• 著者: Non-Small Cell Lung Cancer Collaborative Group (Burdett S, Stephens R, Stewart L, Tierney J, Auperin A, Le Chevalier T, Le Pechoux C, Pignon JP, et al.)
  • Corresponding author: S Burdett (MRC Clinical Trials Unit, London, UK)
  • 雑誌: Cochrane Database of Systematic Reviews
  • 発行年: 2010 (2012年更新)
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Systematic Review / IPD (individual patient data) Meta-analysis
  • PMID: 20464750

背景

肺癌は世界年間約 150 万例が新規診断され、その約 85% が非小細胞肺癌 (NSCLC) である。NSCLC は癌死亡の最大原因であり、全病期を通じた 5 年生存率は約 14% に留まる。外科切除に適するのは全患者の約 30% のみであり、根治的放射線療法の対象が 20% を占め、残る 50% — すなわち転移例や手術不能例 — は緩和的治療の対象となる。最善支持療法 (BSC) は緩和的放射線療法、抗生物質、コルチコステロイド、鎮痛薬、制吐薬、輸血、心理社会的サポートを含む。

化学療法の生存改善効果は 1988 年の Rapp らのカナダ多施設 RCT (Rapp et al. JClinOncol 1988) がシスプラチン含有化学療法による OS 改善を先駆的に示した後、1995 年に発表された初回 IPD メタ解析 (NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995) が 52 RCT・9000 例以上のデータを統合し、白金ベース化学療法が生存を改善することを確立した。しかし当時は高齢患者やパフォーマンスステータス (PS) 不良患者における化学療法の役割に関してエビデンスが不足しており、第 3 世代薬 (ビノレルビン、パクリタキセル、ゲムシタビン) が承認される以前のデータに限られていた。また、化学療法のサブグループ間での効果均一性について十分な検出力が得られていないというgap in knowledgeが残されており、これらの未解決の問いに答えるためには新規データを組み込んだ更新 IPD メタ解析が不可欠であった。

1995 年以降、新規薬剤を用いた多数の試験が完了し、高齢者 NSCLC へのビノレルビン単剤療法を評価した ELVIS 試験 (1996-1997)、ゲムシタビン対 BSC の Manchester 1 試験 (Anderson et al. BrJCancer 2000)、パクリタキセル対 BSC の Manchester 2 試験 (1995-1997) などが実施された。これらの新規エビデンスを統合し、化学療法の効果に関する決定的な結論を得ることが求められていた。本 Cochrane IPD メタ解析は、1995 年解析から 65% 多いデータ (7 試験追加) を統合することで、化学療法の効果と患者サブグループへの影響を包括的に評価することを目的とした。

目的

進行 NSCLC における化学療法 + BSC 対 BSC 単独の全生存期間 (OS) への影響を評価すること。また、化学療法の効果が使用薬剤の種類 (白金ベース vs 非白金系)、単剤/多剤の別、および患者背景 (年齢・性別・病期・組織型・PS) によって異なるか否かを明らかにすることを副次目的とした。

結果

全生存期間における化学療法の有意な改善: 16 RCT・2714 例で 2533 例の死亡が観察された (化学療法群 n=1399 中 1293 例死亡、BSC 単独群 n=1315 中 1240 例死亡)。固定効果モデルによる統合 HR は 0.77 (95% CI 0.71-0.83, P < 0.0001) であり、化学療法は死亡リスクを相対的に 23% 低下させた。12 ヶ月生存率の絶対改善は 9% (BSC 単独 20% → 化学療法 29%) であり、中央値生存期間は BSC 単独群の 4.5 ヶ月から化学療法群の 6 ヶ月へ 1.5 ヶ月延長した (Figure 2)。ランダム効果モデルでも HR 0.75 (95% CI 0.67-0.84, P < 0.0001) と同様の結果が得られた。試験間の統計的異質性は P=0.02、I²=47% と中等度であったが、外れ値試験 CEP-85 (n=49) を除外した感度解析では異質性が顕著に低下し (P=0.275、I²=16%)、化学療法の効果 HR 0.78 (95% CI 0.72-0.85) は変わらなかった。

化学療法レジメン別の効果比較: 薬剤別サブグループ解析 (Table — Comparison 1) では、白金 + ビンカアルカロイド/エトポシド群 (9 試験、n=1201) の HR は 0.77 (95% CI 0.68-0.86)、他の白金ベースレジメン群 (3 試験、n=709) の HR は 0.73 (95% CI 0.63-0.85)、ビンカアルカロイド/エトポシド単剤群 (2 試験、n=347) の HR は 0.80 (95% CI 0.64-1.01)、抗代謝拮抗薬単剤群 (1 試験、n=300) の HR は 0.91 (95% CI 0.70-1.17)、タキサン単剤群 (1 試験、n=157) の HR は 0.69 (95% CI 0.49-0.97) であった。レジメン種類間の差に統計的有意性はなく (P=0.63)、単剤対多剤併用でも有意差は認められなかった (P=0.40)。解析対象外の Roszkowski 2000 試験 (単剤ドセタキセル、n=207) については発表データから推定 HR 0.70 (95% CI 0.51-0.95, P=0.03) が算出され、同様の単剤タキサン試験 Manchester 2 (HR 0.69) と一致した。

患者サブグループ解析における効果の均一性: 年齢 (P=0.64)、性別 (P=0.77)、病期 (P=0.35)、組織型 (P=0.75)、PS (P=0.54) のいずれのサブグループ間においても、化学療法の相対的効果に統計的に有意な差は認められなかった (Figure 3)。年齢別では 60 歳未満 (HR 0.77、95% CI 0.65-0.91) から 70 歳以上においても一貫した効果が観察された。性別では男性 (n=997/1076 events) と女性 (n=287/313 events) で同等の効果が得られた。病期別では Stage IIIb および IV が患者の 90% を占めた。組織型では扁平上皮癌 43%、腺癌 23% であった。PS 別の 12 ヶ月絶対生存改善は、PS 0 (ECOG 0/KPS 100-90) で 8% (26% → 34%)、PS 1 (ECOG 1/KPS 80-70) で 8% (18% → 26%)、PS 2+ (ECOG 2+/KPS ≤60) で 6% (8% → 14%) であり、PS 不良例でも一定の生存利益が確認された。PS 不良患者 (ECOG 2+) における化学療法の相対的効果が良好 PS 患者と交互作用検定で有意な差を示さなかった (P=0.54) という知見は、PS を理由に化学療法を一律に差し控えることへの疑問を提起する重要なエビデンスである。

患者背景の時代的変化と効果の一貫性: 1995 年解析と比較し、最近の試験では高齢患者 (70 歳超) の割合増加、女性割合の増加 (19% → 28%)、Stage IIIa 患者の大幅増加 (3% → 16%)、患者中央年齢の上昇 (61 歳 → 66 歳) が観察された。しかし 1995 年以前と以降の試験間で化学療法の効果に差はなく (交互作用 P=0.77)、過去の白金ベース試験と最近の白金ベース試験間でも差はなかった (交互作用 P=0.64)。これは患者層や薬剤が変化しても化学療法の生存ベネフィットが安定していることを示す。2012 年の更新検索でも新規 RCT は同定されず、結果は不変であった。

QoL および毒性の評価: QoL は試験間で評価方法が異なり、正式なメタ解析は実施不可能であった。しかし化学療法群の QoL を報告した 6 試験 (白金ベース BLT1、JLCSG (Japan Lung Cancer Study Group)、MIC2、ビノレルビン ELVIS、ゲムシタビン Manchester 1、パクリタキセル Manchester 2) は全て「化学療法群の QoL が BSC 単独群と同等または改善」と報告した。解析対象外の Roszkowski 2000 (ドセタキセル) および Thongprasert 1999 (白金ベース) も同様の報告であった。代表的な知見として、ELVIS 試験 (高齢者対象ビノレルビン) では規定の QoL 評価ツールで化学療法群の疼痛・呼吸困難が BSC 群より改善し、症状緩和の観点からもビノレルビン単剤療法の有用性が示された。Manchester 1 試験 (ゲムシタビン、n=300) では複数の症状スコアドメインで化学療法群が優越し、BLT1 試験 (英国、白金ベース、n=477) でも全般的 QoL は化学療法群で同等以上であった。これら一致した知見は化学療法が生存改善のみならず症状緩和においても緩和的価値を持つことを示し、化学療法が QoL を必然的に悪化させるという懸念が根拠に乏しいことを実証するものである。

バイアスリスク評価: 全 16 試験のバイアスリスク評価 (Figure 1) において、16 試験中 12 試験で割付隠蔽が低リスク、3 試験は割付隠蔽方法の記載なし、1 試験は非英語論文のため評価困難であった。ランダムシーケンス生成は全 16 試験で個人患者データによる確認から低リスクと判断された。未発表試験の探索的検索も実施されたが同定されず、出版バイアスの可能性は低いと評価された。

考察/結論

本 Cochrane IPD メタ解析は、16 RCT・2714 例という当時最大規模のデータを統合し、進行 NSCLC に対する化学療法の生存ベネフィット (HR 0.77、P < 0.0001;12 ヶ月生存率 +9%;中央値生存延長 1.5 ヶ月) を決定的に確立した。全試験が良好な方法論的質を有し、バイアスリスクは低いと評価されており、結果の信頼性は高い。

1995 年の初回解析では白金ベース化学療法のみが評価対象であり、第 3 世代薬の有効性についてはデータが不足していた。これと異なり、本解析ではビノレルビン・パクリタキセル・ゲムシタビンなどの単剤療法が白金ベース併用療法と同等の生存改善効果を持つことが示された。既報の Lilenbaum 1998 メタ解析は単剤 vs 多剤で奏効率の差を報告したが OS 差はないとしており、本結果はその知見と一致する。Delbaldo 2004 および Hotta 2004 の文献ベースメタ解析は 2 剤 > 1 剤を示したが、これらは間接比較に基づくものであり解釈に注意が必要であると対照的な点として言及している。

本研究で新規に明確となった知見は、高齢患者 (70 歳超)、PS 不良患者 (ECOG 2+)、およびあらゆる組織型・病期の患者において、化学療法の生存ベネフィットが均一であることを高い統計的検出力で示した点である。1995 年解析では検出力不足のため不確実であったこれらのサブグループ効果が、本解析で統計学的に確認された点はこれまで報告されていない規模での確証である。

臨床的意義として、本メタ解析の結果は、進行 NSCLC で治療を希望する患者であれば PS 良否・年齢にかかわらず化学療法を提供すべきであるという臨床現場への強いメッセージを提供する。QoL 悪化を伴わないという一致したエビデンスは、化学療法が緩和的価値も持つことを示唆しており、治療選択における患者・医師の意思決定を支援する。第 3 世代薬の単剤療法が白金ベース多剤療法と同等である知見は、高毒性の多剤療法に耐えられない患者への治療選択肢の幅を広げる臨床応用上の意味を持つ。

残された課題として、QoL の標準化評価がなされなかった点は本解析の limitation であり、今後の研究では QoL を主要評価項目として設定した解析が求められる。また本解析データは免疫療法登場以前のものであり、現在の標準治療である免疫チェックポイント阻害剤を含む治療戦略との対比は今後の検討を要する。著者らは化学療法単独 vs BSC の比較試験は不要であり、今後は第 3 世代化学療法同士の比較や用量・期間の最適化、および毒性と QoL 研究に注力すべきと結論づけている。EGFR チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の登場 (Gridelli 2007) も将来の試験設計に影響を与える更なる検討が必要な領域として指摘している (NSCLCMeta et al. JClinOncol 2008)。

方法

本研究は Cochrane Collaboration の IPD 系統的レビュー・メタ解析として実施された。1965 年 1 月 1 日以降に登録を開始し、化学療法 + BSC 対 BSC 単独を比較した全 RCT を対象とし、発表・未発表を問わず選択した。文献検索は MEDLINE、CancerLit、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)、ClinicalTrials.gov を含む複数のデータベースおよび ASCO (1990-1994)、IASLC (1990-2011)、ESMO (1990-2010)、ECCO (European Cancer Conference; 1990-2009) の会議録を手検索した。最終検索は 2012 年 8 月に完了し、その後新規 RCT は同定されなかった。

選択基準は、外科切除または根治的放射線療法が不適な NSCLC 患者を対象とし、前化学療法歴や悪性腫瘍既往のない患者を含む試験とした。19 試験が適格と判定されたが、2 試験 (Gasparini 1991、Thongprasert 1999) はデータ非入手、1 試験 (Roszkowski 2000) は研究者との連絡不能のため除外され、最終的に 16 RCT・2714 例の IPD が収集された。これは既知の全 RCT データの 84% に相当する。登録数は 1 試験あたり n=32 から n=477 と幅があった。白金ベース化学療法は 12 試験 (シスプラチン 11 試験、カルボプラチン 1 試験) で使用され、非白金系単剤 (エトポシド、ビノレルビン、ゲムシタビン、パクリタキセル) は 4 試験で使用された。

統計解析は固定効果モデルに基づく層別ログランク法 (Yusuf 1985) でハザード比 (HR) を算出し、ランダム効果モデルでの感度解析も実施した。1 年生存率の絶対差は HR と対照群イベント率から算出した (Parmar 1995)。生存曲線は Kaplan-Meier 法で提示した。異質性評価には Chi² 検定と I² 統計量 (Higgins 2003) を用いた。サブグループ解析 (年齢、性別、病期、組織型、PS) では交互作用検定を実施した。バイアスリスク評価は Cochrane Handbook (Higgins 2011) に準拠し、ランダムシーケンス生成、割付隠蔽、不完全アウトカムデータ、選択的報告、その他バイアスの 5 項目を評価した。主要アウトカムは OS であり、全生存期間は無作為化から死亡までの期間と定義した。追跡期間中央値は 1 年 4 ヶ月 (範囲 1 ヶ月未満から 9.5 年) であった。