- 著者: S. Novello, J. Mazières, I.-J. Oh, J. de Castro, M. R. Migliorino, Å. Helland, R. Dziadziuszko, F. Griesinger, A. Kotb, A. Zeaiter, A. Cardona, B. Balas, H. K. Johannsdottir, A. Das-Gupta, J. Wolf
- Corresponding author: Jürgen Wolf (Department I of Internal Medicine, Center for Integrated Oncology, University Hospital Cologne, Germany)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29668860
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) の約3-7%を占める未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 融合遺伝子陽性NSCLCは、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブ (crizotinib) の登場により治療成績が大きく改善された。クリゾチニブは、ALK陽性NSCLCの一次治療として承認され、化学療法と比較して有意な無増悪生存期間 (PFS) の延長を示した (Solomon et al. NEnglJMed 2014)。しかし、クリゾチニブ治療開始後1年以内に多くの患者で病勢進行が認められ、特に中枢神経系 (CNS) 転移が主要な再発部位となることが報告されている (Costa et al. JClinOncol 2015)。クリゾチニブ耐性後の治療選択肢としてセリチニブ (ceritinib) が承認されているが、その副作用プロファイルが臨床使用上の課題となっていた。
アレクチニブ (alectinib) は、第II相試験 (NP28673, NP28761) において、クリゾチニブ治療後に病勢進行したALK陽性NSCLC患者に対し、客観的奏効率 (ORR) 48-50%、中央値PFS 8.1-8.9ヶ月という良好な成績を示し、クリゾチニブ不耐容または耐性例に対する米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得ていた (Ou et al. JClinOncol 2016, Shaw et al. LancetOncol 2016)。これらの試験の統合解析では、アレクチニブのCNSにおける活性も示されている。しかし、クリゾチニブおよびプラチナ製剤ベースの化学療法で前治療されたALK陽性NSCLC患者において、アレクチニブと標準化学療法を直接比較する第III相臨床試験のデータは不足しており、この治療ギャップを埋める必要があった。特に、CNS転移の管理はALK陽性NSCLC患者の予後を大きく左右するため、CNSに対する有効性が高い治療法の確立が求められていた。本研究は、この未解明な領域におけるアレクチニブの有効性と安全性を評価することを目的として計画された。既存の治療選択肢では、クリゾチニブ耐性後の患者に対する全身性および中枢神経系における効果的な治療法が十分に確立されておらず、このアンメットメディカルニーズを満たす治療法の開発が強く望まれていた。
目的
本第III相ALUR (Alectinib versus chemotherapy in crizotinib-pretreated anaplastic lymphoma kinase-positive non-small-cell lung cancer) 試験は、プラチナ製剤ベースの化学療法 (PDC) およびクリゾチニブによる前治療歴のある進行性または転移性ALK陽性NSCLC患者を対象に、アレクチニブと標準化学療法 (ペメトレキセドまたはドセタキセル) の有効性および安全性を比較することを目的とした。主要評価項目は、治験責任医師評価による無増悪生存期間 (PFS) であった。主要な副次評価項目は、測定可能なベースラインCNS病変を有する患者におけるCNS客観的奏効率 (ORR) であった。その他の副次評価項目には、独立評価委員会 (IRC) 評価によるPFS、ORR、病勢コントロール率 (DCR)、奏効期間 (DOR)、CNS病変を有する患者におけるCNS病勢進行までの期間、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルが含まれた。本試験は、クリゾチニブ治療後に病勢進行したALK陽性NSCLC患者に対する最適な治療戦略を確立するための重要なエビデンスを提供することを目指した。
結果
患者背景: 本試験には合計107例の患者が登録され、アレクチニブ群に72例、化学療法群に35例が割り付けられた。安全性解析対象集団は、アレクチニブ群70例 (97.2%)、化学療法群34例 (97.1%) であった (ドセタキセル25例、ペメトレキセド9例)。ITT集団において、76例 (71.0%) がベースラインでCNS病変を有しており (C-ITT集団: アレクチニブ群50例、化学療法群26例)、そのうち40例 (52.6%) が測定可能なCNS病変を有していた (mC-ITT集団)。ベースラインの患者背景には軽微な層別化因子の不均衡が認められ、ECOG PS 0/1の患者はアレクチニブ群で91.7% vs 化学療法群で85.7%であった (Table 1)。
主要評価項目: 治験責任医師評価PFS: ALUR試験は主要評価項目を達成し、アレクチニブが化学療法と比較して優位なPFSを示した。治験責任医師評価による中央値PFSは、アレクチニブ群で9.6ヶ月 (95% CI 6.9-12.2) であったのに対し、化学療法群では1.4ヶ月 (95% CI 1.3-1.6) であった (HR 0.15, 95% CI 0.08-0.29; P < 0.001) (Figure 2A)。ベースラインの層別化因子の不均衡を調整した多変量Coxモデルでも、アレクチニブ群におけるPFSの有意な改善が確認された (HR 0.16, 95% CI 0.09-0.30; P < 0.01)。IRC評価によるPFSもアレクチニブ群で有意に長く、中央値PFSはアレクチニブ群で7.1ヶ月 (95% CI 6.3-10.8) vs 化学療法群で1.6ヶ月 (95% CI 1.3-4.1) であった (HR 0.32, 95% CI 0.17-0.59) (Figure 2B)。サブグループ解析では、年齢、性別、ベースラインCNS転移の有無、先行放射線治療歴、ECOG PS 0/1、白人種など、全てのサブグループでアレクチニブの一貫した優位性が認められた (Figure 2C)。
主要な副次評価項目: CNS ORR (IRC評価、mC-ITT集団): 測定可能なベースラインCNS病変を有する患者 (mC-ITT集団) におけるIRC評価によるCNS ORRは、アレクチニブ群で54.2% (13/24例) であったのに対し、化学療法群では0% (0/16例) であり、アレクチニブ群が統計学的に有意に優れていた (P < 0.001) (Table 2)。CNS DCRもmC-ITT集団においてアレクチニブ群で79.2% vs 化学療法群で31.3%と、アレクチニブ群で有意に高かった (P = 0.002)。CNS DORの中央値は、アレクチニブ群で未到達 (NR, 95% CI 3.6-NR) であったのに対し、化学療法群では0ヶ月であった。C-ITT集団全体では、アレクチニブ群のCNS ORRは36.0% (18/50例) であったのに対し、化学療法群では0%であった。
その他の有効性評価項目: 治験責任医師評価によるORR (ITT集団) は、アレクチニブ群で37.5% (27/72例) であったのに対し、化学療法群では2.9% (1/35例) であった。このORRは、アレクチニブの第II相試験 (NP28673で50-52%) と比較して低い値であったが、これはALUR試験において10例が連続した奏効評価を達成していなかったこと、およびALUR試験の対象患者がPDCとクリゾチニブの両方で前治療されていたという違いが影響していると考えられる。NP28673試験においてPDCとクリゾチニブで前治療された96例のORR 44.8%は、ALUR試験のITT2集団の43.3%と整合性がある。IRC評価によるCNS病勢進行までの期間 (ITT集団) は、アレクチニブ群で有意に長く (cause-specific HR 0.14, 95% CI 0.06-0.36)、6ヶ月時点でのCNS病勢進行の累積発生率 (CIR: cumulative incidence rate) はアレクチニブ群で11%と、化学療法群と比較して有意に低かった (Figure 3)。
全生存期間 (OS): データは未熟であり (イベント発生率: アレクチニブ群22%、化学療法群20%)、OSに有意差は認められなかった (HR 0.89, 95% CI 0.35-2.24)。中央値OSはアレクチニブ群で12.6ヶ月 (95% CI 9.7-NR) であったのに対し、化学療法群では未到達であった。化学療法群からアレクチニブへのクロスオーバーが24例 (70.6%) で認められており、これがOSの解釈を制限する要因となった。
安全性: 中央値治療期間はアレクチニブ群で20.1週 (範囲 0.4-62.1) であったのに対し、化学療法群では6.0週 (範囲 1.9-47.1) と、アレクチニブ群で3倍以上長かった。Grade ≥3の有害事象 (AE) の発生率は、化学療法群で41.2%であったのに対し、アレクチニブ群では27.1%と低かった (Table 3)。治療中止に至ったAEの発生率は、アレクチニブ群で5.7% vs 化学療法群で8.8%であり、アレクチニブ群で低かった。アレクチニブ群で頻度が高かったAE (化学療法群との差が5%以上) は、便秘 (18.6%)、呼吸困難 (8.6%)、血中ビリルビン増加 (5.7%) であった。一方、化学療法群で頻度が高かったAEは、疲労 (26.5%)、悪心 (17.6%)、脱毛症 (17.6%)、好中球減少症 (14.7%) などであった。死亡に至ったAEは化学療法群で細菌性肺炎が1例報告されたが、治験薬とは無関連と判断され、アレクチニブ群では死亡AEは報告されなかった。
考察/結論
ALUR試験は、クリゾチニブおよびPDCの両方に失敗したALK陽性NSCLC患者において、アレクチニブと標準化学療法を直接比較した初の無作為化第III相試験である。本試験は、主要評価項目であるPFSにおいて、アレクチニブが化学療法と比較してHR 0.15 (95% CI 0.08-0.29, P < 0.001) という極めて大きな治療効果を示し、アレクチニブの優越性を明確に確立した。IRC評価によるPFSもHR 0.32 (95% CI 0.17-0.59) と有意性を維持しており、治験責任医師評価における非盲検デザインによるバイアスの可能性を考慮しても、アレクチニブの体系的な優位性が確認された。
先行研究との違い: 既報のASCEND-5試験 (Shaw et al. LancetOncol 2017)では、クリゾチニブおよび化学療法既治療のALK陽性NSCLC患者において、セリチニブが化学療法と比較してIRC-PFS 5.4ヶ月を示した。本試験のアレクチニブのIRC-PFS 7.1ヶ月は、ASCEND-5試験のセリチニブの成績を上回っており、両試験の化学療法群のIRC-PFSが1.6ヶ月で同等であったことを考慮すると、アレクチニブがクリゾチニブ後の優先選択肢となり得ることを示唆する。これは、これまでの治療選択肢と比較して、アレクチニブがより優れた有効性プロファイルを持つことを示している点で、既存の知見と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブおよびPDC既治療のALK陽性NSCLC患者において、アレクチニブが標準化学療法と比較して全身性およびCNSにおける有効性を有意に改善することが、無作為化第III相試験で示された。特に、測定可能なCNS転移を有する患者におけるCNS ORRがアレクチニブ群で54.2%であったのに対し、化学療法群で0%であったという結果は、アレクチニブの強力なCNS浸透能と、クリゾチニブ治療後に頻発するCNS再発に対する有効な対策となる可能性を新規に示した。これは、これまでの報告と比較しても非常に優れたCNS効果であり、臨床的意義は大きい。
臨床応用: 本試験の結果は、クリゾチニブおよびPDCで前治療されたALK陽性NSCLC患者に対するアレクチニブの臨床的有用性を強く支持するものである。特に、CNS転移の管理はALK陽性NSCLC患者の予後とQOLに大きく影響するため、アレクチニブの優れたCNS有効性は臨床現場において重要な意味を持つ。安全性プロファイルも、治療期間が3倍以上長かったにもかかわらず、アレクチニブが化学療法と比較して良好であったことは、患者の長期的な治療継続とQOL維持に貢献すると考えられる。ALEX試験 (Peters et al. NEnglJMed 2017)やJ-ALEX試験 (Hida et al. Lancet 2017)でアレクチニブが一次治療としてクリゾチニブに対し優越性を示したことで、今後「クリゾチニブ+PDC後のアレクチニブ」という治療パターンは減少する可能性があるが、本データは既存のクリゾチニブ既治療集団 (特に日本や欧州など) の治療選択根拠となる。
残された課題: 本試験のlimitationとして、(1) 化学療法アームの症例数 (n=35) が比較的小規模であったこと、(2) 化学療法アームにおけるドセタキセルとペメトレキセドの使用割合に不均衡があったこと、(3) OSデータが未熟であり、化学療法群からアレクチニブへのクロスオーバーが多数認められたため、OSの解釈が制限されること、(4) 治療効果の差が大きかったため、組み入れ中に主要解析が実施されたこと、が挙げられる。今後の検討課題としては、アレクチニブ耐性後の最適な治療シーケンス (例: ロルラチニブやブリガチニブなど次世代ALK-TKIの導入)、アレクチニブによるCNS保護効果の長期的な持続性、および一次治療から直接アレクチニブを投与するPDCスキップ戦略の実臨床における効果などが残されている。
方法
ALUR (MO29750; NCT02604342) は、欧州およびアジアの40施設で実施された多施設共同、無作為化、非盲検、第III相臨床試験である。対象患者は、組織学的または細胞学的に進行性、再発性、または転移性のALK陽性NSCLCと診断され、PDCとクリゾチニブを含む2ライン以上の全身療法歴があり、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を有し、ECOG Performance Status (PS) が0-2であった。CNS転移を有する患者も、無症状であるか、放射線治療の適応外であれば組み入れ可能であった。
合計107例の患者が2:1の比率で無作為にアレクチニブ群 (n=72) または化学療法群 (n=35) に割り付けられた (Figure 1)。アレクチニブ群の患者にはアレクチニブ600 mgを1日2回経口投与し、化学療法群の患者には治験責任医師の裁量によりペメトレキセド500 mg/m²またはドセタキセル75 mg/m²を3週間ごとに静脈内投与した。治療は病勢進行、死亡、または中止基準を満たすまで継続された。無作為化は、ECOG PS (0/1 vs 2)、ベースラインCNS転移の有無、およびベースラインCNS転移を有する患者における脳放射線治療歴 (あり/なし) を層別化因子として実施された。病勢進行後、化学療法群からアレクチニブへのクロスオーバーが許可された。
主要評価項目は治験責任医師評価によるPFSであり、層別化Coxモデルを用いて解析された。PFSの推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられ、ログランク検定 (log-rank test) によりP値が算出された。主要な副次評価項目である測定可能なベースラインCNS病変を有する患者におけるCNS ORRは、階層的検定戦略に従って評価された。安全性評価は、National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (NCI CTCAE) version 4.0に基づいて行われた。統計解析は、ITT (intent-to-treat) 集団で実施された。ITT患者のうち、ベースラインでCNS病変を有する患者はC-ITT (CNS ITT) 集団と定義され、C-ITT患者のうち測定可能なCNS病変を有する患者はmC-ITT (measurable CNS ITT) 集団と定義された。本研究のプロトコルは、参加施設の倫理委員会により承認され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。