- 著者: Liao X, Wang W, Yu B, Tan S (Liao XとWang Wは同等貢献)
- Corresponding author: Baoping Yu (yubp62@163.com) および Shiyun Tan (812328105@qq.com) (Department of Gastroenterology, Renmin Hospital of Wuhan University)
- 雑誌: Cancer Cell International
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-05-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 35701829
背景
Thrombospondin-2 (THBS2) は、細胞外マトリックス (ECM) タンパク質のTHBSファミリーに属する多機能型糖タンパク質である。これは間質線維芽細胞、内皮細胞、および免疫細胞から分泌され、細胞遊走、血管新生、アポトーシス調節、細胞骨格制御など、多岐にわたる生物学的機能に関与することが知られている。近年、THBS2は膵癌、胃癌、大腸癌といった複数の消化器腫瘍において、診断および予後バイオマーカーとしての潜在的な有用性が報告されている。例えば、Berger et al. (2019) は、早期膵癌の血液バイオマーカーパネルにTHBS2を組み込むことで診断精度が向上することを示し、Li et al. (2021) は、THBS2とCA19-9の組み合わせが早期胃癌の検出能を向上させることを報告している。さらに、Wang et al. SciRep 2016 は、大腸癌におけるTHBS2の予後バイオマーカーとしての可能性を指摘している。これらの先行研究は、THBS2が個別の癌腫において重要な役割を果たすことを示唆しているが、その全癌腫横断的な発現プロファイル、予後への影響、および腫瘍微小環境 (TME) における包括的な役割については、依然として未解明な点が多かった。
腫瘍と免疫系の複雑な相互作用は、癌の発生と進展においてTMEが果たす重要な役割を浮き彫りにしている。TMEには、腫瘍関連マクロファージ (TAM)、B細胞、CD4+およびCD8+ T細胞、好中球など、多様な免疫細胞が浸潤している。これらの免疫細胞は、腫瘍免疫回避、血管新生、転移といった癌の悪性形質を媒介する。特にTAMは、患者の予後や免疫療法の効果に影響を与えることが知られており、Gordon et al. Nature 2017 は、TAMにおけるPD-1発現が食作用と腫瘍免疫を抑制することを示している。ECMコンポーネントと免疫細胞浸潤の間の相互作用は、腫瘍生物学の中心的課題であるが、THBS2がこのECMと免疫浸潤のクロストークにおいてどのような役割を果たすのかは、これまで十分に理解されていなかった。特に、TCGA (The Cancer Genome Atlas) およびGTEx (Genotype-Tissue Expression) データを活用した全癌腫横断的なパンキャンサー解析により、THBS2の発現、予後、および免疫浸潤との関連を統合的に検討した研究は、これまで不足していた。このような包括的な解析は、THBS2の普遍的な腫瘍促進機能や、新たな治療標的としての可能性を明らかにする上で不可欠である。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、33種類の癌腫を対象としたパンキャンサー解析を通じて、Thrombospondin-2 (THBS2) の発現異常とその予後への影響を包括的に明らかにすることである。具体的には、THBS2発現と腫瘍免疫浸潤、免疫チェックポイント遺伝子の発現、および細胞外マトリックス (ECM) との関連性を統合的に解析する。さらに、膵腺癌 (PAAD) および胃腺癌 (STAD) を代表的な癌腫として選択し、THBS2がECM-免疫クロストークにおいて果たす機能的役割をin vitro実験により検証する。これにより、THBS2が癌の発生と進展にどのように寄与しているか、そして新たな診断・治療標的としての可能性を探ることを目指す。
結果
THBS2のパンキャンサー発現プロファイル: GTExデータベースを用いた34種類の正常組織の解析では、THBS2は子宮頸部、子宮、子宮内膜、および脂肪組織で高発現を示し、骨格筋、小脳、膵臓、および胃では低発現であった (Fig. 1b)。ONCOMINEデータベースでの解析では、膀胱癌、大腸癌、乳癌、食道癌、胃癌、白血病、肝癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、卵巣癌、膵癌、脳・中枢神経系癌、頭頸部癌などの癌グループで、正常組織と比較してTHBS2発現が有意に高いことが示された (Fig. 1c)。TIMER2解析では、BRCA、COAD、CHOL、ESCA、KIRC、KIRP、LUAD、LUSC、PRAD、PAAD、およびSTADにおいてTHBS2発現が正常組織より有意に高かった一方、CESC、KICH、およびUCECでは有意に低かった (Fig. 1d)。GEPIA2を用いた31癌種と対応する正常組織の解析では、33癌種中17癌種 (特にBRCA、PAAD、SARC) でTHBS2が有意に高発現し、14癌種 (特にCESC、UCEC、UCS) で有意に低発現していることが確認された (Fig. 1a)。これらの結果は、THBS2が多様な癌腫で異常発現していることを明確に示している。
THBS2のパンキャンサー予後予測値: THBS2発現と患者予後との関連をOS、DSS、DFI、PFIの各指標で評価した。OS解析では、ACC、BLCA、KIRC、KIRP、LGG、MESO、PAAD、STAD、SKCM、UVMの10癌種でTHBS2高発現が有意に不良なOSと相関した (Fig. 2a)。SKCMを除く9癌種では、THBS2の高発現が予後悪化と関連していた (Fig. 2b-j)。DSS解析では、ACC、KIRC、KIRP、LGG、MESO、PAAD、UVMの7癌種でTHBS2発現がDSSに影響を与え、高発現が不良予後と関連した (Fig. 3a-h)。DFI解析では、CESCおよびPAADにおいてTHBS2高発現が有意に不良なDFIと関連した (Fig. 4a-c)。PFI解析では、BRCA、COAD、DLBC、KICH、KIRC、MESO、PAAD、PRAD、UVMの9癌種でTHBS2発現がPFIに影響を与え、DLBCを除く癌種で高発現が不良PFIと関連した (Fig. 5a-i)。さらに、THBS2発現はACC、BLCA、COAD、ESCA、KIRC、PAAD、READ、SKCM、STAD、THCAで腫瘍ステージとの有意な相関を示した (Fig. 6)。
独立予後因子としてのTHBS2: 単変量および多変量Cox回帰解析により、THBS2が高発現していることが、KIRP (HR 1.337, 95% CI 1.058-1.690, p=0.015)、MESO (HR 2.097, 95% CI 1.615-2.724, p<0.0001)、PAAD (多変量HR 1.270, 95% CI 1.003-1.608, p=0.047)、STAD (多変量HR 2.015, 95% CI 1.551-2.618, p<0.0001) において、年齢、性別、pTNMステージと独立した不良予後因子であることが確認された (Fig. 7)。SKCMでは逆に、THBS2低発現が独立した不良予後因子であり、癌腫依存的な二面性を示した。
免疫浸潤および免疫チェックポイント遺伝子との相関: CIBERSORT解析 (21癌種) では、THBS2発現がB細胞 (10癌種)、樹状細胞 (6癌種)、マクロファージ (12癌種)、好中球 (4癌種)、CD4+ T細胞 (17癌種)、CD8+ T細胞 (8癌種) の浸潤レベルと有意に相関した (Fig. 8)。特に、M2マクロファージはBLCA、COAD、HNSC、READ、THYM、TGCT、SARC、STADでTHBS2と正相関し、腫瘍促進的な傾向を示した。一方、活性化NK細胞はBLCA、CESC、KIRC、OV、THCA、UCECでTHBS2と負相関し、Tfh細胞はBLCA、BRCA、HNSC、KIRC、LUAD、LUSC、OV、PRAD、SKCMでTHBS2と負相関した。これらの結果は、THBS2が腫瘍促進的免疫細胞と正相関し、腫瘍抑制的免疫細胞と負相関することで、免疫抑制的なTME形成に関与していることを示唆する。ImmuneScoreおよびStromalScoreは、それぞれ19癌種および30癌種でTHBS2と正相関した (Fig. 9a, b)。48種類の免疫チェックポイント遺伝子との相関解析では、PRAD (45種)、COAD (42種)、LIHC/THCA (41種) など、20以上の癌種でTHBS2が30以上の免疫チェックポイント遺伝子と相関することが明らかになった (Fig. 10)。
PPIネットワークとin vitro検証: STRING解析により、THBS2がECMタンパク質 (MMP-2、ADAMTS2、ADAMTSL1などのADAMTSファミリー、ITGB1) および免疫関連タンパク質 (CD47) と強い相互作用を持つことが示された (Fig. 11)。PANC1細胞およびBGC-823細胞におけるsiTHBS2ノックダウン実験では、THBS2、CD47、MMP-2のタンパク質発現が有意に低下した (p<0.05) (Fig. 12a-c)。CCK-8アッセイでは、両細胞株の増殖が有意に抑制され (p<0.001)、transwell assayおよびwound healing assayでも浸潤・遊走能が有意に低下した (p<0.001) (Fig. 13a-g)。具体的には、PANC1細胞の増殖はsiTHBS2群で約50%抑制され、BGC-823細胞では約60%抑制された (p<0.001)。遊走能もPANC1細胞で約70%抑制され、BGC-823細胞で約80%抑制された (p<0.001)。これらのin vitro結果は、THBS2が膵癌および胃癌において、CD47を介した食作用抑制経路とMMP-2を介したECMリモデリングを同時に制御することで、ECMと免疫浸潤の「架け橋」として機能するという概念モデルを実験的に支持する。
考察/結論
本研究は、Thrombospondin-2 (THBS2) のパンキャンサー解析を通じて、その発現異常、予後への影響、および腫瘍微小環境 (TME) における役割を包括的に明らかにした。THBS2は33癌種中17種で過剰発現を示し、特に腎乳頭型細胞癌 (KIRP)、中皮腫 (MESO)、膵腺癌 (PAAD)、胃腺癌 (STAD) において、多変量Cox解析により独立した不良予後因子であることが確認された。これは、THBS2がこれらの癌腫における重要な予後バイオマーカーとなる可能性を示唆する。
先行研究との違い: これまでのTHBS2に関する研究は個別の癌腫に焦点を当てたものが多かったが、本研究は33癌種を網羅したパンキャンサー解析と、免疫浸潤および細胞外マトリックス (ECM) との統合解析を初めて実施した点で、これまでの研究とは異なる。これにより、THBS2の多癌種にわたる普遍的な腫瘍促進機能と予後バイオマーカーとしての可能性を包括的に示した。特に、THBS2発現が腫瘍促進的免疫細胞 (M2マクロファージ、好中球、単球) と正相関し、腫瘍抑制的免疫細胞 (Tfh細胞、活性化NK細胞) と負相関することで、免疫抑制的TME形成に関与していることが系統的に示されたことは新規の知見である。
新規性: 本研究で初めて、THBS2がECMタンパク質 (MMP-2、ADAMTSファミリー) と免疫関連タンパク質 (CD47) の両方と強い相互作用を持つことをPPIネットワーク解析で同定した。さらに、in vitroのTHBS2ノックダウン実験により、CD47 (「don’t eat me」シグナルにより食作用を抑制する免疫チェックポイント分子) とMMP-2 (ECM分解・腫瘍浸潤促進) の発現低下が確認された。この結果は、THBS2がCD47を介した免疫回避経路とMMP-2を介したECMリモデリングを同時に制御することで、ECMと免疫浸潤の「架け橋」として機能するという仮説を実験的に支持する。この二重の機能は、THBS2がTMEをリモデリングし、癌の進行を促進する新たなメカニズムを示唆するものであり、これまで報告されていない重要な洞察である。
臨床応用: 本知見は、THBS2が癌の診断および予後予測における潜在的なバイオマーカーとして、また新たな治療標的としての臨床応用に直結する可能性がある。特に、CD47-SIRPα軸の阻害は早期臨床試験で検討されており、THBS2の発現制御がCD47を介した免疫療法効果に影響する可能性も示唆される。THBS2を標的とした阻害戦略、またはCD47/MMP-2経路との組み合わせ介入は、膵癌や胃癌を含む複数の癌腫における治療効果を向上させる可能性を秘めている。
残された課題: 本研究は主に観察的解析に基づいており、THBS2と癌進行の間の因果関係を完全に確立するためには、さらなるin vivo実験が必要である。また、THBS2を介したECM-免疫クロストークの詳細な分子機序、特にADAMTSファミリーとの相互作用や免疫チェックポイント阻害薬との相互作用については、今後の検討課題として残されている。臨床サンプルを用いたプロ腫瘍性および抗腫瘍性免疫細胞の空間的分布解析も、THBS2のTMEにおける役割をより深く理解するために重要である。本研究はバイオインフォマティクス解析が主体であり、GSEA解析や患者個別サンプルでの検証を伴わない点は限界として挙げられるが、in vitro実験による機能的裏付けは基礎的な因果関係に一定の支持を与えている。
方法
データソースと前処理: THBS2のmRNA発現データは、ONCOMINEデータベース、GEPIA2 (Gene Expression Profiling and Interactive Analyses vision 2) ウェブサーバー、およびGTEx (Genotype-Tissue Expression) データベースから取得した。GEPIA2はTCGA (The Cancer Genome Atlas) の31腫瘍種とGTExの対応する正常組織のデータを含む。33癌種に関する遺伝子発現データと詳細な臨床情報は、UCSC Xenaからダウンロードし、Perlソフトウェア (バージョン5.34.0) を用いてマトリックスデータとして処理した。RNA-sequencing expression (レベル3) プロファイルと臨床情報は、TCGAデータセット (portal.gdc.com) から取得した。
生存解析: R v4.0.3 (survival、survminer、limma、forestplotパッケージ) を使用し、OS (全生存期間)、DSS (疾患特異的生存)、DFI (無病期間)、PFI (無増悪期間) についてKaplan-Meier曲線を作成した。単変量および多変量Cox回帰解析を実施し、THBS2発現が独立した予後因子であるかを検証した。統計的有意水準はp<0.05とした。
免疫浸潤解析: 腫瘍微小環境 (TME) における免疫およびマトリックス成分の評価には、Rのestimateパッケージ (v4.0.3) を用いてImmuneScore、StromalScore、およびEstimatScoreを算出した。免疫細胞の浸潤レベルは、オンライン解析プラットフォームCIBERSORT (cibersort.stanford.edu) を使用し、22種類の免疫細胞サブタイプ (LM22) の参照セットに基づいて推定した。また、TIMER2を用いて、33癌種におけるTHBS2と腫瘍浸潤免疫細胞の相対的豊富さとの関係を評価した。さらに、48種類の一般的な免疫チェックポイント遺伝子とTHBS2発現との相関を33癌種でPearson相関分析により解析した。
タンパク質間相互作用 (PPI) ネットワーク解析: THBS2が癌発生に寄与する可能性のあるプロセスを特定するため、STRINGデータベースを用いてTHBS2のPPIネットワークを構築し、相互作用パートナーを同定した。
in vitro検証: ヒト膵癌細胞株PANC1およびヒト胃癌細胞株BGC-823 (いずれもChina Center for Type Culture Collection, Wuhan, Chinaより入手) を使用した。PANC1細胞はRPMI 1640培地で、BGC-823細胞はDMEM培地で培養した。THBS2のノックダウンは、Lipofectamine2000を用いたsiRNAトランスフェクションにより実施した。siTHBS2の配列はGUU UGC UUC AGA ACG UCC ATTであった。細胞増殖能はCCK-8アッセイ (72時間) で評価した。細胞の遊走能および浸潤能は、それぞれwound healing assayおよびtranswell assayを用いて評価した。THBS2、CD47、MMP-2、およびGAPDHのタンパク質発現レベルはWestern blottingにより測定した。siRNAのトランスフェクション効率はqRT-PCRにより確認した。in vitroデータの統計解析にはGraphPad Prism 7を使用し、Student’s t検定でp<0.05を有意差とした。