- 著者: Joshua D. Cohen, Lu Li, Yuxuan Wang, Christopher Thoburn, Bahman Afsari, Ludmila Danilova, Christopher Douville, Ammar A. Javed, …, Chetan Bettegowda, Luis A. Diaz Jr., Cristian Tomasetti, Kenneth W. Kinzler, Bert Vogelstein, Anne Marie Lennon, Nickolas Papadopoulos
- Corresponding author: Cristian Tomasetti (ctomasetti@jhu.edu), Anne Marie Lennon (amlennon@jhmi.edu), Kenneth W. Kinzler (kinzlke@jhmi.edu), Bert Vogelstein (bertvog@gmail.com), Nickolas Papadopoulos (npapado1@jhmi.edu)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-18
- Article種別: Original Article (Report)
- PMID: 29348365
背景
多くの固形がんは遠隔転移前に外科切除のみで治癒しうるが、転移後は外科的切除での治癒はまれであり、早期発見が死亡率低減の鍵である。先行研究では成人がんで前がん病変から進行がんへの進展に 20-30 年を要し転移前の検出に広い窓が存在することが示されたにもかかわらず (Vogelstein et al. 2013)、血液ベースの早期検出法は前立腺がんの prostate-specific antigen 測定がほぼ唯一で、その適正使用すら議論が続いている (Pinsky et al. 2017)。承認済みの検診法 (大腸内視鏡・マンモグラフィ・子宮頸部細胞診) は非血液ベースであり、対象がん種が限られる。一方、somatic 変異を検出する liquid biopsy はドライバー遺伝子変異に基づく高い特異度が期待されるが (Bettegowda et al. 2014)、これまで評価された患者の大多数は進行期であり、特異度評価に不可欠な大規模健常対照を検討した研究は皆無であった (Cree et al. 2017)。さらに早期がんでは血漿 1 mL あたり変異テンプレートが 1 分子未満のことが多く既報技術の検出限界を下回ること、同一遺伝子変異が複数がん種を駆動するためゲノム解析単独では原発臓器を同定できないこと、という三つの本質的ギャップが残され未解明であった。すなわち「高特異度を健常大集団で実証しつつ早期がんを検出し、かつ原発巣を局在化する」検査は未確立であり、これら三要件を同時に満たすうえで必要な multi-analyte 統合の検討は十分でなかった。
目的
ctDNA の変異検出 (genetic marker) と循環蛋白バイオマーカー (protein marker) を組み合わせた単一の multi-analyte 血液検査 CancerSEEK を開発し、遠隔転移前 (stage I-III) の 8 種の common な固形がん (卵巣・肝・胃・膵・食道・大腸・肺・乳房) を、健常者で特異度 99% 超を保ちながら検出し、加えて原発臓器を局在化できるかを大規模コホートで評価することを目的とした。
結果
61-amplicon パネル設計による高効率な変異検出:検出に要する amplicon 数と感度の間に分数的なべき乗則が成立し ~60 amplicon で plateau に達したことから、16 遺伝子内の平均 33 bp を query する 61-amplicon パネルを設計した (Fig 1)。COSMIC データセット上の理論検出率は肝 41% から膵 95% であったが、実測では評価した 805 がんのうち 82% で 1 変異以上、47% で 2 変異以上、8% で 2 変異超を検出し理論値を上回った (Fig 1, fig S1, table S2)。PCR ベースシーケンスがゲノムワイド法より高感度であったためで、原発腫瘍 DNA 解析に基づく ctDNA 検出能の予測最大値は肝の 60% から卵巣の 100% まで腫瘍型で変動した (Fig 1)。さらに multiplex-PCR による DNA バーコード標識と血漿 DNA の複数 aliquot への分割により各ウェルあたりの変異アレル比を高めて signal-to-noise 比を改善し、血漿全体を一括評価する場合より低頻度の変異を検出可能とした。
特異度 99% 超を保った median 感度 70% の検出性能:1933 ゲノム位置の変異と 8 蛋白の値をロジスティック回帰で統合し、10-fold cross-validation を 10 反復して評価した (Fig 2A)。8 がん種 (n=1005 patients) を通じた median 感度は 70% (P < 10^-96, 一側 binomial test) で、卵巣がんの 98% から乳がんの 33% まで幅があった (Fig 2C)。この感度で特異度は 99% 超を維持し、健常対照 (n=812 individuals) のうち陽性は 7 例のみであった (Fig 2A)。ROC 曲線上の代表点では特異度 >99% における平均感度は 62% で、誤差棒は 95% CI を表す (Fig 2A)。アルゴリズムで最も重要な特徴は ctDNA 変異の存在で、次いで CA-125・CEA・CA19-9・prolactin・hepatocyte growth factor (HGF)・osteopontin・myeloperoxidase (MPO)・tissue inhibitor of metalloproteinases 1 (TIMP-1) の 8 蛋白上昇が寄与し、各特徴の重要度順位と、特定の特徴を 1 つずつ除外したときの感度低下からも確認された (table S9, fig S2-S4)。腫瘍型別では卵巣・肝・胃・膵・食道の 5 がん種で 69-98% の高感度が得られ、これらはいずれも平均リスク者向けの検診法が存在しないがん種である。
早期病期での検出と血漿-腫瘍変異一致:検診に重要な早期検出能では、median 感度は最多の stage II で 73%、stage III で 78% と同程度、stage I では 43% と低下した (Fig 2B)。stage I 感度は肝がんで最高 100%、食道がんで最低 20% であった (Fig 2B)。また有意水準で ctDNA を検出でき原発腫瘍が利用可能な 153 例で、血漿中変異が同一個体の原発腫瘍変異と一致した症例は 138 例 (90%) であり (table S7)、この一致は 8 がん種すべてで認められ卵巣・膵の 100% から胃の 82% まで分布し、血漿中変異が腫瘍由来である前提を裏付けた。
機械学習による原発臓器の局在化:CancerSEEK 陽性 (n=626 patients) に対し、ctDNA・蛋白マーカー値と性別を入力とする教師あり機械学習で原発がん種を予測した。臨床情報なしに、median 83% の患者で 2 解剖学的部位に (P < 10^-77)、median 63% の患者で単一臓器に (P < 10^-47) 原発を局在化できた (Fig 3, table S8)。ドライバー変異は通常組織特異的でないため局在情報の大半は蛋白マーカー由来であり、予測精度は大腸がんで最高、肺がんで最低であった (Fig 3, table S10)。内視鏡が共通の follow-up となる食道がんと胃がんは upper GI として統合して評価し、各がん種の正答率には 95% CI が付された (Fig 3)。これにより liquid biopsy 単独では不可能であった「陽性結果後にどの臓器を精査すべきか」という臨床判断への手がかりが、単一採血から得られることが示された。
考察/結論
本研究は、先行研究の liquid biopsy がゲノム解析単独で原発臓器を同定できなかったのとは異なり、protein marker を組み合わせることで多がん種の検出と局在化を単一採血で実現した点に新規性がある。完全に異なる作用機序を持つ薬剤を併用する治療学の発想を診断に応用し、protein と genetic biomarker を統合することで特異度を実質的に損なわずに感度を高めた本研究で初めての multi-analyte アプローチである。臨床応用の観点では、推定コストが 500 ドル未満と大腸内視鏡など単一がん検診と同等以下であり、本研究の 8 がん種は 2017 年の米国がん死亡推計の 60% (360,000 人) を占めるため、その早期発見はこれら疾患の死亡低減に橋渡しされうる。とくに平均リスク者向けの検診法が存在しない 5 がん種 (卵巣・肝・胃・膵・食道) で 69-98% の高感度を示した点は translational に重要である。一方で残された課題も多い。第一に、本コホートは既知がん患者で大半が症状契機の診断であり、真の検診環境ではより早期で感度が低下する可能性が高い。第二に、対照が健常者に限られ、炎症性疾患等を含む実検診では偽陽性が増えうる。第三に、cross-validation は用いたが完全独立の検証セットは使えなかった。第四に、米国実発生率で重み付けすると全 8 がん種の感度は 55% と推定され、臨床的有用性の証明には全 incident がんを対象とする大規模前向き研究が今後の検討課題として必要である。本検査は既存の非血液検診を置換するものではなく追加情報を提供する位置づけである。関連して、本パネルが依拠する SafeSeqS など ctDNA 検出技術の動向は JThoracOncol et al. Cancers 2024 や免疫療法下の循環バイオマーカー研究 JClinOncol et al. Cancers 2023 とも接続し、tumor-informed liquid biopsy の臨床統合 NatRevClinOncol et al. Basic 2023 という大きな潮流の起点に位置づけられる。
方法
非転移性で neo-adjuvant 化学療法歴のない stage I-III の 8 がん種 (卵巣・肝・胃・膵・食道・大腸・肺・乳房) 1005 例 (診断時 median 年齢 64 歳、範囲 22-93) と、がん・高度異形成・自己免疫疾患・慢性腎臓病の既往がない健常対照 812 例 (median 年齢 55 歳、範囲 17-88) を対象とした。病期は AJCC stage II が 49% で最多、stage I 20%、stage III 31% であった。CancerSEEK は 16 遺伝子をカバーする 61-amplicon (平均 33 bp) パネルで 1933 ゲノム位置の変異 (single base substitution・insertion・deletion) を評価し、multiplex-PCR による DNA バーコード標識 (SafeSeqS 技術) と血漿 DNA の複数 aliquot 分割で低頻度変異を検出した。並行して文献から感度 >10%・特異度 >99% の 41 候補蛋白を抽出し、単一 immunoassay platform で再現性評価可能な 39 蛋白を測定、うち判別に有用な 8 蛋白を採用した。変異の log ratio と蛋白値をロジスティック回帰アルゴリズムに統合してスコア化し、感度・特異度は 10 反復の 10-fold cross-validation で算出した。原発臓器予測には ctDNA・蛋白値・性別を入力とする教師あり機械学習を用い、内視鏡が follow-up となる食道がんと胃がんは upper GI として統合した。コホート規模は cancer n=1005 (変異解析は 805 例)、healthy control n=812、原発腫瘍照合 n=153。