• 著者: Minseob Koh, Insha Ahmad, Yeonjin Ko, Yuxiang Zhang, Thomas F. Martinez, Jolene K. Diedrich, Qian Chu, James J. Moresco, Michael A. Erb, Alan Saghatelian, Peter G. Schultz, Michael J. Bollong
  • Corresponding author: Alan Saghatelian; Peter G. Schultz; Michael J. Bollong (The Scripps Research Institute, La Jolla; Salk Institute for Biological Studies, La Jolla)
  • 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-01-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33468658

背景

哺乳類ゲノムには古典的タンパク質コード遺伝子を超えた多数の sORF (short open reading frame) が存在することが、近年のリボゾームシーケンシング (Ribo-seq) により明らかになった。sORFがコードする短鎖タンパク質は SEP (Small-Encoded Polypeptide) またはmicroproteinと総称され、細胞あたり数十〜数千分子のレベルで発現する。少数例でSEPの生理機能が示されており、代謝調節 (Anderson et al. 2015)、筋機能 (Cobb et al. 2016)、アポトーシス抑制 (Hirano et al. 2003)、DNA修復等が報告されている。Prensner et al. 2021 はがん細胞生存に必須な非カノニカルORFコードタンパク質の大規模同定を行い、sORF産物の生物学的重要性への注目をさらに高めた。

しかし、SEPのタンパク質間相互作用ネットワーク (インタラクトーム) を系統的に同定する汎用的な方法は未確立であり、大部分のSEPの分子機能は未解明のままであった。AP-MS (affinity purification mass spectrometry: 親和性精製質量分析) は低親和性・過渡的相互作用の検出が不十分であり、APEX (Ascorbate Peroxidase Engineering: 改変ペルオキシダーゼ) タギング法は融合タンパク質が大きくSEPの小さな結合界面を阻害する可能性があった。結果として、SEPがクロマチン・転写調節という高次核内プロセスに関与するかどうかは手薄であった。

光架橋非天然アミノ酸 (ncAA: non-canonical amino acid) の遺伝的組み込み技術は拡張遺伝子コードを利用して特定部位に光活性化基を導入し、結合タンパク質と共有結合を形成できる手法である (Liu et al. 2018; Chin et al. 2011)。ncAAをSEPに組み込んでインタラクトームマッピングに応用した事例はなく、sORF産物の機能解析への有用性は実証されていなかった。

目的

ジアジリン含有非天然リジン誘導体 AbK (Azido-bearing photoactivatable lysine: 光活性化リジン非天然アミノ酸) とAP-MSを組み合わせた新規プラットフォームを確立し、哺乳類保存型未特性化SEPのインタラクトームを系統的に同定すること。特に、クロマチン関連SEPを発見し、その転写調節機能をゲノムワイドに解明すること。

結果

所見1: 光架橋AP-MSプラットフォームの有効性確認: (Fig 1) 先行研究で報告されたsORFコードペプチドを用いた検証実験において、UV照射条件でDNA二本鎖修復ヘテロダイマー (非相同末端結合複合体) がそれぞれ約20倍・約5倍の相対的スペクトルカウント濃縮を示した (n=3 biological replicates)。Student’s t-検定では非照射群との濃縮差が有意 (p<0.05) であり、さらにUV照射条件でのみ核外輸送タンパク複合体やDNA結合タンパク質なども同定された。mScarlet蛍光タンパク質を陰性対照として使用し、非特異的結合の排除を確認した。これらの結果は、光架橋ncAA AbKの組み込みにより低親和性・過渡的相互作用の検出が飛躍的に向上することを示す。

所見2: スクリーニングからSEHBPを同定: (Fig 1B) n=48 samples のAP-MSランにおいて、7つのSEPのうち1つはインタラクターが検出されなかった。ミトコンドリア局在型SEPはグルタミン酸デヒドロゲナーゼと排他的に会合し、シグナリング型SEPは細胞内GTPase群と結合した。SEHBPはヒストンH2Bアイソフォーム、HMGN (high mobility group nucleosome binding protein) ファミリー、ヌクレオシド二リン酸キナーゼ、c-Myc結合タンパク質と特異的に相互作用することが示された。いずれのシグナルもUV照射条件で顕著に増強された (n=48 samples)。

所見3: SEHBPの分子特性と高親和性H2B結合: (Fig 2-3) SEHBPはジンクフィンガー遺伝子 (zinc finger protein 689) 転写産物の5’ UTR (untranslated region: 非翻訳領域) 内にコードされる46アミノ酸のmicroproteinで、哺乳類間で高い配列相同性を持つ。HEK293T・ヒト子宮頸がん細胞・K562細胞でのRibo-seqにより高いリボソーム占有率が確認された。バイオレイヤー干渉法によりSEHBPとヒストンH2Bの解離定数 Kd=25±0.4 nM という高親和性結合が測定された。共免疫沈降では内在性H2BとSEHBPタグ付き融合体、逆方向 (抗H2B抗体で沈降後にSEHBPを検出) の両方で相互作用が確認され、内在性タンパク質レベルでの結合が示された。化学架橋剤を用いた実験から高移動度群ヌクレオソーム結合タンパク質ファミリーとの内在性相互作用も確認された。SEHBPは核・細胞質の両コンパートメントに局在する。

所見4: ゲノムワイドな転写調節機能: (Fig 4A-E) HEK293T細胞でSEHBP融合タンパク質を過剰発現したRNA-seq解析において、全活性転写産物11,586のうち1,985転写産物 (16.7%) が有意に発現変動した (n=3 samples)。変動転写産物の84%がダウンレギュレーションを示し、SEHBPが転写抑制的役割を持つことが示唆された。MSigDB全遺伝子セットのGSEA解析でも大多数の遺伝子セットで負の正規化濃縮スコア (NES: normalized enrichment score) が確認された。NES順位と転写変動の相関係数は Spearman ρ=0.72 (全遺伝子セット間、n=1,985 transcripts) であり、転写抑制パターンが全ゲノム規模で一貫していた。上位200上方制御転写産物はステロイドホルモン応答 (エストラジオール等) と関連し、下方制御転写産物は多数のジンクフィンガータンパク質コード遺伝子の抑制と関連した。

所見5: ゲノム結合部位の同定: (Fig 4F) ChIP-seqによりSEHBPは8,900か所のゲノム遺伝子座に会合することが示された。また1,786か所の転写開始部位 (TSS: transcription start site) への占有が確認された。RNA-seqで強く調節される転写産物の遺伝子座においてTSSおよびコード領域全体にわたる高い被覆が確認された (n=3 biological replicates)。GSEA解析との統合で、SEHBPのクロマチン上の結合部位はダウンレギュレーションを受けた転写産物の遺伝子座と有意に重複しており (overlap p<0.01)、SEHBPがクロマチン直接会合を介してゲノムワイドな転写調節を行うことが示された。この知見は、わずか46アミノ酸という極めて小さなタンパク質が核内でヒストン結合を介して転写プログラム全体を再構成できることを初めて実証するものである。

考察/結論

本研究で新たに示したのは、sORFがコードする46アミノ酸の小タンパク質が、ヒストンH2Bへの高親和性結合 (Kd=25±0.4 nM) を介してクロマチンに会合し、活性転写産物の16.7%という広範な転写プログラムを調節しうるという知見である。sORFコード産物が遺伝子セット規模のゲノムワイド転写制御を担うことを実証した初めての報告であり、ゲノムの「暗黒物質」が従来考えられていた以上に豊富な転写調節機能を持つ可能性を示した。

先行研究とは異なり、SEHBP以前に同定されたSEPの多くは酵素活性よりもタンパク質間相互作用を介した機能が提唱されていたが (Anderson et al. 2015; Cobb et al. 2016)、クロマチン・転写調節への関与は個別の例を超えた系統的理解が欠如していた。本研究が確立した光架橋ncAA AbKとAP-MSの組み合わせは、融合タンパク質なしに過渡的・低親和性相互作用を共有結合固定できる革新的手法であり、従来の共免疫沈降やAPEXタギング法では困難だった低コピー数SEPの相互作用解析を可能にした。Prensner et al. 2021 (Prensner et al. NatBiotechnol 2021) ががん細胞生存に必須な非カノニカルORF産物の存在を示したのに対し、本研究はそれらの機能解析に適した汎用的インタラクトームマッピング基盤を初めて提供した。SEHBPが結合するヒストンH2B (Kd=25 nM) は、高移動度群ヌクレオソーム結合タンパク質ファミリーが担うクロマチンアクセシビリティ調節と類似した機序を示唆し、クロマチン開放性維持の分子基盤 (Hargreaves et al. 2021) とも共通する概念的枠組みを提供する。SEHBPが担うような非コード領域由来の転写調節は、染色体外DNAが周囲の転写産物を大域的に増強するといった新たなゲノム転写制御様式とも並行して理解すべき現象である (Zhu et al. CancerCell 2021)。

SEHBPの過剰発現で抑制されるジンクフィンガータンパク質群とSEHBPをコードするジンクフィンガー遺伝子転写産物との関係は、SEHBP自身がジンクフィンガー遺伝子の5’ UTRにコードされ、同族遺伝子群の発現を下方制御するという自己制御ループを示唆し興味深い。ヒストン修飾を介した遺伝子発現制御の多様性 (Stillman et al. 2018) とも整合する。

臨床的含意として、SEHBPのような未発見のsORF産物がヒストンH2Bを足場としてゲノムワイドな転写抑制を担うとすれば、がん等の疾患における転写調節異常の新たなメカニズムとして注目に値する。本研究の光架橋AP-MSプラットフォームは今後、SEHBPを含む他のsORF産物の病態における役割解析、治療標的探索に応用可能である。残された課題は、SEHBPが直接クロマチンアクセシビリティを変化させるかの検証、他の転写因子・ヒストン修飾酵素との複合体構成の全容解明、がん細胞でのSEHBPおよびSEP群の発現変化と機能的意義の解析、ならびに本プラットフォームを用いた全SEPインタラクトームの網羅的解析である。

方法

光架橋AP-MSプラットフォームの構築: Methanosarcina barkeri ピロリシルtRNA合成酵素/tRNA対を用いてHEK293T細胞に光架橋ncAA AbKをSEPトランスジーンに in vivo 組み込みした。365 nm UV照射によりジアジリン由来カルベン種が生成し、SEPと相互作用タンパク質が共有結合固定される。エピトープタグ付き免疫沈降後にショットガンプロテオミクス解析を実施した。既知sORFコードペプチド (DNA修復関連の先行研究報告済みSEP) を用いた検証実験で、その結合パートナーであるDNA二本鎖修復ヘテロダイマー (非相同末端結合複合体) が約20倍・約5倍の相対的スペクトルカウント濃縮を示し、プラットフォームの有効性を確認した。統計比較はStudent’s t-検定を用いて生物学的3反復の平均スペクトルカウントの比 (UV照射 vs 非照射) で評価した。

SEPスクリーニング: Ribo-seqにより1,000以上のsORFから哺乳類間で高い配列相同性を持つ機能未知の24 SEPを選択した。3xFLAGタグ付きSEPトランスジーンライブラリーを構築し、HEK293T細胞での発現確認後に光架橋AP-MS解析を実施した (n=48 runs、7 SEP × 3生物学的反復 × UV有/無の各条件)。mScarlet蛍光タンパク質と3xFLAGペプチドを対照として非特異的結合を排除した。

クロマチン結合SEPの詳細解析: スクリーニングで同定された候補SEPをSEHBP (short ORF-encoded histone binding protein) と命名し、詳細解析を行った。バイオレイヤー干渉法による解離定数 (Kd) 測定、共免疫沈降、ウエスタンブロット、共焦点顕微鏡による局在解析を実施した。HEK293T、ヒト子宮頸がん細胞株、K562細胞でRibo-seqにより翻訳活性を確認した。

クロマチン・転写解析: HEK293T細胞でSEHBP融合タンパク質を過剰発現後、RNA-seqによるゲノムワイド発現変化 (ベクター対照比、n=3生物学的反復) と ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing: クロマチン免疫沈降シーケンシング) によるゲノム結合部位同定を実施した。遺伝子セット富化解析 (GSEA: gene set enrichment analysis) は MSigDB 全遺伝子セットに適用した (Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005)。