• 著者: Michael H. Jones, Carl Virtanen, Daisuke Honjoh, Tatsu Miyoshi, Yukitoshi Satoh, Sakae Okumura, Ken Nakagawa, Hitoshi Nomura, Yuichi Ishikawa
  • Corresponding author: Yuichi Ishikawa (Department of Pathology, Cancer Institute, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2004
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15016488

背景

肺高悪性度神経内分泌腫瘍 (HGNT; high-grade neuroendocrine tumour) は、組織学的に小細胞肺癌 (SCLC; small-cell lung carcinoma) と大細胞神経内分泌癌 (LCNEC; large-cell neuroendocrine carcinoma) に分類されている。しかし、これらの腫瘍は花冠状形成、核の押し合い、腺構造や角化の欠如といった類似した組織学的特徴を共有しており、臨床的挙動にも多くの重複が見られる。このため、HGNTを単一のグループとして再分類すべきであるという見解も存在した (Cerilli et al. 2001; Marchevsky et al. 2001)。SCLCは大規模臨床試験によって化学療法の効果が確立されているが (Simon et al. 2003)、LCNECについてはエビデンスが乏しく、標準治療が未確立のままであった。多くの臨床医はLCNECに対してSCLCに準じた治療を行っていたが、その有効性には疑問が残されており、治療選択における重大な知識ギャップが存在していた。

遺伝子発現プロファイリングは、様々な癌腫において組織学的分類を再現し、さらに新たな予後的サブクラスを定義する強力な手法として確立されていた (van de Vijver et al. 2002; Bhattacharjee et al. 2001)。しかし、肺HGNTにおける分子生物学的分類と予後との関連性については、依然として未解明な点が多かった。特に、既存のSCLCとLCNECという組織学的分類が、HGNT患者の予後予測に十分な情報を提供しているかについては、さらなる検証が不足している状況であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とした。本研究は、肺神経内分泌腫瘍の分類において、組織学的基準のみに依存する従来の診断体系では捉えきれない、より本質的な生物学的特性と予後との関連性を明らかにすることを目指した。これにより、HGNTの病態理解を深め、より個別化された治療戦略の開発に貢献することが期待された。

目的

本研究は、cDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイル解析により、肺高悪性度神経内分泌腫瘍 (HGNT) が既存の組織学的SCLC/LCNEC分類とは独立した分子的サブタイプに分けられるかを検証し、その予後的意義を明らかにすることを目的とした。具体的には、教師なし階層クラスタリングを用いてHGNTの分子サブタイプを同定し、各サブタイプの5年生存率を比較することで、遺伝子発現プロファイルに基づく分類が従来の組織学的分類よりも優れた予後予測因子となりうるかを評価した。本研究は、後方視的コホート研究として実施され、HGNTの新たな分類基準を提案し、その臨床的有用性を検証することを目指した。また、SCLC細胞株の遺伝子発現プロファイルを解析することで、in vitroモデルとin vivo腫瘍組織との関連性を分子レベルで評価することも目的とした。

結果

遺伝子発現プロファイルによるHGNTの分子サブタイプ分類: 2,803遺伝子、242遺伝子、1,041遺伝子の3種類の遺伝子セットを用いた3回の独立した教師なし階層クラスタリングが、いずれも一貫してほぼ同じ分類結果を示した。カルチノイド (TC/AC)、大細胞癌、腺癌、正常肺はそれぞれ明確に分離された (Figure 1)。重要な知見として、SCLCとLCNECは組織学的分類を超えて2つの主要な高悪性度神経内分泌腫瘍群 (HGNT群1・群2) に分離された。HGNT群1 (n=5) は、純粋SCLC 4例、LCNEC 1例、SCLC+腺癌 1例で構成された。HGNT群2 (n=12) は、純粋SCLC 8例、LCNEC 4例で構成された。LCNECのみで構成されるクラスターは同定されず、SCLC細胞株は全てHGNT群2以外のクラスターに属した。混合型SCLC/LCNEC+腺癌サンプルの位置は、それぞれの成分の相対的割合を反映したクラスタリングを示した。この結果は、SCLCとLCNECが分子生物学的に区別できないことを強く示唆した。

予後解析による分子サブタイプの臨床的意義: HGNT群2の患者 (n=12) は、その他のHGNT患者 (n=11) と比較して有意に良好な生存を示した (Figure 2)。HGNT群2の5年全生存率 (OS) は 83% vs 12% (その他のHGNT患者) であり、12例中6例で無病生存期間が36ヶ月を超えた。HGNT群2とその他のHGNT患者の比較におけるハザード比 (HR) は、主要評価項目である5年OSにおいて HR 0.20 (95% CI 0.05-0.81, p=0.024) であり、HGNT群2が有意に良好な予後と関連していることを示した。さらに、組織学的分類を無視してHGNT群1とHGNT群2を直接比較した生存解析においても、群2は極めて有意な生存ベネフィットを示した (HR 0.15, 95% CI 0.04-0.62, p=0.004)。対照的に、従来の組織学的SCLCとLCNECの生存比較では、5年生存率に有意差は認められなかった (p=0.37)。この結果は、従来の組織学的分類よりも遺伝子発現プロファイルに基づく分子分類が予後をより正確に反映することを示唆した。

HGNT群2の識別遺伝子プロファイル: Signal-to-noiseスコアで上位740遺伝子を同定した (Figure 3)。これらの遺伝子は、HGNT群2とその他のHGNT腫瘍間で明確に差次発現していた。10,000回のモンテカルロシミュレーションにより、偶然には生じない特異性を確認し、leave-one-out cross-validationでは100%の精度でクラスを予測した。HGNT群1で高発現した遺伝子には、神経内分泌分化マーカーであるneurexinやNCAM1 (neural cell adhesion molecule 1)、Rb下流エフェクターであるE2F3、グリオブラストーマ浸潤関連遺伝子であるP311、肺癌マーカーであるTTF1 (thyroid transcription factor-1)、およびELAVL4 (embryonic lethal, abnormal vision, Drosophila-like 4; HuD) などが含まれた。これらの遺伝子は、神経細胞の機能や細胞増殖、DNA複製に関与するものが多く、HGNT群1の悪性度の高さと一致する。特に、CAPS (calcium-activated nucleotidase/exocytosis protein) 遺伝子や、癌治療標的であるトポイソメラーゼIIαなどもHGNT群1で高発現していた。

HGNT群2における高発現遺伝子と機能的特徴: HGNT群2で高発現した遺伝子には、転写因子FOXO1 (forkhead box O1) などが同定された。FOXO1の機能はまだ十分に解明されていないが、他のforkhead遺伝子は細胞増殖の制御に関与することが知られている。例えば、FOXC1の異所性発現はHeLa細胞の細胞増殖抑制を回復させ、FKHRL1の過剰発現は慢性骨髄性白血病細胞の増殖を抑制することが報告されている (Zhou et al. 2002; Komatsu et al. 2003)。これらの知見は、HGNT群2で高発現する遺伝子が細胞増殖抑制や細胞分化に関与し、良好な予後に関連している可能性を示唆する。また、HGNT群2以外のHGNTで高発現するTSGA14 (testis-specific gene 14 protein) 遺伝子は、新規の癌精巣抗原である可能性が示唆された。

SCLC細胞株の遺伝子発現プロファイル解析: SCLC細胞株11株の遺伝子発現プロファイルを解析したところ、これらの細胞株はHGNT群1の腫瘍と高い類似性を示した (Figure 4)。具体的には、8株のSCLC細胞株がHGNT群1と密接に統合され、残りの3株もその周辺に位置した。この結果は、SCLC細胞株が、より攻撃的で予後不良なHGNT群1の特性を反映していることを示唆した。また、このことは、予後に関連する遺伝子の大部分が癌細胞自体で異常発現しており、間質細胞やその他の支持組織に起因するものではないことを示唆する。興味深いことに、予後不良群であるHGNT群1で高発現する遺伝子の多くは、予後良好な典型カルチノイドでも高発現しており、これは単なる「増殖シグネチャー」ではない可能性を示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の組織学的分類ではSCLCとLCNECの予後に有意差は認められなかったのに対し、本研究の分子サブタイプ分類ではHGNT群2がHGNT群1と比較して有意に良好な5年生存率 (83% vs 12%; p=0.0094) を示した。この結果は、組織学的分類が予後予測において十分ではないことを示唆し、分子分類がより優れた予後予測因子となりうることを示した点で、これまでの研究と対照的である。特に、LCNECがSCLCと混在してクラスタリングされ、独立したLCNECクラスターが形成されないという知見は、LCNECがSCLCと分子生物学的に類縁であることの強力な根拠となった。

新規性: 本研究は、肺高悪性度神経内分泌腫瘍 (HGNT) が、従来の組織学的SCLC/LCNEC分類とは独立した2つの分子的サブタイプ (HGNT群1・群2) に分けられることを本研究で初めて示した先駆的研究である。遺伝子発現プロファイルが従来の組織学的分類よりも予後を精確に反映することを実証した点は新規性が高い。特に、少数のサンプルからでもロバストな分類スキームを構築できることを示した。

臨床応用: 本知見は、HGNTの診断、分類、および治療戦略に重要な臨床的含意を持つ。遺伝子発現プロファイルに基づく分子分類は、従来の組織学的分類では区別できなかった予後良好群を特定することを可能にし、個別化医療の推進に貢献しうる。特に、LCNECの治療法が確立されていない現状において、分子サブタイプに基づく層別化は、SCLCに準じた治療を行うか否かの判断に役立つ可能性がある。例えば、HGNT群2に分類される患者に対しては、より温和な治療戦略が検討できる可能性がある。また、生検サンプルにも適用可能な遺伝子発現プロファイリングは、診断時から治療をガイドする「遺伝子病期分類」の開発を可能にし、将来的な臨床応用に直結する。

残された課題: 本研究の対象は全て手術切除可能例(早期~中期病期が多い)であり、Stage IV進行例での分子サブタイプと予後・治療感受性との関連は検討されていない点が limitation として挙げられる。切除不能なSCLCの大部分は肺門部に位置し、本研究のサンプルは末梢に位置する切除可能SCLCが中心であるため、その代表性には限界がある可能性も残されている。また、本研究で同定された識別遺伝子の機能的意義や、これらの遺伝子を標的とした治療法の開発については、今後の検討課題である。将来的には、より大規模なコホートでの検証や、バイオマーカーとしての実用化に向けた研究が必要となる。

方法

本研究は、1996年5月から2001年5月にかけて東京の癌研究会附属病院で手術切除された肺神経内分泌腫瘍38例の凍結保存腫瘍組織を対象とした後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。内訳はSCLC 17例(混合型SCLC+腺癌2例含む)、LCNEC 8例(混合型LCNEC+腺癌2例含む)、典型カルチノイド (TC; typical carcinoid) 12例、非定型カルチノイド (AC; atypical carcinoid) 1例であった。さらに、SCLC細胞株11株を解析に加えた。比較対象として、大細胞癌13例、腺癌12例、正常肺30例を含む計105検体を解析した。全てのサンプルはインフォームドコンセントを得て、倫理委員会の承認の下で収集された。腫瘍組織は切除後20分以内に液体窒素で急速凍結され、病理医による詳細な組織学的診断と免疫組織化学的検査によってWHOガイドライン (Travis et al. 1999) に基づき分類された。

cDNAマイクロアレイは、40,386エレメント(IMAGE (Integrated Molecular Analysis of Genomes and their Expression) cDNAクローン39,936個、独自クローン384個、コントロール48個)を使用し、遺伝子発現プロファイルを測定した。サンプルRNAはCy5で標識し、参照RNA(肺癌細胞株と正常肺の混合物)はCy3で標識してハイブリダイゼーションを行った。スライドはAxon GenePix 4000Bスキャナーでスキャンされ、Axon GenePix Proソフトウェアで定量された。生データはNCBI GEO (accession number GPL962) に寄託されている。

データ解析は、内部開発ソフトウェアおよびGeneSpring (Silicon Genetics) を用いて実施された。前処理として、全データは対数変換され、強度依存性 (LOWESS (locally weighted linear regression) ) 正規化が適用された。その後、各遺伝子の発現値は全実験の中央値で正規化された。教師なし解析のため、まず正常肺で安定して発現する遺伝子 (n=29,593遺伝子) を選別した。次に、神経内分泌腫瘍38例において差次発現する遺伝子をフィルタリングした。1段階目のフィルタリングでは2,803遺伝子、より高ストリンジェンシーな2段階目のフィルタリングでは242遺伝子が選別された。これらの遺伝子セットを用いて、Pearson相関係数に基づく教師なし階層クラスタリングを実施し、腫瘍サンプルの関連性を評価した。

HGNT群2を同定するclassifier遺伝子は、signal-to-noiseスコアとweighted votingおよびleave-one-out cross-validationを用いた教師ありクラス予測法で選定された (Ramaswamy et al. 2003)。Monte Carloシミュレーションを10,000回実施し、偶然による高相関遺伝子が得られる確率を評価した。予後解析はKaplan-Meier法、ログランク検定 (log-rank test)、およびコックス比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards regression model) を用い、p値が0.05未満を有意差ありと判断した。本研究の主要評価項目 (primary endpoint) は5年全生存率 (OS) である。