- 著者: Alex J. Walsh, Rebecca S. Cook, Melinda E. Sanders, Carlos L. Arteaga, Melissa C. Skala
- Corresponding author: Melissa C. Skala (Vanderbilt University)
- 雑誌: Scientific Reports
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-01-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 26738962
背景
3次元オルガノイド培養は、腫瘍の進行、浸潤、および薬剤反応の研究において優れたプラットフォームを提供する。オルガノイドは、悪性上皮細胞、内皮細胞、白血球、線維芽細胞など、元の組織のすべての構成要素を含有する。3次元オルガノイド培養は、生体内組織の構造的組織化、機能分化、化学的および機械的シグナルを再現するため、初代培養細胞や不死化細胞の2次元培養よりも生理学的に関連性が高い可能性がある (Debnath & Brugge 2005; Griffith & Swartz 2006; Gudjonsson et al. 2003)。しかし、これまでのオルガノイド樹立プロトコルは新鮮腫瘍組織を必要とし、手術室と研究室の物理的近接が不可欠であった (Walsh et al. 2014; Nguyen-Ngoc et al. 2012)。この要件は、オルガノイド研究および臨床利用を制限する要因となっている。
バイオバンクには大量の凍結保存腫瘍組織が存在するが、これらからオルガノイドを樹立し、薬剤反応評価に使用できるかどうかは未検証であった。凍結保存組織からのオルガノイド樹立が確立されれば、地理的制約の解消、過去検体の後ろ向き研究、個別化医療への応用が大きく前進すると考えられる。組織はしばしば、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) サンプルとして、または液体窒素で急速凍結されて保存される。細胞培養における細胞の保存は、DMSO (dimethyl sulfoxide) 添加培地と緩慢凍結手順を利用する。本研究では、これら後者の2つの技術をその後のオルガノイド生成のために調査する。
光学代謝イメージング (OMI) は、NAD(P)H (nicotinamide adenine dinucleotide (phosphate)) とFAD (flavin adenine dinucleotide) の蛍光強度および寿命を利用した非破壊的代謝計測法であり、がん細胞の薬剤反応を早期に定量評価できる手法として確立されている (Walsh et al. 2014; Walsh et al. 2013; Walsh & Skala 2015)。これらの代謝シフトは非侵襲的に検出され、オルガノイド内の薬剤誘発性増殖阻害および/またはアポトーシス誘導、ならびに生体内薬剤反応と良好に相関することが示されている (Walsh et al. 2014)。OMIは、その非破壊的性質と内因性のコントラスト源により、細胞代謝の動的変化の縦断的研究に適している。しかし、凍結組織から樹立されたオルガノイドにおけるOMIの適用可能性は、これまで報告されていない。凍結保存組織の利用は、オルガノイド研究の適用範囲を大幅に拡大する可能性を秘めているが、凍結プロセスがオルガノイドの生存率、形態、および薬剤反応に与える影響については、詳細な評価が不足している。特に、組織バンクに保存されている急速凍結組織からのオルガノイド樹立の実現可能性と、その薬剤反応の再現性に関する知見は、臨床応用において極めて重要である。これらの課題が残されており、本研究はこれらのギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、凍結/解凍された組織からオルガノイドを培養できるか、またこのアプローチで生成されたオルガノイドが新鮮組織から培養されたオルガノイドと同じ薬剤反応を示すかという仮説を検証することである。具体的には、HER2 (human epidermal growth factor receptor 2) 過剰発現乳がん異種移植片 (BT474およびHR6) および患者由来原発乳がん生検サンプルの凍結保存組織 (液体窒素急速凍結およびDMSO緩慢凍結) からオルガノイドを樹立し、生細胞性、形態、およびOMI測定薬剤反応を新鮮組織由来オルガノイドと比較する。
この仮説を検証するため、初代新鮮腫瘍組織からオルガノイドを生成し、2つの方法で凍結された初代組織から培養されたオルガノイドと比較した。すなわち、(1) 液体窒素で急速凍結された組織、または (2) 5% DMSO添加組織培養培地で緩慢凍結された組織である。オルガノイドの生存率は、増殖およびアポトーシス関連タンパク質であるKi67および切断カスパーゼ3の免疫蛍光 (IF) 評価によって評価した。オルガノイドの薬剤反応はOMIおよびIFによって評価した。両凍結プロトコルは、HER2過剰発現乳がんの2つの異種移植モデル、BT474およびHR6腫瘍に対して実施し、最適なオルガノイド生存率および薬剤反応のための2つの凍結技術を比較した。急速凍結実験は、組織バンクに保存されている凍結組織の使用を評価するために、2つのヒト原発乳がん生検に対しても追加で実施した。
結果
凍結組織由来異種移植片オルガノイドの生存率保持: BT474異種移植腫瘍の新鮮、急速凍結、およびDMSO凍結サンプルからオルガノイドを成功裏に培養できた (Fig. 1a, Supplementary Fig. 1)。急速凍結およびDMSO凍結BT474組織サンプルから生成されたオルガノイドは、新鮮BT474腫瘍サンプル由来オルガノイドと比較して、Ki67および切断カスパーゼ3の発現が類似していた (Fig. 1b,c)。同様に、急速凍結およびDMSO凍結HR6腫瘍サンプルから生成されたオルガノイドも増殖し (Fig. 1d, Supplementary Fig. 1)、新鮮HR6組織から生成されたオルガノイドと比較して、Ki67および切断カスパーゼ3陽性染色細胞の割合が類似していた (Fig. 1e,f)。これは、凍結・解凍プロセスが細胞生存性を著しく損なわないことを示唆する。n=5〜12 organoidsを用いた免疫蛍光評価では、両凍結方法で生成されたオルガノイドにおいてKi67陽性細胞および切断カスパーゼ3陽性細胞の割合に有意な差は認められなかった (p>0.05)。
凍結組織由来異種移植片オルガノイドの形態変化: 新鮮組織および凍結/解凍組織から生成されたオルガノイド間の細胞形態を定量化し比較した。BT474腫瘍サンプルから生成されたオルガノイド内の細胞では、新鮮BT474腫瘍サンプルから生成されたオルガノイドと比較して、細胞面積、核直径、または核細胞質比 (NCR) に変化は検出されなかった (Fig. 2a-c)。しかし、急速凍結BT474腫瘍から生成されたオルガノイドでは、3日および7日培養の両方で、新鮮組織から生成されたオルガノイドと比較して、各オルガノイド内の細胞数が有意に減少した (Fig. 2d, p<0.05)。BT474 DMSO凍結組織から生成されたオルガノイドでは、各オルガノイド内の細胞数の有意な減少は観察されなかった (Fig. 2d)。 BT474の結果とは対照的に、凍結HR6腫瘍サンプルから培養された細胞は、新鮮腫瘍サンプルから培養された細胞と比較して形態学的差異を示した。HR6細胞の細胞面積は、3日または7日間培養された急速凍結切片から生成されたオルガノイド、および3日間培養されたDMSO凍結組織から生成されたオルガノイドで有意に減少した (Fig. 2e, p<0.05)。同様に、核直径は急速凍結組織から生成されたオルガノイドで有意に減少した (Fig. 2f, p<0.05)。HR6細胞のNCRは、いずれの凍結方法によっても有意に変化しなかった (Fig. 2g)。また、いずれの凍結プロトコルまたは培養時間においても、各オルガノイド内のHR6細胞数に有意な変化は検出されなかった (Fig. 2h)。これは、DMSO緩慢凍結が急速凍結と比較して細胞形態をより良好に保存することを示している。
BT474オルガノイドの薬剤反応と凍結の影響: OMIエンドポイントは、新鮮組織から培養されたオルガノイドと凍結/解凍組織から培養されたオルガノイド間の代謝差を評価するために用いられた。BT474腫瘍の場合、NAD(P)H τmは、両凍結方法で生成されたオルガノイドのn=30〜300 cellsで7日目に有意に減少した (Fig. 3a, p<0.05)。しかし、FAD τmは、新鮮BT474腫瘍と凍結BT474腫瘍から生成されたオルガノイド間で有意な差を示さなかった (Fig. 3b)。 新鮮組織から生成されたBT474オルガノイドの薬剤反応の72時間時系列では、パクリタキセル (P)、トラスツズマブ (H)、XL147 (X)、および併用療法 (H + P + X) の全4治療で、薬剤処理後24時間、48時間、および72時間でOMI指数が有意に減少した (Fig. 3c, p<0.05)。薬剤処理前に7日間培養された急速凍結組織由来BT474オルガノイドでは、OMI指数は、併用療法 (H + P + X) のみで24時間および48時間の薬剤曝露で有意に減少した (Fig. 3d, p<0.05)。72時間までに、トラスツズマブ、XL147、およびH + P + XがOMI指数の有意な減少を誘発した (Fig. 3d, p<0.05)。DMSO添加培地で緩慢凍結されたBT474腫瘍サンプル由来のオルガノイドは、抗がん剤に対する反応を示した (Fig. 3e)。72時間までに、パクリタキセル、トラスツズマブ、XL147、およびH + P + Xで処理されたオルガノイドはすべて、OMI指数の有意な減少を示した (Fig. 3e, p<0.05)。抗がん剤で72時間処理された新鮮およびDMSO凍結BT474腫瘍由来オルガノイドのKi67および切断カスパーゼ3の免疫蛍光染色により、パクリタキセル、トラスツズマブ、XL147、およびH + P + Xで処理されたオルガノイドで切断カスパーゼ3発現の増加が明らかになった (Fig. 3f)。同様に、すべての抗がん剤治療で処理されたオルガノイドでKi67発現の減少が観察された (Fig. 3g)。
HR6オルガノイドの薬剤反応と凍結の影響: オルガノイド生成前のHR6腫瘍の凍結効果も、オルガノイド薬剤反応のOMIによって評価された。オルガノイド生成後7日目の新鮮HR6腫瘍と急速凍結またはDMSO凍結腫瘍から生成されたオルガノイド間で、NAD(P)H τmに変化は観察されなかった (Fig. 4a)。急速凍結HR6腫瘍から生成されたオルガノイドでは、新鮮HR6腫瘍から生成されたオルガノイドと比較してFAD τmのわずかな増加が観察された (p < 0.05, Fig. 4b)。しかし、DMSO凍結HR6組織から生成されたオルガノイドでは、FAD τmに有意な変化は観察されなかった (p > 0.05, Fig. 4b)。 新鮮HR6腫瘍から生成されたオルガノイドは、パクリタキセル、XL-147、およびH + P + X治療により24時間でOMI指数が有意に減少した (Fig. 4c, p<0.05)。48時間および72時間までに、H + P + XのみがOMI指数の有意な減少を誘発した (Fig. 4c, p<0.05)。急速凍結HR6腫瘍由来のHR6オルガノイドでは、24時間でXL147およびH + P + Xの両方がOMI指数の有意な減少を誘発した (Fig. 4d, p<0.05)。48時間および72時間までに、H + P + Xで処理されたオルガノイドのみがOMI指数の有意な減少を示した (Fig. 4d, p<0.05)。同様に、DMSO凍結腫瘍由来のHR6オルガノイドは、24時間でパクリタキセル、トラスツズマブ、XL147、およびH + P + X治療によりOMI指数が有意に減少した (Fig. 4e, p<0.05)。48時間および72時間までに、H + P + X治療のみがOMI指数の有意な減少を誘発した (Fig. 4e, p<0.05)。72時間で、パクリタキセルおよびXL147で処理されたHR6オルガノイドは、新鮮 (Fig. 4c) およびDMSO凍結腫瘍 (Fig. 4e) から生成されたオルガノイドの両方でOMI指数を有意に増加させた (p < 0.05) が、この増加は急速凍結腫瘍由来オルガノイドでは検出されなかった (Fig. 4d)。72時間処理された新鮮およびDMSO凍結腫瘍由来オルガノイドの切断カスパーゼ3およびKi67の免疫蛍光染色により、H + P + Xで処理されたHR6オルガノイドで切断カスパーゼ3陽性染色細胞の割合が増加し、Ki67陽性染色細胞の割合が減少したことが明らかになった (Fig. 4f,g)。
凍結ヒト乳がん生検由来オルガノイドの生存率保持: 急速凍結されたヒト原発乳がん腫瘍からオルガノイドを培養できるかを検証するため、ヒト組織バンクで腫瘍が頻繁に保存される方法である、2つのヒト原発乳がん生検由来オルガノイドを評価した。患者1の場合、新鮮原発ヒト腫瘍サンプルおよび急速凍結/解凍サンプルからオルガノイドが増殖した (Fig. 5a, Supplementary Fig. 1)。免疫蛍光染色により、新鮮腫瘍から生成されたオルガノイドと、3日または7日間培養された急速凍結腫瘍から生成されたオルガノイド間で、切断カスパーゼ3陽性およびKi67陽性細胞の割合が類似していることが明らかになった (Fig. 5b,c)。同様に、新鮮腫瘍から生成されたオルガノイドと急速凍結腫瘍由来オルガノイド間で、細胞の形態、細胞サイズ、核直径、またはNCR比に差はなかった (Fig. 5d, Supplementary Fig. 2)。しかし、急速凍結サンプルから生成され3日間培養されたオルガノイドでは、同じ患者の新鮮腫瘍から生成されたオルガノイドと比較して、各オルガノイドあたりの細胞数が有意に減少した (Fig. 5e, p<0.05)。7日間培養された急速凍結腫瘍由来オルガノイドでは、同じ患者の新鮮腫瘍由来オルガノイドと比較して、各オルガノイド内の細胞数に有意な差は検出されなかった (Fig. 5e)。 同様に、患者サンプル2のオルガノイドは新鮮組織および急速凍結組織から増殖した (Fig. 5f-h, Supplementary Fig. 1)。新鮮腫瘍由来オルガノイドと、3日または7日間培養された急速凍結腫瘍由来オルガノイド間で、切断カスパーゼ3陽性またはKi67陽性細胞の割合に有意な変化は観察されなかった (Fig. 5g,h)。同様に、患者2の新鮮腫瘍由来オルガノイドと急速凍結腫瘍由来オルガノイド間で、細胞形態 (細胞面積、核直径、またはNCR) に有意な差は検出されなかった (Fig. 5i, Supplementary Fig. 2)。患者2の急速凍結腫瘍由来オルガノイドでは、新鮮腫瘍由来オルガノイドと比較して、各オルガノイド内の細胞数に変化はなかった (Fig. 5j)。
急速凍結ヒト乳がん生検由来オルガノイドの薬剤反応: 異種移植腫瘍と同様に、新鮮および急速凍結患者腫瘍サンプル由来オルガノイド間の薬剤反応のOMI測定値を比較した。両サンプルはエストロゲン受容体陽性、HER2陰性患者由来であり、その後のオルガノイドは臨床的に関連する薬剤であるパクリタキセル (P)、トラスツズマブ (H)、タモキシフェン (T)、および併用療法 (H + P + T) で処理された。患者サンプル1の場合、新鮮腫瘍由来オルガノイドと7日間培養された急速凍結腫瘍由来オルガノイド間で、NAD(P)H τmに差は検出されなかった (Fig. 6a)。しかし、患者1の急速凍結腫瘍由来オルガノイドでは、新鮮腫瘍由来オルガノイドと比較してFAD τmの有意な増加が検出された (p < 0.05, Fig. 6b)。OMI指数は、患者サンプル1の新鮮腫瘍由来オルガノイドにおいて、72時間のH + P + T処理後に有意に減少した (Fig. 6c, p<0.05)。いずれの治療も、3日 (Table 1) または7日間培養された急速凍結腫瘍由来オルガノイドのOMI指数に有意な減少を誘発しなかった (Fig. 6d)。 最後に、患者サンプル2由来オルガノイドは抗がん剤に対して有意な反応を示した。NAD(P)HおよびFAD寿命画像と定量化 (Fig. 5a,fおよび6a,b,e,f) は、新鮮患者サンプル1および2由来オルガノイドの基礎代謝状態が異なることを示している。まず、急速凍結腫瘍由来オルガノイドでは、新鮮腫瘍由来オルガノイドと比較してNAD(P)H τmが有意に減少した (Fig. 6e, p<0.05) が、FAD τmには有意な差は認められなかった (Fig. 6f)。OMI指数は、新鮮腫瘍由来オルガノイドにおいて、24時間で全ての薬剤処理により、48時間でタモキシフェンおよびH + P + Tにより、72時間でパクリタキセル、タモキシフェン、およびH + P + Tにより有意に減少した (Fig. 6g, p<0.05)。同様に、急速凍結腫瘍由来オルガノイドのパクリタキセル、タモキシフェン、およびH + P + T処理オルガノイドは、72時間でOMI指数の有意な減少を示した (Fig. 6h, p<0.05) が、24時間および48時間では併用療法H + P + TのみがOMI指数の減少を誘発した。これらの結果は、凍結腫瘍から生存可能なオルガノイドを培養でき、細胞が抗がん剤に感受性を維持することを示唆している。
DMSO凍結組織は急速凍結組織よりも薬剤反応の不一致が少なかった: OMIで測定された薬剤反応は、新鮮組織由来オルガノイドと凍結/解凍組織由来オルガノイド間で比較された。最適な薬剤反応結果を得るために、急速凍結とDMSO緩慢凍結の両方の凍結方法、およびオルガノイド生成から薬剤処理までの回復期間 (3日または7日) が比較された。薬剤処理オルガノイドのOMI指数は、両凍結プロトコルにおいて、新鮮組織と凍結組織由来オルガノイド間で有意に相関した (p < 0.0001, Supplementary Fig. 3)。7日間培養され72時間処理されたオルガノイドの反応は、治療前に3日間培養されたオルガノイドの7/24 (30%) の不一致と比較して、4/24 (16%) の不一致しかなく、新鮮組織由来オルガノイドの反応をよりよく反映していた (Table 1)。DMSO凍結組織由来オルガノイドの反応は、72時間の薬剤処理後、急速凍結調製物よりも不一致が少なく (3/16 (19%) vs. 9/32 (28%))、新鮮組織由来オルガノイドの反応に類似していた (Table 1)。DMSO凍結組織由来で、薬剤処理前に7日間培養されたオルガノイドのOMI測定薬剤反応の不一致率は1/8 (12.5%) であった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、これまでのオルガノイド研究が新鮮組織に限定されていた点と異なり、凍結保存された原発腫瘍組織からオルガノイドを樹立し、その薬剤反応を評価するプロトコルを確立した点で新規性がある。特に、OMIを用いて凍結組織由来オルガノイドの代謝変化を評価した初めての研究である。
新規性: 本研究で初めて、液体窒素急速凍結およびDMSO緩慢凍結された腫瘍組織の両方から生存可能なオルガノイドを生成できることを実証した。さらに、凍結プロセスが細胞の基礎代謝率に影響を与えるものの、OMI指数は新鮮組織由来オルガノイドと凍結組織由来オルガノイド間で薬剤反応において相関することを示した。DMSO緩慢凍結組織由来オルガノイドが急速凍結組織よりも薬剤反応の不一致が少ない (18.75% vs 28.125%) ことも新規の知見である。
臨床応用: 本研究で確立されたプロトコルは、組織バンクに保存された凍結検体を用いたオルガノイド研究の可能性を広げ、地理的制約を解消する点で臨床的意義が大きい。これにより、過去の患者検体を用いた後ろ向き研究や、個別化医療に向けた薬剤スクリーニングへの応用が期待される。特に、DMSO緩慢凍結は、より正確な薬剤反応評価を可能にすることから、将来的な臨床現場でのオルガノイド利用において重要な選択肢となる。
残された課題: 凍結プロセスはNAD(P)HおよびFADの蛍光寿命に有意な変化を誘発し、細胞内の生化学的変化を示唆する。これらの変化が代謝酵素や基質に与える影響、および細胞タンパク質、癌遺伝子、シグナル伝達経路への影響については、今後の検討課題として残されている。また、凍結組織由来オルガノイドでは薬剤感受性が低下する傾向が見られたため、この現象のメカニズム解明も今後の研究で必要である。長期的な培養期間が薬剤反応の精度向上に寄与する可能性も示唆されたため、最適な回復期間の確立も今後の研究で重要となる。
方法
マウス異種移植モデル: 本研究は、Vanderbilt大学動物管理使用委員会によって承認され、NIHの動物福祉ガイドラインに準拠した。BT474またはHR6細胞 (10^8個) を100 µlのMatrigelに懸濁し、雌性無胸腺マウス (J:NU; The Jackson Laboratory) の鼠径部乳腺脂肪パッドに注入した。BT474およびHR6腫瘍はともにエストロゲン受容体陽性およびHER2過剰発現である。HR6腫瘍は、生体内でHER2抗体トラスツズマブに対する獲得耐性を獲得したBT474異種移植片から抽出された (Ritter et al. 2007)。本研究で用いられたHR6細胞および腫瘍はHER2過剰発現を保持しており (Walsh et al. 2014; Ritter et al. 2007)、したがってBT474およびHR6腫瘍はそれぞれトラスツズマブ応答性およびトラスツズマブ耐性腫瘍を代表する。本研究では、1つのBT474腫瘍と1つのHR6腫瘍を使用した。腫瘍が約500 mm^3になった時点で、マウスを安楽死させ、腫瘍を摘出した。各腫瘍は、約150 mm^3の3つのほぼ等しいセクションに切断された。1つのセクションは直ちにオルガノイドに加工され、1つのセクションは急速凍結され、1つのセクションは5% DMSO添加培地で緩慢凍結された。マッチしたサンプルはドナー間の変動性を低減し、実験群間のすべての有意な差が凍結方法によるものであることを保証した。
臨床乳がんサンプル: 本研究はVanderbilt大学機関審査委員会によって承認され、すべての被験者からインフォームドコンセントを得た。2人の異なる患者からの2つの原発腫瘍生検が、乳腺病理専門医 (ME Sanders) によって提供された。両腫瘍は高悪性度原発腫瘍であり、エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体を発現し、HER2の過剰発現/増幅は認められなかった。患者サンプル1は高い増殖率を示し、患者サンプル2は中程度の増殖率を示した。腫瘍生検は、外科的切除検体から迅速に摘出された。腫瘍生検は滅菌DMEMに入れられ、氷上で研究室まで輸送された (徒歩約5分)。以前の研究では、この組織処理プロトコルが組織の生存率とOMIエンドポイントを維持することが示されている (Walsh et al. 2014; Walsh et al. 2012)。腫瘍生検は、約200 mm^2の2つのほぼ等しいセクションに切断された。1つのセクションは直ちにオルガノイドに加工され、2番目のセクションは急速凍結された。
凍結プロトコル: 液体窒素での急速凍結の場合、サンプルは組織学カセットに入れられ、液体窒素に30秒間浸漬された。その後、カセットは取り出され、フォイルで包まれ、-80 °Cのフリーザーに保存された。緩慢凍結法の場合、サンプルは950 µlの組織培養培地と50 µlのDMSOを含むクライオチューブに入れられた。サンプルは、-80 °Cのフリーザー内の発泡スチロール容器に置くことで緩慢凍結された。サンプルは使用まで6〜12ヶ月間-80 °Cで保存された。
オルガノイド生成: 凍結サンプルは、室温のPBSで10分間解凍された。すべてのサンプルは滅菌PBSで3回洗浄された。組織サンプルは0.5 mlのPMEC (primary mammary epithelial cell) 培地 [DMEM:F12 + EGF (10 ng/ml) + ヒドロコルチゾン (5 µg/ml) + インスリン (5 µg/ml) + 1% ペニシリン:ストレプトマイシン] に入れられ、メスと外科用ハサミで組織を機械的に切断することにより、直径約50〜300 µmの組織マクロサスペンションに解離された。Matrigelがマクロサスペンション溶液に2:1の比率で添加され、100 µlのMatrigel/マクロサスペンション溶液がカバースリップに置かれた。ゲルは室温で30分間、その後インキュベーターで1時間固化された。ゲルはPMEC培地で覆われた。
新鮮組織から生成されたオルガノイドは直ちに処理された。BT474およびHR6オルガノイドは、以下の薬剤および組み合わせで処理された: コントロール (ヒトコントロールIgG + DMSO)、トラスツズマブ (25 µg/ml)、パクリタキセル (25 nmol/L)、PI3K阻害剤XL147 (25 nmol/ml)、およびトラスツズマブ + パクリタキセル + XL147。BT474およびHR6オルガノイドは、臨床で用いられる薬剤であるパクリタキセル (化学療法) およびトラスツズマブ (抗HER2抗体) で処理され、臨床で用いられる薬剤を評価した。さらに、BT474およびHR6オルガノイドは、HER2過剰発現腫瘍のトラスツズマブ耐性を克服するための臨床試験中の実験薬であるPI3K阻害剤XL147で処理された (Chakrabarty et al. 2013; Shapiro et al. 2014)。臨床生検から生成されたオルガノイドは、コントロール (ヒトコントロールIgG + DMSO)、トラスツズマブ (25 µg/ml)、パクリタキセル (25 nmol/L)、タモキシフェン (2 µmol/ml)、およびトラスツズマブ + パクリタキセル + タモキシフェンで処理された。臨床生検から生成されたオルガノイドの受容体発現は、サンプル取得および処理時には不明であった。したがって、これらのオルガノイドは、3つの臨床で用いられる薬剤、化学療法薬 (パクリタキセル)、ER拮抗薬 (タモキシフェン)、およびHER2抗体 (トラスツズマブ) で処理された。併用治療群は、薬剤が併用時に付加的な利益があるかどうかを評価した。凍結組織から生成されたオルガノイドは、3日または7日の回復期間 (培地は2〜3日ごとに交換) で培養され、その後新鮮組織由来オルガノイドと同じ薬剤および組み合わせで処理された。各サンプルは1つの薬剤処理のみを受けた。
光学代謝イメージング (OMI): 蛍光寿命イメージングは、以前に記述されたように (Walsh et al. 2014; Walsh et al. 2013; Walsh et al. 2012; Skala et al. 2007a; Skala et al. 2007b)、蛍光寿命イメージング用に改造された多光子顕微鏡 (Bruker) で実施された。簡潔に述べると、NAD(P)H励起用に750 nmに、FAD励起用に890 nmに調整されたチタンサファイアレーザーが励起光を提供した。40倍対物レンズ (1.3 NA) が励起光と放出光を結合した。カスタマイズされたフィルターセットは、400〜480 nmのNAD(P)H放出と500〜600 nmのFAD放出を分離した。GaAS PMT (H7422P-40; Hamamatsu) が放出光子を検出し、時間相関単一光子計数電子機器 (SPC-150; Becker and Hickl) が蛍光寿命イメージングを可能にした。256 × 256ピクセルの画像は、ピクセル滞留時間4.8 µsで60秒間収集された。光子計数率は5 × 10^5以上に維持され、寿命フィットに十分な光子計数があることを確認し、光退色は発生しなかった。尿素結晶の第2高調波発生から測定された機器応答の半値全幅は260ピコ秒であった。蛍光ビーズ (Polysciences Inc.) をイメージングすることにより、毎日の蛍光寿命検証が確認された。測定されたビーズの寿命 (2.1 ± 0.04ナノ秒) は、公表された値と一致する (Walsh et al. 2014; Walsh et al. 2013; Skala et al. 2007a; Skala et al. 2007b)。
オルガノイドのNAD(P)HおよびFAD蛍光寿命画像は、薬剤処理後24、48、および72時間で取得された。各オルガノイドについて、NAD(P)H画像が最初に取得され、直後にFAD画像が取得された。オルガノイドは、倒立顕微鏡上のガラスカバースリップを通してイメージングされた。各グループにつき6つの代表的なオルガノイドから1つの画像が収集された (n=6 organoids/group; n=30〜300 cells/group)。イメージング深度はオルガノイドの中心を通るように設定された。
蛍光寿命画像は、以前に記述されたように解析された (Walsh et al. 2014; Walsh et al. 2013; Walsh & Skala 2014)。簡潔に述べると、蛍光寿命減衰曲線は、測定された機器応答関数からデコンボリューションされ、2成分モデルにフィットされた。ここで、I(t)はレーザーパルス後の時間tにおける蛍光強度、α1およびα2は短寿命成分と長寿命成分の分数寄与 (すなわち、α1 + α2 = 1)、τ1およびτ2は短寿命成分と長寿命成分の蛍光寿命、Cはバックグラウンド光を考慮する (SPCImage)。NAD(P)HおよびFADは生理学的に遊離型とタンパク質結合型の両方で存在するため、2成分モデルが寿命減衰のフィットに用いられた (Lakowicz et al. 1992; Nakashima et al. 1980)。遊離型とタンパク質結合型は、蛍光消光に応じて異なる寿命を持つ (Lakowicz 1999)。NAD(P)Hは遊離状態で自己消光するため、遊離NAD(P)Hに関連する短い寿命と、結合NAD(P)Hに関連する長い寿命を持つ (Lakowicz 1999; Lakowicz et al. 1992)。FADは結合時に消光され、短い結合寿命と長い遊離寿命を持つ (Nakashima et al. 1980)。平均寿命τmは、τ1とτ2の加重平均として計算される: τm = α1 τ1 + α2 τ2。
CellProfilerの自動細胞セグメンテーションルーチンを用いて、画像は細胞、核、および細胞質にセグメンテーションされた (Walsh & Skala 2014)。各細胞のNAD(P)HおよびFAD画像の両方について、蛍光寿命データセットから以下のエンドポイントが抽出された: 蛍光強度、平均蛍光寿命、α1、τ1、およびτ2。レドックス比画像は、画像内のすべてのピクセルでNAD(P)H強度をFAD強度で割ることによって計算された。各細胞の平均レドックス比も抽出された。以前に決定されたように、光学レドックス比、NAD(P)H平均寿命、およびFAD平均寿命は細胞代謝の独立した測定値であり (Walsh et al. 2013)、組み合わせ指数である光学代謝イメージング指数は、薬剤反応を評価するための堅牢なエンドポイントを提供する (Walsh et al. 2014)。OMI指数は、各細胞について以下のように計算された。
免疫蛍光 (IF): 切断カスパーゼ3およびKi67の免疫蛍光標識は、以前に記述されたように実施された (Walsh et al. 2014; Wozniak & Keely 2005)。簡潔に述べると、ゲルは4%パラホルムアルデヒド溶液2 mLで固定され、0.15 mol/Lグリシン溶液で中和された。0.02% Triton X-100溶液が細胞膜を透過処理するために使用された。ゲルはブロッキング溶液 (1%脂肪酸フリーBSA、1%ロバ血清) に室温で一晩浸漬された。翌日、ゲルは室温で30分間、100 µlの一次抗体溶液 (抗切断カスパーゼ3 (Life Technologies) または抗Ki67 (Life Technologies) を1%ロバ血清PBS溶液で1:100希釈) とともにインキュベートされた。ゲルはPBSで3回洗浄され、100 µlの二次抗体溶液 (ヤギ抗ウサギIgG FITCプローブを1%ロバ血清PBS溶液で1:100希釈) が各ゲルに添加された。ゲルはPBSで3回、水で2回洗浄され、30 µlのProLong Antifade Solution (Molecular Probes) とともにスライドにマウントされた。Ki67についてはマウス小腸、切断カスパーゼ3についてはマウス胸腺で陽性染色が確認された。免疫蛍光結果は、40倍 (1.3 NA) でイメージングされた6つのオルガノイドからの陽性染色細胞の割合として示されている。代表的な免疫蛍光画像は補足図6に示されている。
細胞形態の定量化: 細胞形態は、NAD(P)H蛍光寿命画像から評価され、時間積分されて強度画像が得られた。平均細胞サイズおよび核細胞質比 (NCR) は、CellProfilerセグメンテーションルーチンの出力から抽出された。平均核直径は、ImageJで各細胞の中心を通る最長軸を手動で測定することによって決定された。
統計解析: 免疫蛍光および形態結果内の有意差を検定するために、ノンパラメトリックなKruskal-Wallis 1元ANOVA検定が使用された (n=5〜12 organoids)。有意なANOVA結果に続いて、有意に異なる平均値を持つグループを特定するために、Dunnの多重比較検定が順次実施された。FLIMコントロールデータは、D’Agostino & Person Omnibus Normality Testを用いて正規性を評価された (n=30〜300 cells)。9/12のコントロールFLIMデータセットが正規性検定に合格した (p>0.05) こと、および大きなサンプルサイズ (>30) が正規性仮定による誤差を最小化するため、すべてのFLIMデータはパラメトリック統計検定で評価された。新鮮および凍結コントロールオルガノイド間の蛍光寿命エンドポイントの差を評価するために、多重比較のためのBonferroni補正を伴う学生t検定が使用された。時系列薬剤反応OMIデータは、2元ANOVAに続いてTukeyの多重比較検定で解析された (n=30〜300 cells)。新鮮または凍結組織サンプル由来の薬剤処理オルガノイドのOMI指数値間の相関を評価するために、ノンパラメトリックなSpearmanの相関検定が使用された。すべての統計比較において、有意水準は0.05とされた。