Article data
Human haematopoietic stem cells remember inflammatory stress
- 著者: Zeng AGX, et al.
- Corresponding author: Xie SZ
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-01-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 42203882
背景
haematopoietic stem cells (HSC) は生涯にわたって血液産生を維持し、炎症・感染などの多様なストレスに曝露されるが、ヒトHSCが炎症ストレスにどのように応答・適応するかは殆ど不明であった (がん幹細胞)。Caiado et al. 2021 はマウスモデルで炎症がHSC機能に長期的な障害をもたらすことを示し、Bogeska et al. 2022 は慢性炎症曝露がマウスHSCの自己複製能を恒久的に低下させることを実証した。また Yamashita and Passegue et al. 2019 はtumor necrosis factor (TNF) がマウスHSCの生存と骨髄再生を協調的に制御することを明らかにしていた。一方、Jaiswal and Ebert et al. 2019 はclonal haematopoiesis (CH) が加齢・炎症・血液悪性腫瘍リスクと密接に関連することを総説し、CH変異クローンの選択メカニズムは未解明であることを指摘した。ヒトHSCではcord blood (CB) 由来haematopoietic stem and progenitor cells (HSPC) を用いたxenograftモデルでの長期的解析が行われておらず、HSC内の不均一性が炎症応答にどう影響するかが核心的な未解決課題として残されていた (がん幹細胞静止)。
目的
ヒトHSCが炎症ストレス後に分子的記憶を保持するかどうかを検証すること、xenograft炎症回復モデルとsingle-cell multiomics (scMultiome) を用いてHSCサブセットを同定し、その生理的・疾患的関連性を多様なコホートで評価すること、ならびにDNMT3A・TET2変異を持つクローン造血 (CH) においてHSC-iM状態が果たす役割を解明することを目的とした。
結果
xenograftモデルにおける炎症後HSCサブセットの同定:
NSGマウスへのCB HSPCのxenograftモデルで、TNFまたはLPS単回投与16時間後に注射大腿骨内hCD45+細胞数が有意に減少し (p<0.001)、hCD34+前駆細胞比率も低下した (p=0.006)。単回投与後18週での長期生着は完全に回復し (n=15匹/群、3独立CBプール)、幹細胞頻度も変化しなかった (secondary limiting dilution assay, n=各群10〜15匹)。しかし反復投与 (2週・10週の2回) 後10週回復期でも注射大腿骨内hCD45+生着がLPS群・TNF群でPBS群より有意に低値を維持し (p<0.001)、反復炎症刺激による持続的な幹細胞機能変化が示された (Fig 1参照)。二次移植での幹細胞頻度 (f-Stem) はPBS群に対してLPS群で1.6-fold低下傾向を示した (p=0.08)。この持続的変化の分子基盤を解明するため、炎症回復xenograft由来のCD34+CD38-CD45RA- HSPCにscMultiome (27,492転写データ) を適用し、BoneMarrowMapアノテーションによりHSC-IとHSC-II (以降HSC-iMと改称) の2つのHSCサブセットを同定した (Fig 2参照)。HSC-iMはHSC-Iに対して3,663の差次的クロマチン開口領域と2,178の差次的発現遺伝子 (differentially expressed genes; DEG) を示し、NF-κBシグナル (NFKB1, REL)、AP-1ファミリー (JUNB, FOS)、TGFβシグナル (SMAD3) の転写因子調節ネットワーク濃縮が確認された。TNF回復後にはHSC-iM内でNFKB1・JUNBを含む30転写因子の活性上昇が、LPS回復後にはHMGA1・SPI1を含む28転写因子の活性上昇がHSC-iM特異的に観察されたが、HSC-Iでの変化は最小であった (Augur classifier area under the curve; AUC 0.944〜0.992)。
生理的・疾患設定でのHSC-iMプログラムの検証:
COVID-19 ICU回復コホート (n=4名) の末梢血HSC (n=490/747/812、健常/ICU対照/ICU-COVID) では、HSC-iMプログラム濃縮がICU-COVID群で健常群・ICU対照群より有意に高く (p<2.22×10−16)、AUROC=0.946であった (Fig 3参照)。加齢コホート解析 (n=41ドナー、19〜87歳) では、60〜90歳群と40〜60歳群がいずれも18〜40歳群に比べてHSC-iMプログラムの有意な濃縮を示し、テストした8,312経路中HSC-iMプログラムが最高統計有意性を達成した。ヒトHSC老化メタシグネチャー37遺伝子 (NR4A1含む) もHSC-iMへの特異的濃縮を示した (AUROC=0.931)。SCDコホートの小児患者HSCでもHSC-iMプログラムが有意に濃縮されており、炎症関連HSC早期老化表現型との関連が示された。
クローン造血とHSC-iM:
TARGET-seq+ データセット (n=9 CHドナー、骨髄HSC 4,651転写データ; 3独立実験) では、xenograft由来HSC-I/HSC-iMプログラムが骨髄HSC1/HSC2を強く分離し (AUROC=0.944〜0.992)、両データセット間で1,456の有意な共通上昇遺伝子 (SMAD3, NFKB1, TGFB1, FOSL1, JUNB, RELB含む) が同定された (Fig 4参照)。HSC-iMプログラム濃縮はドナー年齢と有意に相関し (Pearson R=0.69, p=0.009)、CH変異クローンサイズとも正相関した (R=0.70, p=0.0082)。年齢・性別・細胞分取バッチを共変量として調整後も、CH-WTとCH変異体HSCは共に対照非CHドナーのHSCよりHSC-iMプログラムを有意に濃縮していた (gene set enrichment analysis; GSEA)。特筆すべき知見として、DNMT3A変異体はHSC-iM内でのみ56 DEGを示したが、HSC-I内では0であり (Fig 4参照)、TET2変異体もHSC-iM内で126 DEGを示したがHSC-I内では17 DEGに留まった。これは変異がHSC-iM転写状態を選択的に変化させることを示す。HSC-iM優位サンプルとHSC-I優位サンプルの比較では、CH-WT細胞においてHSC-iM優位サンプルがLMPP・GMP前駆細胞の有意な減少を示した (p=0.0095) が、CH変異体細胞ではHSC-iM優位サンプルで分化促進が観察された (linear mixed model, Holm-Bonferroni補正)。
HSC-iMプログラムの子孫への伝達と死亡リスクとの関連:
骨髄ドナー由来HSC-iM優位 (n=4) とHSC-I優位 (n=6) 系統の比較で、単球を含む骨髄系細胞においてHSC-iM優位系統の子孫がHSC-iMプログラムと炎症シグナル経路 (TNF via NF-κB, TGFβ) の有意な濃縮を示した (Fig 5参照)。CB n=62ドナーの遺伝的多型を用いた系統追跡 (82,527細胞) では、HSC-iM優位cladeは3系統、HSC-I優位cladeは9系統が同定され、HSC-iM優位cladeが限定的なプロジェニター産生を示す一方でCD14単球産生比率が高かった。この炎症性記憶プログラムの子孫への伝達はICU-COVIDデータセット・健常成人生涯コホート (n=32ドナー)・ミトコンドリアDNA系統追跡 (213クローン、n=13ドナー) で独立して確認された。IRS解析では、若年者 (<45歳) においてHSC-iMスコアがB細胞・naive T細胞・樹状細胞で高死亡リスク (IRS≥5) と有意に相関し、HSC-Iスコアが低死亡リスク (IRS≤3) と相関した。
考察/結論
本研究はヒトHSCが炎症ストレス後に転写・エピゲノム的な分子記憶を保持するHSC-iMという新規サブセットを初めて同定し、これが重症COVID-19回復・加齢・SCD・クローン造血という多様な病態で普遍的に増加することを実証した。先行研究と比較すると、Caiado et al. 2021やBogeska et al. 2022はマウスモデルでの炎症によるHSC機能障害を示していたが、ヒトHSCのサブセット特異的な炎症記憶メカニズムは未解明のままであった。本研究はこれと異なり、xenograftモデルとscMultiomeの組み合わせでヒトHSC内の不均一性を解明し、HSC-iMという機能的・分子的に明確に区別されるサブセットが慢性炎症記憶の担い手であることを初めて示した。
本研究の新規な点として、ヒトHSCが炎症記憶を保持するHSC-iMという単一サブセットを同定したことは、これまでマウスで示されていた炎症によるHSC機能障害とは異なり、細胞不均一性に基づく選択的な記憶メカニズムという全く新規な概念を提示する。特にHSC-iMプログラムがT細胞記憶 (TM細胞のAP-1 chromatin motif濃縮) と収束する保存された炎症記憶機構を持つことは、組織幹細胞における炎症記憶の普遍的な生物学的原理として新規な意義を持つ (がん幹細胞静止)。臨床応用の観点では、CH変異 (DNMT3A/TET2) がHSC-iM状態を選択的に変化させて骨髄産生を促進するという知見は、CH由来の血液悪性腫瘍リスク上昇の細胞メカニズムを説明し、CH変異保有者でのHSC-iM評価が疾患進行予測に役立つ可能性を示す (系統可塑性)。またHSC-iMスコアが若年者のIRS死亡リスクと相関することは、末梢血マーカーとして健康老化を評価する新しいアプローチを示唆する。残された課題として、HSC-iMの前向き単離のための新規表面マーカーの同定、HSC-iM特異的なクロマチン変化を制御するシス調節エレメントとトランス作用因子の特定、HSC-iM蓄積が先行する個人での将来の血液悪性腫瘍リスクの予測的検証、ならびに各種炎症疾患・感染後状態でのHSC-iM動態の追跡が必要である。
方法
NSGマウスへのcord blood (CB) 由来CD34+CD38- human haematopoietic stem and progenitor cells (HSPC) のxenograft炎症回復モデルを作製し、PBS/TNF/LPS投与 (単回: n=15匹/群、反復: n=13〜15匹/群の計3独立CBプール) にて20週後の生着解析を実施した。single-cell multiome sequencing (scMultiome) (single-nucleus RNA + ATAC同時解析) をCB HSPC (15,590細胞) と炎症回復xenograft由来HSPC (27,492細胞) に適用した。BoneMarrowMap参照を用いた細胞種アノテーション後、weighted nearest-neighbour (WNN) 解析によりuniform manifold approximation and projection (UMAP) を構築した。転写因子調節ネットワーク解析はSCENIC+で実施した。生理的設定での検証として、COVID-19 intensive care unit (ICU) 回復後コホート (n=4名、ICU-COVID; ICU対照n=6名、健常n=7名)、加齢コホート (4データセット、n=41ドナー; 19〜87歳)、sickle cell disease (SCD) コホートの3,759 HSC転写データを用いた。clonal haematopoiesis (CH) 解析はTARGET-seq+ データセット (骨髄HSPC、n=9名) の4,651 HSC転写データを使用し、DNMT3A/TET2変異体とwild-type (WT) HSCを比較した。82,527細胞の遺伝的多型を用いてCB n=62ドナーからの系統追跡を行った。intermountain risk score (IRS) を用いた死亡リスク解析は、Ontario Health Study参加者428名の末梢血scRNA-seqデータで実施した。統計解析にはMann-Whitney検定、カイ二乗検定、Wilcoxon rank-sum検定、linear mixed modelを使用した。