- 著者: Jhanelle E. Subramanian, Apar K. Ganti, Fadlo R. Khuri, Dong M. Shin, Mourad Tighiouart, Nicos Martins, Padmanee Sharma, Ranjit S. Bhatt, Carolyn C. Compton, Fadlo R. Khuri
- Corresponding author: Ramaswamy Govindan (Division of Medical Oncology, Washington University School of Medicine, St. Louis, Missouri)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-04-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 19934774
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) は一般に高齢者の疾患であり、診断時の年齢中央値は71歳と報告されている (Jemal et al. 2008)。しかし、40歳以下の若年者におけるNSCLC発症も稀ながら存在し、これら若年患者は高齢患者とは異なる臨床的・生物学的特徴を有する可能性が指摘されてきた。若年者における肺がんの臨床的特徴や予後については、単一施設による小規模なレトロスペクティブ研究がいくつか報告されている (Sekine et al. 1999, Gadgeel et al. 1999)。これらの先行研究では、若年患者において女性の割合が高く、組織型として腺がんが多い傾向が示されている。しかし、若年患者の予後が高齢患者と比較して良好であるか、あるいは不良であるかについては、報告によって結果が異なり、依然として controversial であった。また、これらの先行研究は症例数が限られており、若年NSCLC患者の疫学的特性や予後に関する系統的な大規模解析は不足していた。米国における代表的ながん登録データベースである SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベースを用いた過去の解析としては、Ramalingam et al. (1998) による報告があるものの、この解析は10年以上前のものであり、小細胞肺がんを含むなど対象が混在していた。さらに、近年の診断技術の進歩や治療法の変遷を反映した、NSCLCに特化した大規模な疫学データは未確立であった。若年NSCLC患者における人種、性別、組織型、ステージ分布、およびステージ別の生存率に関する詳細な解析は、若年者における肺がんの病態理解や適切なスクリーニング、治療戦略の構築において極めて重要であるにもかかわらず、そのための十分なエビデンスが足りなかった。したがって、大規模データベースを用いた包括的な記述的解析が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、米国がん登録データベースであるSEERデータベースを用いて、1988年から2003年までに新たに非小細胞肺がん (NSCLC) と診断された大規模患者コホートを対象に、40歳以下の若年患者群 (n=2775) と41歳以上の高齢患者群 (n=236313) の臨床病理学的特徴および生存率を詳細に比較解析することである。具体的には、年齢層による性別、人種 (白人、アフリカ系アメリカ人、アジア・太平洋諸島系)、組織型 (腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)、診断時の AJCC (American Joint Committee on Cancer) ステージ分布の差異を明らかにする。さらに、ステージ別の5年全生存率 (overall survival: OS) およびがん特異生存率 (cancer-specific survival: CSS) を算出し、多変量解析を通じて年齢がNSCLC患者の独立した予後因子であるかを検証し、若年NSCLCの固有の特性を定量的に記述することを目的とする。
結果
若年群における女性および特定人種の割合の高さ: 1988年から2003年までのSEERデータベースから、条件を満たすNSCLC患者計239,088例が同定された。このうち、40歳以下の若年群は2,775例 (1.2%)、41歳以上の高齢群は236,313例 (98.8%) であった。若年群の年齢中央値は38歳 (範囲 18-40歳) であり、高齢群の年齢中央値は69歳 (範囲 41-105歳) であった。人口統計学的特徴の比較において、若年群では女性の占める割合が 48.7% (1,351例) であり、高齢群の 41.9% (99,043例) と比較して有意に高かった (p<0.0001)。また、人種構成においても顕著な差異が認められ、若年群ではアフリカ系アメリカ人の割合が 19.2% (534例) vs 高齢群 10.9% (25,878例) であり、アジア・太平洋諸島系の割合も 10.3% (285例) vs 高齢群 5.9% (13,880例) と、若年群においてこれら非白人種の割合が有意に高かった (p<0.0001) (Table 1)。
組織型分布における腺がんの優位性と扁平上皮がんの低頻度: 腫瘍の組織型分布において、両群間で極めて有意な差異が観察された。若年群では、最も頻度の高い組織型は腺がんであり、その割合は 57.5% (1,596例) に達し、高齢群の 45.2% (106,773例) と比較して有意に高頻度であった (p<0.0001)。これとは対照的に、喫煙との関連が強いとされる扁平上皮がんの割合は、若年群において 12.5% (346例) に留まり、高齢群の 26.4% (62,487例) と比較して有意に低かった (p<0.0001)。その他の組織型として、大細胞がんは若年群で 10.3% (285例) vs 高齢群 7.6% (17,956例) であり、詳細不明の癌 (NOS) は若年群で 17.1% (475例) vs 高齢群 18.6% (43,986例) であった (Table 1)。この腺がん優位の傾向は、若年NSCLCにおける生物学的背景の違いを示唆している。
診断時における進行期 (ステージIV) 症例の偏り: 診断時の病期 (ステージ) 分布において、若年群は高齢群と比較して、より進行した状態で発見される割合が有意に高かった。具体的には、診断時にステージIV (遠隔転移あり) と判定された割合は、若年群で 57.4% (1,593例) に達しており、高齢群の 43.0% (101,565例) と比較して著しく高かった (p<0.0001)。一方で、早期がんであるステージIの割合は、若年群でわずか 11.7% (324例) であり、高齢群の 20.9% (49,377例) と比較して有意に低かった (p<0.0001) (Table 1)。ステージIIは若年群で 2.6% (72例) vs 高齢群 3.8% (8,929例)、ステージIIIは若年群で 28.3% (786例) vs 高齢群 32.3% (76,442例) であった。この結果は、若年者における肺がん検診の機会不足や、症状発現までの診断遅延を反映していると考えられる。
若年群におけるステージ別生存率の有意な優位性: カプラン・マイヤー法を用いた生存率解析の結果、診断時のステージが進行している割合が高いにもかかわらず、若年群はすべてのステージにおいて高齢群よりも有意に良好な5年全生存率 (OS) および5年がん特異生存率 (CSS) を示した (p<0.0001) (Figure 1) (Figure 2)。ステージIにおける5年OSは若年群が約60%であったのに対し、高齢群では約40%であった。また、最も進行したステージIVにおいても、若年群は高齢群と比較して有意に良好な生存期間を示した。治療内容の比較では、手術施行率に両群間で有意差はなかったが (若年群 33.6% vs 高齢群 32.5%, p=0.24)、放射線治療の施行率は若年群で有意に高かった (若年群 60.0% vs 高齢群 45.9%, p<0.00001)。
多変量解析における若年層の独立した死亡リスク低下: 他の予後因子 (性別、人種、組織型、ステージ、手術および放射線治療の有無、診断年代) を調整した多変量 Cox 比例ハザード解析において、年齢は独立した予後因子であることが確認された。最も症例数の多い61-70歳の年齢層を基準 (ハザード比: HR 1) とした場合、31-40歳の若年層における全生存の死亡リスクは、HR 0.815 (95% CI 0.780-0.851, p<0.0001) と有意に低かった。さらに若い18-30歳の年齢層においても、HR 0.793 (95% CI 0.668-0.942, p=0.008) と同様に有意な死亡リスクの低下が認められた (Table 2)。また、サブグループ解析として女性における年齢の影響を評価したところ、31-40歳の女性患者群においても高齢女性群と比較して死亡リスクが有意に低下しており、HR 0.821 (95% CI 0.771-0.874, p<0.0001) と良好な予後を示した。この多変量解析では、男性 (HR 1.17, 95% CI 1.160-1.181, p<0.0001)、アフリカ系アメリカ人 (HR 1.048, 95% CI 1.034-1.063, p<0.0001)、大細胞がん (HR 1.133, 95% CI 1.114-1.152, p<0.0001) などが独立した不良な予後因子として同定された。
考察/結論
本研究は、SEERデータベースという大規模な人口統計学的がん登録データを用いて、40歳以下の若年NSCLC患者の臨床病理学的特徴および予後を包括的に明らかにした重要な報告である。
先行研究との違い: 本研究の結果は、単一施設の小規模コホートを対象とした従来の報告と異なり、23万人を超える極めて大規模な患者背景を基盤として、若年NSCLCにおける女性、アフリカ系アメリカ人、アジア・太平洋諸島系、および腺がん組織型の割合が有意に高いことを統計学的に強固に実証した。特に、若年者における予後の良否に関する過去の相反する報告に対し、すべての病期(ステージIからIV)において若年群の生存率が高齢群よりも有意に良好であることを明確に示した点は、これまでの知見を整理し決着を促すものである。
新規性: 本研究は、年齢層を10歳刻みに細分化した多変量解析を行うことにより、年齢が若くなるにつれてNSCLCによる死亡リスクが段階的に低下することを新規に示した。若年患者においてステージIVという進行期での診断割合が 57.4% と極めて高いにもかかわらず、ステージ調整後の生存率が有意に良好であるというパラドックスを、大規模データを用いて本研究で初めて定量的に証明した。
臨床応用: 本研究の知見は、臨床現場における若年NSCLC患者のマネジメントに重要な臨床的意義をもたらす。若年NSCLC患者は高齢患者に比べて全身状態が良好で併存症(コモビディティ)が少ないため、より強力な集学的治療(手術、化学療法、放射線治療)に耐えうる可能性が高い。したがって、診断時に進行期であっても、積極的な治療介入を行うことが生存期間のさらなる延長につながるという臨床的有用性が示唆される。また、若年・非喫煙女性に多い腺がんは、後年の研究で EGFR 遺伝子変異などのドライバー変異陽性率が高いことが明らかになっており、本研究の疫学データはその個別化医療の基盤となる translational な価値を有している。
残された課題: 一方で、本研究にはいくつかの limitation が存在する。SEERデータベースの特性上、患者の喫煙歴、詳細な併存症、化学療法の具体的なレジメン、および治療に伴う毒性に関する情報が欠損している点は、今後の検討課題として残されている。特に、若年群における良好な予後が、単に併存症の少なさによるものなのか、あるいは腫瘍自体の生物学的・ゲノム的な特性(特定の遺伝子変異やDNA修復遺伝子の多型など)によるものなのかを完全に区別することは困難であった。したがって、若年NSCLCの発症に関与する遺伝的感受性や分子生物学的メカニズムを解明するためには、ゲノムプロファイリングを統合した今後の研究が必要である。
方法
本研究では、米国国立がん研究所の SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベースのうち、1988年から2003年までに登録された SEER Cancer Incidence Public Use Database 1988-2003 を使用してレトロスペクティブ解析を実施した。対象は、原発部位コードが C34.0 から C34.9 (肺および気管支) であり、病理組織学的にNSCLCと診断された18歳以上の患者とした。NSCLCの組織型分類には、国際腫瘍分類第3版 (International Classification of Diseases for Oncology, 3rd Edition: ICD-O-3) の形態コードを用い、腺がん (8140, 8141, 8143, 8147, 8250-8255, 8260, 8480, 8481, 8490, 8560, 8570-8575)、扁平上皮がん (8050-8052, 8070-8078)、大細胞がん (8012, 8013)、腺扁平上皮がん (8560)、未分化がん (8020, 8046)、および詳細不明の癌 (8010) に分類した。小細胞肺がん (ICD-O-3コード 8041-8045) は除外した。また、病理診断が未確定の症例や、AJCC (American Joint Committee on Cancer) による病期分類 (ステージ) 情報が欠損している症例も解析から除外した。
患者は診断時の年齢に基づき、40歳以下を「若年群 (younger cohort)」、41歳以上を「高齢群 (older cohort)」の2群に定義した。統計解析において、2群間の人口統計学的因子 (性別、人種)、組織型、および診断時ステージの分布の比較には、カイ二乗検定 (chi-square test) を用いた。生存期間の評価項目として、全生存期間 (overall survival: OS) およびがん特異生存期間 (cancer-specific survival: CSS) を設定した。OSは診断日からあらゆる原因による死亡までの期間とし、CSSは診断日から肺がんによる死亡までの期間と定義し、他死因による死亡は検閲 (censor) 扱いとした。生存曲線は Kaplan-Meier 法を用いて推定し、2群間の生存率の比較には log-rank 検定を用いた。さらに、性別、人種、組織型、病期、治療内容 (手術の有無、放射線治療の有無)、および診断年代 (1988-1998年 vs 1999-2003年) を共変数として調整し、年齢が生存に与える独立した影響を評価するために多変量 Cox 比例ハザード回揮モデル (Cox regression) を用いて解析した。すべての統計解析は SAS version 9 (SAS Institute, Cary, NC) を用いて行われ、p値が0.05未満を統計的有意とみなした。