- 著者: Junquan Song, Rongyuan Wei, Shiying Huo, Chenchen Liu, Xiaowen Liu
- Corresponding author: Chenchen Liu, Xiaowen Liu (Fudan University Shanghai Cancer Center, Shanghai)
- 雑誌: Frontiers in Immunology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-09-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 36203562
背景
胃がん (GC) は世界的に罹患率が高く、癌関連死因の第4位を占める悪性腫瘍である Sung et al. CACancerJClin 2021。診断および治療法の進歩にもかかわらず、GC患者の予後は依然として不良であり、術後補助療法や免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) に対する応答予測バイオマーカーの確立が臨床上の急務とされている。バーシカン (VCAN) は細胞外マトリクス (ECM) の主要なプロテオグリカンの一つであり、CD44、TLR (Toll-like receptor)、TNF刺激遺伝子-6など多様な分子と相互作用することで、組織炎症や腫瘍進展に深く関与することが知られている Wight et al. FrontImmunol 2020。先行研究では、VCANの過剰発現が子宮頸がんにおける化学療法抵抗性と関連すること、またVCANのサイレンシングが骨髄由来抑制細胞 (MDSC) や腫瘍関連マクロファージ (TAM) の蓄積を減少させ、腫瘍免疫抑制環境を改善することが報告されている Wang et al. OncolRep 2015。例えば、Wang et al. (2015) は、VCANサイレンシングがエンドスタチンの抗腫瘍効果を改善し、腫瘍微小環境における炎症性および免疫抑制性の変化を軽減することを示した。さらに、Asano et al. SciRep 2017 は、間質性VCANが血管新生を促進することで腫瘍増殖を制御することを報告している。しかし、GCにおけるVCAN発現と術後補助療法、特にICB免疫療法への応答との具体的な関係については、これまで十分に解明されていなかった。GCの治療においては、手術と術後補助療法が主要な治療法であり、近年では免疫療法も重要な治療選択肢となっているが、多くの患者がこれらの治療に反応しないという課題が残されている。この治療抵抗性のメカニズムを解明し、効果的なバイオマーカーを探索することは、個別化医療の推進において極めて重要である。特に、VCANがECMの主要構成要素であることから、その発現が薬剤の腫瘍内浸透や免疫細胞の浸潤に影響を及ぼす可能性が考えられるが、この点に関する詳細な検討は不足していた。本研究は、GCにおけるVCANの役割を多角的に解析し、治療応答予測におけるその潜在的な価値を評価することを目的とする。
目的
本研究の目的は、胃がん (GC) におけるバーシカン (VCAN) の発現が、患者の予後、術後補助化学療法、術後補助化学放射線療法、および免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 免疫療法に対する応答を予測するバイオマーカーとなり得るかを、複数の独立した大規模コホートを用いて検証することである。さらに、VCANが腫瘍微小環境 (TME) に与える影響、特にがん関連線維芽細胞 (CAF) との関連性を詳細に解析し、VCANが治療抵抗性を促進する根底にあるメカニズムを解明することを目指した。具体的には、VCAN発現と免疫細胞浸潤プロファイル、および関連するシグナル伝達経路との相関を評価し、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析を用いてVCANを発現する細胞サブタイプを同定することで、VCANを介した治療抵抗性メカニズムの包括的な理解を深めることを目的とした。最終的に、VCANがGC治療における新たな予後予測因子および治療応答予測バイオマーカーとして、また新たな治療標的としての可能性を提示することを目指す。
結果
VCAN高発現と胃がん (GC) 患者の予後不良との関連: FUSCCコホート (n=233患者) において、VCAN高発現群は低発現群と比較して、全生存期間 (OS) でハザード比 (HR) 1.79 (95% CI 1.29-2.49, p<0.001) および無再発生存期間 (RFS) でHR 1.72 (95% CI 1.11-2.66, p=0.015) と、有意に不良な予後を示した (Figure 1B)。同様に、TCGAコホート (n=388患者) ではOS HR 1.78 (95% CI 1.27-2.49, p=0.001)、ACRGコホート (n=300患者) ではOS HR 1.81 (95% CI 1.16-2.81, p=0.008) と、複数の独立コホートでVCAN高発現がGC患者の予後不良と一貫して関連することが確認された (Figure 1C, D)。VCAN発現レベルは病期進行とともに増加する傾向があり、特にTCGAコホートでは進行期GCで有意に高値であった。また、分子サブタイプ別では、MSI (マイクロサテライト不安定性) およびEBV (Epstein-Barrウイルス) サブタイプは、CIN (染色体不安定性) およびGS (ゲノム安定型) サブタイプと比較して有意に低いVCAN発現を示した。これらの結果は、VCANがGCにおける独立した予後不良因子であることを強く示唆している。
VCAN発現による術後補助療法および補助化学放射線療法への応答予測: 術後補助化学療法 (ACT) を受けた患者群において、VCAN発現が治療応答に影響を与えることが示された。FUSCCコホート (ACT施行患者 n=143患者) では、VCAN低発現群がOS (HR 1.61, 95% CI 1.01-2.57, p=0.036) およびRFSにおいて有意に良好な生存期間を示した (Figure 2A)。ACRGコホート (ACT施行患者 n=62患者) でも、VCAN高発現群は無増悪生存期間 (PFS) が有意に不良であり (HR 4.02, 95% CI 1.49-10.83, p=0.009)、VCAN低発現群がACTからより大きな恩恵を受けることが示唆された (Figure 2B)。さらに、SMCコホート (補助化学放射線療法施行患者 n=432患者) では、VCAN高発現群がOS (HR 1.47, 95% CI 1.09-1.99, p=0.013) およびRFS (HR 1.65, 95% CI 1.03-2.64, p=0.028) と有意な予後不良を示した (Figure 2C)。MDACCコホート (術前化学療法または化学放射線療法 n=40患者) では、VCAN高発現群と低発現群の間で治療効果に統計的有意差は認められなかったが、これは限られた患者数によるものと考えられる (Figure 2D)。これらのデータは、VCAN発現がGCにおける補助化学療法および補助化学放射線療法への応答を予測する有望なバイオマーカーとなり得ることを示している。
VCAN発現と免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 免疫療法応答の予測: KIMコホート (GC PD-1阻害薬治療患者) の解析では、VCAN高発現群の91%がPD (進行性疾患)/SD (安定疾患) であり、ICB治療に非奏効であったのに対し、VCAN低発現群では55%がPD/SDであった (Figure 3B)。ROC曲線解析では、VCAN単独の免疫療法応答予測におけるAUC (Area Under the Curve) は、MSIステータスやEBVステータス単独を上回る0.850 (95% CI 0.701-0.999) を示した。さらに、VCAN発現、MSIステータス、およびEBVステータスを組み合わせることで、AUCは0.985 (95% CI 0.963-1.000) に達し、既存のバイオマーカーを大幅に上回る予測精度を示した (Figure 3E)。Hugoコホート (黒色腫PD-1阻害薬治療患者) でも同様に、VCAN高発現群で非奏効割合が有意に高く、VCANのAUCはPD-L1、PD-1、CTLA4の発現量よりも高値であった (Figure 3F-H)。これらの結果は、VCANがGCおよび他の癌種におけるICB免疫療法応答の強力な予測因子であることを示している。
VCAN高発現腫瘍微小環境 (TME) の特徴とメカニズム: VCAN高発現腫瘍のTMEを解析した結果、6種類の免疫浸潤アルゴリズム (TIMER, CIBERSORT, QUANTISEQ, MCPCOUNTER, XCELL, EPIC) の全てで、VCAN発現がマクロファージ、Treg細胞、およびがん関連線維芽細胞 (CAF) の浸潤と有意な正の相関を示した (Figure 5A)。一方、CD8+ T細胞浸潤とは負の相関傾向が認められた。VCAN mRNA発現は、CAFマーカーであるFAP、ACTA2 (αSMA)、PDGFRA/B、VIMのmRNA発現と有意に正の相関を示し (Figure 5D)、免疫蛍光染色ではVCANとFAPの腫瘍内での共局在が確認された (Figure S2)。CAF浸潤高値群はTCGAコホートで有意なOS不良と関連した (Figure 5E)。GSEA解析では、VCAN高発現群でECM Receptor Interaction (NES=3.66, FDR<0.001)、上皮間葉転換 (EMT)、および血管新生シグナル伝達経路が有意に活性化していることが示された (Figure 4C)。ssGSEA解析では、EMT1/EMT2/EMT3およびPan-F TBRS (汎線維芽細胞TGFβ応答シグネチャー) がVCAN高発現群で有意に上昇しており、これらの発現パターンはDNA修復シグナルや免疫チェックポイント関連シグネチャーとは対照的であった (Figure 4A)。VCAN発現とECM/EMT/血管新生シグナルの正の相関関係は、TCGA Pan-Cancer Atlasの解析により、ほぼすべてのがん種で保存されていることが示された (Figure 4D)。
単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) によるVCAN発現細胞の同定: 胃がんのscRNA-seqデータセット (GSE167297, 19,765 cells) の解析により、VCANは上皮細胞よりも線維芽細胞とマクロファージに主体的に発現していることが明らかになった (Figure 6C)。特に、線維芽細胞の3つのサブクラスターのうち、VCAN発現はSub-cluster 0およびSub-cluster 1 (iCAF: CXCL1, CXCL14, CCL2, IL33などのケモカイン高発現) に集中しており、Sub-cluster 2 (myofibroblast: ACTA2高発現) にはほとんど発現していなかった (Figure 6E, F)。また、VCAN発現は腫瘍の深層 (D1-D5) に集中し、表層よりも高値であった (Figure 6D)。これらの結果は、VCANが主に炎症性CAF (iCAF) によって分泌され、iCAF-VCAN軸が腫瘍微小環境における治療抵抗性の中心的メカニズムである可能性を示唆している。
考察/結論
本研究は、胃がん (GC) におけるバーシカン (VCAN) の高発現が、患者の予後不良因子であるだけでなく、術後補助化学療法、術後補助化学放射線療法、および免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 免疫療法の3つの主要な治療モダリティー全てに対する応答不良と関連することを、複数の大規模独立コホートを用いて初めて包括的に実証した点で新規性がある。先行研究では、VCANが子宮頸がんの化学療法耐性 (Pan et al. 2009) や、乳がん、卵巣がんにおけるがん関連線維芽細胞 (CAF) を介した腫瘍進展との関連が示唆されていたが、本研究はその知見をGCに拡張し、特にICB免疫療法耐性という新たな関連性を明らかにした。
先行研究との違い: これまでの研究では、VCANが様々な癌種で予後不良と関連することが報告されていたが、GCにおけるVCAN発現が補助化学療法、補助化学放射線療法、および免疫療法の全ての治療モダリティーに対する応答を予測する能力を持つことは、本研究で初めて多コホート横断的に示された。特に、ICB免疫療法への応答予測におけるVCANの役割は、これまで十分に解明されていなかった点であり、既存のバイオマーカーであるMSIやEBVステータスを上回る予測精度を示したことは、これまでの知見と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析により、VCANが主に炎症性CAF (iCAF) に特異的に発現していることを実証した。このiCAF-VCAN軸が、ECM受容体相互作用、上皮間葉転換 (EMT)、およびTGFβ応答シグナル伝達経路の活性化を通じて、T細胞排除や化学療法に対する物理的バリア形成を促進し、治療抵抗性を引き起こす統一的なメカニズムを提示したことは、本研究の重要な新規所見である。
臨床応用: VCAN発現、MSIステータス、およびEBVステータスを組み合わせた免疫療法応答予測のAUCが0.985という極めて高い精度を示したことは、VCANが既存のICB予測バイオマーカーを大幅に上回る臨床的有用性を持つことを示唆している。現在、ニボルマブが進行胃がんの一次治療としてFDA承認されている状況において、VCANは治療適応患者の選別精度を向上させる有望なバイオマーカーとなり得る。VCANタンパク質発現はホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織の免疫組織化学で測定可能であり、標準的な病理検査フローへの組み込みが比較的容易である点も、その臨床応用性を高める。
残された課題: 今後の検討課題として、(a) VCANタンパク質測定法 (免疫組織化学 vs RNA発現) の標準化と、本研究で設定されたカットオフ値 (19%) の多施設前向き検証が必要である。(b) VCAN阻害薬やCAFターゲット治療とICB免疫療法との併用によるin vivoでの有効性実証が求められる。(c) 多施設前向きランダム化試験において、VCAN発現が治療意思決定に組み込まれた場合の臨床的有用性を評価する必要がある。(d) GC以外の癌種 (非小細胞肺がん、大腸がん、食道がん、肝細胞がんなど) へのVCANの予測能の外挿可能性を検証することも重要である。(e) 術前生検検体と術後切除標本におけるVCAN測定タイミングの最適化と、治療前予測への応用可能性の評価も残された課題である。本研究結果は、VCANが既存のMSI/EBVバイオマーカーと組み合わせることでICB適応患者選別の精度を大幅に向上させる潜在性を示しており、将来の精密腫瘍学的アプローチにおける有望なバイオマーカー候補として位置づけられる。
方法
本研究では、VCAN発現とGC患者の予後および治療応答を評価するため、合計1353名のGC患者を含む4つの独立したコホートと、免疫療法応答を評価するための2つのコホートが使用された。主要なコホートは以下の通りである。FUSCC (Fudan University Shanghai Cancer Center) コホート (n=233) は、術後補助化学療法を受けた患者を含む胃切除術後の組織マイクロアレイデータに基づき、VCANタンパク質発現を免疫蛍光染色 (VCAN抗体 Abcam ab177480, 1:600) およびHALOプラットフォームによる定量解析で評価した。TCGA (The Cancer Genome Atlas) STADコホート (n=388) は、RNA-seqデータを用いてVCAN mRNA発現を解析した。ACRG (Asian Cancer Research Group) コホート (GSE66229, n=300) およびSMC (Samsung Medical Center) コホート (GSE26253, n=432) は、GEOデータベースから取得したマイクロアレイデータを使用し、SMCコホートの患者はINT-0116レジメンによる補助化学放射線療法を受けていた。MDACC (MD Anderson Cancer Center) コホート (GSE28541, n=40) は、術前化学療法または化学放射線療法を受けた患者のデータを含んでいた。
免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 応答の評価には、KIMコホート (GC PD-1阻害薬治療患者) とHugoコホート (黒色腫PD-1阻害薬治療患者) をTIDEデータベースから取得した。免疫細胞浸潤の解析には、IOBR Rパッケージが統合するTIMER、CIBERSORT、QUANTISEQ、MCPCOUNTER、XCELL、EPICの6つのアルゴリズムを用いた。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) は、clusterProfiler (v4.0.5) を使用し、HallmarkおよびKEGG遺伝子セットに対して実施した。有意な濃縮は|NES|>1かつFDR (False Discovery Rate) <0.25と定義した。
単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析には、胃がんのscRNA-seqデータセットGSE167297 (19,765 cells) を使用した。このデータは腫瘍組織の深層 (D1-D5) および表層 (S1-S5)、ならびに正常組織 (N1-N4) から構成されていた。Seurat Rパッケージを用いて品質管理、細胞統合、バッチエフェクト補正 (Harmony Rパッケージ)、主成分分析 (PCA)、UMAP (Uniform Manifold Approximation and Projection) による次元削減、およびマーカー遺伝子同定を行った。細胞クラスターの系統は、CellMarkerおよびPanglaoDBデータベースのマーカー遺伝子に基づいてアノテーションした。
統計解析はRソフトウェア (v4.1.1) を用いて実施した。2群間の比較にはWilcoxon順位和検定、3群以上の比較には一元配置分散分析 (ANOVA) またはKruskal-Wallis検定を用いた。生存解析はKaplan-Meier曲線とログランク検定 (log-rank test) で評価し、カットオフ値はmaxstat Rパッケージで選択した。ROC曲線 (pROC Rパッケージ) を用いて、VCAN発現の免疫療法応答予測における感度と特異度、およびAUC (Area Under the Curve) を評価した。