- 著者: Hetzel J, Maldonado F, Ravaglia C, Wells AU, Colby TV, Tomassetti S, Ryu JH, Fruchter O, Piciucchi S, Dubini A, Cavazza A, Chilosi M, Sverzellati N, Valeyre D, Leduc D, Walsh SLF, Gasparini S, Hetzel M, Hagmeyer L, Haentschel A, Eberhardt R, Darwiche K, Yarmus LB, Torrego A, Krishna G, Shah PL, Annema JT, Herth FJF, Poletti V
- Corresponding author: Jürgen Hetzel (University of Tübingen, Tübingen, Germany)
- 雑誌: Respiration
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-09
- Article種別: Expert Statement / Consensus Document
- PMID: 29316560
背景
びまん性実質性肺疾患 (DPLD (diffuse parenchymal lung disease)) は一般呼吸器科外来の約15%を占める頻度の高い疾患群であり、その約30%が特発性肺線維症 (IPF (idiopathic pulmonary fibrosis)) と推定されている。DPLDの確定診断には、臨床医・放射線科医・病理医による多職種討論 (MDD (multidisciplinary discussion)) が不可欠であり、高分解能CT (HRCT (high-resolution computed tomography)) 所見や臨床データが不十分な場合は組織学的評価が必要となる。IPFガイドライン(Raghu G et al. Am J Respir Crit Care Med 2011)では、IPF患者の30-40%が診断確定に組織学的評価を要するとされ、HRCT上で典型的な UIP (usual interstitial pneumonia) パターンが認められるのはIPF患者の約50%にすぎないため、残りの患者では肺生検が診断に不可欠である。
従来の標準的肺生検法である外科的肺生検 (SLB (surgical lung biopsy)) は、診断収率が高い(70-98.7%)反面、周術期リスクが極めて大きく、Hutchinson JP et al.(Am J Respir Crit Care Med 2016)の32,022例の解析では院内死亡率6.4%(IPF確定診断例では9%)が報告されている。また、Utz JP et al.(Eur Respir J 2001)はUIP患者へのSLB後の短期死亡率が高いことを示した。ピルフェニドン(King et al. NEnglJMed 2014)・ニンテダニブ(Richeldi et al. NEnglJMed 2014)の承認によりIPFの早期確定診断の重要性が高まり、SLBに代わる低侵襲な組織採取法への需要が増大した。
経気管支クライオ生検 (TBCB (transbronchial cryobiopsy)) は2009年にBabiak A et al.(Respiration)が初報告し、クライオプローブによる急速冷却で周辺組織を凍結接着・採取する本手法は従来の経気管支鉗子生検 (TBFB (transbronchial forceps biopsy)) より大きく組織構造を保全した検体を提供できる。Ravaglia et al. Respiration 2016のTBCB n=297 vs SLB n=150の比較研究では、診断収率はTBCB 82.8% vs SLB 98.7%(死亡率はTBCB 0.3% vs SLB 2.7%)であった。しかし、TBCBの急速普及に伴い、診断収率(50-100%)・気胸発生率(0-30%)の大幅な施設間格差が顕在化し、標準化と安全基準の gap in knowledge が深刻となっていた。具体的には、適応・禁忌・患者選択基準の合意が手薄であること、手技パラメーター(cryoprobeサイズ・凍結時間・麻酔法・バルーン使用)が施設ごとに異なること、術者資格・教育認定制度が未整備であることが、TBCBの安全性と信頼性に対する懸念を引き起こしていた。これらの課題が本声明発行の根本的な動機である。
目的
本専門家声明の目的は、2016年10月27-28日にイタリアのラヴェンナで開催された第3回国際会議「Transbronchial Cryobiopsy in Diffuse Parenchymal Lung Disease」において設置された国際クライオ生検ワーキンググループ(欧米・イスラエル・デンマーク等から30名以上の呼吸器内科医・病理医・放射線科医が参加)が、DPLD診断におけるTBCBの安全性と有用性に関する系統的文献レビューを実施し、(1)患者選択と適応、(2)病理学的考察、(3)禁忌・安全管理、(4)施術方法・施行環境、(5)術者資格・教育要件の5ドメインにわたる専門家推奨事項を初めて体系的に提示することである。これにより、TBCBの手技を標準化し、施設間の診断収率・合併症率の格差を縮小し、DPLD診断アルゴリズムにおけるTBCBの適切な位置づけを確立することを目指した。
結果
診断収率・安全性の施設間格差:Table 1 に集計した20研究超のデータにおいて、TBCBの診断収率は施設間で39/77例 (50.6%, Pajares 2014) から40/40例 (100%, Fruchter 2013) まで大幅に変動し、最大規模の多施設データ(Ravaglia C et al. Respiration 2016, n=297)では246/297例 (82.8%) であった。気胸発生率は15研究n=994を含むメタアナリシスで平均10%、別の13研究メタアナリシスでは9.5%(95% CI 5.9-14.9%)と算出された。最高値はKronborg-White 2017の10/38例 (26%)、最低値はKropski 2013・Fruchter 2013の0%であり、施設間格差が著しかった(Table 1)。中等度出血は12研究383例中65例 (16.9%)、プール確率0.12(95% CI 0.02-0.25)であった。30日死亡率はTBCBで0-0.3%(Ravaglia 2016: 1/297例 = 0.3%)、SLBでは最大9%(Fibla JJ 2015: 28/311例)・院内死亡率6.4%(Hutchinson JP et al. 2016: n=32,022)と大幅に差があった。比較群のTBFBは診断収率25-65%(UIPパターンでは13/64例 = 25%と低値、Tomassetti S 2012)であった。この大幅な施設間格差は、cryoprobeサイズ(1.8-2.4 mm)・凍結時間(3-7秒)・麻酔法・バルーン予防留置の有無の差異を主因とする手技の非標準化によるものと特定された。
患者選択と適応基準:TBCBの主要適応は、HRCT所見・臨床データだけでは診断確定できないDPLD症例であり、SLBと基本的に同じ適応基準が適用される。UIP・NSIP (nonspecific interstitial pneumonia)・DIP (desquamative interstitial pneumonia)・過敏性肺炎 (HP (hypersensitivity pneumonitis))・稀なILD(血管内大細胞型B細胞リンパ腫を含む)がTBCBの主な対象疾患となる。サルコイドーシス・癌性リンパ管症・器質化肺炎 (OP (organizing pneumonia)) 等はリンパ管経路・細気管支中心性分布を示し、従来のTBFBで診断可能なことが多いためTBCBの優先適応は限定的である。HRCTで典型的なUIPパターンを示す患者も(通常はSLBの絶対適応外)、結合組織疾患や薬剤・環境曝露の組織学的評価に臨床的意義がある場合はTBCBが考慮できる。一方、TBCB後1か月以内の死亡が7例(うち2例がIPF急性増悪起因)文献に報告されており、直近1か月以内の機能低下・呼吸困難増悪・HRCT上の新規スリガラス影・KL-6高値を呈する急性増悪高リスク症例では手技を原則回避すべきとされた。急性または亜急性の経過で急速進行していない症例はTBCBの恩恵を受けうると示された。
病理学的所見と検体要件:TBCBで採取された検体のサイズは診断収率と強く相関し、Casoni GL et al. (PLoS One 2014) の解析では、診断確定群の平均検体面積41.99±14.43 mm² vs 非診断群の28.43±11.66 mm²(p<0.05)であり、最低限5 mm直径(4×対物に対応)が適正サイズとして推奨された。これはTBFB(直径1-2 mm、面積約2 mm²)の約15-21倍の面積を持ち、凍結接着による組織構造の保全により、UIPパターンの要素(斑状線維化・線維芽細胞巣・蜂巣肺変化)がTBCB検体で高い確信度で識別可能である。病理医間の観察者間変動(UIPパターン診断)はTBCB (κ=0.72, n=65例) vs SLB (κ=0.86, n=65例) で類似していた(Tomassetti S et al. Am J Respir Crit Care Med 2016)。約20%の生検は非診断(主に気道壁組織・正常肺・非特異的病変)となるとされた。検体処理においては、組織操作を最小限に抑え、パラフィン包埋・HE染色(少なくとも2レベル切片)・パラフィンブロック内に40%以上の組織保存が推奨される。TBCB組織は免疫組織化学的・分子生物学的研究(Wntシグナル等)にも適している (Raghu et al. AmJRespirCritCareMed 2018)。
安全管理と禁忌:TBCBの主要リスクは気胸と出血であり、本声明で初めて定量的な禁忌閾値が提示された。絶対禁忌として、凝固障害・抗凝固薬治療・チエノピリジン系または新規抗血小板薬による治療・血小板 <50×10⁹/L が特定された。相対禁忌として、推定収縮期肺動脈圧 >50 mmHg(心エコーによる評価が必須)、FVC <50%予測値、DLCO <35%予測値、安静時低酸素血症(PaO₂ <55-60 mmHg)、高度肥満(BMI >35)が示された。年齢制限は特定されなかったが、全身状態と麻酔適性の評価が必須とされた。出血管理の観点から、フレキシブル内視鏡と cryoprobe を一体で抜去する必要があるため(生検サイズが作業孔を通過不可)、抜去中の「盲目的時間」中の重篤出血リスクが生じる。このため、フレキシブルチューブ挿管時は Fogarty バルーンまたは気管支ブロッカーの予防的留置が必須とされ、留置なしでの重篤出血死亡例(未公表)への警告が発せられた。術後は症状がある場合は即時、無症状でも2時間後に胸部X線または超音波検査による気胸評価が推奨された。
手技プロトコール(Table 2参照):Table 2 に示すように、施設間の手技アプローチは極めて多様であり、麻酔法(全身麻酔 GA/ジェット換気 JV/深鎮静 DS/局所麻酔 LA)・気道管理(気管内チューブ OT/硬性気管支鏡 RB/喉頭マスク LM/非挿管 NI)・cryoprobeサイズ(1.8 mm・1.9 mm・2.4 mm)・凍結時間(3-7秒)・気管支ブロッカー使用(有 Y/無 N)が各施設で異なっていた。本声明の主要手技推奨として:(a) 気管内挿管(フレキシブルチューブまたは硬性気管支鏡)下での全身麻酔または深鎮静。(b) フレキシブルチューブ挿管時は Fogarty バルーンまたは気管支ブロッカーの予防的留置。(c) 蛍光透視 (fluoroscopic) ガイド下で臓側胸膜接触後に1 cm後退させた位置に cryoprobe を配置し、胸膜から1 cm以上の距離を必ず確保(Fig. 1 参照)。(d) CO₂使用時は2.4 mmプローブで凍結時間5秒、1.9 mmプローブで7秒を目安とし、事前に水浴での凍結能力試験を実施。(e) 1セッションで3-5個の生検を採取、可能であれば異なる肺葉の2セグメントから採取(Ravaglia C et al. 2017が異なるセグメントからの採取で診断収率向上を示した)。施術は高度気道管理体制を整えた気管支鏡検査室(ICU・胸部外科への即時エスカレーション可能)で実施すべきとされた (Raghu et al. AmJRespirCritCareMed 2018)。
術者資格・施設要件:TBCBは、高度な診断・治療的気管支鏡術(大量喀血管理・緊張性気胸対応)に精通したインターベンション肺科医が TBCB 経験施設で訓練を受けて実施すべきとされ、現時点での報告例の大多数は専門的インターベンション肺科医グループによるものである。施設要件として、即時対応可能な血管内治療(interventional radiology)・胸部外科へのアクセス、ICU へのエスカレーション体制、および病理医・放射線科医との MDD 連携体制(weekly MDD conference 等)が必須とされた。訓練の標準化については、シミュレーションモデルの技術的実現可能性は認められるが訓練効果のエビデンスが不足しており、competency 評価基準・認定制度(TBCB credentialing)の確立が今後の課題とされた。最重要提言として、TBCBの罹患率・死亡率・診断精度データを系統的に収集する前向き多施設レジストリの構築(all TBCB recordings)が強く推奨された。さらに、疾患進行・死亡をエンドポイントとする TBCB vs SLB の前向き多施設 RCT の実施が、エビデンスベース確立のために最も優先すべき将来研究課題として明示された (Raghu et al. AmJRespirCritCareMed 2018 のIPFガイドラインも組織学的エビデンスの重要性を強調)。
考察/結論
先行研究との違いと本声明の特異的貢献
本声明は、TBCBがDPLD診断に標準化のないまま急速拡散していた状況に対し、これまでの研究と異なり、5ドメインを統合した最初の体系的な国際専門家推奨として位置づけられる。既報の個別研究(Ravaglia C et al. Respiration 2016、Iftikhar IH et al. Ann Am Thorac Soc 2017等)はTBCB vs SLBの診断収率・合併症率を報告していたが、施設間格差の主因の特定や臨床適用のための統合的プロトコール策定には至らず手薄であった。これに対照的に、本声明は施設間格差の主因を手技の非標準化(cryoprobeサイズ・凍結時間・麻酔・バルーン)と明確に特定し、定量的禁忌閾値(FVC<50%・DLCO<35%・肺動脈圧>50 mmHg・血小板<50×10⁹/L)・生検部位指定(胸膜から1 cm・蛍光透視必須)・バルーン予防的留置(フレキシブルチューブ時は必須)を初めて明示した。また、SLBを完全に代替するのではなく、MDDの枠組みの中でTBCBを低侵襲な第一選択肢として位置づけるという新規な診断アルゴリズムを提示した。
臨床的意義と実践への橋渡し
本声明の臨床的意義は、SLBが高リスクとなる高齢・合併症保有IPF患者に対して、TBCBが低侵襲な診断選択肢として機能し、「分類不能なILD(unclassifiable ILD)」と診断される患者数を減少させる可能性を体制として示した点にある。臨床現場への具体的インパクトとして、まず絶対・相対禁忌の定量化により不適切な症例への施術リスクが低減されること、次にバルーン予防的留置の標準化により重篤出血(バルーン非使用時の未公表死亡例)の防止が期待されること、さらにMDD連携の義務化により病理結果の臨床・放射線所見との統合解釈精度が向上することが挙げられる。本声明発行後の COLDICE (Cryobiopsy for the Diagnosis of Diffuse Parenchymal Lung Disease Compared to Surgical Lung Biopsy) 試験(Lancet Respir Med 2020)では、TBCBとSLBのMDD診断一致率70.4%(95% CI 58.5-80.3%)が確認され、TBCBの診断的妥当性の前向きエビデンスが得られている。この臨床応用の進展により、SLB関連死亡率(6-9%)を回避しつつIPF早期確定診断と抗線維化薬の早期導入が促進されることが期待される。
残された課題と今後の研究
今後の検討課題として最重要なのは、TBCBとSLBを直接比較する前向きRCT(疾患進行・死亡をプライマリエンドポイント)の実施である。現状では、本声明のlimitationとして、エビデンスの主体が後ろ向き観察研究であり内在するバイアスが大きいこと、cryoprobeの最適サイズ(1.9 vs 2.4 mm)・最適凍結時間・最適生検数に関するRCTデータが欠如していること、NSIP/DIPパターンに対するTBCBの診断精度データが限定的(少数例のみ)であること、重篤出血の定義・分類基準が研究間で未統一であることが認識されている。また、電磁ナビゲーション・コーンビームCT・ロボット気管支鏡等の新技術とTBCBの組み合わせによる診断精度・安全性の向上についても future research として残されている。さらに、本声明が依拠するエビデンスは主に経験豊富な専門施設からの報告であり、経験の少ない施設での再現性については別途検証が必要である。これらの課題に対して前向き多施設レジストリの整備と国際標準化の正式確立が最優先事項として位置づけられている。
方法
系統的文献レビューはMOOSE (Meta-analysis Of Observational Studies in Epidemiology) ガイドラインに準拠して実施された。検索データベースはPubMed・Embase・Cochrane Central Register of Controlled Trials・会議議事録であり、DPLDおよびILD (interstitial lung disease) 診断目的のTBCBに関するすべての原著論文、ならびに肺移植後のサーベイランス・研究目的のTBCBデータが対象とされた。末梢・中枢肺病変の診断を目的としたTBCBデータは除外された。エビデンスの質は全般的に低い(主に後ろ向き観察研究)と判断されたため、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) による個別推奨グレード付与は行わず、専門家意見に基づく一般的な推奨として記述された。各研究から、TBCB診断収率 (%)・気胸発生率 (%)・出血発生率 (%)・30日死亡率 (%) を抽出し、記述統計(範囲・プール確率)を算出した。気胸発生率・出血発生率のプール確率はランダム効果モデル (random-effects model) により推計し、研究間の異質性を I²統計量で評価した。本声明は特定のNCT番号を持つ前向き試験ではなく、系統的文献統合と国際専門家コンセンサスに基づく合意形成文書である。以下の5ドメインについて推奨事項が策定された:(1)患者選択、(2)病理学的考察、(3)禁忌・安全性、(4)施術方法・環境、(5)術者要件。