- 著者: Giulia Bertolini, Lucia D’Amico, Massimo Moro, Elena Landoni, Paola Perego, Rosalba Miceli, Laura Gatti, Francesca Andriani, Donald Wong, Roberto Caserini, Monica Tortoreto, Massimo Milione, Riccardo Ferracini, Luigi Mariani, Ugo Pastorino, Ilaria Roato, Gabriella Sozzi, Luca Roz
- Corresponding author: Luca Roz / Ilaria Roato (Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori, Milan / AOU San Giovanni Battista, Turin, Italy)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-07-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 26141860
背景
肺癌は依然として世界の癌死亡原因第一位であり、遠隔転移が主な致死要因であるが、原発腫瘍からの播種成立と転移開始を司る特異的決定因子はほとんど解明されていなかった。がん幹細胞 (cancer-initiating cells; CIC) は腫瘍形成・維持・再発・転移播種の元凶として注目され (Visvader & Lindeman, Clarke et al. の CIC 概念)、なかでもステムネスと運動能を併せ持つ「migrating CIC」が転移の種播きを担うと提唱されていた。著者らの先行研究では、CXCR4 を共発現する CD133+ 肺 CIC がシスプラチン処理を生き延びる化学療法耐性集団であることを報告していた。CXCL12 (別名 SDF-1; stromal cell-derived factor 1)/CXCR4 軸は腫瘍細胞の生存・遊走・転移において重要であり、ヒト膵癌モデルでは CXCR4+ CIC の転移播種誘導が示されていた。一方、上皮間葉転換 (epithelial-mesenchymal transition; EMT) が転移能とステムネスを同時に付与する機序 (Mani et al.) も明らかになり、結腸癌では微小環境シグナルが前駆細胞を転移性がん幹細胞へ変換しうることが示唆されていた。しかしながら、肺癌において転移を実際に担う CIC サブセットの精緻な免疫表現型は未確立であり、どの微小環境刺激がこの集団を生成するかという機序も手薄で、化学療法が耐性 CIC を選択して転移を促進するという逆説的現象への対抗策も欠けていた。
目的
NSCLC 患者由来異種移植 (patient-derived xenograft; PDX) モデルと臨床検体を用いて、(1) CD133+/CXCR4+ CIC サブセットの転移能を機能的に証明する、(2) 転移初期に生存優位を示すより特異的な表現型サブセットを同定する、(3) 腫瘍微小環境 (特に cancer-associated fibroblast; CAF) による CIC サブセットの動的生成メカニズムを解明する、(4) CXCR4 阻害の転移予防効果を検証する、(5) 臨床的予後との関連を確認することを目的とした。
結果
CD133+/CXCR4+ CIC の高い播種・臓器コロニー形成能:PDX 由来 CD133+/CXCR4+ 細胞を尾静脈注射後 3 ヵ月時点で murine lung 腫瘍細胞が対照比 2-5 倍生存し (+/+ vs -/- 5倍、p=0.001)、6 ヵ月時点では CD133+/CXCR4+ 群が最大の転移巣形成能を示した (FACS 4.5 倍増、p=0.0003; +/+ vs -/- 6.4倍、p=0.0006)。組織学的にも肺実質浸潤面積が最大で (p=0.0003 vs +/-) (Fig. 1B-D)、ヒト骨移植ヒト化マウスでは CD133+/CXCR4+ 細胞のみが s.c.・i.c. 両ルートで骨転移を形成し (65%、9/14 マウス)、CD133+CXCR4- および CD133-CXCR4- 群はゼロであった (Fig. 2B)。骨では新生骨形成と osteoid 肥厚が亢進し (p<0.05) (Fig. 2C-D)、同細胞は肺転移開始能も他群より有意に高かった (p=0.007)。腫瘍巣周囲には多核白血球 (好中球) 主体の炎症浸潤が認められ (Fig. 1C)、転移増殖の長い潜伏期を示唆した。
早期播種における EpCAM- サブセットの生存優位:n=1×10⁶ 個の腫瘍細胞を静注し 1 週後の murine lung で細胞数が 20 分の 1 (20-fold 減少) に減少するなか、生存細胞中で CD133+/CXCR4+ 画分が富化し、CD133+/EpCAM- 画分が LT73・LT111 で 18 倍 (18-fold) に著明富化した (Fig. 4A)。PDX 自然播種モデルでも 11 モデル中 9 モデルの肺で播種腫瘍細胞 (disseminated tumor cell; DTC) が検出され (range 0.001-0.01%)、皮下腫瘍比で CD133+/CXCR4+ (p=0.04) ・CD133+/EpCAM- (p=0.007) が顕著に富化した。In vitro 浸潤アッセイでは CD133+/CXCR4+/EpCAM- が CD133+ 画分中で最も浸潤性が高い集団であった (90 倍富化、p=0.01) (Fig. 5A)。肺 DTC を培養した組織オルガノイド (cancer tissue originated spheroids; CTOS) は DTC を 70-145 倍富化し (Fig. 5B)、ステムネス・EMT 関連遺伝子を高発現し (Fig. 5C)、NOD-SCID マウスへの注射で旺盛な二次腫瘍形成 (DTC: 0.6% vs CTOS-tumor 0.09%) ・肺転移再形成能を示した (Fig. 5F-H)。
CAF・TGFβ による CD133+/CXCR4+/EpCAM- の de novo 生成:TGFβ 処理で LT73 細胞の CD133+ 画分が 10 倍増加し (p=0.0001) (Fig. 6A)、その内訳は主として CD133+/CXCR4+/EpCAM- の 13.5 倍増加であった (p=0.02) (Fig. 6C)。PDX・CTOS でも TGFβ による 15 倍富化を確認 (p=0.05)。CD133 陰性株 (LT73-CD133neg) への TGFβ 処理で CD133+ 細胞が de novo 生成され (0.14% vs parental 0.09%)、TGFβ 除去後も間葉系 CD133+ 細胞が維持されたことから安定したリプログラミングが示された (Fig. 6E)。CAF 培養上清処理でも CD133+ 細胞の de novo 生成と EMT 遺伝子調節が認められ (Fig. 6F-G)、CXCR4 阻害剤 CTCE-9908 で部分的に抑制されたことから、CAF 分泌 SDF-1 が EMT 誘導因子の一つであることが示された。
CXCR4 阻害による化学療法誘発転移の抑制と臨床予後:シスプラチン治療は CD133+/CXCR4+ 細胞の増加 (2倍) と転移形成亢進 (1.8倍) を誘発したが、CTCE-9908 併用でこの効果が逆転し転移が 2 倍減少、肺転移中の CD133+・CD133+/CXCR4+ 細胞が 2.6・2.3 倍減少した (Fig. 3E-F)。PDX (LT111) でも播種増加 (1.5倍) が抑制され disseminated CIC が 4.7 倍減少した (Fig. 3G)。臨床解析では、リンパ節転移検体の CD133+/CXCR4+/EpCAM- は原発比 20 倍富化していた (p=0.006) (Fig. 7A)。78 例の原発腫瘍では 50% に同サブセットが検出され (CD133+ 画分中 12.5%)、総 CD133+ 量は予後と相関しなかったが、CD133+/CXCR4+/EpCAM- の存在は DFS (p=0.033) ・OS (p=0.055) 短縮と相関し、多変量解析でステージ調整後も DFS 独立予後因子であった (HR 2.25, 95% CI 1.05-4.82, p=0.03) (Fig. 7B)。特に低 CD133+ 群 (≦2%) では DFS (HR 3.34) ・OS (HR 3.10) ともに有意であった。CD133+ 量は COPD の存在とも相関し (p=0.025)、肺微小環境の炎症が CIC のステムネス・播種能に寄与する可能性が示された。
考察/結論
本研究は CD133+/CXCR4+/EpCAM- という表現型が NSCLC の転移播種・開始において中心的役割を担うことを機能的に証明した。先行の CD133 単独マーカーによる肺 CIC 同定とは異なり、本研究は CXCR4 共発現と EpCAM 喪失を加えた三重表現型で「転移性 CIC」の実体を絞り込み、早期播種・臓器コロニー形成・転移巣の種播きの全段階を担うことを PDX・ヒト化マウス双方で示した点が新規である。とりわけ、このサブセットが固定された集団ではなく CAF 由来 SDF-1 や TGFβ によって EMT を通じて de novo に生成されることを本研究で初めて示し、腫瘍微小環境が転移性 CIC の「工場」として機能するという概念を提示した。これは結腸癌での前駆細胞→がん幹細胞変換 (Bertolini et al. CancerRes 2015 が参照する Vermeulen 系の知見) と整合する。臨床応用の観点では、シスプラチン単独では化学療法耐性の CD133+/CXCR4+ 細胞が選択的に残存して転移が促進されるが、CTCE-9908 追加でこの逆説的転移促進が解消されたことから、術前・術後補助化学療法への CXCR4 阻害薬併用が転移再発予防の bench-to-bedside 戦略となりうる。EpCAM 陰性 CTC が脳・肺転移開始能を持つという乳癌での知見とも整合し、肺癌循環腫瘍細胞 (CTC) の CD133/CXCR4 を加えた多重免疫表現型解析が予後・治療応答予測バイオマーカーとして臨床的意義を持つことが期待される。EpCAM 陰性 CTC の意義は当 corpus の好中球・微小環境研究 (Bertolini et al. CancerRes 2015) とも接続する。残された課題として、PDX モデルは一定数の NSCLC のみを代表しており、EGFR・KRAS 変異等の特定ドライバー亜型における同サブセットの挙動には今後の検討が必要であり、EpCAM 陰性以外の EMT マーカー (E-cadherin 喪失・vimentin 発現) との組み合わせ解析や CXCR4 以外の走化性受容体 (CXCR7 等) の寄与も今後の方向性として残されている (Bertolini et al. CancerRes 2015)。総じて本研究は、転移性 CIC を標的とした CXCR4 阻害と標準化学療法の併用、および腫瘍-間質相互作用を考慮した転移制御という新規治療戦略の根拠を提供した。
方法
デザイン: 前臨床 (PDX・細胞株・ヒト化マウス) と後ろ向き臨床コホートを統合した機能的・相関研究。患者・PDX 検体: 連続する 97 例の NSCLC 手術検体 (うち matched リンパ節転移検体あり 17 例) と複数の PDX モデルを使用。FACS 表現型解析: 78 原発 NSCLC を CD133・CXCR4・EpCAM (epithelial cell adhesion molecule) で分類。in vivo 転移アッセイ: CD133+CXCR4+、CD133+CXCR4-、CD133-CXCR4- 各サブセットを SCID マウスに尾静脈注射し、3-6 ヵ月後の肺転移をフローサイトメトリー (mouse H2K 陰性ゲーティング)・RT-qPCR (human β2-microglobulin)・免疫組織化学 (IHC) で定量。骨転移ヒト化マウスモデル: ヒト骨移植マウスへの皮下 (s.c.) ・心臓内 (i.c.) 注射で骨転移形成能を評価。EMT 誘導実験: TGFβ (5 ng/mL、5-15 日) または CAF 培養上清 (conditioned medium; CM) で LT73 細胞を処理し CIC サブセット変化を FACS・RT-qPCR で評価。CD133 陰性株 (LT73-CD133neg) を新規作製して de novo 生成を確認。CXCR4 阻害: CTCE-9908 (SDF-1 アナログペプチド) を in vitro 浸潤アッセイおよびシスプラチン (5 mg/kg×3 週) 併用 in vivo 実験で検証。予後解析: エンドポイントは無病生存 (disease-free survival; DFS) ・全生存 (overall survival; OS)、Kaplan-Meier 法・log-rank 検定および多変量 Cox 比例ハザード解析で CD133+/CXCR4+/EpCAM- 頻度と予後の関連を評価。