- 著者: Bing Liu, Xuefeng Quan, Cenap Güngör, Bing Luo, Yongjun Liu, Qingke Chen, Yongchun Zhou
- Corresponding author: Bing Liu (Central South University, Changsha, China)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 26517681
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は主に高齢者 (60歳以上) に発症する疾患であるが、若年者 (40歳以下) での発症例も一定数存在する。若年NSCLCは非喫煙関連ドライバー変異 (EGFR・ALK等) の頻度が高く、高齢者と異なる生物学的特性を持つとされている。先行研究では、若年NSCLC患者の臨床的特徴と予後について、40歳または50歳をカットオフとして高齢患者と比較する研究が複数報告されてきた。例えば、Ramalingam et al. (1998) はSEERデータを用いて若年肺がん患者の解析を行い、Mauri et al. (2006) や Zhang et al. (2010) も同様に若年NSCLCの臨床的特徴と予後を報告している。特にSubramanian et al. JThoracOncol 2010は、SEERデータを用いて40歳以下のNSCLC患者の特徴を記述している。しかし、40歳以下という若年層をさらに年齢層で細分化し、その臨床的特性や生存転帰に与える影響を詳細に検討した研究は不足しており、特に18-30歳と31-40歳という若年内での年齢差が臨床的特性・予後に与える影響は未解明であった。最若年層 (10-20代) は成長発達期に相当し、喫煙歴が極めて少ないため、遺伝的素因や環境要因の影響が最も純粋に観察できる集団として疫学的に重要であると考えられているが、この層におけるNSCLCの臨床的意義は十分に解明されていないという課題が残されている。
目的
本研究は、米国SEERデータベース (1988-2012年) を用いて、40歳以下のNSCLC患者4623例を18-30歳群と31-40歳群に細分化し、患者背景、組織型、ステージ、治療パターン、および肺がん特異的生存率 (LCSS) と全生存率 (OS) を比較検討することで、若年NSCLC内での診断年齢の臨床的意義を解明することを目的とした。特に、診断時年齢が30歳未満であることが、臨床病理学的特徴および予後に与える影響を明らかにすることを目指した。
結果
若年NSCLC患者の割合の経時的変化: 1988年から2012年にかけて、全肺がん患者に占める18-30歳群の割合は0.12%から0.20%の間で安定していた (Figure 2)。一方、31-40歳群の割合は1988年の1.2%から1991年には1.3%に増加した後、2012年には0.5%まで徐々に減少した。この減少は、タバコ規制の進展が30代の肺がん発生率に影響を与えた可能性を示唆している。
臨床病理学的特徴の差異: 18-30歳群 (n=429) と31-40歳群 (n=4194) の比較において、18-30歳群では2000年以降に診断された患者の割合が有意に高かった (80.2% vs 63.7%, P < 0.001)。人種別では、31-40歳群でアフリカ系アメリカ人の割合が有意に高かった (18.0% vs 12.8%, P = 0.008)。組織型では、18-30歳群で腺癌の割合が有意に高く (66.2% vs 60.3%, P = 0.016)、大細胞癌の割合は有意に低かった (4.7% vs 8.3%, P = 0.008)。腫瘍グレードでは、18-30歳群で高分化型腫瘍の割合が有意に高く (10.0% vs 4.0%, P < 0.001)、低分化型腫瘍の割合は有意に低かった (5.6% vs 6.1%, P = 0.005)。ステージ分布では、18-30歳群でStage Iの割合が有意に高く (15.6% vs 10.6%, P = 0.002)、Stage IIIの割合は有意に低かった (17.5% vs 25.8%, P < 0.001)。Stage IIおよびStage IVの割合は両群間で同程度であった (Table 1)。これらの結果は、若年層内でも診断年齢が低い患者群がより早期ステージで診断される傾向にあることを示している。
治療パターンの差異: 治療法に関して、18-30歳群では手術施行率が有意に高かった (36.4% vs 28.7%, P = 0.004)。一方、31-40歳群では放射線療法を受ける患者の割合が有意に高かった (56.2% vs 41.7%, P < 0.001)。リンパ節郭清を受けた患者の割合は18-30歳群で有意に高く (30.1% vs 24%, P = 0.007)、陽性リンパ節数も18-30歳群で有意に多かった (P = 0.033)。これは、早期ステージでの診断が多い18-30歳群において、手術がより選択されやすいことを反映している可能性がある。
生存転帰の比較: Kaplan-Meier解析では、18-30歳群は31-40歳群と比較して有意に良好なLCSSを示した (P < 0.001) (Figure 3A)。さらに年齢を18-25歳、26-30歳、31-35歳、36-40歳の4つのサブグループに分けた解析では、年齢が上がるにつれてLCSSが低下する傾向が認められた (P < 0.001) (Figure 3B)。ステージ別のLCSS比較では、18-30歳群はStage I (P = 0.038) およびStage IV (P < 0.001) において31-40歳群よりも有意に良好なLCSSを示した。Stage IIおよびStage IIIでは統計的有意差はなかったものの、18-30歳群でLCSSが高い傾向が認められた (Figure 4)。多変量生存解析では、人種、性別、診断年、組織型、腫瘍グレード、AJCCステージ、手術、放射線療法で調整後、30歳未満での診断がLCSS (HR = 0.846, 95% CI: 0.745-0.961, P = 0.010) および全生存率 (OS) (HR = 0.864, 95% CI: 0.765-0.976, P = 0.018) の両方において独立した良好な予測因子であることが示された。しかし、手術を受けた患者群に限定し、リンパ節郭清の有無や陽性リンパ節数で調整した多変量解析では、30歳未満の年齢はLCSS (HR = 0.807, 95% CI: 0.627-1.039, P = 0.097) およびOS (HR = 0.824, 95% CI: 0.648-1.046, P = 0.112) の独立した予測因子ではなかった。同様に、手術を受けなかった患者群でも、30歳未満の年齢はLCSS (HR = 0.876, 95% CI: 0.755-1.016, P = 0.080) およびOS (HR = 0.899, 95% CI: 0.780-1.037, P = 0.144) の有意な予後因子とはならなかった。これは、手術やリンパ節の状態が予後により強く影響している可能性を示唆している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、これまでの若年NSCLC患者を対象とした研究が40歳または50歳をカットオフとして高齢患者と比較していたのに対し、40歳以下の若年層をさらに18-30歳と31-40歳に細分化し、その臨床的特徴と予後を比較検討した点で新規性がある。特に、最若年層である18-30歳群が31-40歳群と比較して、腺癌の割合が高く、Stage Iでの診断が多く、かつ独立した良好な予後因子であることを示した点は、これまでの若年NSCLC患者を均一な集団として捉えていた見方と異なり、診断年齢が低いほど非喫煙関連のドライバー変異陽性腺癌の特性が強まる可能性を示唆している。また、アフリカ系アメリカ人の割合が31-40歳群で有意に高いという本研究の所見は、一部の先行研究の報告とは対照的であった。
新規性: 本研究で初めて、40歳以下のNSCLC患者において、診断年齢が30歳未満であることが、他の臨床病理学的因子とは独立して良好なLCSS (HR = 0.846, 95% CI: 0.745-0.961, P = 0.010) およびOS (HR = 0.864, 95% CI: 0.765-0.976, P = 0.018) の予測因子であることを大規模な集団ベースデータを用いて実証した。この知見は、若年NSCLC患者内でも年齢による生物学的特性や臨床経過の差異が存在するというこれまで報告されていない重要な示唆を与える。特に、Stage IおよびStage IV患者において、30歳未満の患者がより良好なLCSSを示すことは、疾患の進行度に関わらず、診断年齢が予後に影響を与える可能性を示す新規な発見である。
臨床応用: 本研究の結果は、若年NSCLC患者、特に30歳未満の患者に対して、より個別化された診断・治療戦略を検討する上での臨床的意義を持つ。診断年齢が低い患者群では腺癌の割合が高く、早期ステージでの診断が多いことから、積極的な分子標的薬の適応検索や、若年者に特化したスクリーニング・サーベイランスプログラムの導入が臨床現場で考慮されるべきである。また、若年患者における肺がんの疑いが低いという一般的な認識が診断の遅れにつながる可能性も指摘されており、本研究の結果は若年患者における肺がんの早期診断の重要性を強調する。
残された課題: 本研究の主要なlimitationは、SEERデータベースに分子変異情報 (EGFR、ALKなど) が含まれていないため、観察された臨床病理学的差異や予後差の根底にあるゲノム学的背景を直接解析できなかった点である。若年NSCLC患者では特定のドライバー変異の頻度が高いことが知られており、これらの情報があれば、診断年齢と予後の関連性をより深く理解できたと考えられる。また、18-30歳群のサンプルサイズ (n=429) は、個別サブグループ解析における統計的検出力に限界がある。手術を受けた患者群や手術を受けなかった患者群における多変量解析では、30歳未満の年齢が独立した予後因子とならなかったことから、治療法やリンパ節転移の状態が予後に与える影響が年齢よりも大きい可能性があり、この点も今後の研究課題である。今後の研究課題として、分子変異情報を含む大規模なコホート研究や、若年NSCLC患者における腫瘍生物学的な特性を詳細に解析する研究が残されている。
方法
本研究は、SEER 18 registries database 1988-2012から抽出された18歳以上40歳以下のNSCLC患者4623例を対象としたレトロスペクティブな集団ベースコホート研究である。対象患者は診断時の年齢に基づき、18-30歳群 (n=429) と31-40歳群 (n=4194) の2群に分類された。SEERデータベースは、米国人口の約28%をカバーする広範な癌登録データを提供しており、本研究ではNSCLCの組織型コード (8010-8576) を用いて患者を特定した。病理学的確認のない患者、AJCCステージ情報のない患者、または十分な生存データのない患者は除外された。収集されたデータには、診断時年齢、性別、人種、診断年、腫瘍組織型、腫瘍グレード、AJCCステージ、治療法 (手術、放射線療法、リンパ節郭清、リンパ節転移陽性数)、原因別死亡分類、生存状態、生存月数が含まれる。主要評価項目はLCSS (肺がん特異的生存率) とし、診断から肺がんによる死亡までの期間と定義した。副次評価項目は全生存率 (OS) とした。統計解析には、臨床病理学的特徴の比較にPearsonのカイ二乗検定またはFisherの正確検定を用いた。生存率の比較にはKaplan-Meier法とログランク検定を適用した。多変量生存解析にはCox比例ハザード回帰モデルを使用し、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。LCSSの解析においては、競合リスクとして他の原因による死亡を考慮したFine-Gray競合リスクモデルも適用した。すべての統計解析はSPSS 16.0を用いて実施され、P値が0.05未満を有意とした。本研究は公開データベースを用いたため、治験登録番号 (NCT) は不要であり、インフォームドコンセントも免除された。