• 著者: Y. Zhu, A.D. Gujar, C.H. Wong, H. Tjong, C.Y. Ngan, L. Gong, Y.A. Chen, H. Kim, J. Liu, M. Li, A. Mil-Homens, R. Maurya, C. Kuhlberg, F. Sun, E. Yi, A.C. deCarvalho, Y. Ruan, R.G.W. Verhaak, C.L. Wei
  • Corresponding author: R.G.W. Verhaak; C.L. Wei (The Jackson Laboratory for Genomic Medicine, Farmington, CT)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33836152

背景

染色体外DNA (ecDNA) は環状クロマチン体として多くの癌細胞に存在し、EGFR、MYC、CDK4などの癌遺伝子の主要な増幅機序として認識されている。ecDNAはセントロメアを持たないため非メンデル性の不均等分配により急速なコピー数増加が可能であり、Kim et al. NatGenet 2020のパンキャンサー解析では3,200の腫瘍を対象に579の円形・染色体外増幅体が同定され、ecDNAが治療ストレス下でのアダプティブリザーバーとして機能することが示されていた。また、Nathanson et al. Science 2014は、変異型EGFR ecDNAの動的制御が標的療法耐性を媒介することを報告している。これらの研究はecDNAが癌の進化と治療抵抗性に寄与することを示唆する一方で、その詳細な分子メカニズム、特にゲノムワイドな転写制御における役割については未解明な点が多かった。

先行研究では、ecDNAクロマチンがH3K27acに富む開放的な構造を持つことが示され (Wu et al. Nature 2019)、Morton et al. Cell 2019やKoche et al. (2020)では癌遺伝子増幅に共局在するエンハンサーの存在が報告されていた。しかし、これらの研究は主にecDNA内部のエンハンサー機能や、ecDNA上のエンハンサーがecDNA内の癌遺伝子プロモーターとcis的に相互作用する「エンハンサーハイジャック」の概念に焦点を当てていた。線形染色体DNAのTAD (topologically associating domain)・コンパートメント・クロマチンループについての詳細な理解があるのに対し、染色体外クロマチン体の核内での空間的組織化と、それが染色体DNAとどのように3次元的に相互作用し、ゲノムワイドな転写制御に寄与するかについては知識のギャップが残されていた。特に、ecDNAがcis的な癌遺伝子コピー数増加を超えて、trans的に離れた染色体遺伝子の転写を活性化する「移動性スーパーエンハンサー」として機能するという仮説は未検証であった。

ecDNAの動的な挙動と腫瘍進化への寄与はdeCarvalho et al. NatGenet 2018によっても示唆されているが、その詳細なメカニズム、特にゲノムワイドな転写制御における役割については、さらなる研究が不足していた。本研究は、ecDNAが単なる遺伝子増幅の器ではなく、能動的な転写制御因子として機能するという、これまで報告されていない役割を明確にすることを目指す。このような背景から、ecDNAが核内でどのように組織化され、染色体DNAと相互作用し、ゲノム全体の遺伝子発現に影響を与えるのかを包括的に理解することが、癌の発生と進行におけるecDNAの役割を解明するために不可欠であった。

目的

本研究の目的は、ChIA-PET (chromatin interaction analysis by paired-end tag sequencing) とChIA-Drop (chromatin interaction analysis with droplet sequencing) 技術を用いて、膠芽腫 (GBM) 患者由来神経球および前立腺癌細胞株におけるecDNAのゲノムワイドなクロマチン接触パターンを定量的に解析することである。これにより、ecDNAのコピー数増幅を超えた転写制御機能、特に移動性スーパーエンハンサーとしての役割を解明し、その腫瘍増殖への寄与を明らかにすることを目指す。

具体的には、以下の点を明らかにすることを目的とする。

  1. ecDNAが染色体全体にわたる広範なトランス染色体相互作用を形成する能力を定量的に評価すること。
  2. ecDNA-クロマチン接触部位がH3K27ac高集積領域、特にスーパーエンハンサー (SE) と一致するかを検証すること。
  3. ecDNA上のSEがゲノムワイドな染色体遺伝子の転写増幅を駆動するメカニズムを解明すること。
  4. 合成ecDNAを用いた実験により、ecDNA上のエンハンサーが染色体遺伝子の転写を活性化するという因果関係を直接的に検証すること。
  5. ChIA-Drop解析により、単一分子分解能でecDNAが複数の染色体プロモーターと同時に相互作用する多価クロマチン複合体を形成する様態を詳細に解析すること。

これらの目的を達成することで、ecDNAが癌遺伝子増幅の媒体としてだけでなく、ゲノムワイドな転写を増幅する移動性エンハンサーとして機能するという新たな概念を提唱し、腫瘍増殖を促進する「合成異数性」転写制御メカニズムを解明することを目指す。

結果

ecDNAはゲノムワイドに高頻度のトランス染色体相互作用を示す: Hi-C解析において、ecDNA含有ゲノム領域 (ecMYC・ecEGFR) はコピー数補正後も染色体全体にわたる極めて高頻度のトランス接触を示した (Figure 1B)。ecDNA陽性2株でのadj nTIFは1本のecDNAコピーあたり中央値0.3〜1.1であり、染色体1コピーあたりの中央値約0.2と比較して有意に高く (p=1×10⁻³〜6×10⁻³²、one-sided Wilcoxon rank-sum test)、ecDNA陰性対照HF-3035ではそのような高nTIFは認められなかった。HF-3016・HF-3177ではecMYC/ecEGFR/ecCDK4の3つのecDNAの中央値adj nTIFが4〜24に達し、染色体領域の0.2〜0.4と比較して統計的に有意に高値であった (p=5×10⁻⁹〜9×10⁻⁷⁶)。また染色体性増幅領域 (コピー数5〜15) と比較しても、ecDNA領域は有意に高いadj nTIFを示した (中央値adj nTIF 4〜24 vs 0.7〜1.8、p<8×10⁻⁸)。これらの結果は、ecDNAがその自律的な能力によってゲノム全体にわたる広範なクロマチン結合性を示すことを強く示唆している。RNAPII (RNA Polymerase II) ChIA-PET解析では、ecDNA領域はCN (コピー数) 正規化後も対応する染色体領域と比較して5〜17倍高いcis相互作用頻度を示した (Figure 3A)。

ecDNA-クロマチン接触部位はH3K27ac高集積スーパーエンハンサーと一致する: RNAPII ChIA-PETで定義された4つのecDNA陽性株でのecDNA-染色体間相互作用は、HF-2354で220、HF-2927で271、HF-3016で587、HF-3177で455対と定量された (Figure S2B)。ecDNA上の接触部位 (Group A) はH3K27acエンリッチメントが3〜18倍高く (p=0.014)、中央値11〜31 (vs 染色体Background Group Cの6〜7、p=1×10⁻²〜5×10⁻⁶)、H3K27acピークスパンも2.3〜4.1 kbと染色体ピーク (1 kb) より有意に広域だった (p=2×10⁻³〜5×10⁻⁸) (Figure 4C, D)。染色体接触部位 (Group B) もH3K27ac中央値12〜20で有意に高く (p=7×10⁻¹¹¹〜5×10⁻²⁶⁴)、ecDNA-染色体接触が転写活性領域に収束することが示された。ROSE (Ranking Of Super Enhancer) アルゴリズム解析ではecDNA上にHF-2354で7、HF-2927で3、HF-3016で27、HF-3177で22個のSEが同定された。これらecDNA SEは2〜18%のecDNAサイズ占有率で31〜73%の全ecDNA-染色体相互作用を媒介した (Figure 4F)。例えばHF-2927のecEGFR上の2つのSE (いずれも非コード領域) が全染色体相互作用の62%を媒介した。ecDNA SEが起点となる接触はCN補正後も染色体SE由来と比較して1.9〜3.7倍有意に多く (p=7×10⁻⁴〜1×10⁻⁶)、ecDNA SEが選択的に染色体相互作用の拠点となることが確認された。

ecDNAスーパーエンハンサーがゲノムワイドな転写増幅を駆動する: ecDNAに接触する染色体遺伝子のプロモーター領域の遺伝子 (各細胞株で214、294、592、399遺伝子) は、RNAPIIに結合するがecDNA接触がない遺伝子と比較してFPKM中央値12.9〜20.4 (vs 0.4〜2.7、p=4×10⁻²³〜7×10⁻⁴⁸) という顕著に高い発現量を示した (Figure 5A)。またトランス染色体接触があるがecDNA非接触の遺伝子 (FPKM中央値9.5〜11.3) と比較しても有意に高値だった (p=6×10⁻³〜2×10⁻⁷)。遺伝子発現量はecDNA接触頻度 (独立相互作用数) と正相関した (Figure 5B)。計1,412のecDNA接触遺伝子の中では729の染色体癌遺伝子データベースからの代表 (n=71) が有意に濃縮されており (p<0.05)、ecDNA標的の癌遺伝子は各ecDNA陽性株の全遺伝子中央値と比較して5〜16倍高いFPKM値を示した (p=4×10⁻⁵〜9×10⁻⁹)。

合成ecDNAによる因果関係の実証: 既知エンハンサーを含む合成ecDNA環状DNAをPC3前立腺癌細胞 (ecDNA陰性) に導入したところ、ゲノムワイドな染色体遺伝子転写活性化が認められた (Figure 5C, D)。57の有意に発現変動した遺伝子のうち55遺伝子が上方制御され (log2(fold change) > 1, q < 0.05)、これはecDNAが染色体外エンハンサー源として機能するという因果関係を直接実証するものである。特に、転写因子ATF3、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP13、腫瘍壊死因子α誘導タンパク質TNFAIP3などの遺伝子で顕著な発現誘導が確認された (Figure 5E)。この実験では、n=3 replicatesでRNA-seq解析が行われた。

ChIA-Dropによる単一分子分解能でのecDNA-染色体接触の解明: PC3 ecDNA(+)細胞においてChIA-Drop解析を実施し、約250万のバーコード配列から250万以上のGEMs (gel beads-in-emulsion) を生成した。約180,000のGEMsがecMYC領域と関連しており (Figure 6A)、これらのクロマチン複合体は複数の染色体プロモーターを結合し (Figure 6B)、その接触部位はecMYC上のSEに収束していた (Figure 6C)。合計1,415の異なるecMYC相互作用遺伝子がR ≥ 3の個別のecMYC SE複合体で検出され (Table S5)、これらの機能はTNFα、MYC、およびp53経路で濃縮されていた (FDR 7×10⁻¹¹〜1×10⁻²⁵)。合成エンハンサーサークルを導入したPC3細胞で上方制御された55遺伝子のうち25遺伝子のプロモーターはecMYCと接触しており、ChIA-Dropの2つのレプリケートで合計186および174のecDNA-クロマチン接触を媒介し、ランダムな遺伝子セットと比較して有意に高かった (p=2×10⁻³⁰⁸、one-sided one sample Wilcoxon test)。

考察/結論

本研究はecDNA研究に重要な概念的転換をもたらした。ecDNAは従来「癌遺伝子コピー数増幅の媒体」として理解されていたが、本研究はecDNAがそれを超えて「移動性スーパーエンハンサー」としてゲノムワイドに染色体遺伝子転写を増幅する機能を持つことを、ChIA-PET・Hi-C・ChIA-Drop・RNA-seqを組み合わせた多層的な証拠で実証した。ecDNAのサイズが小さく円形という構造的特性が核内での移動性を高め、多数の染色体領域と接触できる「mobile enhancer」機能の物理的基盤になるという洞察は本研究の中核的貢献である。

先行研究との違い: Morton et al. Cell 2019が示したエンハンサーハイジャック (ecDNA上のエンハンサーとecDNA内の癌遺伝子プロモーターのcis相互作用) の概念を、本研究はtrans調節 (ecDNA上のSEから離れた染色体遺伝子への転写活性化) という新たなレイヤーへと拡張した点で、これまでの理解と異なる。ecDNA上のSEが2〜18%のサイズ占有率で31〜73%の相互作用を媒介するという不均等な役割分担は、SEが選択的に「トランス調節ハブ」として機能することを示す。

新規性: 本研究で初めて提唱された「合成異数性 (synthetic aneuploidy)」の概念は、1または少数のecDNAが実効的な多染色体コピー数変化に相当する転写影響をもたらすというものであり、ecDNA陽性腫瘍で広域な遺伝子発現改変が生じるメカニズムの革新的な説明を提供する新規な知見である。これは、ecDNAが単なる遺伝子増幅の器ではなく、能動的な転写制御因子として機能するという、これまで報告されていない役割を明確に示した。

臨床応用: ecDNA陽性腫瘍 (脳腫瘍・前立腺癌・その他多数の癌種) では癌遺伝子コピー数増加だけでなく、SE機能を介した広域な転写プログラムの改変が生じており、治療抵抗性の基盤となる。BET阻害薬 (BRD4を介したSE活性の抑制) ・CDK7阻害薬 (転写活性化の抑制) などエンハンサー依存的転写を標的とする薬剤が、ecDNA陽性腫瘍に対して特に有効な可能性がある。ecDNA上のSEが示す特有のH3K27ac/RNAPIIシグネチャーは、将来の治療標的として精密に定義できる点で臨床的意義が大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、ecDNA-染色体相互作用の時空間的動態制御機序 (どのようなタイミングでecDNAが特定染色体領域と接触するか)、ecDNA上のSE-コンタクト特異性を決定する配列・構造因子の解明、単一細胞レベルでのecDNA分布と転写状態の関係解析、および異なるがん種・異なるecDNA構造でのsynthetic aneuploidy機序の普遍性検証が残されている。また、本研究では合成ecDNA実験により因果関係の一部を実証したが、ecDNA-染色体相互作用と転写活性化の因果関係を完全に確立するには至っておらず、この点も今後の重要なlimitationである。

方法

使用細胞株: 本研究では、GBM患者由来神経球5株 (ecDNA陽性: HF-2354 [ecMYC、約780 kb]・HF-2927 [ecEGFR、約530 kb]・HF-3016・HF-3177 [ecEGFR/ecMYC/ecCDK4; 同一患者の原発・再発株]、ecDNA陰性対照: HF-3035) および前立腺癌細胞株PC3を使用した。PC3細胞株は、その高いトランスフェクション効率と既知のecDNA陽性/陰性ステータスから選択された。GBM神経球細胞株はHenry Ford Hospitalで収集された腫瘍検体から樹立され、継代数15〜26の細胞が実験に用いられた。PC3細胞はATCCから入手された。

ゲノム・クロマチン解析: Hi-C (ChIP非依存的クロマチン接触解析)・RNAPII (RNA Polymerase II) ChIA-PET・H3K27ac ChIA-PET・RNAPII ChIA-Drop (シングル分子分解能) を実施した。ChIA-PETデータは、Li et al. Bioinformatics 2009のBWAアライメントツールを用いてhg19ゲノムにマッピングされた。コピー数補正のためUMI (unique molecular identifier) アプローチでChIP-seqデータを作成し、input libraryでCN (コピー数) variationを正規化した。50 kb分解能でゲノムワイドなトランス染色体相互作用頻度 (nTIF) を定量化し、線形回帰モデルでコピー数の影響を補正したadj nTIFを算出した。FPKM値によるRNA発現量解析でecDNA接触遺伝子の転写活性を定量した。RNAPII ChIA-PETでは、RNAPII結合クロマチン相互作用を捕捉し、Hi-CではChIPなしで一般的なクロマチン構造を解析した。RNAPII結合部位とH3K27ac修飾部位を特定するため、ChIP-seqプロファイリングも実施した。

スーパーエンハンサー解析: ROSE (Ranking Of Super Enhancer) アルゴリズムを用いて、線形染色体およびecDNA上の典型エンハンサー (TE) とスーパーエンハンサー (SE) を定義した。H3K27acピークの濃縮度とスパンサイズを、ecDNA上の高頻度相互作用焦点 (Group A)、その対応する染色体パートナー (Group B)、およびecDNAと接触しないゲノムワイドな染色体H3K27acピーク (Group C) の間で比較した。

合成ecDNA実験: 既知エンハンサーエレメントを含む合成ecDNA環状DNAをSV40プロモーター制御下に構築し、PC3前立腺癌細胞へ導入してゲノムワイドな染色体遺伝子転写への影響を解析した。この実験では、H3K27ac修飾が豊富なゲノム領域を人工的に環状DNAとして作成し、ecDNA陰性細胞にトランスフェクションすることで、ecDNAの転写制御における因果的役割を検証した。FISH (fluorescence in situ hybridization) によるecDNA-染色体相互作用の直接検証も行った。

ChIA-Drop解析: PC3 ecDNA陽性細胞においてChIA-Drop解析を実施し、約250万のバーコード配列から250万以上のGEMs (gel beads-in-emulsion) を生成した。約180,000のGEMsがecMYC領域と関連しており、これらのクロマチン複合体が複数の染色体プロモーターを結合し、その接触部位がecMYC上のSEに収束しているかを解析した。

統計解析: 統計解析にはR統計ソフトウェアを使用し、Wilcoxon Rank-Sum Test、Binomial Test、Fisher’s Exact Test、およびt検定が用いられた。特に、コピー数補正後のnTIFの有意差や遺伝子発現量の比較にこれらの手法が適用された。転写因子モチーフ濃縮解析にはHomer2 (Heinz et al. MolCell 2010)が使用された。