- 著者: Tsukasa Ishiwata, Takeshi Seki, Alexander Gregor, Masato Aragaki, Yamato Motooka, Tomonari Kinoshita, Terunaga Inage, Nicholas Bernards, Hideki Ujiie, Zhenchian Chen, Andrew Effat, Juan Chen, Gang Zheng, Koichiro Tatsumi, Kazuhiro Yasufuku
- Corresponding author: Kazuhiro Yasufuku (Division of Thoracic Surgery, Toronto General Hospital, University of Toronto, Toronto, Ontario, Canada)
- 雑誌: Translational lung cancer research
- 発行年: 2021
- Epub日: 2020-11-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 33569308
背景
PS (photosensitizer、光感受性物質) を用いた光線療法は、肺がんをはじめとする多くの悪性腫瘍に対する低侵襲治療として注目されている。PDT (photodynamic therapy、光力学療法) は活性酸素種 (reactive oxygen species) の生成による腫瘍細胞壊死・アポトーシスと血管遮断を機序とし、PTT (photothermal therapy、光温熱療法) は熱変性による腫瘍死滅を機序とする。これらの治療法は、PS が EPR (enhanced permeability and retention) 効果によって腫瘍組織に選択的に集積するという特性を利用しており (Matsumura and Maeda 1986)、特定の波長の光を照射した領域のみで効果が発現するため正常組織への障害が限定的である。臨床では中心型肺がんに対してポルフィマーナトリウム (Photofrin) やタラポルフィンナトリウム (Laserphyrin) を用いた PDT が実施されてきた (Usuda et al. 2007)。一方、皮膚への PS 残留による光毒性は普及の大きな障壁であり、光毒性が少なく高効率な新規 PS の開発が求められている。
新規 PS の臨床導入には生体内 (in vivo) での厳密な評価が不可欠であるが、従来の前臨床モデルには重要な gap in knowledge が存在した。Rygaard and Povlsen (1969) が創出したヒト肺がん細胞株の皮下異所移植 (subcutaneous heterotransplantation) モデルは低コストかつ腫瘍作成・モニタリングが容易であり、PS 研究において広く使われてきた。しかし、皮下移植モデルは肺実質固有の微小環境を再現しておらず、臨床的な腫瘍の表現型を正確に模倣しないことが十分に示されており (Talmadge et al. 2007)、このような microenvironment の差異が組織構造に影響して臨床的挙動との乖離をもたらすことが問題点として認識されてきた。
これを克服するために同所移植 (orthotopic implantation) モデルが開発されてきた。中型動物を用いた VX2 (rabbit carcinoma) ウサギモデルは大型の原発腫瘍形成と転移を模倣できるが (Gregor et al. 2019)、ウイルス誘発性乳頭腫由来細胞であるためヒト肺がん細胞とは生物学的特性が根本的に異なる。免疫不全マウスへのヒト肺がん細胞同所移植モデルは Nakajima et al. AnnThoracSurg 2014 らによる非手術的な経気管支接種法の確立によって実用化が進んだ。しかしながら、マウスの気管内径は 1.5 mm 未満と極めて細く、従来の気管支鏡デバイスでは経気管支的なアプローチによる腫瘍の PS 評価や光線療法の実施は不可能であった。Figueiredo et al. (2006) や Dames et al. (2014) によるマウス気管支鏡の先行報告はあるが、いずれも主要葉気管支への到達成功率を定量的に評価したものではなく、PS の経気管支評価に特化した系統的な前臨床プラットフォームの確立という観点では 不足 していた。
Kinoshita et al. Chest 2019 らが開発した外径 0.97 mm の超小型平行型 COF (composite optical fiberscope、複合光ファイバースコープ) は、その極小サイズと高い柔軟性によってマウスの狭小な気道内への挿入を可能にするデバイスとして提案されていた。このデバイスを同所移植マウスモデルと組み合わせることで、ヒト肺がん細胞を用いた生体内での経気管支 PS 評価という、これまで存在しなかったプラットフォームを構築できる可能性が示唆されていた。
目的
本研究の目的は、Kinoshita et al. Chest 2019 らが開発した超小型 COF を Nakajima et al. AnnThoracSurg 2014 らの経気管支接種ヌードマウス同所移植モデルと統合し、経気管支的な腫瘍局在診断および光線療法の評価に用いることができる新規前臨床プラットフォームを確立することである。具体的には、(1) 3 種のヒト肺がん細胞株を用いた同所移植モデルの腫瘍作成成功率を検討し、(2) 生体内マウス気道において COF が各主要葉気管支へ到達可能かを定量的に評価し、(3) 有機ナノ粒子型 PS であるポルフィソーム (porphysome) を用いた経気管支蛍光イメージングによる腫瘍局在診断の実現可能性を検証することを目的とした。
結果
同所移植肺がんモデルの作成成功率と腫瘍特性の評価:
3 種のヒト肺がん細胞株を用いた経気管支同所移植の総成功率は 71% (n=62/87 mice) であった (Figure S1)。2018 年および 2019 年の 2 年間にわたる 3 名の研究者による蓄積データに基づくこの成功率は、A549・NCI-H2170・NCI-H82 いずれの細胞株においても実用的なレベルで腫瘍形成が可能であることを示した。CT モニタリングにより、多くの個体では接種 3-5 週で評価可能な腫瘍径 (軸位断上 5 mm 以上) に達した。皮下異所移植モデルと対照的に、これらの腫瘍は肺実質固有の微小環境において発育するため、臨床における肺がんの進展様式をより正確に模倣していると考えられた。一方、皮下モデルで可能であった触診によるモニタリングとは異なり、同所移植モデルでは serial CT スキャンが腫瘍評価に不可欠であり、モニタリングコストの増大という実際的な課題も明らかになった。細胞株間での腫瘍増殖速度や転移形式の差異 (Figure S1) は、異なる組織型の肺がんに対して本モデルが適用可能であることを示すとともに、PS の腫瘍選択性を複数のヒト肺がんサブタイプで評価できるプラットフォームとしての汎用性を裏付けた。
超小型 COF による経気管支アクセス性能の定量的評価:
COF 挿入実験は、腫瘍を有する 15 匹のマウス (n=15 mice; 平均体重 23.3 g、範囲 19.2-26.2 g) を対象として行った。各気道ゾーンへの到達成功率は、Zone I (右主気管支から頭側葉気管支レベル) で 100% (n=15/15)、Zone II (右中葉・尾側葉・副葉の右基底 3 分岐部) で 93% (n=14/15)、Zone III (気管分岐部から左主気管支) で 87% (n=13/15) であった (Figure 2B)。白色光による気管支腔観察は COF によって良好に行われ、気管・気管分岐部・各葉気管支の解剖学的構造をリアルタイムに視覚化することが可能であった (Figure 2A)。外径 0.97 mm という極小径の COF は、マウス気管の内径 1.5 mm 未満という制約の中で、高い柔軟性 (最小屈曲半径 約 15 mm) と親水性コーティングによる低摩擦性によって末梢気道への高い到達率を実現した。Zone II・Zone III での成功率が Zone I に対してわずかに低下したのは、より遠位の分岐部へ進むほど操作の技術的難度が上昇することと、左右肺の解剖学的非対称性 (マウス右肺 4 葉・左肺 1 葉) によるものと解釈された。代表症例として、NCI-H82 細胞を用いた尾側葉腫瘍への COF アクセスの白色光・蛍光複合画像も示された (Figure 2C)。
COF 挿入処置の安全性プロファイルと周術期合併症の評価:
15 匹中 13 匹 (87%; n=13/15) は 15 分間の連続的 COF 留置および腫瘍局在診断処置に問題なく耐え、麻酔から速やかに回復した。しかし 2 匹 (n=2/15; 13%) が COF 挿入開始から約 10 分の時点で呼吸困難を呈し、手技中に死亡した。剖検では、肉眼的な気道損傷・粘膜浮腫・出血などの明らかな器質的損傷は認められなかった。死因として、分泌物誤嚥による換気障害・喉頭浮腫または喉頭痙攣・末梢気道の微細損傷に伴う気道閉塞が推測されたが、明確な特定には至らなかった。この 13% という手技関連死亡率は、特に PDT の前臨床評価において重要な課題となりうる。PDT の抗腫瘍効果は、直接的効果 (活性酸素種による腫瘍壊死/アポトーシス) と間接的効果 (血管遮断による栄養障害) の複雑な機序を介して照射後の遅延性に発現するため、長期生存を必要とする survival model の構築が治療効果評価には不可欠だからである。このデータは、より安全な長時間 COF 処置を実現するための麻酔プロトコルの最適化や間欠的照射 (fractionated irradiation) 戦略の重要性を示唆している。
経気管支蛍光イメージングによるポルフィソーム集積腫瘍の局在診断:
ポルフィソーム (10 mg/kg) の尾静脈投与 48 時間後、671 nm レーザー (50 mW) を用いた照射下において、腫瘍部位は正常気管支粘膜とのコントラストが明瞭な強蛍光シグナルを呈した (Figure 3A)。正常な気管支壁もレーザー照射に対してわずかな背景蛍光を示したが、腫瘍部の強いシグナルは正常粘膜の背景蛍光と肉眼的に容易に区別可能であり、腫瘍境界のリアルタイム同定が実現された。ex vivo Maestro spectral imaging による蛍光定量では、腫瘍部の蛍光強度は隣接正常肺実質に対して約 3-5 倍 (3- to 5-fold) 高値を示した。NCI-H82 細胞を用いた尾側葉腫瘍の代表症例では、白色光像では不明瞭であった腫瘍領域が蛍光像によって明瞭に可視化された。安楽死後の ex vivo 評価では、Maestro spectral imaging system による肺ブロックの蛍光分布解析 (615-665 nm 励起、700 nm ロングパス、500 ms 露出) において、COF の in vivo 観察所見と腫瘍へのポルフィソーム集積部位が一致することが確認された (Figure 3B)。さらに COF を用いた ex vivo 経胸膜観察 (チップ-腫瘍表面間距離 10-15 mm) においても、腫瘍と隣接正常肺組織の間に明確なコントラストが得られ、本プラットフォームが in vivo 経気管支観察から ex vivo 評価まで一貫した腫瘍局在情報を提供できることが示された (Figure 3C)。
考察/結論
本研究は、外径 0.97 mm の超小型 COF とヒト肺がん細胞同所移植マウスモデルを統合することで、経気管支的な PS 評価および光線療法のための前臨床プラットフォームをこれまで報告されていない形で構築した世界初の報告である。
既報との違い: 従来の PS 前臨床評価は皮下異所移植モデルに大きく依存してきた。これらのモデルは腫瘍作成・モニタリングが容易である一方、肺固有の微小環境を反映せず、臨床的な腫瘍挙動と異なる側面が既報でも指摘されてきた。また VX2 ウサギモデルはヒト肺がん細胞を使用しない点で対照的である。Nakajima et al. AnnThoracSurg 2014 らが経気管支的接種による同所移植モデルを確立した際、そこに生体内での経気管支観察や蛍光イメージングを実装する技術的手段は存在しなかった。本研究は超小型 COF を加えることで、この gap を初めて解消した点が決定的に異なる。Figueiredo et al. や Dames et al. によるマウス気管支鏡の先行報告は気管内観察にとどまっており、主要葉気管支への到達成功率を Zone 別に定量化した本研究の知見は新規なものである。
新規性: 本研究で初めて、マウスという小動物において超小型 COF (外径 0.97 mm) を用いた経気管支的な各葉気管支到達性能を定量的に示した。右主気管支~頭側葉 100% (15/15)・右基底 3 分岐部 93% (14/15)・左主気管支 87% (13/15) という高い到達率は、マウス気道の狭小性 (気管内径 < 1.5 mm) を考慮すると特筆すべき結果である。また、ポルフィソームを用いた経気管支蛍光イメージングと ex vivo 評価の相関を示したことで、本プラットフォームが PS の腫瘍局在性を定性的かつ再現性良く評価できることが新規に実証された。本モデルは COF の波長対応可能性を活かして多様な PS の比較評価や drug-light interval の縦断的最適化にも応用可能な汎用性を持つ。
臨床応用の観点: 本知見は、光線療法の臨床的意義を末梢型肺がんへと拡大する潜在性を持つ。現在の臨床 PDT はほぼ中心型肺がんへの経気管支的アプローチに限定されているが、マウス末梢気道 (気管内径 < 1.5 mm) は末梢ヒト気道と解剖学的に近似しており、本モデルで評価した PS やアプローチ手法は末梢型小肺がんへの橋渡し研究として直接的な参照値を提供しうる。近年普及が進むロボット気管支鏡 (robotic bronchoscopy) 技術と組み合わせた末梢型肺がんへの光線療法は有望な新興アプローチであり、臨床現場での実装に向けた前臨床評価系としての本プラットフォームの意義は高い。外科切除が困難な低肺機能症例への新たな低侵襲治療選択肢の開発という点からも、臨床応用への橋渡しが期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、いくつかの重要な limitation が存在する。第一に、手技関連死亡率 13% (2/15) は PDT の長期生存評価モデルとして課題であり、麻酔プロトコルの最適化または間欠照射による手技時間の短縮化が必要である。第二に、腫瘍接種部位によっては COF の到達範囲外 (Zone I~III 末端より遠位) に腫瘍が形成される場合があり、全てのモデル腫瘍が経気管支評価の対象となるわけではない。第三に、本研究は蛍光イメージングによる診断的評価に主眼を置いており、実際の PDT/PTT 治療効果 (腫瘍縮小・生存期間延長) の定量的評価は future research として残されている。更なる検討として、porphysome 以外の PS や異なる投与量・drug-light interval 条件での評価、ならびに治療効果の長期縦断的評価が次のステップとして位置づけられる。
方法
超小型複合光ファイバースコープ (COF) の構造: 外径 0.97 mm の先端チップを持つ平行型 COF を使用した。デバイス内部には 120 μm 径のレーザー伝送ファイバー、約 300 本の照明用光ファイバー、および 9,000 本の画像用光ファイバー (解像度 1 pixel/fiber) が一体化されている。外膜はポリテトラフルオロエチレン製で親水性コーティングを施し、気道内での摩擦を低減して円滑な挿入を実現した。最小屈曲半径は約 15 mm であり、CCD (charge-coupled device) カメラシステムにはレーザー反射光を除去するノッチフィルターを内蔵した。照明と蛍光の同時取得およびリアルタイムでの先端位置モニタリングが可能な設計となっている。
動物モデルと細胞株: 8-12 週齢の雌性 Foxn1nu (athymic nude) ヌードマウス (NCr 系統) を使用し、1 ケージあたり n=5 匹で温度 23-25℃・湿度 50%±5%・12 時間明暗サイクル下で飼育した (プロトコル AUP (animal use protocol) 4151 承認済み)。3 種のヒト肺がん細胞株、A549 (adenocarcinoma)・NCI-H2170 (squamous cell carcinoma)・NCI-H82 (small cell lung cancer) を用いた。各細胞株を PBS (phosphate-buffered saline) に懸濁 (1.0×10^6 cells/70 μL) し、30% Matrigel (Corning, NY, USA) を加えた計 100 μL の細胞混合液を麻酔下マウスに経気管支的に接種した。接種 3 週後から週次 CT スキャンを実施し、軸位断像で腫瘍径 5 mm 以上に達した個体を PS 評価の対象として選択した。
蛍光イメージングプロトコル: 光感受性物質として有機ナノ粒子ポルフィソームを使用した。ポルフィソームはポルフィリン二重層ナノ小胞であり、蛍光イメージング・PDT・PTT の多機能性を持つ (Lovell et al. 2011)。評価 48 時間前に 10 mg/kg を尾静脈より静脈投与した。評価当日、イソフルラン麻酔下で 18G 静脈留置カテーテルをガイドシースとして気管挿管し、COF を経気管支的に挿入した (Figure 1)。励起光として 671 nm レーザー (50 mW) を使用し、700 nm ロングパスフィルターを介して蛍光像を取得した。
Ex vivo 評価: 安楽死後に肺と気管を一括摘出し、Maestro spectral imaging system (Cambridge Research and Instrumentation, MA, USA) で ex vivo 蛍光分布を評価した (615-665 nm 励起、700 nm ロングパス、露出時間 500 ms)。COF を用いた ex vivo 経胸膜的蛍光観察は、チップから腫瘍表面まで 10-15 mm の距離で実施した。
統計解析: 同所移植モデルの腫瘍作成成功率を、T. Ishiwata・M. Aragaki・Y. Motooka の 3 研究者が 2018-2019 年の 2 年間にわたるデータをもとに各細胞株について算出した。COF の気道内到達成功率も同様の方法で算出した。各気道ゾーン到達成功率および腫瘍作成成功率の群間比較には Fisher’s exact test を適用し、p < 0.05 を有意水準とした。統計解析には GraphPad Prism 7 (GraphPad Software, San Diego, CA, USA) を使用した。