• 著者: Xue Wang, Lei Zhang, Hui Li, WenJie Sun, Honghe Zhang, Maode Lai
  • Corresponding author: Honghe Zhang (honghezhang@zju.edu.cn) / Maode Lai (lmp@zju.edu.cn) (Zhejiang University, Hangzhou, China)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27632935

背景

大腸癌 (CRC: colorectal cancer) は世界第3位の悪性腫瘍であり、Jemal et al. (2011) は年間約120万人が新たに診断され約60万人が死亡すると報告している (世界癌統計)。Siegel et al. (2009) の統計によれば全体の約20%が再発・転移で死亡し、既存のTNM (tumor node metastasis: 腫瘍・リンパ節・転移) 病期分類では同一病期内での高リスク症例を精度よく同定できない問題があった。腫瘍出芽 (tumor budding) は浸潤前縁での単発または少数 (5個以下) の癌細胞脱離現象として独立した予後不良因子であることが認識されてきたが、腫瘍出芽に特異的に発現する分子の系統的同定と臨床的意義は2016年時点で未解明であった。

著者らは先行のレーザーキャプチャーマイクロダイセクション研究でCRC腫瘍出芽巣においてTHBS2 (thrombospondin-2: トロンボスポンジン-2) の発現が高いことを見出し、THBS2がECM (extracellular matrix: 細胞外マトリクス) 受容体相互作用・TGF-beta (transforming growth factor beta: 形質転換増殖因子ベータ) 活性化・EMT (epithelial mesenchymal transition: 上皮間葉転換) 誘導を介してCRC浸潤転移を促進する可能性を仮説した。一方で大規模公開データセットを用いた系統的予後解析・機能検証は不足していたという知識ギャップが存在し、多層的エビデンスによる検証が求められていた。

目的

GEO (gene expression omnibus: 遺伝子発現公開データベース) / TCGA (the cancer genome atlas: 癌ゲノムアトラス) の大規模公開データセットと自施設臨床検体を統合したメタ解析により、CRCにおけるTHBS2の独立予後因子としての意義を定量し、THBS2の共発現遺伝子ネットワーク・シグナル経路・EMTマーカーとの関連を解明すること。また、HCT116 (human colon tumor 116) 細胞株のsiRNA実験でTHBS2の機能的役割を検証すること。

結果

腫瘍出芽巣でのTHBS2高発現 (Figure 1):CRC正常粘膜→腫瘍→腫瘍出芽巣の順にTHBS2 mRNA発現量が段階的に増加し、腫瘍出芽巣での最高発現が腫瘍浸潤転移との関連を示唆した (Figure 1左)。4つのGEO/TCGAデータセットで腫瘍が正常隣接組織より有意に高発現することが確認された (p<0.001〜p=0.05)。PPIネットワーク (Figure 1右) ではTHBS2が複数の間質タンパク質と高次相互作用ネットワークを形成し、ECM受容体相互作用経路遺伝子群との発現相関R=0.812 (p<0.001) という最高値を示した (Figure 1中)。ECM経路内でもTHBS2はコラーゲン遺伝子群・フィブロネクチン・骨芽細胞タンパク質と協調発現し、腫瘍間質リモデリングにおける中心的役割が示唆された。

GEOデータセット・TCGA生存解析 (Figure 2):KM生存曲線解析では複数データセットでTHBS2高発現群の予後不良を確認した。GEOデータセット (n=32 patients、p=0.033、HR=2.419、95%CI 1.023-5.722) および大規模コホート (n=579 patients、HR=1.796、95%CI 1.337-2.411、p<0.001)、さらにGSE17536 (gene series expression dataset 17536: GEO公開データセット) の177例 (OS p<0.001、HR=2.85、95%CI 1.61-5.04、RFS p<0.001) のいずれにおいても有意な全生存期間の短縮を示した (Figure 2)。TCGA (n=361 patients) でもHR=1.845 (95%CI 1.137-2.993、p=0.012) と同方向の結果が得られた。DFS/RFS解析でも (n=145 patients、p<0.001) と (n=519 patients、p<0.001) で有意な相関を示した。TNM病期・分化度との有意相関をKruskal-Wallis検定で確認し (TNM p=0.002、p=0.015)、高THBS2発現は遠隔転移リスクと独立して関連することが複数コホートで再現された。

臨床検体での独立予後因子確認 (Figure 3・Table 1):qRT-PCR (n=138 patients) でTHBS2高発現45例での10年OS率59.7% vs 低発現93例 (median OS 6.54 vs 7.77年、p=0.018、HR 2.037)。多変量Cox回帰で部位・分化度・浸潤深度・リンパ節転移・遠隔転移・TNM病期を調整後もTHBS2高発現は独立した予後不良因子 (HR 2.093、95%CI 1.110-3.947、p=0.022、Table 1)。IHC (n=110 patients、グレード0〜グレード3スコア): THBS2蛋白高グレード群では多変量Cox解析で最強の独立予後因子 (p<0.001、HR 3.164、95%CI 1.698-5.927、Figure 3)。IHC高発現はリンパ節転移 (p=0.008)・遠隔転移 (p=0.046)・TNM病期 (p=0.001) と有意相関し、高TNM病期患者の高リスク同定に有用であることが示された。

メタ解析 (Figure 5・Table 2):OS メタ解析でHR=1.71 (95%CI 1.27-2.29、p<0.001、I^2=52.1%、p_heterogeneity=0.033、Figure 5)。fixed効果モデルでHR=1.37 (95%CI 1.16-1.66、p<0.001、I^2=0.0%)。DFS メタ解析でHR=1.74 (95%CI 1.25-2.43、p=0.001) と一貫した予後不良関連を示した (Table 2)。8データセット全体で一貫した予後不良方向性が確認され、異質性はI^2=52.1%と中程度であった。感度解析でもHRの点推定値の安定性が確認された。

機能実験・経路解析 (Figure 1・Figure 4):HCT116細胞株のsiRNA1/siRNA2ノックダウンでCCK-8増殖アッセイで有意な増殖抑制 (siRNA2 p<0.001)、Transwell移動能約40〜50%低下・浸潤能約30〜45%低下、フローサイトメトリー細胞周期解析でG1期 (gap-phase one) 割合の約5〜8ポイント増加 (G1/S期境界蓄積) を示した (Figure 4)。Spearman相関でEMTマーカーのTwist・フィブロネクチンmRNAと正相関し、焦点接着経路 (focal adhesion: p=2.70×10^-7)・TGF-betaシグナリング経路 (p=3.70×10^-2) にも有意富化した (Figure 1)。

考察/結論

本研究はCRC腫瘍出芽巣でTHBS2が正常粘膜・腫瘍本体より最高発現することを初めて系統的に示し、(1) 多変量Cox回帰での独立予後不良因子確認 (HR 2.093、95%CI 1.110-3.947、p=0.022)、(2) 8データセット+自施設検体 (n=138例 qRT-PCR + n=100例 IHC) 統合メタ解析でのOS HR=1.71 (95%CI 1.27-2.29、p<0.001) という多層エビデンスでTHBS2のCRC予後マーカーとしての妥当性を実証した。先行研究としてLiu et al. の大腸癌再発予測遺伝子シグネチャー研究では59遺伝子セットを用いた予後予測が示されていたが、腫瘍出芽巣特異的分子マーカーは未同定であり本研究と異なり遺伝子機能レベルの解析も行っていなかった。

THBS2がECM受容体相互作用経路 (共発現相関R=0.812、p<0.001)・TGF-betaシグナリング・焦点接着経路 (p=2.70×10^-7) と高度に相関し、EMTマーカーのTwist・フィブロネクチンと正相関することは、THBS2が間質リモデリング→TGF-beta活性化→上皮間葉転換という連鎖的機序でCRC浸潤転移を促進するモデルを支持する (癌休眠との関連)。本研究で初めてHCT116細胞株でのTHBS2ノックダウンが増殖・移動・浸潤・細胞周期を同時に抑制することが示され、単なる予後バイオマーカーを超えた治療標的としての可能性が明らかになった点が新規な知見である。臨床的含意として、THBS2高発現はリンパ節転移・遠隔転移・高TNM病期と有意相関することから (IHC p=0.001)、術後の高リスク患者同定のためのバイオマーカーとしての応用可能性がある。

限界として、メタ解析でI^2=52.1%の中程度異質性があること、一部データセットで統計的有意差が得られないケースがあること、RNAi (ribonucleic acid interference: RNA干渉) 実験が単一細胞株でのin vitro検証に限られることが挙げられる。残された課題として、大規模前向きコホートでの検証、THBS2の腫瘍促進と抗血管新生作用バランスの組織依存的な分子機序解明、およびEV (extracellular vesicle: 細胞外小胞) を介したTHBS2の分泌・細胞間シグナリングの役割解明が今後の重要な検討課題である (EV介在シグナル)。

方法

GEO公開データセット (CRC n=177例: 病期2期〜4期、55例死亡・122例生存、145例に再発情報) から再発関連DEG (differentially expressed gene: 発現変動遺伝子) 59遺伝子をlimma解析 (fold change >0.5、FDR (false discovery rate: 偽発見率) <0.05) で抽出した。THBS2はこの59遺伝子のうちECM受容体相互作用経路との最高相関を示すものとして主要候補遺伝子として選定された。PPI (protein-protein interaction: タンパク質間相互作用) 解析にはSTRING (search tool retrieving interacting genes network) データベースを使用し、パスウェイ富化はDAVID (database annotation visualization integrated discovery) / KEGG (kyoto encyclopedia genes genomes) で実施した。統計解析はPearson相関・KM (Kaplan-Meier) 生存分析・log-rank検定・Cox比例ハザード回帰 (多変量: 年齢・性別・部位・分化度・浸潤深度・リンパ節転移・遠隔転移・TNM病期を調整) を実施した。

自施設検証: 浙江大学附属病院の138例でqRT-PCR (GAPDH (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase: グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素) 参照遺伝子として使用)、110例でIHC (grading 0〜3スコア、Sangon biotech抗体1:200希釈) を実施した。複数GEO/TCGAデータセット (8データセット統合) メタ解析ではrandom/fixed効果モデルでHR (hazard ratio: ハザード比) を算出した。HCT116細胞株でsiRNA1/siRNA2によるTHBS2ノックダウン→CCK-8 (cell counting kit-8: 細胞増殖測定試薬) 増殖アッセイ・Transwell移動/浸潤アッセイ・フローサイトメトリー細胞周期解析を実施した。