• 著者: Anastasia N. Tikhonova, Igor Dolgalev, Hai Hu, Kishor K. Sivaraj, Elisa Hoxha, Álvaro Cuesta-Domínguez, Sandra Pinho, Ilseyar Akhmetzyanova, Jinyu Gao, Matthew Witkowski, Maria Guillamot, Michael C. Gutkin, Yi Zhang, Christian Marier, Charles Diefenbach, Samir Bagree, Devanjali Bhatt, Effie Apostolou, Dan A. Landau, Andrea Hoelbl-Kovacic, Ralf H. Adams, Iannis Aifantis, et al.
  • Corresponding author: Anastasia N. Tikhonova (Anastasia.Tikhonova@nyumc.org); Aristotelis Tsirigos (Aristotelis.Tsirigos@nyumc.org); Iannis Aifantis (Iannis.Aifantis@nyumc.org) (Department of Pathology, NYU Grossman School of Medicine, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30971824

背景

造血幹細胞 (HSC) は、自己複製と多系統分化を厳密に制御するために、骨髄ニッチと呼ばれる特殊な微小環境に依存している。このニッチは、主に血管内皮細胞、血管周囲間質細胞、骨芽細胞などの多様な細胞集団で構成されるが、これらの構成細胞の分子的な多様性や機能的分担は、これまで単一細胞レベルでは十分に解明されていなかった。Notchシグナリングは造血において重要な役割を果たすことが知られているものの、骨髄内でデルタ様Notchリガンド4 (DLL4)、デルタ様Notchリガンド1 (DLL1)、およびJagged1 (JAG1) などの特定のNotchリガンドがどの細胞種から供給されるのか、またどのリガンドがHSCの系統決定に最も重要であるのかは不明なままであった。例えば、Poulos et al. (2013) はJagged-1がHSCの自己複製を支持することを示したが、他のリガンドの役割は不明であった。さらに、5-フルオロウラシル (5-FU) などの化学療法による急性ストレス造血時に、骨髄ニッチが分子的にどのように再プログラムされるかについても、詳細な解析が不足していた。Zhou et al. (2017) は化学療法後の脂肪細胞の拡大を報告しているが、その分子メカニズムは未解明な点が多かった。従来のHSCニッチ研究では、複数の細胞種が機能的に同定されてきたが、それらの細胞の転写的多様性と造血調節因子供給源の具体的な対応関係については、網羅的な解析が不足していたのである (Morrison & Scadden, 2014; Wei & Frenette, 2018)。これらの知識ギャップを埋めることは、正常造血の理解を深めるだけでなく、血液悪性腫瘍の発症や進展、化学療法抵抗性におけるニッチの役割を解明する上で不可欠であった。

目的

本研究の主な目的は、マウス骨髄ニッチを構成する主要な細胞集団(VE-Cadherin陽性 (VE-Cad+) 血管内皮細胞、レプチン受容体陽性 (LEPR+) 血管周囲間質細胞、コラーゲン2.3陽性 (COL2.3+) 骨芽系細胞)の転写ランドスケープを単一細胞解像度で網羅的にマッピングすることである。具体的には、以下の点を解明することを目的とした。(1) これらの細胞集団内の未解明なサブポピュレーションを同定し、その分子特性を明らかにする。(2) 造血促進因子(SDF-1/CXCL12、SCF/KITL、IL-7、DLL1/DLL4など)の細胞種特異的な供給源を特定する。(3) 5-FU化学療法による急性骨髄ストレスに対するニッチ細胞の分子応答と再プログラミングを解析する。(4) 血管内皮細胞に特異的に発現するNotchリガンドDLL4が、造血幹細胞・前駆細胞 (HSPC) の系統決定、特にリンパ系と骨髄系のバランスに果たす役割を機能的に解明する。これらの解析を通じて、骨髄ニッチの細胞アーキテクチャと造血制御メカニズムに関する理解を深めることを目指した。

結果

骨髄ニッチサブポピュレーションの網羅的同定: 定常状態のマウス骨髄ニッチ細胞のscRNA-seq解析により、これまで認識されていなかった細胞の異質性が明らかになった (Fig 1d)。VE-Cad+血管内皮細胞は、動脈性特徴を持つV1クラスター(Ly6a高発現、SCA1+CD102+PODXL+)と、洞様毛細血管性特徴を持つV2クラスター(Stab2高発現、VEGFR3+CD54+)の2つの主要なサブポピュレーションに分類された。LEPR+血管周囲間質細胞は4つのクラスター(P1-P4)に細分化され、P1およびP2は脂肪生成関連マーカー(Mgp, Lpl, Adipoq)を高発現する脂肪前駆体様集団であり、P3およびP4はWif1, Spp1/Ibspを高発現する骨芽系前駆体様集団であることが示された。COL2.3+骨芽系細胞は3つのクラスター(O1: Col16a1/Tnn高発現、WNT5A+; O2: Fbn1/Igf1高発現、軟骨骨化移行様; O3: Bglap/Car3高発現、成熟骨芽細胞)に分類された。定常状態では、骨髄ニッチ細胞の99%以上が非分裂状態であることが確認された (Extended Data Fig. 5e, f)。これらの解析は、n=9,622 cellsのデータに基づき、骨髄ニッチの細胞多様性を詳細に明らかにした。

造血促進因子の細胞種特異的供給源: 各サブポピュレーションにおける造血促進因子の発現パターンを解析した結果、SDF-1 (CXCL12) とSCF (KitL) は動脈性V1クラスターとLEPR+ P1/P2クラスターで最も高発現していた (Fig 2f)。NotchリガンドであるDLL4とDLL1は、VE-Cad+血管内皮細胞に特異的に発現しており、特に動脈性V1クラスターで優位な発現が認められた。一方、LEPR+細胞およびCOL2.3+細胞ではこれらのリガンドの発現はほとんど見られなかった。IL-7、IL-15、CSF1、BMP-4はLEPR+ P1/P2クラスターが主要な供給源であり、脂肪前駆体様LEPR+細胞が多様な造血促進因子のリザーバーとして機能することが示唆された。WNT5A(HSC静止維持に関与)はO1クラスター、IGF-1(造血悪性腫瘍やB細胞発生に関与)はO2クラスターが主要な供給源であった。この詳細なマッピングは、造血調節因子の細胞種特異的な供給源を明らかにし、ニッチ細胞間の機能的分業を示唆する。

5-FU化学療法ストレスへのニッチ応答: 5-FU(150 mg/kg)単回投与5日後、骨髄細胞量、LSK細胞数、および血管・血管周囲細胞集団が有意に減少した (Extended Data Fig 6b, c)。scRNA-seq解析(n=7,752 cells)では、LEPR+細胞が新規の脂肪前駆体クラスター(P5)を形成し、脂肪生成関連経路が全体的に亢進する一方で、骨芽系遺伝子の発現が抑制されることが明らかになった。これは、既報の化学療法後の脂肪細胞拡大と一致する所見である。また、血管内皮細胞におけるDll4およびDll1の発現が5-FU後に有意に下方調節され、化学療法下でNotchシグナルが減弱することが示された (Fig 3d)。このDLL4の下方調節は、造血再構成過程における骨髄系バイアスを説明しうる分子機序であると考えられる。5-FU処理後の細胞増殖は、定常状態の0.7%から5.4%に増加し、再生プロセスの開始を示唆した (Extended Data Fig. 6g, h)。

血管内皮細胞由来のDLL4がHSPC系統決定を制御: Dll4-mCherryおよびDll1-mCherryレポーターマウスを用いたフローサイトメトリー解析により、DLL4は骨髄CD144+血管内皮細胞に高発現し、DLL1は中程度の発現を示すことが確認された (Fig 4b)。DLL1はNK1.1+造血細胞サブセットにも発現が認められた。VE-CadcreER-Dll4i3COINマウス(血管内皮特異的Dll4欠失)では、B220+B細胞およびCD3+T細胞リンパ系集団が減少し、Gr1+CD11b+骨髄系細胞が有意に拡大した(B細胞n=11 mice vs 対照n=12 mice, p=0.0082; T細胞n=11 mice vs 対照n=12 mice, p=0.0321)。21,116 HSPCのscRNA-seq解析では、DLL4欠失マウスにおいて、HSC段階から骨髄系関連遺伝子(Calr, Ctsg, Elane, Mpo)が異所性に過剰発現し、以降の全てのMPPサブセットで骨髄系バイアスが維持されることが示された (Fig 5e)。例えば、Calrのlog2FCはHSCで約1.8、MPP2で約1.5であった。一方、Dll1欠失(VE-CadDll1fl/fl)では造血分化に有意な変化は認められなかった (Extended Data Fig. 10)。これらの結果から、血管内皮細胞由来のDLL4が、HSPCの早期造血分化可能性、特にリンパ系と骨髄系の系統決定を制御する主要なNotchリガンドであることが強く示唆された。

考察/結論

本研究は、マウス骨髄ニッチを単一細胞解像度で転写プロファイリングした初の包括的解析であり、従来の表面マーカーベースの分類を超えた細胞種固有の造血調節因子分布を提供した。先行研究と異なり、本研究は単一細胞解像度でニッチ細胞の転写的多様性と機能的分業を直接対応づけた点で質的に新しい知見をもたらした。特に、血管内皮細胞が造血促進因子であるSDF-1とSCFの主要な供給源であり、またNotchリガンドDLL4の主要な発現源であることを明らかにした点は重要である。

新規性: 最も重要な発見は、血管内皮細胞由来のDLL4が骨髄ニッチのNotch経路において、HSPCのリンパ系と骨髄系の系統バランスを制御する非冗長的な主要リガンドであるという点である。DLL1やJAG1の単独欠失では同様の表現型が生じないことで、その特異性が確認された。このDLL4の役割は、これまで報告されていない新規の造血制御メカニズムを示唆するものであり、HSCの運命決定におけるニッチの役割に関する理解を深めるものである。DLL4欠失マウスでは、HSPCにおいて骨髄系遺伝子プログラムが早期に誘導され、成熟骨髄系細胞の拡大とリンパ系細胞の減少が観察されたことは、DLL4が造血の可塑性を制御する上で不可欠な因子であることを明確に示している。

臨床応用: 本知見は、血液悪性腫瘍の発症、進展、および化学療法抵抗性における骨髄ニッチの役割を理解する上で重要な臨床的含意を持つ。例えば、CXCR4-CXCL12相互作用が急性リンパ性白血病の治療標的となっている先行研究と同様に、血管内皮DLL4やその他の骨髄ニッチ因子も新たな治療標的となる可能性がある。5-FU化学療法後のDLL4下方調節は、造血再構成過程での骨髄系バイアスを説明しうる分子機序であり、化学療法後の血球回復支援にNotchシグナル増強が戦略となりうることを示唆する。これらの知見は、ニッチを標的とした治療戦略の開発に繋がる可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で得られたマウス骨髄ニッチの知見をヒト骨髄ニッチへ外挿すること、DLL4の発現調節機構(HIF1αや血管新生シグナルによる制御など)を詳細に解明すること、および加齢、免疫不全、血液悪性腫瘍といった病態下でのニッチ異常の解明が重要である。また、HSPCの分化可塑性がニッチ細胞とのユニークな相互作用によってどのように決定されるのか、その詳細な分子メカニズムをさらに深く探求する必要がある。これらの研究は、ニッチを標的とした新たな治療戦略の開発に繋がる可能性がある。

方法

マウス(C57BL/6)骨髄から、蛍光レポーター系(VE-Cad-tdTomato; LEPR-tdTomato; COL2.3-tdTomato)を用いて、VE-Cad+血管内皮細胞、LEPR+血管周囲間質細胞、COL2.3+骨芽系細胞の3種類の骨髄ニッチ細胞集団を分離した。これらの細胞は、定常状態(n=9,622 cells)および5-FU(150 mg/kg単回投与)処置5日後(n=7,752 cells)の計17,374細胞について、10x Genomicsプラットフォームを用いたscRNA-seqにより網羅的に解析された。データ解析には、Seurat Rパッケージが用いられ、t-SNEによる次元削減とグラフベースのクラスタリングにより、細胞の異質性を評価した。サブクラスタリングと差次的発現解析は、MAST法(Bonferroni補正)を用いて実施された。造血促進因子(SDF-1/CXCL12、SCF/KITL、IL-7、DLL1/DLL4など)の細胞種特異的発現パターンを定量的に評価した。

Notchリガンドの発現分布を詳細に解析するため、Dll4-mCherry、Dll1-mCherry、Jag1-mCherryのBACトランスジェニックレポーターマウスを作製し、in vivo二光子イメージングとフローサイトメトリーにより、骨髄内の発現細胞種と局在を確認した。

血管内皮細胞由来のDLL4の機能的役割を評価するため、VE-CadcreER-Dll4i3COINマウス(タモキシフェン誘導性VE-Cad特異的Dll4欠失)を作製した。このマウスモデルを用いて、HSPCの組成と系統分化に対するDLL4欠失の影響をフローサイトメトリーと21,116 HSPCのscRNA-seqにより詳細に評価した。同様に、VE-Cad-Dll1fl/flマウスを用いてDll1の血管内皮特異的欠失を行い、造血分化への影響を評価した。scRNA-seqデータの前処理にはCell Ranger Suiteが使用され、アライメントにはDobin et al. Bioinformatics 2013が、遺伝子カウントにはLiao et al. Bioinformatics 2014が用いられた。バルクRNA-seqデータ解析にはLove et al. GenomeBiol 2014が適用された。細胞の分類には、Tirosh et al. Science 2016で報告されたモジュールスコア法が用いられた。データ統合にはButler et al. NatBiotechnol 2018のSeuratアライメント法が使用された。