kras G12D + p53欠失) およびKrasLSL-G12D/+;Lkb1fl/fl (Kras G12D + Lkb1/STK11 serine/threonine kinase 11 欠失) 転移性肺癌モデルをアデノウイルスCre誘導で構築した。EGFR変異ヒト肺癌細胞PC9-BrM3の異種移植 (xenograft) モデル (7週)、Rb/p53欠失 SCLC (small cell lung cancer) 同種移植モデル (悪液質非誘発対照、6週)、および非転移性Pten/Lkb1欠失GEMMを対照として使用した。ヒト患者コホートは転移性進行癌患者の筋組織を悪液質群n=43例・非悪液質群n=53例で収集し、ZIP14の IHC (immunohistochemistry、免疫組織化学) を実施した。

骨格筋トランスクリプトーム解析は tibialis anterior (前脛骨筋) からRNA-seqで実施し、DAVID (Database for Annotation, Visualization and Integrated Discovery) で機能アノテーションクラスタリングを実施した (Enrichment Score >5.0、P<0.05)。GSEA (Gene Set Enrichment Analysis) はKEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) パスウェイセットおよびMSigDB (Molecular Signatures Database) HALLMARK_MYOGENESISセットで実施した。上流制御因子解析はIPA (Ingenuity Pathway Analysis) で行い、候補サイトカインを検証した。亜鉛濃度は ICP-MS (inductively coupled plasma mass spectrometry、誘導結合プラズマ質量分析) で筋組織・血清の乾燥重量比 (µg/g) として定量し、LA-ICP-MS (laser ablation ICP-MS) で単一筋線維の亜鉛蓄積を可視化した。

Zip14全身KO (knockout) マウスによるレスキュー実験に加え、AAV (adeno-associated virus) ベクターを用いたshRNA介在Zip14筋特異的ノックダウン (shZip14) を腓腹筋に導入した。C2C12マウス筋芽細胞と初代ヒト筋細胞にアデノウイルス (GFP対照 vs. Zip14過剰発現) を感染させ、ZnCl2 50 μM で処理して分化・MyHC (myosin heavy chain、ミオシン重鎖) 発現を評価した。TNFα (50 ng/mL) とTGFβ (10 ng/mL) によるZip14誘導をNFκB阻害薬BAY 11-7085、TGFβRI阻害薬SB431542 (SMAD阻害)、AP-1阻害薬CC-401で遮断した。統計解析には two-tailed unpaired Student’s t-test、two-sided Welch’s t-test、one-way ANOVA with post hoc Tukey’s test (F値を付記)、Pearson’s chi-square test、one-tailed Fisher’s exact test (RNA-seq) を使用した。