- 著者: Eric K. Rowinsky, Emiliano Calvo
- Corresponding author: Eric K. Rowinsky (ImClone Systems Inc, Branchburg, NJ, USA)
- 雑誌: Seminars in Oncology
- 発行年: 2006
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 16890797
背景
Paclitaxelやdocetaxelなどのタキサン系薬剤およびビンカアルカロイドは、卵巣がん、乳がん、非小細胞肺がん (NSCLC)、前立腺がん、頭頸部がんなど広範な悪性腫瘍の根治的および緩和的治療レジメンの中核を担ってきた。Ibrahim et al. ClinCancerRes 2002により、新規製剤の開発が加速されている。微小管はα-β-チューブリンヘテロ二量体の「プロトフィラメント」が側方に配列した中空管状構造であり、成長端 (プラス端) とマイナス端の極性を持つ。微小管は可溶性チューブリンプールとの動的平衡下にあり、トレッドミリング (一端で伸長、反対端で短縮) とダイナミックインスタビリティ (プラス端で伸長と急速短縮が自発的に切り替わる) という2つの動的過程を示す。抗微小管薬は有糸分裂紡錘体の動態 (特にダイナミックインスタビリティ) を抑制して中期-後期移行を阻止しアポトーシスを誘導する。薬剤濃度が低用量でも動態抑制効果を発揮する点が臨床活性の基盤であり、微小管重合を大規模に阻害するには数桁高い濃度が必要となる。Jordan MA et al. (2004) は微小管が抗がん剤の重要な標的であることを報告しており、また Cortes JE et al. (1995) はドセタキセルの臨床的有用性を示している。
タキサンの臨床成功を踏まえ、治療指数の高い新規抗微小管・抗有糸分裂薬の開発が活発化しており、特にMDR (多剤耐性)/P-糖タンパク質 (Pgp) 耐性克服、末梢神経障害軽減、投与利便性 (経口化) の改善が求められる。既存タキサンは広い抗腫瘍スペクトルを示すが、Pgp過剰発現によるMDRやβ-チューブリン点変異による耐性が臨床的課題である。また、パクリタキセルの水溶性の低さに由来するHSRs (過敏反応) の高頻度、神経毒性、および複雑な投与スケジュールが患者の生活の質を損なっている。さらに、タキサン耐性腫瘍に対する有効な治療選択肢が限定されており、新規機序の薬剤開発が急務である。これらの課題は、従来のタキサン系薬剤の臨床的有用性を制限する要因として、未解明な部分も多く、新たなアプローチが不足している状況であった。
これまで報告されていない微小管を標的とする多様な天然物および合成化合物が前臨床段階で同定されており、これらがタキサンを超える治療指数を達成する可能性が示唆される。しかし、Pgp基質性の低下のみでは、MDRに伴う多面的な耐性機序 (ゲノム不安定性、複数の耐性タンパク質共発現) を克服できない可能性が高く、この点が臨床開発における重要な課題として残されている。微小管動態 (トレッドミリング・ダイナミックインスタビリティ) の薬理学的抑制が有糸分裂停止と細胞死誘導の主要機構であることを理解することが、次世代抗微小管薬の開発に不可欠である。この領域における知識ギャップを埋めるためには、より広範な薬剤クラスと作用機序を包括的に評価する必要がある。
目的
本総説は、微小管およびそれに関連する有糸分裂装置 (キネシン、キナーゼ) を標的とする新規抗がん薬について、前臨床から臨床開発までの状況を包括的に概説し、既存タキサン (パクリタキセル・ドセタキセル) を超える治療指数を達成するための課題と戦略を論じることを目的とする。具体的には、(1) 新規タキサン製剤・類似体 (nab-パクリタキセル、DHA-パクリタキセル、CT-2103、経口タキサン)、(2) エポチロン類 (イキサベピロン、パツピロン、KOS-862、BMS-310705)、(3) ディスコデルモリド・ドラスタチン・ハリコンドリン等の海洋天然物、(4) コンブレタスタチンなどの血管破壊薬、(5) KSP (キネシン紡錘体タンパク質)/Eg5阻害剤・Auroraキナーゼ阻害剤などの有糸分裂関連標的薬を対象とする。各薬剤の前臨床特性、臨床試験成績、毒性プロファイル、および耐性機序の克服戦略を詳細に検討し、理想的な新規タキサン類似体に求められる特性を明確にすることが本総説の主眼である。
結果
Nab-パクリタキセル (Abraxane, ABI-007) の開発と臨床成績: ヒト血清アルブミン結合パクリタキセルナノ粒子製剤であるABI-007は、Cremophor ELフリーであり前投薬が不要である。また、PVC不織輸液セットの使用が可能である。転移性乳がん患者460例を対象とした第III相試験では、ABI-007 260 mg/m² 3週毎 (30分点滴) とパクリタキセル 175 mg/m² 3時間点滴を比較した。結果、ABI-007群で奏効率 (ORR) 33% vs 19% (p<0.001) と有意な改善を示し、無増悪生存期間 (TTP) 中央値も21.9週 vs 16.1週と延長した。この結果に基づき、FDAの承認を取得した。タキサン耐性転移性乳がん患者106例を対象とした週1回投与試験では、ORR 15%であり、Grade 3以上の感覚神経障害の発現率は4%と低頻度であった。腫瘍内AUCはパクリタキセル比1.6倍高く、末端半減期は17.1時間 vs 4.0時間と延長し、赤血球への一時的な蓄積と段階的な放出により末梢血中での長い滞留時間を実現した (Table 1)。第I相試験 (n=19患者) では急性HSRsは観察されず、用量制限毒性 (DLT) は375 mg/m²で感覚神経障害 (3例)、口内炎 (2例)、角膜炎 (2例) であった。MTDは300 mg/m²と決定された。
CT-2103 (Xyotax、ポリグルタミン酸パクリタキセル) の特性と臨床評価: マクロ分子コンジュゲート製剤であるCT-2103は、腫瘍血管の増強透過性/滞留効果 (EPR効果) により腫瘍選択的集積を狙う。血漿中遊離パクリタキセルは総タキサンの約3%のみであり、遊離パクリタキセルの末端半減期は10日超であった。NSCLC PS 0-2患者で3本の第III相試験 (STELLAR 2/3/4、合計n=1,000例超) が実施された。STELLAR 3ではchemotherapy-naïve PS 2患者をCT-2103+カルボプラチン vs パクリタキセル+カルボプラチンに無作為化し、STELLAR 4ではchemotherapy-naïve PS 2患者をCT-2103 vs ビノレルビン/ゲムシタビンに無作為化、STELLAR 2ではPS 0-2患者における第二次治療としてCT-2103 vs ドセタキセルを比較した。全試験で生存を主要評価項目とした。第II相試験 (n=99患者、再発上皮性卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がん) ではORR 10%、白金感受性例で14%、白金耐性例で7%、タキサン明確耐性例で2%であった。Grade 3-4毒性 (CT-2103 175 mg/m² 3週毎) は好中球減少12%、神経障害14%、疲労6%で、Grade 4神経障害は観察されなかった。
DHA-パクリタキセル (Taxoprexin) の薬物動態と活性: ドコサヘキサエン酸 (DHA) 共役プロドラッグである。Pgp基質性が低く、in vivoで腫瘍内パクリタキセルAUCが6倍 (血漿比2倍) であった。第I相試験 (2時間点滴、3週毎) でMTD 1,100 mg/m²で好中球減少が主毒性、脱毛・神経障害・筋骨格毒性Grade 1超は観察されなかった。薬物動態パラメータ (MTD 1,100 mg/m²) :DHA-パクリタキセル分布容積 7.5 L、β半減期112時間、クリアランス 0.11 L/h;遊離パクリタキセルCmax 282 ng/mL、AUC 10,705 ng/mL×h、末端半減期85時間であった。遊離パクリタキセル血漿曝露はDHA-パクリタキセル曝露の0.06%のみであった。進行メラノーマ第III相でダカルバジンとの比較試験が進行中である。
経口タキサン (DJ-927、MAC-321) の開発: DJ-927はPgp非感受性で、Pgp過剰発現細胞でも高い細胞内蓄積を示し、経口投与で肝転移マウスモデルの延命効果を示した。第I相試験 (3週毎単回経口投与) でMTD 40 mg/m² (血小板減少DLT)、末端半減期175.5時間、用量比例的な薬物動態を示した。MAC-321はPgp過剰発現KB-V1細胞で耐性80倍 (パクリタキセル 1,400倍、ドセタキセル 670倍) と大幅に低下した。第I相試験 (21日毎単回経口投与) でMTD 60 mg/m² (造血毒性)、Cmax <1時間、用量比例的AUC増加、半減期20-228時間の広い個体差を示した。
エポチロン類の前臨床・臨床特性: Myxobacterium Sorangium cellulosum由来の微小管安定化薬で、タキサンと結合部位を共有するがPgp基質性が低く、β-チューブリン点変異による耐性も部分的に回避する。(1) イキサベピロン (BMS-247550) :daily×5/3weeks、weekly、3-weeklyなどで評価され、DLTは骨髄抑制と神経毒性であった。乳がん・肺がん・前立腺がん・卵巣がん (タキサン治療歴含む) で主要奏効が報告された。(2) パツピロン (EPO906、エポチロンB) :カルボキシエステラーゼ代謝、DLTは下痢で、進行大腸がん・腎細胞がん (従来抗微小管薬抵抗性) で客観的奏効を示した。(3) KOS-862 (デスオキシエポチロンB、エポチロンD) :神経・中枢毒性が課題で、単回3週毎投与で感覚・中枢神経毒性 (歩行障害、認知機能低下、疲労) が一貫して観察された。(4) BMS-310705 (エポチロンB誘導体C-21) :水溶性で、卵巣・乳・膀胱・胃・肺がんで奏効報告があった (Table 2)。
その他の海洋天然物と血管破壊薬: ディスコデルモリド (カリブ海スポンジ由来) は微小管安定化作用が強力でKi 5-40 nmol/L、パクリタキセル耐性β-チューブリン変異細胞に感受性保持、合成版XAA296で予期せぬ肺毒性が報告された。エレウテロビン、ラウリマリド、サルコディクチンはチューブリン重合促進作用を持ちPgp基質性が低い。ドラスタチン-10、ハリコンドリンB (E7389:タキサン耐性転移性乳がんで奏効)、HTI-286 (ヘミアステルリン誘導体、第I相、0.06-2.0 mg/m² 21日毎、DLT pain/hypertension/neutropenia、クリアランス 15.7±9.3 L/h、分布容積 177±68 L、半減期9.2±3.8時間) はビンカまたはコルヒチン結合ドメインに結合し、血管破壊薬として評価中で心血管毒性が課題である。コンブレタスタチンA-4リン酸、CA-1-P、ZD6126、AVE8062Aが臨床試験中である。
新規有糸分裂標的薬: (1) KSP (キネシン紡錘体タンパク質)/Eg5阻害剤SB-715992 (CK0106023) :KSPに対し10,000倍選択的で単極性紡錘体を誘導し、第I相で1時間点滴3週毎/毎週投与、主毒性好中球減少、神経毒性稀、大腸・腎がんで軽度奏効 (minor response) が報告された (Figure 2)。より強力なSB743921は第I相進行中である。(2) Auroraキナーゼ阻害剤VX680 (MK-0457) :小分子阻害剤で白血病・大腸・膵がん異種移植片で退縮誘導、臨床試験開始段階である (Table 3)。
S-8184 (TOCOSOL) の臨床評価: ビタミンEベースのパクリタキセルエマルジョン製剤であるS-8184は、非Cremophor EL製剤として溶解度を向上させる目的で開発された。第I相試験では、S-8184を225 mg/m² (パクリタキセル換算) まで3週毎に前投薬なしで投与可能であり、主な毒性は好中球減少であった。薬物動態は用量比例性を示し、消失半減期は約20時間であった。総血中パクリタキセルのAUCおよびCmax値は、同等のパクリタキセル用量で3時間点滴のCremophor EL製剤と比較してそれぞれ約4倍および20倍高かった。しかし、これらの血漿中比較が腫瘍内の状況を反映しているかは不明である。第II相試験では、進行肺がん (NSCLC)、膀胱がん、卵巣がん、大腸がん患者114例にS-8184 120 mg/m²を週1回投与した結果、30%の患者でGrade 3-4の好中球減少が認められ、これは標準的なパクリタキセル (80 mg/m²) の週1回投与と比較して高頻度であった。軽度の注入関連反応は1%未満の患者で観察され、臨床的に関連する末梢神経毒性は認められなかった。完全奏効5例、部分奏効20例が報告されたが、これらの客観的奏効はほとんどがタキサン未治療の肺がん、卵巣がん、膀胱がん患者で認められた。進行大腸がん患者での活性はごくわずかであった。
考察/結論
先行研究との違い: 本総説は、従来のタキサン中心の抗微小管薬開発と異なり、エポチロン・ディスコデルモリド・ドラスタチン・ハリコンドリン・コンブレタスタチン・KSP阻害剤・Auroraキナーゼ阻害剤など、構造的に多様な新規薬剤を統一的に評価した点で先行研究と対照的である。特に、各薬剤のPgp基質性、β-チューブリン変異耐性、毒性プロファイルを比較検討し、単なる「Pgp克服」では不十分であることを明確にした。
新規性: Nab-パクリタキセルの成功は「drug deliveryの改善」が臨床的利益に直結しうることを実証した好例である。本研究で初めて、アルブミンナノ粒子による腫瘍への優先的分布と赤血球への一時的蓄積による末梢血中滞留延長の機序を詳細に解説した。また、CT-2103のようなマクロ分子コンジュゲートが、EPR効果を利用した腫瘍選択的活性化を実現する新規戦略として位置づけられた。エポチロン類はPgp・β-チューブリン変異耐性の部分的克服により既存タキサンを超える可能性を示すが、タキサン抵抗性腫瘍での奏効マグニチュードは前臨床データと比較して小さく、臨床的増分価値の精査が必要である。
臨床応用: コンブレタスタチンなどの血管破壊薬は既存血管を急速にシャットダウンする独自機構を持つが、心血管毒性が実用化のボトルネックとなっている。新規有糸分裂標的 (KSP/Eg5阻害剤、Auroraキナーゼ阻害剤) は分裂期特異的に作用し、神経毒性を回避できる可能性が前臨床で示唆されたため、タキサンの最大の臨床的負担である末梢神経障害の克服が期待される。本総説の執筆時点 (2006年) では、こうした多様な抗微小管・抗有糸分裂薬の臨床開発がNSCLC・乳がん・卵巣がん・前立腺がん等で並行して進められており、今後数年で治療指数の改善が実現するか否かが注目された。これらの知見は、将来的な個別化医療や併用療法の開発において重要な臨床的含意を持つ。
残された課題: 実際、本総説発表後にnab-パクリタキセルはNSCLC・膵癌へ適応拡大され、イキサベピロン (2007年) は転移性乳がんで承認に至るなど、本総説の予測を部分的に実証する形となった。残された課題として、完全な非交差耐性タキサンの同定、経口タキサンの予測可能な吸収動態確立、KSP/Aurora阻害剤の臨床実効性証明が挙げられる。Pgp基質性の低下のみでは、MDRに伴う多面的な耐性機序 (ゲノム不安定性、複数の耐性タンパク質共発現) を克服できない可能性が高い。今後の開発では、単一の耐性機序ではなく、複合的な耐性パターンに対応する薬剤設計が求められる。また、週1回投与スケジュールの有効性が示唆されたが、より高い治療指数を達成するには、薬物動態と薬力学の統合的最適化が必須である。
方法
本論文はナラティブレビューであり、系統的な検索戦略に基づく定量的メタ解析は実施されていない。著者らは、微小管動態、チューブリン結合、および有糸分裂制御に関する基礎研究、ならびに臨床試験データを統合的に評価した。PubMed、医学文献データベースから、チューブリン、タキサン、エポチロン、微小管動態、薬剤耐性、P-糖タンパク質 (Pgp)、キネシン、Auroraキナーゼに関する論文を検索し、2006年までの知見を統合した。
主要な臨床試験として、nab-パクリタキセル (Abraxane, ABI-007) vs パクリタキセル (転移性乳がん、第III相、NCT00021671)、CT-2103 (Xyotax、ポリグルタミン酸パクリタキセル) vs パクリタキセル/カルボプラチン (NSCLC PS2患者、STELLAR 3/4試験)、CT-2103 vs ドセタキセル (STELLAR 2試験、PS 0-2患者における第二次治療)、DHA-パクリタキセル (Taxoprexin) vs ダカルバジン (進行メラノーマ、第III相) などが引用されている。各薬剤の評価では、in vitroチューブリン重合アッセイ、細胞毒性試験 (IC50値測定)、Pgp基質性評価、β-チューブリン変異耐性試験、ならびに動物腫瘍モデル (異種移植、同系モデル) での有効性評価が実施された。
臨床試験の評価指標として、最大耐用量 (MTD)、用量制限毒性 (DLT)、奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (TTP)、薬物動態パラメータ (AUC、Cmax、半減期) が用いられた。統計解析はlog-rank検定、Cox回帰分析、Fisher検定などが適用された。各薬剤の前臨床データは、チューブリン重合促進能 (Ki値、IC50値)、Pgp耐性克服能 (耐性倍数の比較)、β-チューブリン変異への感受性保持、および動物モデルでの生存期間延長効果を指標として評価された。本レビューでは、これらの多様なデータソースを統合し、各薬剤の作用機序と臨床的利点を多角的に評価した。