- 著者: Li YR, Shen X, Zhu E, Huang J, Le T, Radu CG, Tran C, Li Z, Yang L
- Corresponding author: Lili Yang (University of California, Los Angeles)
- 雑誌: PNAS
- 発行年: 2025
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 41269799
背景
膵臓癌 (PC: pancreatic cancer) は極めて予後不良な悪性腫瘍であり、5年生存率は12%未満に留まっている。患者の50%以上が診断時に転移性疾患を呈しており、転移性PCの5年生存率は2-3%と極めて低い。転移性PCは化学療法や免疫チェックポイント阻害剤に対して強い抵抗性を示す。その一因として、密な間質バリアと免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) が挙げられる。これらの特徴は、播種性疾患を効果的に標的とできる、スケーラブルな新規免疫療法の開発が急務であることを浮き彫りにしている。キメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) T細胞療法はPCを標的とする治療法として期待されているが、腫瘍抗原の不均一性、抗原喪失または抗原エスケープ、TME内でのCAR-T細胞の機能的疲弊、さらに自家細胞調製に伴う高額な製造コストや長期の製造期間といった課題により、その臨床的有効性は限定的である。従来のCAR-T細胞は固形癌における腫瘍へのホーミング能力が低く、オンターゲット・オフ腫瘍毒性などの障壁にも直面している。メソテリン (MSLN: mesothelin) はPCにおいて高発現し、正常組織での発現が限られていることから、CARの標的として確立されている。MSLNを標的とするCAR-T細胞療法の初期臨床試験では安全性と抗腫瘍活性の兆候が示されているが、腫瘍抗原の不均一性や抗原逃避、免疫抑制的なTME内での機能不全により、全体的な臨床的有効性は不十分である。また、自家治療の性質上、個別化された製造の複雑さ、コスト、時間のため、スケーラビリティとアクセシビリティに大きな制約がある。
不変ナチュラルキラーT (NKT: natural killer T) 細胞は、非多型MHCクラスI様分子CD1dによって提示される糖脂質抗原を認識する、稀な自然免疫様T細胞サブセットである。このユニークな制限により、NKT細胞は移植片対宿主病 (GvHD: graft-versus-host disease) を誘発する能力を持たず、同種異系養子細胞療法において安全に使用できる。CARを導入したCAR-NKT細胞は、腫瘍特異性と内因性のTCRおよびNK受容体 (NKR: natural killer receptor) 介在の細胞傷害性を兼ね備え、免疫抑制的なTME内の腫瘍細胞と抑制性骨髄系細胞集団の両方を標的とすることが可能である。従来のCAR-T細胞と比較して、CAR-NKT細胞は良好なケモカイン受容体プロファイル (例: CXCR3およびCCR5) により固形腫瘍へのホーミング能力が向上し、疲弊および最終分化に対する抵抗性が優れている。また、全身性サイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome) や神経毒性を引き起こしにくく、HLAマッチングを必要しないため、多様な患者集団における臨床的適用性が拡大する。しかし、末梢血中のNKT細胞の頻度が極めて低いことが、臨床応用に必要な量を生成する上での大きな課題となっている。したがって、CAR-NKT細胞を高収率かつ高純度で生産するための堅牢な戦略の開発は、その治療的利用を進める上で極めて重要である。
これまでの研究では、末梢血由来のNKT細胞の細胞数不足を補うための大規模な体外増殖法が試みられてきたが、十分な細胞数と純度を両立する手法は未確立であった。また、固形癌の不均一な抗原発現に対して、単一のCAR標的のみに依存する治療法では抗原エスケープを克服できないという課題が残されている。さらに、アロジェニック細胞療法における宿主免疫系からの拒絶反応を回避しつつ、長期的な生存能を維持する技術も不足している。先行研究である Anderson et al. Immunity 2016 では免疫チェックポイント受容体による免疫抑制が報告されており、Brudno et al. Blood 2016 ではCAR-T細胞療法の毒性管理が議論されている。しかし、膵臓癌の微小環境における抗原不均一性とアロジェニック拒絶を同時に解決するアプローチは未解明であり、臨床応用可能なオフザシェルフ型細胞製剤の製造技術が決定的に不足しているという課題が残されている。
目的
本研究の目的は、ヒト造血幹細胞 (HSPC: hematopoietic stem and progenitor cell) から分化させたIL-15増強メソテリン特異的CAR-NKT (Allo15MCAR-NKT) 細胞を開発し、その製造プロセス、表現型および機能的特性、抗腫瘍効果、作用機序、生体内分布、安全性、および免疫原性を包括的に評価することである。特に、同所性および転移性ヒトPC異種移植モデルを用いて、Allo15MCAR-NKT細胞の腫瘍ホーミングおよび浸潤能力を評価し、off-the-shelf (オフザシェルフ) 次世代アロジェニック細胞療法としての強力な前臨床基盤を確立することを目指した。これにより、腫瘍の不均一性、免疫回避、治療抵抗性といった重要な課題を克服し、特に転移性疾患の文脈において、膵臓癌に対する有望な次世代off-the-shelf免疫療法アプローチとしてのAllo15MCAR-NKT細胞を検証することを目的とする。
結果
Allo15MCAR-NKT細胞の製造と表現型特性: ヒト臍帯血CD34+ HSPCから、フィーダーフリーの分化プロトコルを用いてAllo15MCAR-NKT細胞が作製された。単一のレンチウイルスベクターによるHSPCの形質導入効率は50%を超え (Fig 1B)、最終的なAllo15MCAR-NKT細胞製品は97%以上の高純度で、不変NKT TCRとMSLN特異的CARをほぼ全ての細胞が共発現していた (Fig 1D, E)。この堅牢な製造プロトコルにより、単一の臍帯血ドナーから10^12個以上のAllo15MCAR-NKT細胞が生産可能であり、これは約1,000〜10,000回分の治療用量に相当する (Fig 1F)。Allo15MCAR-NKT細胞は、CD8+単一陽性 (SP) およびCD4-CD8-二重陰性 (DN) 集団の両方から構成され、記憶T細胞マーカーであるCD45ROとNK細胞系統の指標であるCD161を従来のMCAR-T細胞と比較して有意に高く発現していた (Fig 1G)。さらに、Allo15MCAR-NKT細胞は、PD-1+LAG-3+TIM-3+の三重陽性疲弊マーカーの発現頻度がMCAR-T細胞と比較して著しく低く (Fig 1H)、より疲弊しにくい表現型を示した。また、HLAクラスIおよびII分子の表面発現が大幅に低く (Fig 1G)、宿主T細胞を介したアロ反応を回避する能力が示唆された。
Allo15MCAR-NKT細胞のin vitro抗腫瘍活性と二重標的メカニズム: Allo15MCAR-NKT細胞は、MSLN+およびMSLN-の両方のPC細胞株に対して強力な細胞傷害性を示し、CAR依存性およびCAR非依存性の二重メカニズムが作用していることが示された (Fig 2E)。従来のMCAR-T細胞はMSLN+腫瘍細胞のみを選択的に排除したが、Allo15MCAR-NKT細胞はMSLN-標的にも効果を発揮した。NKG2DおよびDNAM-1を標的とする中和抗体によるNKR遮断は、Allo15MCAR-NKT細胞の細胞溶解活性を顕著に低下させ、p<0.001 の有意差を示した (Fig 2J)。これにより、NKRを介した腫瘍認識が抗原非依存性殺傷に重要な役割を果たすことが確認された。さらに、Allo15MCAR-NKT細胞は、MSLN+とMSLN-細胞の混合集団を含む不均一なCapan2腫瘍集団を効果的に排除し、腫瘍の不均一性や抗原逃避を克服する能力を示した。in vitro連続腫瘍細胞殺傷アッセイでは、Allo15MCAR-NKT細胞は20日間にわたりMSLN+およびMSLN-腫瘍細胞に対して持続的な細胞傷害活性を維持したが、MCAR-T細胞は機能の進行的な喪失を示した。
Allo15MCAR-NKT細胞のin vivo抗腫瘍効果と生体内分布: 同所性PCモデルにおいて、Allo15MCAR-NKT細胞は従来のMCAR-T細胞と比較して有意に優れた腫瘍制御を示し、腫瘍生体発光イメージング (BLI) シグナルが著しく低かった (p<0.0001) (Fig 3B, C)。Allo15MCAR-NKT細胞は膵臓腫瘍部位に優先的にホーミングし、肝臓、肺、脾臓、末梢血などの非標的組織への分布は限られていた (Fig 3D, E)。対照的に、MCAR-T細胞は膵臓にも検出されたが、肝臓などの非標的臓器に相当量が蓄積していた。免疫組織化学分析では、Allo15MCAR-NKT細胞が腫瘍コアに強力に浸潤し、腫瘍細胞と明確に共局在することが確認された (Fig 3F, G)。Allo15MCAR-NKT細胞は、CCR2、CCR5、CCR6、CXCR3、CXCR4などの腫瘍ホーミング受容体の発現がMCAR-T細胞と比較して著しく高く、CCR7の発現は低かった。腫瘍浸潤Allo15MCAR-NKT細胞は、CD69、CD25、IFN-γ、パーフォリン、グランザイムBなどの活性化およびエフェクターマーカーのレベルがMCAR-T細胞と比較して有意に高く、PD-1、CTLA-4、TIM-3、LAG-3、TIGITなどの疲弊マーカーの発現は著しく低かった (Fig 3H, I)。
Allo15MCAR-NKT細胞の転移性PCに対する治療効果と抗原逃避克服能力: 転移性PCモデルにおいて、Allo15MCAR-NKT細胞はMCAR-T細胞と比較して優れた腫瘍制御と全生存期間の延長を達成した (p<0.0001) (Fig 4C, D)。Allo15MCAR-NKT細胞は、このモデルで主要な腫瘍部位である肺に優先的にトラフィッキングした (Fig 4E, F)。皮下異種移植モデルを用いてCAR抗原逃避に対する効果を評価した結果、Allo15MCAR-NKT細胞はMSLN- (Capan2-FG) およびMSLN+ (Capan2-MSLN-FG) の両腫瘍モデルにおいて強力な抗腫瘍活性を示し、MCAR-T細胞の性能を上回った (p<0.0001) (Fig 5B-D, F-H)。Allo15MCAR-NKT細胞は腫瘍部位に局在し、末梢臓器への移動は最小限であった (Fig 5I, J)。腫瘍浸潤Allo15MCAR-NKT細胞は、CD69の発現が高く、PD-1の発現が低く、HLAクラスIおよびII分子の表面発現も低かった (Fig 5K-N)。
Allo15MCAR-NKT細胞のGvHD非誘導性とCRS毒性の軽減: Allo15MCAR-NKT細胞は、in vitro MLRアッセイにおいて、アロジェニックPBMCによるIFN-γ産生をMCAR-T細胞と比較して有意に低く誘導し (p<0.001)、免疫原性が低いことを示した。in vivo GvHD評価研究では、MCAR-T細胞を投与された n=5 mice が重度の異種GvHDの兆候を示し、最終的に死亡したのに対し、Allo15MCAR-NKT細胞を投与された n=5 mice はGvHDを発症せず、安定した体重と長期生存を維持した。また、in vitroでの細胞調製において、PBMC15MCAR-NK細胞は 3 to 5-fold increase の増殖に留まったのに対し、Allo15MCAR-NKT細胞は極めて高い増殖能を示した。CRS評価研究では、Allo15MCAR-NKT細胞はMCAR-T細胞と比較してCRS関連毒性を有意に低く誘導し、より安定した体重と血清中のマウスIL-6およびSAA-3の著しく低いレベルが観察された。ヒトIL-6レベルはAllo15MCAR-NKT細胞治療マウスで有意に低かったが (p<0.01)、IFN-γ、TNF-α、IL-2などのエフェクターサイトカインレベルは同等であった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究で開発されたAllo15MCAR-NKT細胞は、従来のCAR-T細胞が直面する腫瘍抗原の不均一性、抗原逃避、および免疫抑制的な腫瘍微小環境における機能的疲弊といった課題を克服する点で、これまでのアプローチと対照的である。特に、CARおよびNK受容体 (NKR) 介在の二重機序により、MSLN+だけでなくMSLNlow/MSLN-腫瘍細胞も効果的に排除できる点が、従来のCAR-T細胞とは異なる。また、Allo15MCAR-NKT細胞は、従来のCAR-T細胞と比較して、腫瘍ホーミング能力が向上し、疲弊マーカーの発現が低く、GvHDを誘発しないという点で優位性を示す。
新規性: 本研究で初めて、ヒト造血幹細胞 (HSPC) からIL-15増強メソテリン特異的CAR-NKT細胞を、臨床応用可能なフィーダーフリーのプロトコルで製造し、その優れた抗腫瘍効果と安全性プロファイルを同所性および転移性膵癌モデルで実証した。これはoff-the-shelfアロジェニック細胞療法としての新規な基盤を確立するものである。さらに、Allo15MCAR-NKT細胞が、腫瘍の不均一性や抗原逃避といったCAR療法における主要な課題を克服できることをin vivoで示した点も新規性が高い。
臨床応用: Allo15MCAR-NKT細胞は、高純度で大量生産が可能であり、GvHDを回避し、サイトカイン放出症候群 (CRS) 毒性を最小限に抑える良好な安全性プロファイルを示すことから、off-the-shelf次世代アロジェニック細胞療法としての臨床応用に強力な可能性を秘めている。特に、腫瘍の不均一性や免疫回避といった課題を克服し、転移性疾患を含む膵癌治療に新たな可能性を提示する。その低免疫原性と非アロ反応性は、広範な患者集団への適用を可能にし、製造の複雑さ、コスト、時間の制約を軽減する。
残された課題: 今後の検討課題として、免疫不全マウスモデルでの結果をヒトの免疫環境に外挿する際の限界が残されている。Allo15MCAR-NKT細胞の免疫原性を、ヒト化マウスモデルや免疫能を有するシステムなど、より生理学的に関連性の高い前臨床モデルで評価し、臨床状況における潜在的な免疫応答をより良く評価する必要がある。また、最適なCAR構成の決定も今後の重要な研究方向である。例えば、本研究では第三世代CARデザインを用いたが、最適なCAR構成は今後のさらなる検討を要する。さらに、Allo15MCAR-NKT細胞の長期的なin vivoでの持続性や、異なる固形腫瘍タイプへの適用可能性についても、さらなる研究が必要である。
方法
Allo15MCAR-NKT細胞は、ヒト臍帯血 (CB: cord blood) 由来CD34+ HSPCから、臨床ガイドラインに準拠したフィーダーフリー分化プロトコルを用いて作製された。HSPCは、不変NKT TCR α鎖およびβ鎖、メソテリン特異的キメラ抗原受容体 (CAR)、ヒト可溶性IL-15をコードする単一のレンチウイルスベクター (Lenti/iNKT-MCAR-IL-15) で形質導入された。形質導入効率は50%以上であった。その後、HSPC拡張 (2週間)、NKT分化 (1週間)、NKT深部分化 (1週間)、NKT拡張 (2週間) の4段階からなる6週間のin vitro分化培養が実施された。NKT拡張段階では、MSLNを過剰発現するK562ベースの人工抗原提示細胞 (aAPC: artificial antigen-presenting cell) を用いてNKT細胞を刺激した。
Allo15MCAR-NKT細胞のin vitro抗腫瘍活性は、MSLN発現プロファイルが異なる複数のPC細胞株 (MM.1S, MM.1S-MSLN, ASPC1, Capan2, Capan2-MSLN) を用いた腫瘍細胞殺傷アッセイで評価された。これらの細胞株は、ルシフェラーゼと緑色蛍光タンパク質 (FG: firefly luciferase and enhanced green fluorescent protein) のデュアルレポーターを発現するように改変され、生物発光イメージングおよびフローサイトメトリーによる定量分析を可能にした。CAR非依存性細胞傷害性の解明のため、NKG2DおよびDNAM-1を標的とする中和抗体を用いたNK受容体 (NKR) 遮断アッセイを実施した。また、腫瘍抗原逃避をモデル化するために、MSLN+細胞とMSLN-細胞の混合集団を含むCapan2腫瘍細胞株を用いた。長期細胞傷害能は、20日間、2日ごとに新鮮な腫瘍細胞を追加するin vitro連続腫瘍細胞殺傷アッセイで評価された。
in vivo抗腫瘍効果は、NOD/SCID/IL-2Rγ-/- (NSG) マウスを用いた同所性PCモデルおよび転移性PC異種移植モデルで評価された。同所性モデルでは、ヒト腫瘍細胞を膵臓に直接移植し、Allo15MCAR-NKT細胞または従来のメソテリン特異的CAR-T (MCAR-T) 細胞を静脈内投与した。転移性モデルでは、ASPC1-FG腫瘍細胞を静脈内投与し、主に肺に転移病変を形成させた。腫瘍の増殖は生物発光イメージング (BLI) で経時的にモニタリングされた。生体内分布は、治療細胞注入後25日目または30日目にマウス組織中のCD3+CD45+細胞をフローサイトメトリーで分析することにより評価された。腫瘍内浸潤は免疫組織化学 (IHC) 分析で評価された。CAR抗原逃避に対抗する能力は、Capan2-FG (MSLN-) およびCapan2-MSLN-FG (MSLN+) PC細胞を用いた皮下異種移植モデルで評価され、治療細胞は腫瘍周囲に注入された。
安全性評価として、Allo15MCAR-NKT細胞のGvHD誘導能は、in vitro混合リンパ球反応 (MLR: mixed lymphocyte reaction) アッセイおよびヒト化異種移植NSGマウスモデルで評価された。統計解析にはGraphPad Prism 8ソフトウェアが使用され、Studentのt検定、一元配置または二元配置ANOVA、Log-rank (Mantel-Cox) 検定が用いられた。有意水準はp<0.05と設定された。