• 著者: Schiller JH, Harrington D, Belani CP, Langer C, Sandler A, Krook J, Zhu J, Johnson DH, for the Eastern Cooperative Oncology Group
  • Corresponding author: Joan H. Schiller, MD (University of Wisconsin Hospital and Clinics, Madison, WI, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2002
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11784875

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) は、世界的にがん関連死の主要な原因であり、診断時の多くは切除不能な進行期(Stage IIIB/IV)である。未治療の転移性NSCLC患者の全生存期間 (OS) 中央値はわずか4〜5ヶ月、1年生存率は約10%と極めて予後不良であった。化学療法は、最善の支持療法 (BSC) と比較して、OSのわずかながら統計学的に有意な改善をもたらすことが、NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995などの複数のメタ解析で示されていた。また、Rapp et al. JClinOncol 1988Bonomi et al. JClinOncol 1989などのランダム化比較試験でも、化学療法が症状を軽減し、患者のQOL (Quality of Life) を改善することが報告されていた。

1990年代に入り、パクリタキセルやドセタキセルといったタキサン系薬剤、ゲムシタビン、ビノレルビンなどの「第3世代」抗がん剤が開発された。これらの新規薬剤とプラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)を組み合わせたレジメンは、複数の第II相試験において高い奏効率と1年生存率の改善を示し、従来の第2世代レジメン(例:シスプラチン+エトポシド)の1年生存率20〜25%を上回る可能性が示唆された。しかし、当時確立されていた標準レジメンであるシスプラチン+パクリタキセル(24時間点滴)を対照として、これらの新興第3世代レジメン(シスプラチン+ゲムシタビン、シスプラチン+ドセタキセル、カルボプラチン+パクリタキセル)の優越性を直接比較する大規模な第III相試験は未実施であり、どのレジメンが最も効果的かつ忍容性が高いかは未解明であった。

進行NSCLCの治療において、どの第3世代プラチナダブレットレジメンが最も有効かつ忍容性が高いかを前向きに比較し、将来の臨床試験の標準治療を確立する必要があった。特に、毒性プロファイルの違いが患者のQOLに与える影響も考慮すべき重要な要素であったが、この点に関する詳細な比較データは不足していた。本研究は、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) が主導するECOG 1594試験として、これらの課題に対処するために計画された。先行研究であるECOG E1592試験では、シスプラチン+パクリタキセルが基準レジメンとして用いられており、本試験はその評価を引き継ぎ、より広範な第3世代レジメンの比較を行った。

目的

本研究 (ECOG 1594試験) の主要な目的は、進行非小細胞肺がん (Stage IIIB/IV/再発) の未治療患者において、標準治療であるシスプラチン+パクリタキセル(対照群、24時間点滴)と比較して、以下の3つの実験的レジメンのいずれかが全生存期間 (OS) において優越性を示すかを検証することであった。

  1. シスプラチン+ゲムシタビン
  2. シスプラチン+ドセタキセル
  3. カルボプラチン+パクリタキセル

副次評価項目として、病勢進行までの期間 (TTP)、奏効率 (ORR)、および各レジメンの安全性プロファイル(有害事象の発生率と重症度)を評価し、将来の臨床試験における最適な基準レジメンを特定することも目的とした。特に、毒性プロファイルの違いが患者の忍容性に与える影響を詳細に検討し、OSが同等である場合に、より良好な安全性プロファイルを持つレジメンを特定することを目指した。本試験は、これらの比較を通じて、進行NSCLC患者に対する最適な一次治療レジメンの選択に貢献し、今後の臨床試験の標準治療を確立することを意図した。

結果

患者背景と適格性: 合計1,207例の患者が1996年10月から1999年5月の間に登録された。このうち52例 (4.3%) が後に不適格と判断され、最終的に1,155例が主要解析の対象となった。患者のベースライン特性は4つの治療群間でバランスが取れていた(Table 1)。中央年齢は63歳で、約3分の2が男性であった。PS 1の患者が64%を占め、脳転移を有する患者は13%であった。ほとんどの患者 (87%) がStage IVまたは再発疾患であった。

全生存期間 (OS) に有意差なし: 全1,207例のOS中央値は8.0ヶ月であり、1年生存率は34%、2年生存率は12%であった。適格患者1,155例では、OS中央値は7.9ヶ月 (95% CI 7.3-8.5)、1年生存率は33% (95% CI 30-36%)、2年生存率は11% (95% CI 8-12%) であった(Table 2)。4つの治療群間でのOSに統計学的に有意な差は認められなかった(Figure 2A)。各群のOS中央値は、A群 (シスプラチン+パクリタキセル) が7.8ヶ月 (95% CI 7.0-8.9)、B群 (シスプラチン+ゲムシタビン) が8.1ヶ月 (95% CI 7.2-9.4)、C群 (シスプラチン+ドセタキセル) が7.4ヶ月 (95% CI 6.6-8.8)、D群 (カルボプラチン+パクリタキセル) が8.1ヶ月 (95% CI 7.0-9.5) であった。対照群であるA群と各実験群のOS比較において、有意なハザード比の差は認められなかった (例: B群 vs A群: HR 0.98, 95% CI 0.84-1.15, p=0.81)。1年生存率もA群31%、B群36%、C群31%、D群34%であり、2年生存率もA群10%、B群13%、C群11%、D群11%であったが、いずれも群間に有意差はなかった(Table 3)。

奏効率 (ORR) と病勢進行までの期間 (TTP): 全適格患者1,155例の全体奏効率は19%であった(Table 3)。各群の奏効率はA群21%、B群22%、C群17%、D群17%であり、対照群との間に有意差は認められなかった。安定病変 (SD) の割合はA群18%、B群18%、C群25%、D群23%であった。病勢進行 (PD) の割合はA群49%、B群40%、C群42%、D群49%と群間でばらつきが見られたが、統計学的な有意差はなかった。TTP中央値は全体で3.6ヶ月 (95% CI 3.3-3.9) であった。B群 (シスプラチン+ゲムシタビン) のTTP中央値は4.2ヶ月であり、対照A群の3.4ヶ月と比較して有意に長かった (HR 0.81, 95% CI 0.70-0.93, P=0.001)(Figure 2B)。C群 (3.7ヶ月) とD群 (3.1ヶ月) のTTPは、対照A群との間に有意差はなかった。ただし、B群のTTP延長はOSの改善には繋がらず、後述する腎毒性の増加を伴っていたため、臨床的意義は限定的と評価された。

Performance Status (PS) 別解析: PS別のOS解析では、PS 0の患者のOS中央値は10.8ヶ月、1年生存率は42%であった。PS 1の患者ではOS中央値7.1ヶ月、1年生存率30%であった。一方、PS 2の患者ではOS中央値3.9ヶ月、1年生存率19%と著しく予後不良であった(Table 2)。PS 0とPS 1または2との間のOS差は統計学的に有意であった (P<0.001)。このPS 2患者の著明な予後不良と高い有害事象発生率が、試験途中でPS 2患者を除外基準に追加する決定の根拠となった。

安全性プロファイル (Grade 3〜5毒性): 各治療群におけるGrade 3〜5の有害事象発生率は以下の通りであった(Table 4)。

  • 好中球減少: A群 (Grade 3: 18%, Grade 4: 57%)、B群 (Grade 3: 24%, Grade 4: 39%)、C群 (Grade 3: 21%, Grade 4: 48%)、D群 (Grade 3: 20%, Grade 4: 43%)。
  • 血小板減少: B群でGrade 4の血小板減少が28%と顕著に高かった (P<0.05 vs A群2%)。
  • 発熱性好中球減少症 (Febrile neutropenia): A群16%、B群4% (P<0.05 vs A)、C群11%、D群4% (P<0.05 vs A)。D群とB群で有意に低かった。
  • 悪心: A群25%、B群37%、C群24%、D群9% (P<0.05 vs A)。D群で有意に低率であった。
  • 嘔吐: A群24%、B群35%、C群21%、D群8% (P<0.05 vs A)。D群で有意に低率であった。
  • 腎毒性 (Grade 3〜5): B群で9%と有意に高かった (P<0.05 vs A群3%)。これはB群のシスプラチン用量 (100 mg/m²) がA群 (75 mg/m²) より高かったことに起因すると考えられる。
  • 過敏反応 (Grade 3〜4): C群で7%と有意に高かった (P<0.05 vs A群3%)。これはドセタキセルに関連する毒性である。

各患者が経験した最高グレードの毒性(Grade 4+5の合計)は、A群68%、B群68%、C群61%、D群53%であった。D群 (カルボプラチン+パクリタキセル) が最も低い重篤毒性率を示した。

治療中止理由: D群の患者の53%が病勢進行により治療を中止したのに対し、A群では44%であった (P<0.001)。一方、B群では27%の患者が治療合併症により中止したのに対し、A群では15%であった (P<0.001)。これはB群の毒性プロファイルの高さを示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: ECOG 1594試験は、進行NSCLCの一次化学療法を対象とした当時最大規模の第III相試験の一つであり、第3世代プラチナダブレット4レジメンが比較的同等のOS(OS中央値7.9ヶ月、1年生存率33%)をもたらすという結論を、高い検出力を持つ設計で実証した。これは、Rapp et al. JClinOncol 1988Bonomi et al. JClinOncol 1989などの先行研究で報告された第2世代レジメン(例:シスプラチン+エトポシド)での1年OS 20〜25%から、第3世代レジメンで33%へと改善が認められたことを示しており、第3世代抗がん剤の進歩を裏付けるものであった。一方で、本試験の結果は、化学療法単独によるOS改善の絶対値が限定的であり、この「33%の壁」が複数のメタ解析で確認されたことと一致し、その後の抗血管新生療法や分子標的療法、免疫療法の開発を必要とする科学的根拠の一つとなった点で、これまでの治療パラダイムに新たな視点をもたらした。

新規性: 本研究で初めて、4つの主要な第3世代プラチナダブレットレジメン間でOSに有意差がないことを大規模な無作為化比較試験で明確に示した。この結果は、OSが同等であるならば、毒性プロファイルが治療選択の重要な決定因子となるという新規の視点を提供した。特に、カルボプラチン+パクリタキセルレジメンが、他のレジメンと比較して悪心、嘔吐、発熱性好中球減少症、腎毒性などの重篤な有害事象の発生率が有意に低いことを初めて実証した。この毒性プロファイルの優位性は、患者の忍容性とQOLを考慮した治療選択において極めて重要な新規知見である。

臨床応用: 4つのレジメン間でOSと奏効率が同等であった結果、毒性プロファイルの違いが将来の基準レジメン選択の決め手となった。D群 (カルボプラチン+パクリタキセル) は、悪心 (Grade 3: 9% vs A群25%, P<0.05)、嘔吐 (Grade 3-4: 8% vs A群24%, P<0.05)、発熱性好中球減少症 (Grade 3-4: 4% vs A群16%, P<0.05)、および腎毒性において、他の3群よりも明らかに有利な安全性プロファイルを示した。このため、本試験はECOGの将来の臨床試験における基準レジメンとしてカルボプラチン+パクリタキセルを選択するという結論に至り、この選択はECOG E4599試験(ベバシズマブ追加試験、Sandler et al. 2006)の対照群に引き継がれるなど、その後の臨床現場における標準治療の確立に大きく貢献した。シスプラチン+ゲムシタビン群のTTP改善は単独では臨床的意義を持たず、高い腎毒性や血小板減少という毒性コストを正当化できないと判断された。また、PS 2患者での重篤な有害事象率の高さと著明な予後不良(OS中央値3.9ヶ月)は、白金製剤ダブレットがPS 2患者に過剰な毒性をもたらすリスクを示唆しており、「PS 0〜1には白金ダブレットを、PS 2には単剤または緩和的アプローチを」という現在のガイドラインの根拠の一部となっている。

残された課題: 本研究の限界として、QOLの評価が行われなかった点(当時の試験設計上の制約)、および2次治療に関する詳細なデータが収集されなかった点が挙げられる。また、本試験が実施された時点では、組織型(腺がん、扁平上皮がんなど)や分子マーカー(EGFR変異、ALK再構成など)による患者選択という概念が確立されておらず、全組織型の混在集団での結果であった。このため、特定の組織型や遺伝子変異を有する患者における各レジメンの最適な選択については、さらなる検討が残された課題である。JMDB試験(Scagliotti et al. 2008)が後にシスプラチン+ペメトレキセドとシスプラチン+ゲムシタビンの比較で初めて「組織型別の治療効果差」を示し、NSCLCにおける組織型依存的な薬剤選択という新パラダイムを確立したが、ECOG 1594試験はその前提となる「化学療法の等価性」の基盤を提供した歴史的試験として位置付けられる。今後の研究では、個別化医療の観点から、バイオマーカーに基づいた治療選択の最適化が重要な方向性となる。

方法

本研究は、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) が主導した多施設共同の第III相無作為化比較試験である (NCT00002621)。試験期間は1996年10月から1999年5月までで、合計1,207例の患者が登録された。フォローアップ期間中央値は8.0ヶ月であり、2001年5月1日時点で1,074例の患者が死亡していた。

対象患者: Stage IIIB(悪性胸水または心嚢水合併)またはStage IV、あるいは再発NSCLCの患者が対象とされた。主要な適格基準は以下の通りである。

  • 化学療法未施行であること。
  • 測定可能または非測定病変を有すること。
  • 年齢が18歳以上であること。
  • ECOG Performance Status (PS) が0〜2であること。ただし、1997年10月以降、PS 2患者での重篤な有害事象率が高かったため、PS 2は除外基準に追加された(それまでに66例のPS 2患者が登録済みであった)。
  • 十分な血液学的機能(白血球数 ≥ 4,000/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³)、肝機能(ビリルビン値 ≤ 1.5 mg/dL)、腎機能(クレアチニン値 ≤ 1.5 mg/dL)を有すること。
  • 安定した脳転移を有する患者も組み入れ可能であった。
  • 症状コントロール目的の先行放射線照射は許容されたが、指標病変への照射は認められなかった。
  • 全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。

無作為化と層別化: 合計1,207例の患者は、以下の4つの治療群に1:1:1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、PS (0〜1 vs 2)、過去6ヶ月間の体重減少 (<5% vs ≥5%)、病期 (IIIB vs IV/再発)、および脳転移の有無を層別化因子として行われた。

治療レジメン:

  • A群 (対照群): シスプラチン 75 mg/m² (day 2) + パクリタキセル 135 mg/m² (24時間点滴, day 1)。3週毎に繰り返す。 (適格例 n=288)
  • B群 (実験群): シスプラチン 100 mg/m² (day 1) + ゲムシタビン 1,000 mg/m² (day 1, 8, 15)。4週毎に繰り返す。 (適格例 n=288)
  • C群 (実験群): シスプラチン 75 mg/m² (day 1) + ドセタキセル 75 mg/m² (day 1)。3週毎に繰り返す。 (適格例 n=289)
  • D群 (実験群): カルボプラチン AUC 6.0 (day 1) + パクリタキセル 225 mg/m² (3時間点滴, day 1)。3週毎に繰り返す。 (適格例 n=290)

評価項目: 主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、各実験群と対照群のOS分布を比較した。多重比較を調整するため、各比較における統計学的有意水準は両側P値 0.016と設定された。本試験は、対照群のOS中央値が9ヶ月であると仮定した場合、実験群で33%のOS改善(OS中央値12ヶ月)を検出する80%の検出力を持つように設計された。この検出力には、各ペア比較で約535例の死亡イベントが必要とされた。

副次評価項目には、病勢進行までの期間 (TTP)、奏効率 (ORR)、および有害事象の発生率と重症度が含まれた。奏効はECOGの標準基準に従って評価され、完全奏効 (CR) は4週間以上全ての既知病変の消失、部分奏効 (PR) は測定可能病変の垂直径の合計が50%以上縮小し4週間以上持続、病勢進行 (PD) は任意の病変の面積が25%以上増加または新規病変の出現と定義された。

統計解析: OSおよびTTPの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較にはログランク検定が使用された。カテゴリカルデータ(奏効率、有害事象など)の比較にはフィッシャーの正確検定が用いられた。中間解析はECOGデータモニタリング委員会によって監視され、O’Brien-Fleming境界を用いて多重比較が調整された。