• 著者: Muppa P, Parrilha Terra SBS, Sharma A, Mansfield AS, Aubry MC, Bhinge K, Asiedu MK, de Andrade M, Janaki N, Murphy SJ, Nasir A, Van Keulen V, Vasmatzis G, Wigle DA, Yang P, Yi ES, Peikert T, Kosari F
  • Corresponding author: Farhad Kosari, PhD (Mayo Clinic)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-05-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31078775

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約15%を占める、極めて致死性の高いサブタイプである。急速な増殖、高い血管新生能、ゲノム不安定性、そして早期転移を特徴とする。過去30年間、非小細胞肺癌 (NSCLC) とは対照的に、SCLCの診断、治療、生存率はほとんど改善しておらず、全生存期間の中央値は7〜12ヶ月と依然として不良である。しかし、このような厳しい予後にもかかわらず、SCLC患者の一部に長期生存者が存在することは、数十年にわたる複数の研究により示されてきた (例: Lassen et al. JClinOncol 1995)。これらの長期生存を規定する生物学的因子は、依然として未解明である。免疫関連傍腫瘍症候群を合併するSCLC患者で生存期間が良好であるとの報告から、宿主の免疫応答の関与が示唆されてきたが、SCLCの腫瘍免疫微小環境は十分に理解されていなかった。2004年には、Jones et al. Lancet 2004がSCLCを含む高悪性度神経内分泌腫瘍の遺伝子発現解析を行い、生存改善と関連する遺伝子シグネチャーを報告したが、この研究では腫瘍ステージが強力な交絡因子であったため、臨床変数から独立したバイオマーカーの意義を評価することは困難であった。したがって、SCLCにおける長期生存の決定因子を特定するための、臨床背景を厳密にマッチさせた包括的な比較解析が不足していた。

目的

本研究の目的は、SCLCにおける長期生存の決定因子を特定することである。そのために、外科的に切除されたSCLC腫瘍組織を用い、長期生存者と標準的な予後であった患者群との間で、包括的なゲノム解析および腫瘍微小環境解析を実施した。特に、腫瘍微小環境における免疫細胞浸潤の役割に焦点を当て、長期生存に寄与する主要なバイオマーカーを同定し、その臨床的意義を評価することを目指した。

結果

免疫関連遺伝子・経路の長期生存者における過剰発現: 遺伝子発現解析の結果、LTS (long-term survivors) 群とEXS (expected survivors) 群の間で差次的に発現していた354のプローブセットのうち、大部分を占める330プローブセット (93%) がLTS群で過剰発現していた。これらの遺伝子の多くは、腫瘍細胞固有のシグナル伝達経路ではなく、腫瘍微小環境における免疫応答に関連するものであった (Fig 1)。過剰発現したプローブセットの47%は、免疫グロブリンまたは主要組織適合性複合体 (MHC) / ヒト白血球抗原 (HLA) 遺伝子に対応していた。残りの既知遺伝子のほとんども、B2M (beta-2-microglobulin)、CD3E (CD3e molecule)、CXCL9 (C-X-C motif chemokine ligand 9) など、腫瘍免疫に関連するものであった。タンパク質レベルでも、MHCクラスI分子の安定化に必須であるB2Mの発現は、LTS群で有意に高かった (p=0.005)。KEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) データベースを用いたパスウェイ解析では、抗原提示やT細胞受容体シグナル伝達経路など、複数の免疫関連パスウェイがLTS群で有意に濃縮されていることが示された (Supplementary Fig. 2)。これらの網羅的解析データは、SCLCの長期生存において腫瘍微小環境における免疫細胞浸潤が主要な決定因子である可能性を強く示唆した。

腫瘍浸潤リンパ球の顕著な増加: 遺伝子発現解析で示唆された仮説を検証するため、IHCを用いて腫瘍微小環境を詳細に解析した。その結果、LTS群では、CD3陽性Tリンパ球が腫瘍内皮、間質、境界の3つのゾーン全てでEXS群よりも有意に多かった (ノンパラメトリック検定, p<0.005)。特に、腫瘍間質ゾーンで最も顕著な差が観察され、LTS群の中央値は3276 cells/mm²であったのに対し、EXS群では651 cells/mm²であり、約5倍のCD3陽性細胞が認められ、その差は統計的に極めて有意であった (p=0.00003) (Fig 2)。同様に、細胞傷害性T細胞マーカーであるCD8、ヘルパーT細胞マーカーであるCD4、ならびに活性化T細胞に発現するPD-1 (CD279) 陽性リンパ球の数も、3つのゾーン全てでLTS群において有意に高かった (p<0.01) (Table 1, Fig 3A)。腫瘍浸潤B細胞 (CD20陽性) も間質ゾーンでLTS群において有意に多かった (p=0.02)。これらの結果は、長期生存と免疫細胞浸潤の強い関連性を示唆するものであった。

免疫細胞浸潤マーカーによる生存群の識別と抗腫瘍免疫応答の多様性: 骨髄系細胞マーカーであるCD14陽性単球の数も、LTS群で3つのゾーン全てにおいて有意に高かった (腫瘍内皮ゾーン p=0.003, 間質ゾーン p=0.002, 境界ゾーン p=0.05)。免疫細胞におけるPD-1およびPD-L1の発現はLTS群で強かったが、腫瘍細胞におけるPD-L1発現は両群ともに非常に限定的または検出不能であった。これらのIHCマーカーの識別能力を評価するため、腫瘍間質におけるCD3およびCD279 (PD-1) の発現量に基づき教師ありクラスタリングを実施した。その結果、LTS群の88% (17例中15例) を含むクラスターと、EXS群の77% (13例中10例) を含むクラスターの2群に明確に分離され (Fig 3B)、T細胞浸潤に関連するマーカーが両群を識別する上で非常に効果的であることが示された。 LTS群では全体としてCD4陽性およびCD8陽性T細胞による細胞性免疫応答が強い傾向にあったが、個々の症例では免疫浸潤のパターンに多様性が見られた (Fig 4A)。例えば、LTS群の一例 (患者L6) ではMHCクラスIの発現とT細胞浸潤は低レベルであったが、CD138陽性形質細胞が高密度に浸潤しており、強力な液性抗腫瘍応答の存在が示唆された (Fig 4B)。これは、古典的な細胞傷害性T細胞応答だけでなく、液性免疫もSCLCの長期生存に寄与する可能性を示している。また、他の2例 (患者L10, L13) でもMHCクラスI発現は低いものの、CD20陽性B細胞およびCD138陽性形質細胞の強い浸潤が見られ、液性免疫が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

免疫抑制的微小環境の相対的減少: FoxP3 (forkhead box p3) 陽性制御性T細胞、CD68陽性マクロファージ、CD14陽性単球といった免疫抑制性細胞の絶対数は、LTS群で高い傾向にあった。特にCD14陽性単球は3つのゾーン全てでLTS群で有意に高かった (Table 1)。しかし、これらの免疫抑制細胞のCD3陽性Tリンパ球に対する比率を算出すると、LTS群で一貫して低い傾向が見られた。特に、CD68陽性マクロファージとCD3陽性Tリンパ球の比 (CD68/CD3比) は、LTS群において腫瘍間質 (p=0.0077) および境界 (p=0.047) で有意に低く、腫瘍内皮ゾーンでも低い傾向を示した (p=0.06) (Fig 5)。これは、長期生存者の腫瘍微小環境では、免疫抑制細胞の浸潤を上回る強力なエフェクターT細胞応答が存在し、全体として抗腫瘍免疫が優位な状態にあることを示唆している。長期生存者におけるOS中央値は4年以上であり、標準生存者におけるOS中央値は2年未満であった (HR 0.41, 95% CI 0.27-0.62, p=0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、SCLCの長期生存決定因子を包括的に調査した最大規模の研究であり、これまでの報告とは対照的に、腫瘍細胞内のシグナル伝達経路の差異ではなく、免疫学的腫瘍微小環境が長期生存の主要な予測因子であることを明らかにした。過去の研究、例えばEerola et al. ClinCancerRes 2000は、腫瘍浸潤リンパ球数と良好な予後との関連を示したが、本研究は臨床変数を厳密にマッチさせたコホートで包括的な遺伝子発現および免疫組織化学解析を行い、免疫細胞浸潤の決定的な重要性を強調した点で異なる。また、Jones et al. Lancet 2004が報告した神経内分泌マーカーの予後的重要性は、本研究のマイクロアレイデータでは確認されなかった。さらに、George et al. Nature 2015などのゲノム解析研究はSCLCのドライバー変異を明らかにしたが、本研究は予後を規定する因子として腫瘍微小環境に焦点を当てた点でアプローチが異なる。

新規性: 本研究で初めて、SCLCの長期生存が腫瘍微小環境における免疫細胞の存在に強く依存することを包括的に記述した。特に、長期生存者では免疫関連遺伝子および経路が有意に過剰発現し、腫瘍浸潤リンパ球が顕著に増加していることを定量的に示した。さらに、有効な抗腫瘍免疫応答が細胞性免疫だけでなく液性免疫も含む多様なものであること、そして免疫抑制細胞に対するエフェクターT細胞の比率が長期生存者で高く、抗腫瘍免疫が優位な微小環境が長期生存に寄与することを新規に示唆した。

臨床応用: 本研究の知見は、治療抵抗性であるSCLCに対するより効果的な治療法を開発する上で、大きな臨床的意義を持つ。腫瘍微小環境の免疫プロファイリングは、患者の予後を予測するだけでなく、免疫チェックポイント阻害剤などの個別化免疫療法の恩恵を受ける可能性のある患者を特定するためのバイオマーカーとして臨床応用される可能性を秘めている。SCLCにおける免疫療法の有効性が示されつつある中、本研究の結果はその開発を加速させ、治療戦略を最適化するための重要な科学的基盤を提供する。

残された課題: 本研究のlimitationとして、外科切除検体に基づいているため、手術という介入そのものが抗腫瘍免疫に与える影響を評価することが困難である点が挙げられる。この課題に対処するためには、手術を受けていない患者の生検検体を用いた追加研究が有用である。また、SCLCの長期生存者 (LTS) は稀であるため、本研究の知見を独立した大規模な検証コホートで確認することが今後の課題である。しかし、本研究では長期生存者群と標準生存者群 (EXS) の間で病期や手術の根治性に有意差がなかったことから、免疫学的腫瘍微小環境の予後的重要性が強く支持される。

方法

本研究では、SCLCの長期生存決定因子を特定するため、後ろ向きコホート研究デザインを採用した。Mayo Clinicの医療記録および組織レジストリ (1985-2007年) から、外科的に切除されたSCLC腫瘍組織を持つ患者を同定した。長期生存者群 (LTS, long-term survivors, n=23) は術後4年以上生存した患者、標準生存者群 (EXS, expected survivors, n=18) は術後2年未満で死亡した患者で構成された。両群間では、性別、年齢、喫煙歴、術前後の治療歴 (放射線療法または化学療法)、TNM (Tumor, Node, Metastasis) ステージ、および手術の根治性 (根治的 vs. 非根治的) を含む臨床変数に統計的に有意な差がないことを確認した。本研究には、特定のprimary endpointは設定されなかったが、長期生存を規定する生物学的因子の探索が主眼であった。

網羅的遺伝子発現プロファイリングは、Affymetrixマイクロアレイを用いて実施された。腫瘍微小環境のタンパク質レベルでの検証は、主要な免疫関連マーカーに対する免疫組織化学 (IHC, immunohistochemistry) を用いて行われた。IHC染色は、腫瘍細胞が存在する領域 (腫瘍内皮ゾーン)、腫瘍細胞に隣接する間質領域 (腫瘍間質ゾーン)、および腫瘍と非腫瘍組織の境界領域 (腫瘍-非腫瘍境界ゾーン) の3つの異なるコンパートメントで評価された。評価された免疫マーカーには、CD3, CD8, CD4, CD20, CD14, FoxP3 (forkhead box p3), PD-1, PD-L1, MHCクラスIなどが含まれた。IHCのスコアリングはAperioソフトウェアを用いて、各領域における陽性細胞数を自動計測し、客観的かつ定量的に行われた。統計解析にはノンパラメトリック検定が用いられ、群間比較にはFisher exact testが使用された。本研究はMayo Clinicの施設内審査委員会 (Mayo institutional review board no. 12-004029) の承認を得て実施された。