• 著者: Daniel B. Costa, Alice T. Shaw, Sai-Hong I. Ou, et al.
  • Corresponding author: Daniel B. Costa, Beth Israel Deaconess Medical Center / Harvard Medical School
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology 33:1881-1888, 2015
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-01-26
  • Article種別: 後ろ向き統合解析(Original Report)
  • PMID: 25624436

背景

ALK遺伝子再構成は非小細胞肺がん(NSCLC)の約3〜5%に認められる主要なドライバー変異であり、EML4-ALK融合遺伝子をはじめとする再構成が発見されて以降、ALK阻害薬の開発が急速に進展した。クリゾチニブはALK/MET/ROS1の多標的型チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として最初に承認されたALK阻害薬であり、PROFILE 1007試験においてShaw et al. 2013が示したように、ALK陽性NSCLCに対して既存の化学療法を上回る全身腫瘍縮小効果を示した。一方でNSCLCは脳転移を来しやすく、ALK陽性NSCLCでは特に脳転移の頻度が高いことが知られている。Camidge et al. 2012はクリゾチニブの全身的有効性を確立したが、クリゾチニブは脳脊髄液(CSF)/血漿比が低く中枢神経系(CNS)への移行性に限界があることが指摘されていた。Heon et al. 2012は既治療脳転移例の後向きデータを報告したが、脳転移を有するALK陽性NSCLC患者の大規模な系統的解析は乏しかった。すなわち、脳転移合併例に対するクリゾチニブの頭蓋内効果・増悪様式・生存アウトカムを脳転移非合併例と比較した大規模統合解析は実施されておらず、「クリゾチニブ治療中にCNSがどの程度主要な増悪部位となるか」「頭蓋内DCRと全身DCRはどの程度相関するか」「脳転移なし例でも新規脳転移がどの割合で発症するか」という基本的な問いすら未解明のままであった。

目的

本研究の目的は、ALK陽性進行NSCLCの大規模コホートであるPROFILE 1005(NCT00932451)およびPROFILE 1007(NCT00932893)の参加患者を対象に、ベースライン脳転移の有無・治療状況(未治療・既治療)別に層別化した後ろ向き統合解析を行い、クリゾチニブの全身的・頭蓋内の有効性、増悪様式、および全生存率を評価することにある。

結果

患者背景と登録状況: 解析対象はn=888例(未治療BM群n=109例、既治療BM群n=166例、no BM群n=613例)であった。脳転移合併例はn=275例(31%)であり、ALK陽性NSCLCにおいて脳転移は高頻度に認められた(Fig. 1参照)。患者の年齢中央値は約50歳台で、ECOG PS 0〜2の患者が大多数を占め、3群間のベースライン特性はおおむね均衡していた(Table 1参照)。クリゾチニブは全例に250 mg 1日2回で投与され、追跡期間中に腫瘍評価を定期的に実施した。

全身奏効(未治療BM群vs既治療BM群vsno BM群): 未治療BM群の全身DCRは63%(95% CI, 54%〜72%)、全身ORRは53%(95% CI, 43%〜63%)、全身TTPの中央値は12.5ヶ月(95% CI, 7.0〜14.0)であった(Table 2参照)。既治療BM群の全身DCRは65%(95% CI, 57%〜72%)、全身ORRは46%(95% CI, 39%〜54%)、全身TTPの中央値は14.0ヶ月(95% CI, 13.5〜18.0)であった。no BM群の全身DCRは71%(95% CI, 未記載)、全身ORRは55%(95% CI, 未記載)、全身TTPの中央値は9.8ヶ月(95% CI, 8.4〜11.7)であった。

頭蓋内奏効(未治療BM群vs既治療BM群): 未治療BM群の頭蓋内DCRは56%(95% CI, 46%〜66%)と全身DCRより低く、頭蓋内TTPの中央値は7.0ヶ月(95% CI, 6.7〜16.4)、頭蓋内ORRは18%(95% CI, 5%〜40%)であった(Fig. 2参照)。既治療BM群の頭蓋内DCRは62%(95% CI, 54%〜70%)、頭蓋内TTPの中央値は13.2ヶ月(95% CI, 9.9〜NR)と未治療BM群より延長し、頭蓋内ORRは33%(95% CI, 13%〜59%)であった。

全身-頭蓋内相関: 頭蓋内DCRと全身DCRの相関をPearson r=0.7652(p<0.001)で評価し、全身コントロールと頭蓋内コントロールが高度に相関することを示した(Fig. 3参照)。この相関はPearson r=0.77に相当する強い正の関連であり、全身奏効が良好な患者では頭蓋内奏効も良好である傾向が認められた。

CNS主体の増悪様式: 未治療BM群では増悪患者の70%がCNSを主要な増悪部位とし、既治療BM群でも72%でCNSが主要な増悪部位であった(Fig. 4参照)。no BM群ではn=253例のうちn=51例(20%)が追跡中に新規脳転移を発症し、初回脳転移検出までの中央値は29.9週(95% CI, 26.6〜38.3)であった。

PFSおよびOS: PFS中央値は未治療BM群で5.9ヶ月、既治療BM群で6.0ヶ月、no BM群で8.8ヶ月であった。6ヶ月OS率は未治療BM群77%・既治療BM群74%・no BM群85%であり、1年OS率はそれぞれ59%・64%・69%であった。

病勢進行後のクリゾチニブ継続: PD後のクリゾチニブ継続はn=34例で実施され、継続期間の中央値は19.3週であった。n=34例中n=27例が局所CNS療法(全脳照射または定位照射)を受けながらクリゾチニブを継続し、一部の症例でCNS増悪のコントロールが得られた。

考察/結論

本研究は、ALK陽性NSCLC大規模コホート(n=888)においてクリゾチニブの脳転移への効果を系統的に解析した当時最大規模の後向き統合解析であり、先行研究(Heon et al. 2012)の小規模データと異なり、未治療脳転移・既治療脳転移・脳転移なしの3群を明確に区別した比較評価を行った点で既存報告との差別化が明確である。クリゾチニブは全身的に有効である一方で、頭蓋内DCRは全身DCRを下回り(56〜62% vs. 63〜65%)、頭蓋内ORRも全身ORRを大きく下回った(18〜33% vs. 46〜53%)。特に注目すべきは、CNSが未治療・既治療BM群ともに70〜72%で主要増悪部位となるという圧倒的な割合であり、クリゾチニブのCSF/血漿比が低いことによるCNS薬物移行性の限界を明確に示した。

本研究の新規な点は、頭蓋内DCRと全身DCRが高相関(Pearson r=0.77)を示すことを初めて大規模データで定量化し、かつ脳転移非合併例の20%が追跡中に新規脳転移を発症するという発生率を明確にしたことにある。これらは従来の個別試験報告では得られなかった情報である。

臨床応用として、本知見はCNS移行性が改善された次世代ALK阻害薬(セリチニブ・アレクチニブ・PF-06463922〔ロルラチニブ〕)の開発・評価において頭蓋内有効性を主要評価項目として設定することの重要性を先取りして示した。また、no BM群においても追跡中に20%が新規脳転移を発症したことから、クリゾチニブ治療中の定期的なCNSサーベイランスが必要であることが示唆される。PD後のクリゾチニブ継続+局所CNS療法(27/34例)が一定の効果を示したことも、当時の臨床実践における具体的な対応策として記録されている。

残された課題としては、本研究が後向き解析であり頭蓋内増悪に基づく前向きな試験計画ではないこと、全脳照射vs定位照射の使い分けに関するデータが限定的であること、またクリゾチニブ耐性後の最適なCNS指向性治療戦略の確立が挙げられる。本研究はCNS活性TKI選択戦略の重要先行知見として位置付けられ、ALK耐性機構研究とともに次世代治療の基盤を構築した。軟髄膜転移を含む進行期CNS転移への対応における基礎データを提供した点でも意義が大きい。

方法

PROFILE 1005(第2相試験、NCT00932451)およびPROFILE 1007(第3相試験、NCT00932893)の参加患者から、ベースライン時の脳転移の有無と治療状況によって3群に層別化した後ろ向き統合解析を実施した(n=888)。ベースライン脳転移は造影MRIまたはCTで確認し、未治療脳転移(未治療BM群、n=109)・既治療脳転移(既治療BM群、n=166)・脳転移なし群(no BM群、n=613)に分類した。ALK再構成はbreak-apart FISH法で確認した。クリゾチニブは250 mg 1日2回経口投与した。腫瘍評価はRECIST v1.1に基づき実施し、病勢コントロール率(DCR)・客観的奏効率(ORR)・腫瘍増悪までの期間(TTP)・無増悪生存期間(PFS)・全生存率(OS)を評価した。頭蓋内評価はmodified RECISTで実施した。統計解析はKaplan-Meier法によるTTP・PFS・OSの推定、Pearson’s χ²検定・Fisher’s exact testによる奏効率比較、Pearson相関係数による全身-頭蓋内DCRの相関を用い、TTPのCIはBrookmeyer-Crowley法で算出した。