• 著者: Iyoda A, Hiroshima K, Toyozaki T, Haga Y, Fujisawa T, Ohwada H
  • Corresponding author: A. Iyoda (Division of Pathology, Institute of Pulmonary Cancer Research, Chiba University School of Medicine, Chiba, Japan)
  • 雑誌: Cancer
  • 発行年: 2001
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11391577

背景

1970年代以降、肺の神経内分泌腫瘍は定型カルチノイド (TC, typical carcinoid)、異型カルチノイド (AC, atypical carcinoid)、小細胞肺癌 (SCLC) の3群に区分され、その後 Travis らによって高悪性度の第4の腫瘍として LCNEC (large cell neuroendocrine carcinoma) が提唱された (Travis et al. 1991; Warren et al. 1985)。LCNEC は臨床的悪性度において AC と SCLC の中間に位置づけられ (Dresler et al. 1997; Jiang et al. 1998)、1999年WHO分類では肺大細胞癌の variant として正式に位置づけられた (World Health Organization 1999)。このWHO分類は大細胞癌を神経内分泌形態と免疫組織化学・電子顕微鏡による神経内分泌分化の有無で4群、すなわち LCNEC、神経内分泌形態を欠くが分化マーカー陽性の LCCND (large cell carcinoma with neuroendocrine differentiation)、形態は神経内分泌だがマーカー陰性の LCCNM (large cell carcinoma with neuroendocrine morphology)、いずれも欠く CLCC (classic large cell carcinoma) に分類する枠組みを示した。

しかしこれまでの研究は LCNEC とカルチノイド・SCLC の比較に集中しており (Travis et al. 1998; Rusch et al. 1996; Onuki et al. 1999)、LCNEC と CLCC の関係を検討した報告はわずかで、LCCNM・LCCND を詳細に検討しその予後を LCNEC と比較した研究は 不足 していた。すなわち4つの組織型カテゴリー間の臨床的関連は明確に定義されておらず、形態学的な神経内分泌パターンのみを示す症例 (LCCNM) の臨床的意義は 未解明 という gap in knowledge が残されていた。本研究はこの空白を埋め、神経内分泌形質の有無が予後に与える影響を実証することを意図して計画された。

目的

肺大細胞癌を神経内分泌形態・分化に基づき LCNEC、LCCND、LCCNM、CLCC の4群に再分類し、各カテゴリーの臨床病理学的特徴と生存転帰を後方視的に比較することを目的とした。さらに、症例数が限られる各亜型を統合した「神経内分泌形質を有する大細胞癌」と CLCC を対比し、神経内分泌形質の存在が独立した予後因子となるか多変量解析で検証すること、および免疫組織化学的証明を欠く LCCNM が LCNEC と臨床的に異なるかを明らかにすることを主要な検討課題とした。

結果

4群の頻度と患者背景: 千葉大学病院で切除された原発性肺癌2,070例中、大細胞癌は119例 (5.7%) であった。神経内分泌形態を光学顕微鏡で示したものは63例、免疫組織化学または電子顕微鏡で神経内分泌分化を示したものは59例であった。最終分類は LCNEC が50例 (42.0%)、LCCND が9例 (7.6%)、LCCNM が13例 (10.9%)、CLCC が47例 (39.5%) であり、神経内分泌形質を有する群 (3亜型統合) は72例 (60.5%) を占めた (Table 1)。全群で男性優位 (LCNEC 84.0%、LCCND 88.9%、LCCNM 92.3%、CLCC 89.4%) で、喫煙指数に群間差はなかった。LCCNM の平均年齢69歳は CLCC (62歳, p=0.0439) および LCCND (58歳, p=0.0498) より有意に高かった。

有糸分裂率と腫瘍径: 有糸分裂率は LCCNM (平均103.7/2 mm^2) が最も高く、LCNEC (p=0.0071)、LCCND (p=0.0488)、CLCC (p<0.0001) のいずれよりも有意に高値であった。LCNEC 平均60.6 に対し CLCC 平均37.9 と有意に高かった (p=0.0108)。神経内分泌形質群全体の有糸分裂率も CLCC より有意に高かった (p=0.0013)。一方、腫瘍径は LCCND (平均6.7 cm) が LCNEC (4.1 cm, p=0.0033) および CLCC (4.6 cm, p=0.0259) より有意に大きく、亜型間で生物学的性状が異なることが示された (Table 1)。

血清腫瘍マーカー: 術前血清腫瘍マーカー9種を比較した結果、LDH高値の割合は LCNEC (38.3%, 18/47) と LCCNM (69.2%, 9/13) が CLCC (12.1%, 4/33) より有意に高かった (LCNEC vs. CLCC p=0.02; LCCNM vs. CLCC p=0.0004)。CEA (carcinoembryonic antigen) 高値の割合も LCNEC (37.8%) が CLCC (10.7%) より有意に高く (p=0.029)、TPA (tissue polypeptide antigen) 高値は LCCNM (88.9%) が LCNEC (31.8%) より有意に高かった (p=0.0123)。神経内分泌形質群全体では LDH (p=0.0054) と CEA (p=0.0467) が CLCC より有意に高頻度であった。一方 NSE (neuron specific enolase) には群間で有意差がなく、神経内分泌マーカーとしての特異性が低いことが確認された (Table 3)。

生存転帰: 全体生存 (overall survival) の5年生存率は CLCC 0.484 に対し神経内分泌形質群0.323 と有意に低く (95% CI はそれぞれ0.319-0.649、0.205-0.441)、median survival も CLCC 25 に対し神経内分泌形質群16.5 ヶ月と短縮していた。亜型別では LCCND の予後が最も不良 (median 8か月) で、CLCC より有意に低かった (p=0.0092) (Figure 5, Table 4)。無病生存 (disease-free survival) では LCNEC、LCCND、LCCNM の3亜型がいずれも CLCC より有意に不良であった (LCNEC vs. CLCC p=0.031; LCCND vs. CLCC p=0.04; LCCNM vs. CLCC p=0.0351) (Figure 6)。統合した神経内分泌形質群は CLCC より全体生存 (p=0.0196) および無病生存 (p=0.0066) が有意に不良であった (Table 4)。

多変量解析による独立予後因子: Cox比例ハザードモデルによる多変量解析の結果、神経内分泌形質 (組織型) の存在は全体生存 (p=0.0192) および無病生存 (p=0.0079) の独立した予後不良因子であった (Table 5)。さらに高齢 (全体生存 p=0.0021)、大きな腫瘍径 (p=0.0017)、高い有糸分裂率 (p=0.0016)、リンパ節転移 (N分類, p<0.0001) も独立予後因子として同定された。一方 T分類は単変量では有意 (p=0.0057) だったが多変量では有意性を失い (p=0.3478)、喫煙指数・性別は予後と関連しなかった。リンパ節転移の頻度は神経内分泌形質群で高い傾向 (N0が47.2% vs. CLCC 59.6%) を示したが、4群間の比較では統計的有意差には至らなかった (Table 2)。

考察/結論

本研究は、肺大細胞癌を神経内分泌形態・分化に基づき4群に再分類し、その臨床病理学的特徴と予後を詳細に比較した先駆的な後方視的研究である。神経内分泌形質を有する大細胞癌が CLCC より有意に予後不良であり、その存在が独立予後因子であることを多変量解析で実証した点が中核的知見である。

先行研究との違い: これまでの研究が LCNEC を定型・異型カルチノイドや SCLC と比較することに焦点を当てていたのと異なり、本研究は LCNEC と CLCC の関係、および LCCNM・LCCND という見過ごされがちな亜型を同一コホートで対比した点で既報と相違する。Travis らは LCNEC の生存が異型カルチノイドより不良で SCLC と差がないと報告し、Przygodzki らは LCNEC が遺伝学的に SCLC に近いことを示していたが、本研究はこれらの分子・形態的知見に臨床予後の裏付けを与えた。

新規性: 免疫組織化学的に神経内分泌分化を証明できない LCCNM が、患者背景・臨床経過・予後において LCNEC と類似した挙動を示すことを本研究で初めて示した。これはこれまで報告されていない novel な所見であり、形態学的な神経内分泌パターンの認識だけでも臨床的に意味を持つことを示唆する。LDH・CEA高値が神経内分泌形質群で多く独立予後因子として同定された点も新規な知見である。

臨床応用: 本知見は、肺大細胞癌の病理診断において形態学的および免疫組織化学的な神経内分泌特徴の評価が予後予測に直結することを示し、臨床現場での診断ワークアップに組み込む臨床的意義を持つ。神経内分泌形質を有する症例にはより積極的な治療戦略を検討すべきであり、bench-to-bedside の橋渡しとして組織学的サブタイピングの標準化を後押しする。

残された課題: 本研究は単施設・約30年間 (1969-1999年) のデータであり、症例数の少ない亜型 (LCCND n=9、LCCNM n=13) では統計的検出力に限界がある点が limitation である。当時は LCNEC の分子サブタイピング (SCLC型・NSCLC型) が確立されておらず、現行のWHO 2015/2021分類とも基準が一部異なる。今後の研究課題として、現代の診断基準・分子分類・周術期治療を反映した大規模多施設前向き研究による更なる検討が必要である。

方法

本研究は千葉大学医学部附属病院における後方視的コホート研究として実施された。1969年から1999年に外科的に切除された原発性肺癌2,070例から、大細胞癌と診断された119例 (5.7%) を抽出した。小細胞癌の細胞学的特徴を併せ持つ複合癌は除外した。光学顕微鏡で器官様胞巣・柵状配列・ロゼット・索状構造などの神経内分泌形態、2 mm^2 (10高視野) あたり11以上の高い有糸分裂率、壊死の有無を評価した。神経内分泌分化の検出には免疫組織化学染色 (118例、ポリクローナル抗クロモグラニンA抗体およびモノクローナル抗シナプトフィジン抗体、ビオチン化二次抗体とペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン、3,3’-ジアミノベンジジン発色) と電子顕微鏡 (11例、神経内分泌顆粒の同定) を用いた。これらに基づき LCNEC (n=50)、LCCND (n=9)、LCCNM (n=13)、CLCC (n=47) に再分類した。

臨床情報として性別、年齢、喫煙指数、術前血清腫瘍マーカー (LDH、CEA、AFP (alpha-fetoprotein)、フェリチン、CA19-9 (carbohydrate antigen 19-9)、TPA (tissue polypeptide antigen)、SCC (squamous cell carcinoma antigen)、NSE (neuron specific enolase)、CA125 (carbohydrate antigen 125))、手術術式、化学療法、放射線療法、転帰を診療録から収集した。統計解析は二項比率の比較に Fisher の正確検定 (Fisher exact test)、腫瘍マーカー高値割合の比較にカイ二乗検定 (chi-square test)、年齢・腫瘍径・喫煙指数・有糸分裂率の比較に対応のない t 検定 (unpaired t test) を用いた。生存は手術日から再発 (無病生存) または死亡 (全体生存) までを Kaplan-Meier 法で推定し、群間比較にログランク検定 (log-rank test) を用いた。予後因子の評価には Cox 比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards model) を用い、性別・年齢・喫煙指数・組織型・腫瘍径・有糸分裂率・T分類・N分類を共変量とした。有意水準は p<0.05 とした。