• 著者: Anderson H, Hopwood P, Stephens RJ, Thatcher N, Cottier B, Nicholson M, Milroy R, Maughan TS, Falk SJ, Bond MG, Burt PA, Connolly CK, McIllmurray MB, Carmichael J (UK NSCLC Gemcitabine Group)
  • Corresponding author: H Anderson (Wythenshawe Hospital, Manchester, UK)
  • 雑誌: British Journal of Cancer
  • 発行年: 2000
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 10945489

背景

1990年代の非小細胞肺癌 (NSCLC) 治療において、化学療法の主たる目的は生存期間の延長よりも症状緩和であり、患者のQOL (Quality of Life) を適切に評価することの重要性が認識されていた。NSCLC Collaborative Group (NSCLCCG) によるメタ解析では、シスプラチンベースのレジメンがBSC (Best Supportive Care) と比較してわずかながら5年生存率の改善を示したが、その効果は控えめであり、化学療法の毒性とのバランスが常に問われていた。この時代、QOLを主要評価項目とした肺癌化学療法試験はほとんど存在せず、患者自身が評価する症状指標を一次エンドポイントとして化学療法の緩和的価値を直接証明することが強く求められていた。医師による症状評価が患者の自己評価を過小評価する傾向があることも指摘されており、患者報告アウトカムの重要性が強調されていた。従来の臨床試験では、生存期間の延長が主要な焦点であり、緩和ケアの側面が十分に評価されておらず、患者中心の評価データが不足していた。

先行研究において、ゲムシタビン (gemcitabine) は複数の第II相試験においてNSCLCに対して有望な単剤活性を示し、奏効率は18%から26%、中央値全生存期間は6.2ヶ月から12.3ヶ月と報告されていた。また、シスプラチンベースのレジメンと比較して忍容性が良好であるとされ、疾患関連症状や全身状態がゲムシタビン投与後に改善することが示唆されていた。これらの知見から、ゲムシタビンは症状緩和を目的とした化学療法として適していると評価されていたが、QOLを主要評価項目とした大規模なランダム化比較試験は不足しており、その緩和効果を客観的に評価する必要があった。QOL評価の複雑性、特に患者の脱落やデータ欠損の問題、そして緩和の明確な定義の欠如といった課題が残されており、これらの問題に対処するための研究が未解明な状態であった。

本試験は、英国で1994年12月に開始された最初の「QOLを主要評価項目とした」肺癌化学療法ランダム化試験であり、症候性の進行NSCLC患者における化学療法の緩和効果を患者自記式評価で直接検証した先駆的なデザインであった。この研究は、QOL評価の複雑性、特に患者の脱落やデータ欠損の問題、そして緩和の明確な定義の欠如といった課題に対処するために慎重に計画された。本試験は、生存延長とは異なる軸で化学療法の価値を評価し、進行NSCLC患者の治療戦略におけるQOLの役割を確立することを目指した。

目的

症候性の手術不能NSCLC患者を対象に、ゲムシタビンとBSCの併用療法とBSC単独療法を比較し、患者が自ら評価した症状スコアであるSS14 (14-item symptom subset) の改善を主要評価項目として化学療法のQOLへの影響を検証すること。主要評価項目は、ベースラインから2ヶ月時点でのSS14平均スコアの変化率、およびベースラインから2ヶ月時点でのSS14スコアが25%以上持続的に改善 (4週間以上継続) した患者の割合の2点とした。副次評価項目として、全生存期間 (OS)、全QOLパラメータ、腫瘍奏効率、および緩和放射線治療の必要性を比較することを目的とした。本研究は、QOLを主要評価項目とすることで、進行NSCLCにおける緩和化学療法の臨床的意義を患者中心の視点から評価することを目指した。

結果

患者背景と治療遵守: 英国25施設から300名の患者が登録され、各群150例にランダム化された (Figure 1)。患者背景 (年齢、性別、KPS、病期) は両群間でバランスが取れていた (Table 2)。全患者の40%が転移性疾患を有していた。主要評価項目であるQOLデータ解析の対象となった患者は、ゲムシタビン+BSC群で99例 (66%)、BSC群で102例 (68%) であった。QOL評価不能であった患者は、評価可能であった患者と比較して、より高い症状負担と低い機能状態を示していた。ゲムシタビン群の患者は中央値3サイクルの治療を受け、計画通り6サイクルを完遂したのは29例 (19%) であった。ゲムシタビンの平均投与量は887 mg/m²であり、計画量の89%に相当した。

主要評価項目の達成状況: ベースラインから2ヶ月時点でのSS14平均スコア変化率は、ゲムシタビン+BSC群で-10.2% (改善) であったのに対し、BSC群では+1.1% (悪化) であった (P=0.113、2標本t検定) (Table 3)。この結果は統計的有意差には達しなかったものの、ゲムシタビン群での症状改善の傾向を示した。一方で、SS14スコアが25%以上持続的に改善 (4週間以上継続) された患者の割合は、ゲムシタビン+BSC群で33/150例 (22%) であったのに対し、BSC群では13/150例 (9%) であり、ゲムシタビン+BSC群で有意に高かった (P=0.0014、Pearsonのカイ二乗検定) (Table 3)。この主要評価項目は達成され、ゲムシタビン+BSCが統計的に有意かつ臨床的に意味のある症状改善をもたらすことが示された。時点別に見ると、4ヶ月時点でのSS14スコア25%以上の改善達成割合もゲムシタビン群で44% vs BSC群で25%と有意差が認められた (P=0.015)。

多項目QOLスコアの包括的改善: EORTC QLQ-C30およびLC13のサブスケールおよび項目を比較した結果、2ヶ月時点では25の分析変数中6項目で治療間差が10%以上認められた (Figure 2A)。ゲムシタビン+BSC群で改善が大きかったのは、感情機能、疼痛症状スケール、胸痛、咳嗽、疲労の5項目であった。一方、BSC群で改善が大きかったのは呼吸困難の1項目のみであった。悪化の面では、2ヶ月時点で5項目で治療間差が10%以上認められ (Figure 2B)、ゲムシタビン+BSC群で役割機能と脱毛の悪化が大きかったのに対し、BSC群では胸痛、肩痛、感情機能の悪化が大きかった。4ヶ月時点では、6項目でゲムシタビン+BSC群の改善が大きかった (胸痛、肩痛、感情機能、役割機能、社会機能、経済的影響)。これらの広範なQOL改善は、ゲムシタビンの多面的な症状緩和効果を示すものであった。

生存期間と腫瘍奏効率: 2000年6月4日時点でのデータカットオフにおいて、13名の患者が生存しており、生存者の中央値追跡期間は25.3ヶ月であった。両群間でOSに有意差は認められなかった (Figure 3)。生存期間中央値 (mOS) は、ゲムシタビン+BSC群で5.7 vs BSC群で5.9 months (HR 1.05, 95% CI 0.83-1.33, p=0.84) であった。1年生存率はゲムシタビン+BSC群で25% vs BSC群で22% (HR 0.96, 95% CI 0.75-1.23, p=0.78) であり、2年生存率はそれぞれ6%と7%であった。ゲムシタビン+BSC群の135例の評価可能患者のうち、客観的奏効は25例に認められ、奏効率は18.5% (95% CI 13-26%, p=0.012) であった。

緩和放射線治療の遅延効果: 緩和放射線治療の実施率は、ゲムシタビン+BSC群で74/150例 (49%) であったのに対し、BSC群では119/150例 (79%) と、ゲムシタビン群で有意に低かった。2ヶ月時点での放射線治療実施率は、ゲムシタビン+BSC群で9% vs BSC群で58% (HR 0.12, 95% CI 0.07-0.21, p<0.001) と、BSC群では早期から大多数の患者が放射線治療を受けていた。緩和放射線治療開始までの中央値期間は、ゲムシタビン+BSC群で29.1 vs BSC群で3.8 weeksであり、ゲムシタビン群で大幅に延長された (p<0.001)。

安全性プロファイル: ゲムシタビン+BSC群におけるWHO Grade 3/4の毒性発現率は低かった。主な毒性は好中球減少13%、感染症0.7%、血小板減少2%、悪心嘔吐9%、倦怠感6%、皮疹4%、肺毒性3%であった。患者報告による副作用として、ゲムシタビン群で脱毛 (31% vs 6%)、足首浮腫 (30% vs 11%)、インフルエンザ様症状 (32% vs 15%) の発生率が高かったが、皮疹 (13% vs 16%) に差はなかった。放射線治療後のRTOG (Radiation Therapy Oncology Group) Grade 3/4肺毒性は、ゲムシタビン+BSC群で後続で放射線治療を受けた患者では発生がなかったのに対し、BSC群で放射線治療を受けた患者では4%に認められた。

考察/結論

先行研究との違い: 本試験は、手術不能NSCLC患者を対象にQOLを主要評価項目とした最初のランダム化比較試験であり、ゲムシタビン+BSCがBSC単独と比較して、患者報告によるSS14スコアの持続的改善を達成することを示した (22% vs 9%、P=0.0014)。全生存期間に有意差はなかった (mOS 5.7 vs 5.9 months、P=0.84) にもかかわらず、QOLの有意な改善が達成されたことは、緩和化学療法の価値を生存延長とは独立した軸で評価することの妥当性を示すものである。これは、従来のNSCLC化学療法試験が生存期間の延長に焦点を当てていたのと対照的である。

新規性: 本研究で初めて、進行NSCLC患者においてゲムシタビン単剤療法が緩和放射線治療の必要性を大幅に遅延させ、実施率を低下させることを示した。ゲムシタビン+BSC群では緩和放射線治療開始までの中央値期間が29.1週であったのに対し、BSC群では3.8週と著しく短かった。また、緩和放射線治療の実施率もゲムシタビン群で49%であったのに対し、BSC群では79%と有意に低かった (P<0.001)。この結果は、化学療法が症状管理において放射線治療の代替または補完的役割を果たす可能性を示唆する、これまで報告されていない重要な新規知見である。

臨床応用: 本知見は、進行NSCLC患者に対する全身化学療法の積極的な位置づけを支持するものであり、臨床現場において症状緩和とQOL改善を目的としたゲムシタビン単剤療法の有用性を示す。特に、緩和放射線治療の必要性を減らし、その開始を遅らせる効果は、医療資源の効率的な利用という観点からも臨床的意義が大きい。これにより、患者の治療選択肢が広がり、より個別化された緩和ケアの提供に貢献すると考えられる。

残された課題: 本試験の限界として、主要評価項目の一つであるSS14平均スコア変化率がP=0.113で有意差に達しなかった点、およびQOL評価可能率が67%にとどまった点 (重症例でQOL評価が困難であった可能性) が挙げられる。また、本試験の患者背景は症候性のKPS 60-90、転移性40%を含む実臨床に近い設定であったが、ゲムシタビンの第II相試験では通常12週以上の生存見込みが要件であったのに対し、本試験では4週で良いという設定が、より予後不良な患者群を含んだ可能性がある。今後の検討課題として、ゲムシタビンとプラチナ製剤の併用療法や、現代のドライバー変異に基づく個別化治療におけるQOL評価の役割、およびより効果的な呼吸困難の緩和戦略の開発が残されている。

方法

本試験は、英国25施設で実施された多施設共同ランダム化比較試験 (RCT) である。本試験は特定のNCT番号を有さないが、多施設共同ランダム化比較試験として実施された。

対象患者: 組織学的または細胞学的に確認されたNSCLC患者で、未治療の症候性局所進行または転移性疾患を有し、根治的切除または放射線治療の対象とならない患者が適格とされた。Karnofsky Performance Status (KPS) は60-90、測定可能病変を有し、推定生存期間は少なくとも4週間であった。緊急の放射線治療を必要とする患者、脳転移を有する患者、骨髄機能不全 (白血球数 <3.5×10⁹/L、血小板数 <100×10⁹/L、ヘモグロビン <100g/L)、または肝機能不全 (ビリルビンが正常範囲の3倍超、ALT/ASTが正常範囲の3倍超、肝転移がある場合は5倍超) の患者は除外された。患者はQOL質問票を記入する意思と能力があり、書面によるインフォームドコンセントが得られた。

治療: ゲムシタビン+BSC群に割り付けられた患者は、ゲムシタビン1000 mg/m²を30分かけて静脈内投与で、28日サイクルのDay 1, 8, 15に投与された。最大6サイクルまで投与可能であった。毒性に応じて用量減量や投与省略が行われた。BSCは両群に共通して提供され、症状に応じたあらゆる緩和治療が許容されたが、化学療法は除外された。

ランダム化と盲検化: コンピュータ生成された乱数を用いて中央電話割り付けが行われた。患者は25の治療センター、KPS (80-90 vs 60-70)、および病期 (局所進行 vs 転移) で層別化された。

評価項目: 主要評価項目 (primary endpoint) は以下の2点であった。

  1. ベースラインから2ヶ月時点でのSS14平均スコアの変化率。SS14は、Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993およびLC13から構成される14項目の症状サブセット (咳嗽、血痰、安静時/歩行時/階段での呼吸困難、胸痛、上肢/肩痛、全身疼痛、倦怠感、疲労、不眠、心配、食欲不振、便秘) である。
  2. ベースラインから2ヶ月時点でのSS14スコアが25%以上持続的に改善 (4週間以上継続) された患者の割合。

副次評価項目は、全生存期間 (OS)、全QOLパラメータ (EORTC QLQ-C30 (European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire Core 30) の全機能・症状スケール)、ゲムシタビン+BSC群における客観的腫瘍奏効率 (WHO基準) とされた。

QOL評価: QOL評価はベースライン、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月の時点で、患者自身が質問票を記入することで行われた。ベースラインのQOLフォームはランダム化前後1週間以内に完了したもののみを含め、2, 4, 6ヶ月の評価時点には±1週間の時間窓が許容された。

サンプルサイズと統計解析: 各群150例、合計300例の患者を登録するよう設計された。このサンプルサイズは、SS14平均スコアにおいて0.4標準偏差の差を検出するために、有意水準5%、検出力90%を確保するとされた。SS14平均スコアの変化率の比較には2標本t検定が用いられた。持続的症状改善率の差はPearsonのカイ二乗検定 (chi-square test) で評価された。OS曲線はKaplan-Meier法を用いて作成され、ログランク検定 (log-rank test) で比較された。