• 著者: Udagawa H., Ishibashi M., Matsumoto S., Kirita K., Naito T., Nomura S., Zenke Y., Goto K.
  • Corresponding author: Hibiki Udagawa (Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-07-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32426898

背景

肺癌の治療において、EGFR遺伝子変異、ALK (anaplastic lymphoma kinase) 融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、および免疫チェックポイント阻害薬の適応決定因子であるPD-L1発現などのバイオマーカー解析は、プレシジョンメディシン(precision medicine)の根幹をなし、治療方針決定に不可欠である。これらの解析を正確に行うためには、十分な腫瘍細胞含有量と良好な保存状態を維持した腫瘍組織検体の採取が必須である。しかし、従来の鉗子を用いた経気管支生検(TBB; transbronchial biopsy)や経皮針生検、喀痰細胞診といった既存のサンプリング手技には重大な制約が存在する。具体的には、2 cm未満の小型病変や末梢性肺病変に対する診断率の低さ、採取時の組織圧挫(クラッシュアーチファクト)による形態保持の困難さ、および組織量不足(inadequate tissue sample)が大きな課題であり、Rivera et al. (2013) の米国胸部学会ガイドラインや McLean et al. (2018) の報告でも指摘されている。組織量が不足した場合、複数のバイオマーカー解析を完遂できず、患者に再生検を強いることになり、治療開始の遅延と身体的負担の増大を招く。

近年、Joule-Thomson原理に基づく急速冷却技術を応用し、冷却接着効果によって組織を凍結したまま回収するクライオプローブ(cryoprobe)を用いた経気管支クライオ生検(transbronchial cryobiopsy)が登場した。この技術は、びまん性肺疾患や肺移植後評価において従来の鉗子生検より大きな組織片を安全に採取できる手法として普及しつつある。Hetzel et al. Respiration 2018は、びまん性肺疾患の診断における経気管支クライオ生検の安全性と有用性に関する専門家声明を発表し、その臨床的価値と手技標準化の必要性を強調している。また、Schumann et al. (2010) および Hetzel et al. (2012) の多施設共同試験において、気管支内腫瘍病変に対するクライオ生検が診断率を向上させることが示されてきた。さらに、8試験916例を対象とするメタ解析では、クライオ生検の診断率がリスク比1.36(p=0.0002)と有意に高いことが確認されている。

しかし、クライオプローブは日本国内において2017年に承認されたばかりであり、日本人肺癌患者を対象とした前向き試験データは極めて限られていた。特に、次世代シーケンス(next-generation sequencing: NGS)を用いた包括的ゲノムプロファイリングや、PD-L1発現評価のための免疫組織化学(immunohistochemistry: IHC)解析に対して、クライオ生検検体がどの程度適合するかという分子病理学的評価は未確立であり、この知識のギャップ(gap in knowledge)の解消が強く求められていた。プレシジョンメディシンが急速に進展する現代において、高度なゲノム解析に耐えうる高品質組織を安全に採取する手技の確立は喫緊の課題であった。

目的

本研究は、単施設前向き単群試験(prospective single-arm study)として、肺癌が疑われる、または既に診断された患者を対象に、気管支鏡下クライオプローブを用いた経気管支生検(cryoprobe TBB)の安全性と有用性を総合的に評価することを目的とした。具体的には以下の3点を検証した。(1) 主要評価項目として、手技に伴う重篤な出血および重篤な有害事象(serious adverse events: SAE)の発生率を評価し、事前設定閾値30%を下回るかを検証する。(2) 副次評価項目として、採取組織のサイズおよび病理組織学的確定診断率を鉗子生検と比較する。(3) FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded)検体から抽出されたDNA・RNA量とその品質、ならびにWES(whole-exome sequencing)・RNAシーケンスの解析成功率とPD-L1 IHC評価率を検証し、プレシジョンメディシン実装に必要なゲノム解析の実用性を明らかにする。

結果

患者背景と手技の概要: 128例が登録され、そのうちクライオ生検が施行されたのは121例であった (Table 1)。不適格1例(手技前喀血)、末梢病変EBUS未検出2例、鉗子生検後出血によりクライオ生検断念4例(中等度出血3例・重度出血1例)を除外した。クライオ生検施行121例の患者背景は、男性84例(69%)、中央年齢68歳(範囲: 31-79歳)、喫煙歴あり101例(83%)、ECOG PS 0-1が121例(100%)であった。標的病変は中枢性64例(53%)、末梢性57例(47%)で、腫瘍径中央値38 mm(範囲: 11-90 mm)であった。気管支鏡検査の所要時間中央値は20.1分(範囲: 7.2-41.2分)、クライオ生検手技時間中央値は7.5分(範囲: 1.8-26.8分)で、生検回数中央値は鉗子生検5回(範囲: 2-12回)・クライオ生検2回(範囲: 1-5回)であった。

安全性: 主要エンドポイント達成: 主要評価項目である重篤な出血およびSAE発生率は121例中5例で4%(90% CI: 2%-9%)であり、事前設定許容閾値30%を統計学的に有意に下回った(p<0.01) (Table 2)。この4%という発生率は、Hetzel et al. Respiration 2018ら専門家グループが設定した安全性許容水準を大幅に下回るものであった。SAEの内訳はクライオ生検後重篤出血1例(1%)・手技後Grade 3肺感染症4例(3%)で、気胸の発生はゼロであった。手技中の中等度以上の出血はクライオ生検群75%(91/121例)であり鉗子生検群61%(74/121例)と比較して有意に高かったが(Bowker検定、p=0.01)、これらはすべて内視鏡的局所処置で対処可能であった。手技後有害事象としてGrade 1血痰6例(5%)、Grade 1発熱2例(2%)、Grade 1胸痛1例(1%)を認めた。

クライオ生検成功率と学習曲線: クライオ生検全体のサンプリング成功率は92%(111/121例)で、中枢性病変97%(62/64例)・末梢性病変86%(49/57例)であった。術者経験症例数別の成功率を解析すると、最初の20例での成功率は中枢性90%・末梢性60%にとどまったが、21例目以降は中枢性・末梢性ともに100%を達成した (Figure 2)。この学習曲線の存在から、クライオ生検手技の習熟には約20例の経験が必要であると推定された。なお、本研究開始時に日本ではクライオプローブが未承認であり、術者は事前訓練の機会が限られていたことが初期症例の成功率低下に影響したと考えられる。

組織サンプルサイズの比較: クライオ生検検体の組織サイズは鉗子生検と比較して飛躍的に大きく、ガラススライド上での組織面積(長軸×短軸)の中央値はクライオ生検群15 mm²(範囲: 0.3-273 mm²)・鉗子生検群2 mm²(範囲: 0.3-28 mm²)と7.5-fold の差があり、統計学的に有意であった(Wilcoxon rank-sum test、p<0.001) (Table 3, Figure 3)。この有意差は中枢性(15 mm² vs 2 mm²、p<0.001)・末梢性(15 mm² vs 2 mm²、p<0.001)のいずれにおいても確認された。腫瘍細胞を含む81例を対象としたデジタルスキャナー(Aperio AT2、Leica Biosystems)による仮想スライド上の面積測定でも、クライオ生検群中央値11.4 mm²(範囲: 1.8-135.0 mm²)・鉗子生検群2.0 mm²(範囲: 0.6-8.4 mm²)と有意差が確認された(Wilcoxon signed-rank test、p<0.01)。

診断率および形態学的診断能: 登録患者全体(n=121)における病理確定診断率はクライオ生検群76%(92/121例)・鉗子生検群84%(102/121例)で有意差なし(McNemar検定、p=0.08) (Table 4)。末梢性病変(n=57)では、クライオ生検の診断率67%(38/57例)が鉗子生検86%(49/57例)を有意に下回ったが(p<0.01)、これは初期20例のサンプリング不成功例の影響であった。クライオ生検成功例111例に限定すると診断率はクライオ生検群83%(92/111例)・鉗子生検群84%(93/111例)と同等であった(p=0.83)。一方、両手技で腫瘍細胞が採取された81例において詳細な組織亜型を特定できる明確な形態学的診断(definite morphological diagnosis)の割合は、クライオ生検群86%(70/81例)・鉗子生検群74%(60/81例)でクライオ生検群が有意に高かった(McNemar検定、p<0.01) (Table 5, Figure 4, Figure 5)。

免疫組織化学(IHC)解析: NSCLC 62例の検体を用いたTTF-1およびp40の免疫染色において、鉗子生検検体とクライオ生検検体の染色一致率はTTF-1で98%(58/59例)・p40で97%(60/62例)と極めて高かった (Table 6)。PD-L1(22C3)発現評価可能率はクライオ生検群97%(60/62例)・鉗子生検群98%(61/62例)で有意差なし(p=0.56)。PD-L1発現陽性(TPS 1%以上)の割合はクライオ生検群51%(30/59例)・鉗子生検群42%(25/59例)とクライオ生検群で高い傾向があった(McNemar検定、p=0.06)。

次世代シーケンス(NGS)解析: 同意取得NSCLC患者(n=20)を対象としたゲノム解析で、クライオ生検検体の優位性が顕著であった (Table 7)。FFPE検体からのDNA抽出量中央値はクライオ生検群1.60 µg(範囲: 0.21-15.8 µg)・鉗子生検群0.58 µg(範囲: 0.01-1.76 µg)と有意に多く(Wilcoxon signed-rank test、p=0.02)、RNA抽出量中央値もクライオ生検群0.62 µg(範囲: 0.05-10.1 µg)・鉗子生検群0.17 µg(範囲: 0.00-0.37 µg)と有意差があった(p<0.01)。DNA品質指標のDIN (DNA integrity number) 中央値はクライオ生検群3.1(範囲: 2.4-3.8)・鉗子生検群2.4(範囲: 0-2.9)でクライオ生検群が有意に高かった(paired t-test、p<0.01)。WES成功率はクライオ生検群90%(18/20例)・鉗子生検群15%(3/20例)と6-fold の差があり(McNemar検定、p<0.01)、RNAシーケンス成功率もクライオ生検群75%(15/20例)・鉗子生検群10%(2/20例)と劇的な差が実証された(p<0.01)。クライオ生検検体で実施されたWES(n=18)から算出された腫瘍変異負荷(tumor mutation burden: TMB)の中央値は84(範囲: 3-2396)であった。

考察/結論

本研究は、日本人肺癌患者を対象とした前向き単群試験として、経気管支クライオ生検(cryoprobe TBB)が安全かつ実用的な組織採取手技であることを多角的に実証した。

既報との違い: 本研究における重篤な出血およびSAE発生率は4%(90% CI: 2%-9%)であり、これまでの研究で報告された閾値水準(30%)を大幅に下回る良好な安全性を示した。手技中の中等度以上の出血頻度はクライオ生検群で有意に高かったものの(75% vs 61%、p=0.01)、これらはすべて内視鏡的処置で対処可能であり、問題とはならなかった。本研究の主要な貢献は、欧米集団を対象とした既報の後ろ向き研究や小規模な前向き試験と異なり、日本人肺癌患者において体系的に安全性を前向きに検証した点にある。また、既報の多くがびまん性肺疾患患者を対象としていたのに対し、本研究は肺癌の精密診断・バイオマーカー解析への適用性を初めて系統的に検証した点で大きく前進している。

新規性: 本研究で初めて前向き試験の枠組みでクライオ生検検体が高度なゲノム解析に適していることを実証した。鉗子生検との比較において、組織面積が約7.5倍(中央値15 mm² vs 2 mm²)と大きく、クラッシュアーチファクトが少ないことにより明確な形態学的診断率が有意に向上した(86% vs 74%、p<0.01)。さらに、抽出DNAの量(1.60 µg vs 0.58 µg、p=0.02)・質(DIN中央値3.1 vs 2.4、p<0.01)・RNAの量(0.62 µg vs 0.17 µg、p<0.01)がいずれも有意に優れ、WES成功率(90% vs 15%、p<0.01)とRNAシーケンス成功率(75% vs 10%、p<0.01)が劇的に改善した。これは「組織量不足によるゲノム解析の不成功」という臨床上の重大課題に対するnova(新規の)解決策として位置付けられる。

臨床応用: 本知見は肺癌の個別化医療における臨床応用に直接的な意義を持つ。EGFR、ALK、ROS1、KRAS、METなどのマルチプレックス遺伝子解析や包括的ゲノムプロファイリング(CGP)検査を初回診断時に確実に実施するためには十分な組織量が不可欠であり、クライオ生検はその臨床的有用性を大幅に高める。1回の手技で大量かつ高品質な組織を採取できることにより、再生検の必要性を削減し迅速な治療方針決定を支援する。TTF-1・p40の染色一致率98%・97%、PD-L1評価可能率97%という結果は、クライオ生検検体を用いた免疫染色が日常臨床現場でも十分に実施可能であることを示している。

残された課題: 本研究の主な限界(limitation)として、単施設共同試験であり手技が2名の術者に限定されていた点が挙げられる。また試験デザイン上、鉗子生検の直後に同一部位からクライオ生検を施行したため、先行する鉗子生検による出血がクライオ生検のサンプリング精度に影響した可能性がある。末梢性病変でクライオ生検の診断率(67%)が鉗子生検(86%)を下回った背景には、この手技順序の影響と初期20例における学習曲線の影響が関与している。さらに採取組織のインフレーション処理(伸展処理)を行わなかったことにより鉗子生検の組織サイズが過小評価された可能性も否定できない。今後の検討として、多施設共同のランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)により独立した施設でのクライオ生検の診断的優位性と安全性をさらに検証すること、また習熟度を担保するための標準的なトレーニングプログラムの確立が求められる。

方法

本研究は、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)において2016年2月から2018年2月に実施された単施設前向き単群試験(IRB承認番号: 2015-309)である。対象患者は、胸部CTにより原発性肺癌が疑われる、または既に組織学的に診断されている20-80歳の患者とした。適格基準として、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 0または1、好中球数 1500/mm³ 以上、血小板数 100,000/mm³ 以上、ヘモグロビン 9.0 g/dL 以上、AST/ALT (aspartate/alanine aminotransferase) 100 U/L 以下、総ビリルビン 1.5 mg/dL 以下、血清クレアチニン 1.5 mg/dL 以下、PT-INR (prothrombin time-international normalized ratio) 1.5 以下、SpO₂ 90% 以上、FEV1 (forced expiratory volume in 1 second) 1.0 L 以上を有することとした。除外基準は、リドカイン・ミダゾラム等への過敏症、抗血小板薬/抗凝固薬の継続服用、1ヶ月以内の喀血歴、CT上明らかな空洞性病変や肺門部大血管浸潤、重篤な合併症、妊娠・授乳中の女性とした。

気管支鏡検査は、TBB経験100例以上の専門医2名(HUおよびKK)が施行した。使用気管支鏡はオリンパス製標準径・細径気管支鏡(standard and thin bronchoscopes; Olympus)で、出血予防用気管支ブロッカーは留置しなかった。局所麻酔として2%リドカインスプレー(5 mL)を使用し、静脈内鎮静・鎮痛薬としてペチジン塩酸塩(35 mg)およびミダゾラム(2-3 mg)を投与した。全例において、まず同一病変から鉗子生検(forceps TBB)を施行して組織採取と止血を確認した後、1.9 mm径クライオプローブ(Erbe Elektromedizin GmbH製)を使用したクライオ生検(cryoprobe TBB)を実施した。クライオプローブを気管支鏡の鉗子口から挿入し、X線透視下または直視下で病変に接触させ、3-5秒間凍結させて組織をプローブ先端に接着させた後、凍結状態を維持したまま気管支鏡ごと一括抜去し、回収組織を10%中性緩衝ホルマリンで18-20時間固定した。

主要評価項目は重篤な出血およびSAEの発生率とした。出血は軽度・中等度・重度に分類し、その他の有害事象はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0-JCOGで評価した。統計学的設計として、期待発生率20%・閾値30%・片側有意水準5%・検出力90%のもと必要サンプルサイズを175例と算出した。128例登録時点でベイズ予測確率(Bayesian predictive probability)が最終解析で閾値30%を下回る確率が極めて高いことが示され、倫理的観点から早期終了とした。安全性解析セット(全登録患者)と有効性解析セット(クライオ生検が実施された全例)を設定した。

統計解析にはJMP 11.1.1およびSAS Release 9.4を使用した。二手技間の出血重症度・診断率・形態学的診断率・PD-L1評価率・シーケンス成功率の比較にはMcNemar testまたはBowker testを用いた。組織サイズはWilcoxon rank-sum test、仮想スライド面積・核酸抽出量・DIN/RINの比較にはWilcoxon signed-rank testまたはpaired t-testを適用した。診断率の比較にはPearson χ²検定またはFisher’s exact testを用いた。免疫染色はTTF-1 (SP141、Roche/Ventana)、p40 (BC28、Abcam)、PD-L1 (22C3、Dako)で実施した。遺伝子解析サブセット(同意取得NSCLC患者n=20)ではAllPrep DNA/RNA Kit(Qiagen)で核酸を抽出し、Qubit 3.0およびAgilent 4200 TapeStationで定量後、SureSelectXT Human All Exon V6 Kit+HiSeq4000でWES、TruSeq Stranded Total RNA LT+HiSeq2500でRNAシーケンスを実施した。