- 著者: Ana C. Anderson, Nicole Joller, Vijay K. Kuchroo
- Corresponding author: Vijay K. Kuchroo (Evergrande Center for Immunologic Diseases, Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2016
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 27192565
背景
CTLA-4とPD-1を標的とした免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が、複数の癌腫において前例のない有効性を示している。しかし、多くの患者がこれらの治療に奏効せず、また複数の癌腫では効果が限定的であるという課題が残されている。この状況が、LAG-3 (Lymphocyte activation gene-3)、TIM-3 (T cell immunoglobulin-3)、TIGIT (T cell immunoglobulin and ITIM domain) を含む次世代の共抑制受容体の標的化研究を加速させた。これらの分子はPD-1やCTLA-4と同じ共抑制受容体クラスに属するものの、独自の機能、リガンド、発現パターンを持つことが知られていた。特に、組織炎症部位において免疫応答の特定の側面を調節する上で重要な役割を果たすと考えられていた。
先行研究では、慢性ウイルス感染症 (LCMV、HIV、HCV、HBV) とがんに共通するT細胞機能不全 (exhaustion) において、これらの受容体がPD-1と共発現し、協調的に機能することが示唆されていた。例えば、Blackburn et al. Nat Immunol 2009は、慢性ウイルス感染におけるCD8+ T細胞の疲弊において、複数の抑制性受容体が共調節的に機能することを示した。また、Sakuishi et al. JExpMed 2010は、Tim-3とPD-1経路を標的とすることで、T細胞の疲弊を逆転させ、抗腫瘍免疫を回復させる可能性を報告している。しかし、それぞれの分子が持つ特化した機能や、他の共抑制受容体との階層的関係については、依然として未解明な点が多かった。特に、これらの「第2層」の共抑制受容体が、CTLA-4やPD-1といった「第1層」の受容体とどのように異なる免疫調節機能を持つのか、その詳細なメカニズムの理解が不足していた。この知識ギャップが、これらの分子を標的とした治療法の合理的な設計と臨床応用を妨げる要因となっていた。例えば、LAG-3の細胞内KIEELEモチーフの結合タンパク質は未同定であり、そのシグナル伝達経路の全容は不明である。また、TIM-3の複数のリガンドが異なる状況下でどのように機能するのかも未確立であった。さらに、TIGITのITIMとITT様モチーフの種差による機能の違いも明らかになっていなかった。これらの情報は、各チェックポイント分子の最適な治療戦略を策定する上で不可欠であるにもかかわらず、包括的な情報が不足していた。本レビューは、これらの次世代共抑制受容体の包括的な理解を深めることを目的としている。
目的
本レビューの目的は、LAG-3、TIM-3、TIGITという次世代の共抑制受容体について、その発見の経緯、構造、リガンド、シグナル伝達機構、および自己免疫疾患、がん、慢性ウイルス感染症における役割を包括的に整理することである。特に、これらの3分子がCTLA-4やPD-1とは異なる「第2層」の共抑制受容体として、組織特異的かつリンパ球サブセット特異的な免疫調節機能を持つという統一的な枠組みを提示する。この枠組みは、免疫チェックポイント分子の機能的冗長性だけでなく、特化された役割を理解する上で重要である。さらに、これらの受容体の臨床試験への展開状況を概説し、その専門的な機能を理解することが、臨床における標的療法の合理的な適用に不可欠であることを強調する。最終的には、これらの分子が単独または既存の免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせにおいて、どのような治療的意義を持つのかを考察することを目的とする。この包括的なレビューを通じて、これらの次世代チェックポイント分子の治療的ポテンシャルを最大限に引き出すための基盤知識を提供することを目指す。
結果
LAG-3の構造、リガンド、シグナル伝達、および疾患における役割: LAG-3 (Lymphocyte activation gene-3) は、CD4コレセプターと構造的に相同であり、CD4よりも高い親和性で主要組織適合遺伝子複合体クラスII (MHCクラスII) に結合する (Table 1)。CD8+ T細胞やNK細胞でも発現するが、これらはMHCクラスIIと相互作用しないため、代替リガンドとしてLSECtin (DC-SIGNファミリー) が同定された。LSECtinは肝臓や多数の腫瘍細胞で発現している (Figure 1A)。LAG-3はCD4+ エフェクターT細胞、自然制御性T細胞 (nTreg)、誘導性制御性T細胞 (iTreg)、およびタイプ1制御性T細胞 (Tr1細胞) に発現し、Treg細胞での発現はエフェクターT細胞よりも高い。シグナル伝達に関しては、細胞質テールに独自の「KIEELE」モチーフを持ち、これが抑制機能に必須であることが示されているが、結合する細胞内タンパク質は未同定である。LAG-3欠損マウスでは、NODマウスの1型糖尿病モデルにおいて疾患が加速し、野生型対照群と比較して100%の個体で早期に糖尿病が発症した Bettini et al. J Immunol 2011。がんにおいては、CD8+ 腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) でPD-1と共発現し、慢性ウイルス感染症においても抑制的役割を担う。前臨床モデルでは、LAG-3遮断単独では効果が限定的であったが、PD-L1との共遮断が相乗効果を示し、CD8+ T細胞応答を改善しウイルス量を減少させた Blackburn et al. Nat Immunol 2009。臨床試験では、可溶性LAG-3-Ig融合タンパクであるIMP321が進行転移性乳癌においてパクリタキセルとの併用で客観的奏効率 (ORR) 50%を示した Brignone et al. J Transl Med 2010。IMP321は進行性腎細胞癌の第I相試験でも評価され、高用量治療で腫瘍増殖抑制と安定疾患が認められた (n=20 patients)。また、抗LAG-3抗体単独または抗PD-1抗体との組み合わせで固形・血液腫瘍の臨床試験が進行中である。
TIM-3の構造、リガンド、シグナル伝達、および疾患における役割: TIM-3 (T cell immunoglobulin-3) は、IFN-γ産生CD4+ Th1細胞とCD8+ Tc1細胞に選択的に発現することで発見された (Table 1)。Tim-3には4種のリガンドが同定されている:(1) Galectin-9 (C型レクチン) はTim-3+ Th1細胞のアポトーシスを誘導し、実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE) を改善する Zhu et al. Nat Immunol 2005。(2) CEACAM-1 (細胞表面リガンド) はTim-3と共発現し、抑制機能に必須である Huang et al. Nature 2015。(3) HMGB1 (可溶性) は、Tim-3がHMGB1をデコイとして機能させ、STING/TLR依存的炎症を抑制する Chiba et al. Nat Immunol 2012。(4) phosphatidyl serine (PS) はアポトーシス細胞の取り込みに関与する (Figure 1B)。シグナル伝達はBAT3 (HLA-B associated transcript 3) /Fyn軸を介する。リガンド非結合状態ではBAT3がTim-3テールに結合しLckを活性型で維持するが、リガンド結合によりY256およびY263のリン酸化が起こりBAT3が解離してFynが結合し、T細胞抑制に転換する Rangachari et al. Nat Med 2012。TIM-3は骨髄由来抑制細胞 (MDSCs) の拡大を促進し、腫瘍増殖を加速させる。がん (非小細胞肺癌、メラノーマ、濾胞性リンパ腫など) や慢性ウイルス感染 (HIV、HCV、HBV) では、機能不全CD8+ T細胞のマーカーとなり、Tim-3発現頻度は疾患重症度や予後不良と正相関する。Tim-3とPD-1の共遮断は、単独遮断よりも優れた応答を示すことが前臨床および臨床で確認されている Sakuishi et al. JExpMed 2010。例えば、LCMV慢性感染モデルでは、Tim-3+PD-1+のウイルス特異的CD8+ T細胞が最も機能不全を示し、両者の共遮断が抗ウイルス免疫の回復に最も効果的であった Jin et al. PNAS 2010。ヒトHIV感染患者では、Tim-3+CD8+ T細胞の頻度がウイルス量と正相関し、Tim-3遮断によりHIV-1ペプチド刺激に対する増殖が回復した (n=30 patients)。
TIGITの構造、リガンド、シグナル伝達、および疾患における役割: TIGIT (T cell immunoglobulin and ITIM domain) はIgスーパーファミリーに属し、活性化T細胞、NK細胞、メモリーT細胞、Treg細胞、濾胞性ヘルパーT細胞 (Tfh細胞) に発現する (Table 1)。リガンドはCD155 (PVR) とCD112 (PVRL2/Nectin-2) であり、これらは腫瘍細胞を含む多くの細胞に発現する。CD226 (DNAM-1) とCD96がTIGITと同じリガンドを共有し、CD226は共刺激シグナルを、CD96とTIGITは共抑制シグナルを送る (Figure 1C)。TIGITはCD155にCD226よりも著しく高い親和性で結合し (TIGITのKdは1-3 nMに対し、CD226のKdは114-199 nM、Table 2)、リガンド競合に加えてCD226のcis結合によるホモ二量化を妨げることで共刺激を阻害する Levin et al. Eur J Immunol 2011。細胞質テールにITIMとITT様モチーフを持ち、Fyn/Lckを介したリン酸化→SHIP1動員→PI3K・MAPK・NF-κBシグナル抑制によりNK細胞・T細胞の細胞傷害活性、顆粒極性化、サイトカイン産生を低下させる Li et al. J Biol Chem 2014。TIGITはDCにおいてCD155のバックシグナルを誘導し、IL-10産生を促進しIL-12p40産生を抑制することで、寛容誘導型DCを形成する Yu et al. Nat Immunol 2009。TIGITはFoxp3の直接標的遺伝子であり、Treg細胞でTIGIT+ Treg細胞が腫瘍組織に高度に濃縮し、Fgl2依存的にTh1/Th17応答を選択的に抑制する (Th2応答は温存) Joller et al. Immunity 2014。前臨床モデルでは、TIGIT欠損マウスが腫瘍増殖遅延を示し、TIGIT+PD-L1共遮断が腫瘍退縮と記憶応答を誘導した Johnston et al. Cancer Cell 2014。
Tier 2共抑制受容体の階層モデルと特化機能: 本論文は共抑制受容体を2段階の階層として整理した (Figure 4)。Tier 1 (CTLA-4、PD-1) は、リンパ系器官での自己寛容維持に必須であり、欠損すると自発的自己免疫が発症する。臨床的遮断では重篤な自己免疫毒性 (CTLA-4遮断でGrade 3-5が多数) が報告されている Hodi et al. NEnglJMed 2010、Robert et al. NEnglJMed 2015。Tier 2 (LAG-3、TIM-3、TIGIT) は、組織炎症部位での免疫応答調節に特化している。これらの分子の欠損では、感受性遺伝的背景においてのみ自己免疫が促進され、単独では自発的自己免疫は起こらない。したがって、Tier 2分子の臨床的遮断はTier 1分子よりも安全性が高いと予測される。また、「特化 (specification)」の概念として、リンパ球サブセット特化 (Tim-3のIFN-γ+ T細胞への優先発現)、解剖学的特化 (腸管でのTim-3/Galectin-9/CEACAM-1軸の優位性)、機能的特化 (TIGITによるTh1/Th17からTh2へのサイトカインバランスシフト) が提示された (Figure 5)。例えば、TIGITはTh1/Th17細胞の分化を抑制する一方でTh2細胞の分化を抑制せず、IL-10産生を促進することで、サイトカイン環境をタイプ1/17免疫からタイプ2免疫へとシフトさせる。この機能的特化は、TIGIT+Treg細胞がFgl2を介してTh1/Th17応答を選択的に抑制するメカニズムによって媒介されることが示された。
考察/結論
本レビューは、LAG-3、TIM-3、TIGITをCTLA-4/PD-1に続く次世代チェックポイント分子として包括的に整理した重要な総説である。
先行研究との違い: これまでの研究では、CTLA-4やPD-1が免疫寛容の維持に中心的な役割を果たすことが強調されてきたが、本レビューはこれらの分子がリンパ系器官での自己寛容維持に必須である「Tier 1」に位置づけられるのに対し、LAG-3、TIM-3、TIGITが組織炎症部位での免疫応答調節に特化した「Tier 2」共抑制受容体であるという明確な階層モデルを提示した点で、これまでの理解と異なる新たな視点を提供している。特に、Tier 2分子の欠損が単独では自発的自己免疫を引き起こさないという知見は、Tier 1分子の欠損が重篤な自己免疫疾患を誘発するNishimura et al. Immunity 1999、Nishimura et al. Science 2001ことと対照的である。
新規性: 本研究で初めて、各Tier 2分子が持つ「特化 (specification)」の概念、すなわちリンパ球サブセット特化、解剖学的特化、機能的特化という側面を提唱したことは新規である。特に、TIGITがTh1/Th17応答を選択的に抑制し、Th2応答を温存することでサイトカインバランスをシフトさせるという固有の機能は、これまで報告されていない重要な知見である。また、TIM-3のシグナル伝達において、Bat3とFynの結合の切り替えがT細胞機能の抑制を制御するという分子スイッチ機構の詳細な記述も新規性が高い。LAG-3の代替リガンドとしてLSECtinを同定したことも、MHCクラスII非依存的なLAG-3の機能理解に貢献する新規な発見である。
臨床応用: 本知見は、既存のPD-1/CTLA-4阻害薬に奏効しない患者に対する新たな治療戦略の開発に直結する。Tier 2分子の遮断がTier 1分子よりも安全性が高いと予測されることから、これらの分子を標的とした治療は、より良好な副作用プロファイルを持つ可能性がある。また、TIM-3の発現が慢性ウイルス感染症やがんの重症度と正相関し、自己免疫疾患の活動性と負相関するという知見は、患者層別化バイオマーカーとしての臨床的有用性を示唆する。TIGIT+Treg細胞の腫瘍内蓄積が抗腫瘍免疫の主要な制限因子であるという発見は、Treg細胞を標的とした治療戦略の可能性を広げる。本論文発表以降、抗LAG-3抗体であるrelatlimabとニボルマブの併用療法がメラノーマに対して承認された (2022年) ことは、本論文の予測が実証されたことを意味し、その臨床的意義は極めて大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、LAG-3のKIEELEモチーフに結合する細胞内タンパク質の同定、TIM-3の多数のリガンドが異なる機能を発揮する状況の解明、TIGITのITIM対ITT様モチーフの種差の解明が挙げられる。また、in vivoでのTier 2分子の組み合わせ遮断の最適化、特にPD-1との併用における最適な用量や投与スケジュール、および異なるTier 2分子間の組み合わせ効果の評価も今後の重要な研究方向性である。さらに、これらの分子の組織特異的な発現パターンと機能が、特定の癌種や自己免疫疾患においてどのように異なる影響を与えるのかを詳細に解析する必要がある。これらの課題を解決することで、個別化された免疫療法戦略の開発がさらに進展すると考えられる。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験手法やデータ収集方法は該当しない。本レビューの作成にあたり、著者らはLAG-3、TIM-3、TIGITに関する広範な先行研究を網羅的に調査した。具体的には、これらの共抑制受容体の発見、構造、リガンド、細胞内シグナル伝達、および自己免疫、がん、慢性感染症といった様々な疾患文脈における機能に関する文献が収集・分析された。
文献検索は、PubMed、Web of Scienceなどの主要な学術データベースを用いて実施されたと考えられる。検索は2016年以前に発表された論文を対象とし、キーワードとしては、「LAG-3」「TIM-3」「TIGIT」「co-inhibitory receptor」「T cell exhaustion」「cancer immunotherapy」「autoimmunity」「chronic infection」などが用いられたと推測される。収集された論文は、各受容体の分子生物学的特性、細胞生物学的機能、および疾患モデルやヒト臨床検体における発現と機能に関する知見に基づいて分類・整理された。レビューの対象とする論文の選択基準は、各受容体の構造、リガンド、シグナル伝達、および疾患における役割に関する一次研究論文および主要なレビュー論文であった。除外基準は、関連性の低い論文や信頼性の低いデータを含む論文であった。
本レビューでは、特にCTLA-4やPD-1といった既存の免疫チェックポイント分子との比較を通じて、LAG-3、TIM-3、TIGITの独自の役割と階層的な位置づけを明確化することに重点が置かれた。各受容体のシグナル伝達経路については、細胞質モチーフや結合タンパク質に関する最新の知見が詳細に記述されている。疾患における役割については、マウスモデルやヒト患者データから得られたエビデンスが提示され、単独またはPD-1との併用療法における治療効果が評価された。
また、本レビューは、これらの「第2層」の共抑制受容体が持つ「特化 (specification)」の概念、すなわちリンパ球サブセット特化、解剖学的特化、機能的特化といった側面を提示するために、既存の知見を統合・再解釈している。これにより、これらの分子が免疫応答の特定の側面をどのように調節しているかについての新たな枠組みが構築された。臨床試験に関する情報は、公開されている臨床試験データベースや関連する学術論文から収集されたと推測される。本レビューは、エビデンスレベルの評価基準として、個々の研究の質を考慮しつつ、複数の研究からの知見を統合するnarrative reviewのアプローチを採用している。