- 著者: Rosell R, Gatzemeier U, Betticher DC, et al.
- Corresponding author: Rafael Rosell (Hospital Germans Trias i Pujol, Badalona, Spain)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2002
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 12377641
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、シスプラチンは長らく化学療法の中心的な薬剤として位置づけられてきた。NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 による52の無作為化臨床試験のメタ解析では、シスプラチンベースの化学療法が最良の支持療法 (BSC) と比較して、死亡リスクを27%減少させ (ハザード比 [HR] 0.73)、1年生存率を10%改善することが示された。この結果は、シスプラチンがNSCLC治療において生存期間の延長に寄与する重要な薬剤であることを明確に裏付けている。Cullen et al. JClinOncol 1999 や Albain et al. JClinOncol 1991 などの先行研究も、シスプラチンベースのレジメンの有効性を支持するデータを提供している。
一方、カルボプラチンもまた、特に北米においてパクリタキセルとの併用療法 (TC療法) として広く採用されてきた。カルボプラチンは、シスプラチンと比較して投与が容易であり、腎毒性や悪心・嘔吐といった副作用が少ないという実用的な利点を持つ。これにより、外来での投与が可能となり、患者の生活の質 (QOL) 向上に貢献すると考えられていた。実際に、米国の医療従事者を対象とした調査では、パクリタキセル/カルボプラチン併用療法がNSCLCの一次治療として最も多く選択されるレジメンの一つであることが報告されている。Kelly et al. JClinOncol 2001 のSouthwest Oncology Group (SWOG) 試験では、パクリタキセル/カルボプラチンとビノレルビン/シスプラチンが比較され、奏効率と生存期間は同等であったが、骨髄抑制と悪心・嘔吐はビノレルビン/シスプラチン群でより多く認められた。
しかしながら、これらの2つのプラチナ製剤、すなわちシスプラチンとカルボプラチンを、同一のタキサン系薬剤であるパクリタキセルと組み合わせた際の有効性と安全性プロファイルを直接比較した大規模な第III相無作為化試験は、本研究が実施されるまで存在しなかった。そのため、進行NSCLC患者に対する一次治療において、どちらのプラチナ製剤がより優れているか、あるいは同等の効果を持つのかという臨床的な疑問は未解明のままであった。この知識のギャップは、最適な治療選択を決定する上で重要な課題として認識されており、特に欧州においては、両薬剤の比較データが不足していることが指摘されていた。本試験は、この長年の論争に終止符を打ち、進行NSCLC患者におけるパクリタキセル/シスプラチン (TP) 療法とパクリタキセル/カルボプラチン (TC) 療法の相対的な有効性と安全性を明確にすることを目的として計画された、初の多国間共同第III相試験である。
目的
本研究の主要目的は、化学療法未治療の進行NSCLC患者において、パクリタキセル200 mg/m²とカルボプラチン (AUC 6) の併用療法 (TC群) の奏効率が、パクリタキセル200 mg/m²とシスプラチン80 mg/m²の併用療法 (TP群) に対して非劣性であるかを検証することであった。非劣性マージンは奏効率の差で−10%と設定された。
副次評価項目として、以下の項目を比較・評価した。
- 全生存期間 (OS)
- 無増悪生存期間 (PFS)
- 毒性プロファイル (血液毒性および非血液毒性)
- 患者の生活の質 (QOL)
- 予後因子の解析 (組織型を含む)
これらの評価を通じて、進行NSCLC患者に対する最適な一次治療レジメンの選択に資するエビデンスを確立することを目指した。本試験は、進行NSCLC患者におけるプラチナ製剤の最適な選択に関する臨床的疑問を解決し、治療ガイドラインに貢献することを意図して設計された。
結果
患者背景と治療実施状況: 合計618例の患者が無作為化され、TC群309例、TP群309例に割り付けられた。両群間で患者背景(性別、年齢中央値58歳、ECOG PS 0-1が83%、IV期が68%、IIIB期が32%、扁平上皮癌38%など)は良好にバランスが取れていた (Table 1)。治療はTC群で306例に計1311コース、TP群で302例に計1321コースが投与され、両群ともに治療コース数の中央値は4コース (範囲1-10) であった (Table 2)。パクリタキセルの累積投与量中央値はTC群で799 mg/m²、TP群で807 mg/m²とほぼ同等であり、計画されたパクリタキセル用量強度達成率は両群ともに80%以上であった。しかし、カルボプラチンは計画AUC 6の用量で投与されたコースが76%に留まったのに対し、シスプラチンは計画用量80 mg/m²で96%のコースに投与された。TC群では51%の患者で用量減量が必要となり、特にカルボプラチンは144例で減量された。TP群では25%の患者で用量減量が必要となり、シスプラチンは65例で減量された。
主要評価項目 (奏効率) :非劣性が確認されたが同等: 奏効評価可能患者を対象とした解析では、全臨床奏効率 (ORR) はTC群で25% (70/279例、95% CI 20%-31%)、TP群で28% (80/284例、95% CI 23%-34%) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (p=0.45)。奏効率の差の90% CIは−10%から+3.4%であり、TC群はTP群に対する非劣性基準 (下限≥−10%) を満たした。完全奏効はTC群で4例 (1%)、TP群で2例 (1%) と同程度であった (Table 3)。全無作為化患者を対象としたITT解析でも、TC群23% vs TP群26%と同様の結果であった。
全生存期間:シスプラチン群で有意優位: 初回データカットオフ時 (全無作為化患者) の全生存期間中央値は、TC群で8.5ヶ月 (95% CI 7.4-9.6ヶ月)、TP群で9.8ヶ月 (95% CI 8.3-11.0ヶ月) であった。ハザード比はHR 1.20 (90% CI 1.03-1.40) であった。1年生存率はTC群33% (95% CI 27%-38%)、TP群38% (95% CI 33%-44%) であった。22ヶ月の追加追跡後の生存期間アップデート解析 (2001年9月) では、生存期間中央値はTC群8.2ヶ月 (95% CI 7.4-9.6ヶ月) vs TP群9.8ヶ月 (95% CI 8.2-11.0ヶ月) であり、TP群で統計学的に有意な生存期間の延長が認められた (HR 1.22, 90% CI 1.06-1.40, p=0.019) (Figure 3)。2年生存率はTC群9%に対し、TP群では15%であった。この結果は、生存期間の非劣性マージン (HR上限≤1.27) を満たしておらず、TP群の生存優位性が確認された。
無増悪生存期間:シスプラチン群で有意優位: 無増悪生存期間中央値 (ITT解析、セカンダリー治療前進行を打ち切り) は、TC群で3.0ヶ月 (95% CI 2.7-3.9ヶ月) に対し、TP群で4.2ヶ月 (95% CI 3.3-4.4ヶ月) であり、TP群で有意な延長が認められた (p=0.035) (Figure 2)。セカンダリー治療開始をイベントと定義した感度解析では、TC群2.9ヶ月 vs TP群3.3ヶ月であり、有意差は認められなかった (p=0.36)。後続治療はTC群59%、TP群60%の患者で実施され、放射線療法が最も多かった (TC群42%、TP群45%) (Table 4)。二次化学療法としては、ゲムシタビン、ビノレルビン、シスプラチン、エトポシドなどが多く用いられた (Table 5)。
毒性:プロファイルが対照的: 血液毒性はTC群で高頻度に認められた。重症 (グレードIII-IV) 白血球減少はTC群23% vs TP群16% (p<0.05)、重症血小板減少はTC群8% vs TP群2% (p<0.05) であった (Table 6)。一方、非血液毒性はTP群で高頻度であった。悪心/嘔吐 (any grade) はTC群49% vs TP群70% (p<0.05)、重症悪心/嘔吐はTC群6% vs TP群14% (p<0.05) であった。腎毒性 (any grade) はTC群15% vs TP群38% (p<0.05) でTP群に多く認められた (Table 7)。末梢神経障害 (any grade: 両群58-59%、重症グレードIII: TC群9% vs TP群7%)、関節痛/筋肉痛 (any grade: TC群62% vs TP群57%、重症: 両群約10%)、発熱性好中球減少 (TC群6% vs TP群4%) は両群間で有意差がなかった。
QOL:全体的に同等だが一部症状スケールで差異: ベースライン時のQOL質問票の記載率はTC群84%、TP群85%と高かった。全体的なQOL (EORTC QLQ-C30 global health status) および5つの機能尺度 (身体、役割、情緒、認知、社会機能) は、両群間で有意差がなかった (p=0.939)。症状尺度では、食欲不振でTC群が有意に良好であった (p=0.084)。しかし、喀血 (p=0.048)、胸痛 (p=0.046)、疼痛 (p=0.058)、疼痛薬使用 (p=0.054) はTC群で悪化傾向が認められた (Table 8)。これは、TC群における腫瘍コントロールの差を反映している可能性が示唆された。
考察/結論
本試験は、進行NSCLCの一次治療において、パクリタキセルとカルボプラチンまたはシスプラチンを直接比較した初の第III相大規模無作為化試験であり、その結果は臨床実践に重要な示唆を与える。
先行研究との違い: 本研究の結果は、同時期に発表されたSchiller et al. NEnglJMed 2002の結果と対照的である。ECOG試験では、パクリタキセル/シスプラチンを含む4つのレジメン間で奏効率や生存期間に有意差を認めなかった。この違いは、パクリタキセルの投与スケジュール (本試験の3時間点滴 vs ECOG試験の24時間点滴) の差に起因する可能性があり、パクリタキセルの連続注入が併用療法の治療効果を修飾する可能性が示唆される。
新規性: 本研究で初めて、パクリタキセルとの併用において、奏効率は同等であるものの、全生存期間および無増悪生存期間においてシスプラチンベースのレジメン (TP群) がカルボプラチンベースのレジメン (TC群) よりも有意に優れていることを示した。TP群の生存期間中央値は9.8ヶ月であり、TC群の8.2ヶ月と比較して1.6ヶ月の延長が認められた (HR 1.22, 90% CI 1.06-1.40, p=0.019)。この生存優位性は、進行NSCLC患者の一次治療におけるシスプラチンの重要性を再確認する新規な知見である。
臨床応用: 毒性プロファイルは両群で対照的であり、臨床現場での治療選択に重要な情報を提供する。TC療法は、重症白血球減少症や血小板減少症が多いものの、悪心・嘔吐や腎毒性が少なく、投与管理が比較的容易である。一方、TP療法は、悪心・嘔吐や腎毒性が高いものの、適切な支持療法が提供される環境下では許容範囲内の毒性であり、生存期間の延長という明確な臨床的意義が期待できる。したがって、患者の全身状態 (PS)、腎機能、および治療目標 (根治的治療か緩和的治療か) に応じて、個別化された治療選択を行うことが重要である。本試験の結果は、シスプラチンベースのレジメンが進行NSCLC患者の第一選択肢として推奨されるべきであることを示唆している。
残された課題: 本研究の限界として、TC群におけるカルボプラチンの用量減量 (76%のコースでしか計画AUCに達しなかった) が結果に影響を与えた可能性が挙げられる。特に、34%の患者で初回からカルボプラチン用量が減量されていたことは、結果の解釈において考慮すべき点である。今後の検討課題として、カルボプラチンの適切な用量設定や、用量減量が生存アウトカムに与える影響を詳細に評価する研究が必要である。また、本試験はEGFR変異やALK融合遺伝子などの分子標的薬が登場する以前のデータであり、現在のNSCLC治療における本試験の位置づけは、ドライバー遺伝子陰性NSCLCの化学療法の歴史的参照点としての性格が強い。今後の研究では、分子標的薬との併用や、免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせにおける両プラチナ製剤の役割を評価することが残された課題である。
方法
本試験は、16ヶ国42施設が参加した多施設共同、無作為化、非盲検第III相試験である。1996年4月から1997年7月にかけて、化学療法未治療の進行NSCLC (IIIB期またはIV期) 患者618例が登録された。患者は、パクリタキセル/カルボプラチン (TC) 群309例とパクリタキセル/シスプラチン (TP) 群309例に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は、施設、ECOGパフォーマンスステータス (0-1 vs 2)、病期 (IIIB vs IV)、および組織型 (扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌) を層別因子として、Pocock-Simon型の動的バランスアルゴリズムを用いて中央で実施された。本試験は、NCT番号は付与されていないが、当時の標準的な臨床試験登録手続きに従って実施された。
両群ともに、パクリタキセル200 mg/m²を3時間かけて点滴静注した後、TC群ではカルボプラチン (Calvert式によりAUC 6で算出) を、TP群ではシスプラチン80 mg/m²を30分かけて点滴静注した。これらの治療は3週間に1回のサイクルで、最大10サイクルまで実施された。パクリタキセル投与前の前投薬として、デキサメタゾン、ジフェンヒドラミン、およびH2ブロッカーが投与された。また、制吐剤としてデキサメタゾン、オンダンセトロンまたはグラニセトロン、ロラゼパムが推奨された。
主要評価項目である奏効率の非劣性検定では、TP群に対するTC群の奏効率の差の90%信頼区間 (CI) の下限が−10%以上であれば非劣性と判定された。この検定には、奏効評価可能患者520例が必要とされ、本試験では80%の検出力を持つように設計された。副次評価項目である生存期間および無増悪生存期間の非劣性検定では、ハザード比 (HR) の90% CIの上限が1.27以下であれば非劣性と判定された。
腫瘍縮小効果は、WHO基準に従い2サイクルごとに評価され、独立した放射線評価委員会によって確認された。病勢進行が認められた患者は化学療法を中止した。安定病変の患者は最大6サイクルまで治療を継続した。完全奏効または部分奏効を達成した患者は、最大10サイクルまで治療を継続した。
毒性評価は、治療を受けた全患者を対象とし、最悪のイベントを考慮して報告された。血液毒性および非血液毒性について、Fisherの正確検定を用いて両群間の比較が行われた。QOLは、Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993 が開発したEORTC QLQ-C30および肺癌特異的モジュールであるEORTC QLQ-LC13を用いて、ベースライン時および各サイクル終了時に自己記入式で評価された。QOLの経時的変化は、Wei-Johnson検定を用いた確率的順序付けの縦断的解析曲線によって評価された。
統計解析は、1998年11月2日にロックされたデータベースに基づいて実施された。さらに、2001年9月11日にロックされた更新データベースを用いて、生存期間の追加解析が実施された。無増悪生存期間は、無作為化日から病勢進行または最終フォローアップまでの期間と定義された。感度分析として、二次治療開始をイベントと定義した解析も行われた。Cox比例ハザード回帰モデルが生存期間および無増悪生存期間の解析に用いられ、腫瘍病期、パフォーマンスステータス、組織型で層別化された。